イレグイ号クロニクル Ⅱ

魚釣りの記録と読書の記録を綴ります。

「銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎」読了

2019年10月23日 | 2019読書
ジャレド・ダイアモンド/著  倉骨彰/訳 「文庫 銃・病原菌・鉄 (上) 1万3000年にわたる人類史の謎」読了

発売当時、かなりのベストセラーになった本だそうだ。その上巻である。
現在の世界は中国が勢力を拡大しているけれども、少し前までは欧米諸国が世界の覇権を握っていた。それにつながったのはヨーロッパの国々の植民地政策であるけれども、それがどうしてヨーロッパの国々であったのか、なぜ中米やアフリカの国々がヨーロッパの国々を植民地にできなかったのかということを食糧の確保、増産という面から分析しているという内容になっている。
著者は生物学者だそうだが、ニューギニアでのフィールドワークを通じてどうして覇権をもったのがニューギニアではなかったのだろうかという疑問からこの考察を始めたということだ。

ヨーロッパ諸国が世界に植民地を持つことができたのは、他の地域に先駆け鉄と銃を手にし、伝染病に対する免疫を持つことができたからであると考えた。そしてそれを可能にしたのが、狩猟採集生活から栽培農業への移行を他の地域よりも先に成し遂げたからだと結論付ける。
銃はもちろん武力で制圧できるものだし、意図的ではなかったにせよ、自分たちには免疫がある伝染病の病原菌を持ち込むことによって支配しようとしている地域の住民を弱体化させることができた。

どうしてそれを成し遂げられたのかというと、たまたま栽培農業に適した植物と家畜になる可能性があった動物がそこにあったからだという地理的な要因にたどりついた。
先んじて世界を制覇した側は、自分たちは神に選ばれた存在であると考え、支配や差別を正当化し、他の人種よりも有能なのだと考えてきたのだけれども、それはたまたまであって、運が良かっただけなのである。人間としては優劣はないのであると著者は強調したかったのだろうと読みながらそう思った。著者はユダヤ系のアメリカ人だそうだが、とくにそう考えたというのもよくわかる。

文明が最初にはじまったメソポタミアの肥沃三日月地帯では、現在でも栽培がされている小麦、大麦、エンドウ豆などの原種が自生していた。また、牛や、豚、羊なども野生動物として生息していた。それらを品種改良や飼いならすことで食料の増産を劇的に増やすことができたのだが、とくにそれらは突然変異がしやすく、また、その形質を安定して次の世代につないでいけるという性質があった。他の地域でも同じように栽培農業を始めているところがあった。中南米やアフリカの一部でも野生種を人工的に栽培していたが、たとえば、トウモロコシの原種というのは今のトウモロコシからは似ても似つかぬ形をしており、最初は小さく皮も硬かったため食べられる部分がほとんどなかったという。相当な時間をかけなければ人間が食べられるものにはならかなった。加えて、肥沃三日月地帯には、自家受粉する植物が多く、突然変異で得られた形質を保つことができた。家畜についても適した動物が多かった。羊、山羊、牛、豚、馬は西南アジアが原産である。対してアフリカのシマウマは、馬は馬でも性格が荒っぽくて家畜にはできなかったそうだ。そうやって時間をかけているあいだにヨーロッパの国々はどんどん力を蓄えて征服者になったのだ。その時間差は5000年くらいあったと考えられている。
そういう被支配地域では農業に適した作物が導入されれば一気にそれが広まっていった。それは被支配地域の人々が怠慢で劣っているということではないということを証明している。
ここでひとつ疑問が生まれる。植民地政策をとったのはヨーロッパの国々だが、農業が生まれたのはメソポタミアである。ちょっと場所がずれているけれども、これは作物の伝搬は水平移動しやすいということから証明できる。日照時間や気温は地球上で緯度が似かよっていれば大きな違いはない。対して経度に沿って移動しようとするとそれが大きく異なってしまう。せっかく持ってきてもうまく作れないのだ。アフリカやアメリカは大陸が南北に長く、ユーラシア大陸は東西に長い。それも征服者のほうに味方した。


しかし、こうは考えられないだろうか。じゃあ、肥沃三日月地帯のメソポタミアよりも5000年早く中南米の国々が農業を始めていたら世界の覇者になれたのではなかろうか。この地域の人々はアフリカからユーラシアからアラスカを経由して苦難の旅を続けてここまできたのだから、メソポタミア人よりもたくさんの経験と知恵があってもおかしくはない。そういう人々が遅れをとったのはどうしてか。

熱帯雨林なんて食べるものにことかかないからいろいろなことを工夫しなくても手の届くところにいっぱい食べ物があったのだよ。だから何もしなくてもよかったのだよ。といわれるかもしれない。しかし、メソポタミアにはたったひとり、ひとりのアイデアマンがいて、種をとってきて畑のようなものを作って撒いてみたらたくさん実がなった・・・。
歴史のなかではこの人を見つけることはできないのだろうけれども、たったひとりのイノベーションが世界を変えたと考えることのほうが人種に優劣があるのだという考え方に対抗できるいい考えのような気がするのだ。

さて、下巻はどんな内容になっているのだろうか・・。
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