評価 (3点/5点満点)
今回の本のタイトルを見ると、ビジネス書の書評を書いている私としては、すぐに反論したくなってしまいますが、まずは中身を見てみましょう。
2000年代の後半は「ビジネス書ブーム」とも評され、個性的なビジネス書作家たちが数多く登場し、旧来のイメージとはちょっと異なる、妙に華やかな印象をビジネス書が放つようになりました。その背景を出版業界や著者の動向も含め探るとともに、どうしてビジネス書を読んでもデキる人になれないのか、その理由を考察します。
一口にビジネス書と言っても、ここで批判しているのは、最近乱発されている自己啓発本や成功哲学本で、ビジネス実務書やビジネス書の定番タイトル(『7つの習慣』や『思考は現実化する』が代表)、日本の有名な経営者の自伝は、読む価値があるとしています。
最近乱発されている自己啓発本や成功哲学本の多くは、ビジネス書の古典的名著から見せ方を変えて引用されているので、たくさん読んでもあまり意味がないという指摘は、確かだと思います。
数多くの本に当らないと自分にとって良い本に出合えないのは事実ですが、確率・精度を少しでも上げるために、本書を参考に選識眼を養ってください。
【my pick-up】
◎ビジネス書の掟と罠
そもそも本書で私が言わんとしていることの大前提として、たとえば決算書の読み方や最新の会計制度、企業法務関連の解説書といったビジネス実務書や、経済・ビジネス理論などを説くビジネス専門書と、自己啓発や成功哲学を語る〝ビジネスパーソンのための生き方解説本〟は、同じ土俵では語れないと考えています。大きな括りでは同じ〝ビジネス書〟というカテゴリーに含まれるタイトルであっても、別物として捉えたほうがいいという認識です。
そして、軽く結論じみたことを述べてしまうと、前者に括られる本は会社員として、ビジネスパーソンとしての実務に関係する本だから、必要に応じてぜひ読んだほうがよい。しかし、後者に括られる本は、箸休め的に触れる程度で、さらに長く売れている定番タイトルに目を通せば十分-そう考えています。
◎自己啓発のルーツを辿る
あらためて整理すると、「自ら無理だと思っていることは、絶対に実現しない(=自分が本気で実現可能だと考えていることは実現する。つまりは自分の思考が現実化していく)」「何事も前向きに考えることで、自分が変わり、自分の置かれた環境(世界)が変わっていく」といった、数他の自己啓発書の根幹をなす考え方は、キリスト教、とりわけニューソート(19世紀のアメリカで興った宗教運動)に源流を見ることができる、というわけです。
◎結局、本質はいまも昔も変わらない
当然ながら、折々で新しいビジネス手法が生み出されたり、ツールやインフラの進歩でビジネススタイルに変化が起きたりします。それらに反応していくことも大切です。とはいえ、本質はいまも昔も大きく変わらないのだ、という視点も忘れたくないものです。
その意味で、せっかくビジネス書を読むのであれば、先入観で「古い!」と距離を置かずに、ぜひとも長く詠み継がれてきている定番モノを中心に攻めてみるスタイルをぜひともオススメしたいところです。長く読み続けられているタイトルには、それだけの理由が何かしらあるものですから。
◎読むんだったら日本の偉人本・社長本
自己啓発書、成功哲学本を読むのであれば、先に挙げたアメリカ発の定番タイトルだけでなく、ぜひとも日本が世界に誇る偉大な経営者たちの自伝や評伝、名言集にも目を向けたいところです。
松下幸之助、本田宗一郎、井深大、盛田昭夫、稲盛和夫・・・
屁理屈のうえに屁理屈を重ねてこねくり回すような、よくわかるようでよくわからない自己啓発書を10冊読むより、先に挙げたような日本の偉人本を1冊読むほうが、よほど自己啓発になるように思うのです。
余談ながら、近年の経営者本で個人的にオススメなのが、ユニクロなどを手がけるファーストリテイリングの創業者である柳井正氏の『成功は一日で捨て去れ』(新潮社)です。
◎「成功」ってなんなのさ
ビジネス書を読んでも成功できない理由、読めば読むほど窮屈に思えてくる理由を考えてみると、「やる気やポジティブ志向を煽るだけ煽って前のめりな姿勢にさせる一方で、その結果生じる願望と現実のギャップの存在を正面から解説してくれず、それを乗り越える困難さや痛みを説明してくれない」あたりに問題があるように思えてくるのです。
◎ビジネス書を書く資格
自らの体験、自ら真摯に学び取った事柄を実務者として語るからこそ、本の内容に説得力が備わってくるもの。そして、ひとりの人間が語れる実務体験には、やはり限界があります。そう何冊も、新しい話題を提供し、新しい視点を紹介できるわけがない。「実務者が、それまでの蓄積をもとにして誠実に書いたビジネス書」と「ネタ切れのくせに、とにかく本を出すことで著者のステイタスをキープしたいビジネス書作家が、手癖とネタの焼き直しで書いたビジネス書」では、内容の質や読後感も段違いなのは、当然のことでしょう。
そういむ意味で、コンサルタント系、現役ビジネスパーソン系の著者はとくに、1冊目の著作から読んでみることをオススメします。はじめての本ですから荒削りな部分もあるものの、いちばん自分が語りたかったことや自分の得意領域についての内容であり、ネタも豊富で、おまけに気合いも入っている。その著者の言いたいことを知るには最適といえます。