とっちーの「終わりなき旅」

出歩くことが好きで、趣味のマラソン、登山、スキーなどの話を中心にきままな呟きを載せられたらいいな。

新田次郎 「剱岳(点の記)」を読んだ

2009-06-04 23:11:56 | 読書
北アルプスを登りだしたころは、槍ヶ岳とか穂高をまず目指すのであるが、剱岳は最初から目指すのは恐れ多くて、いつになったら登れるのだろうかと憧れだけが先行している山だった。それでも、何年か経験をつんで6年前の夏に憧れの剱岳に登頂することができた。雪渓や岩山を幾つも乗り越えて険しい岩峰の先に着いた時は、我を失うばかりの絶景が待っていた。天気が良くなければ、なかなか頂上を極めることができない厳しい山である。

そんな、憧れでもあり畏敬を放つ孤高の山「剱岳」に、明治時代初登頂した測量隊の話が映画になるという。どんな映像が撮られたのか、山好きには大いに気になる映画だ。映画を早く見たいのはもちろんだが、原作をまず読むべきだと思い文庫本をまず買ってしまった。原作は、山岳小説では有名な新田次郎作で「剱岳(点の記)」である。

点の記とは、三角点設定の記録であり、この話は実際に剱岳に登って測量をした人たちの記録を小説化したものである。すべてノンフィクションなのである。日露戦争後、陸軍は国防のための日本地図の完成を急いでいた。陸軍参謀本部陸地測量部の測量手、柴崎芳太郎は最後の空白地帯を埋めるため「陸軍の威信にかけて」との命令を受けて剣岳の登頂を目指す。当時、設立されて間もない日本山岳会も剱岳の初登頂を目指していたこともあり、測量隊と日本山岳会との競争になるといった側面もあったのだ。

話としては、山岳会との競争とか勝負とかいった内容が主ではなく、むしろ淡々とすすむ。冒険物のように血沸き踊るといったことはなく、日本地図を作成するために何人もの人たちが苦労して山に入り、未踏の地を掻き分け測量を行っていた話がひしひしと伝わってくる。山岳信仰によって守られてきた剱岳の歴史背景も詳しく書かれ、興味深く読み続けることができた。剱岳を登ったことのある人も、これから登ろうとする人にも、先人の苦労が如何ほどだったかということを知るためにも是非読んでほしい本だ。

そして、6月下旬には映画も公開されるということで、映像でも素晴らしい景色が映し出されることは間違いない。小説で読んだ登場人物たちが、どんなキャストで描かれているかを見るのも大いに楽しみだ。