とっちーの「終わりなき旅」

出歩くことが好きで、趣味のマラソン、登山、スキーなどの話を中心にきままな呟きを載せられたらいいな。

掟上今日子の備忘録/西尾維新

2015-12-04 21:59:43 | 読書
掟上今日子の備忘録
クリエーター情報なし
講談社


このところ西尾維新の作品を読み込んでいる。まず手始めに読み始めたのは、化物語を始めとする「物語シリーズ」だ。6巻ほど読み進んだ頃、忘却探偵シリーズの「掟上今日子の備忘録」の順番が回ってきたので、気分を一新して一気に読み込んでしまった。

物語シリーズは、「怪異」をモチーフにした作品ではあるが、怪異との戦いをメインに描いたものではなく、怪異の出現した原因を探り、謎を解くという内容だ。しかし、ホラーっぽい部分はほとんどなく、コメディ風のタッチで、お笑い漫才を読んでいるようなギャグが延々と続く。第1作を読んだ時は、あまりのバカバカしさにこの人の作品にはついていけないと思いそうになったが、気を取り直して第2作以降も読んでいくうちに西尾ワールドに毒されてしまったようだ。その後も、なんとなく続けて読み進んでいる。

そんな西尾作品の中で、この忘却探偵シリーズは少し趣が違うようだ。最近、テレビ化もされ新垣結衣主演で原作もかなり売れているらしい。本屋に行っても、この作品は山積みされている。はっきり言って、原作のイラストが可愛いから目に付くことは確かだ。

主人公は、掟上今日子(おきてがみ きょうこ)。置手紙(おきてがみ)探偵事務所の所長であり探偵である。髪の毛は、総白髪で眼鏡をかけた美女とされている。理由はよくわからないが、ひと晩眠るとその日の記憶を失うため「忘却探偵」と言われている。とにかく一旦眠ってしまったが最後、その日の記憶を失ってしまうという笑える設定である。その為、彼女が手がける事件は、その日のうちに解決しなければならない。基本的に1日以内で解決できない事件は引き受けず、この体質ゆえに事前の依頼予約も受け付けないが、引き受けたからには必ず解決してしまうことから「最速の名探偵」とも言われている。また、依頼主にとっても、重要な秘密を1日経つと忘れてくれるので秘密保持といった点からも、依頼しやすいというわけだ。

記憶を失うというのが、どのくらいの範囲までなのかというのがよくわからないが、目が覚めると自分の名前や職業すらも忘れている為、記憶のバックアップ機能として、手足や腹に自分自身の情報や事件の内容を彼女自身がマジックペンで書いているとされている。とにかく、事件の解決は、素晴らしく早い。数あるミステリー小説の中でも、このシリーズは最速の事件解決物だ。しかも、そのトリックは、実によく考えてある。物語シリーズとは打って変わり、章ごとで話が完結するので読みやすい。

そして、事件にやたらに巻き込まれ犯人扱いされやすいという体質の隠館厄介(かくしだて やくすけ)というキャラクターの存在も面白い。西尾作品に登場するキャラクターの名前は、どちらかというと悪ふざけっぽい名前ばかりだ。よくもこんな名前を考えたなあと、ある意味感心してしまう。彼は、身長が190センチメートル以上もある巨人だ。しかし、幼い頃からなぜか数多くの事件に巻き込まれ、なおかつ犯人と疑われるため気弱な性格になってしまっている。悪い事をしたり嘘をつくことができないので、防衛のため、様々な探偵に助けを求め、掟上今日子もその中の1人である。彼は、今日子に好意を寄せているのだが、彼女に依頼するたびに「初めまして」と挨拶されることに毎回少なからずショックを受けている。このあたりの件は、忘却探偵と接する人たちのギャップとして面白い。

掟上今日子の寝室の天井には、黒いペンキで太々と荒々しく、彼女の字ではない何者かの筆跡で「お前は今日から、掟上今日子。探偵として生きていく。」と書かれている。このシリーズは、まだまだ続いていくようだ。今後は、事件解決の話が延々と続くのではなく、彼女自身の秘密が解明されるような展開になっていきそうだ。3階建てのビルに一人で事務所を構え、身内の存在も明らかでない彼女の正体が、明らかになっていくのを見届けたくて、さらにこのシリーズも読み進んでいきたくなった。