イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「三体」読了

2020年09月19日 | 2020読書
劉 慈欣/著, 大森 望 光吉,さくら,ワン チャイ/訳, 立原 透耶/監修 「三体」読了

中国人が書いたSF小説だ。そして、タイトルは、「三体問題」というものに由来する。三体問題とは、
『3つの天体が互いに万有引力を及ぼし合いながら行う運動を解く天体力学の問題。二体問題は一般的に解けるが,三体問題は一般的には解けないことが H.ポアンカレ等により証明されている。』 
要は、天体がふたつまでの場合は計算でその軌道を計算できるが、三つになるとその軌道は計算で求めることができなくなる。予想できなくなるということである。
この本はそんな太陽をもった星系世界の人類と地球人のコンタクトの物語である。

この本の紹介文章は以下のとおりだ。
『物理学者の父を文化大革命で惨殺され、人類に絶望した中国人エリート女性科学者・葉文潔(イエ・ウェンジエ)。失意の日々を過ごす彼女は、ある日、巨大パラボラアンテナを備える謎めいた軍事基地にスカウトされる。そこでは、人類の運命を左右するかもしれないプロジェクトが、極秘裏に進行していた。
数十年後。ナノテク素材の研究者・汪淼(ワン・ミャオ)は、ある会議に招集され、世界的な科学者が次々に自殺している事実を告げられる。その陰に見え隠れする学術団体〈科学フロンティア〉への潜入を引き受けた彼を、科学的にありえない怪現象〈ゴースト・カウントダウン〉が襲う。そして汪淼が入り込む、三つの太陽を持つ異星を舞台にしたVRゲーム『三体』の驚くべき真実とは?』

すこしネタバレになるが、地球から地球外知的生命体探査のために送信されたメッセージを三重連星であるケンタウルス座α星系に住む三体世界人が受け取ったことから事件が始まる。
三重連星であるケンタウルス座α星系は三体問題のとおり、それぞれの恒星の軌道が計算できないほど不安定で、太陽に焼かれ200回以上も世界が滅んでは復活している世界だ。しかし、その間に文明は少しずつ進化し、すでに地球のレベルを追い越している。そしてまた世界の終末を迎ようとしている。
そんなときに地球から発せられたメッセージが届く。ケンタウルス座α星系は地球から4.3光年。電波が往復するためには約8年の歳月がかかる。地球からのメッセージを見つけた三体世界人のひとりは地球が侵略されるかもしれないという良心のもと、これ以上メッセージを発してはいけないと警告する。
そのメッセージが、初めて地球に届いた地球外知的生命体からのメッセージであった。そのメッセージを見つけたのは中国人の宇宙物理学者であった。人類で最初に地球外の知的生命体からメッセージ受けた彼女は地球の座標がわかるようにメッセージを流す。良心をもった三体世界人の警告を無視して・・。
主人公のひとりである彼女は中国の文化大革命を経験した知識人だ。ひどい虐待と思想改造、父親の死により、この世界を憎んでいる。その気持ちが地球人を危機に陥れる行動を生むのだ。
その後の何度かの交信のあと、地球ではその侵攻を阻止すべきだという人たちと、こんな世界は侵略によって滅びればいいのだという考えをもつ人たちが現れる。

三体世界人はそんな地球人の心の隙間を利用するかのように侵略の足掛かりを作り始める。
それに対して人類は絶望するのだが・・・。
というのがこの本の大まかな内容だ。こんなハードSFの物語というと、ヨーロッパかアメリカの作家しか書けないのだろうと思っていたが、中国人もすごい。

そして、この物語のバックボーンにあるのが中国の負の歴史じゃないかというのも読みどころだ。そして、現代中国の社会に対する皮肉とも読める内容もいくつか盛り込んでいるように思う。三体世界人が地球に送り込んだ陽子サイズのスーパーコンピューターは監視社会、テクノロジーの基礎研究を重視する三体世界人は技術の模倣や盗用の中国に対するアンチテーゼのように見える。作家自身は思想的なことや中国社会を皮肉るようなことは考えていないと語っているそうだが、文化大革命から急速な経済発展を目の当たりにした作家の経験がきっと反映はされているのだろうし、読む側もそんなことを頭の片隅に置きながら読んでしまう。
まあ、そんなことはさておいてもなかなか読みごたえがある。この小説はまだ完結していなくて、3部作になっているそうだ。続編がものすごく楽しみである。



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