私は最近、社会保障の問題について勉強をしています。
元々の関心事は、福祉関連の予算はまず優先されるのに公共事業予算はなぜ後回しになるのか、ということや、財政上の規模の違いをどのように理解するか、ということでした。
しかし社会保障の分野については、勉強すればするほど、この問題について自分が無知であり、年金、医療、介護など社会的再配分の問題は、少子高齢化や若年労働者への支援など世代を超えた大きな国のありようそのものだ、ということが分かってきました。
社会保障問題は、議論について行くための背景情報が膨大で、日々の新聞を読むくらいではなかなか理解しきれないほど難しくもあります。
しかしだからこそ、ないがしろにせず、ちゃんと勉強しておきたい話題なのです。
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さて、今の我が国の社会保障制度の進むべき方向をしっかりと示した教科書は何か、となれば、今年の8月5日にまとめられた、「社会保障制度改革国民会議報告書」ということになるでしょう。
これは、内閣に社会保障制度改革国民会議を設置して、平成24年11月から平成25年8月にかけて20回にわたり社会保障の有識者が集まって行われた会議の集大成です。
その冒頭には、この報告書の内容を国民に対して訴えた「国民へのメッセージ」というページがあります。
そのメッセージとは、
「日本はいま、世界に類を見ない人口の少子高齢化を経験しています。65 歳以上の高齢人口の比率は既に総人口の4 分の1となりました。これに伴って年金、医療、介護などの社会保障給付は、既に年間100 兆円を超える水準に達しています。
この給付を賄うため、現役世代の保険料や税負担は増大し、またそのかなりの部分は国債などによって賄われるため、将来世代の負担となっています。
そのこともあり、日本の公的債務残高はGDPの2倍を超える水準に達しており、社会保障制度自体の持続可能性も問われているのです。
(…中略…)
社会保障制度の持続可能性を高め、その機能が更に高度に発揮されるようにする。そのためには、社会保険料と並ぶ主要な財源として国・地方の消費税収をしっかりと確保し、能力に応じた負担の仕組みを整備すると同時に、社会保障がそれを必要としている人たちにしっかりと給付されるような改革を行う必要があります」
【社会保障制度改革国民会議報告書】
http://bit.ly/17dSY1z
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レポートはこのメッセージにも込められた問題意識について、46ページにわたって述べています。
社会保障の基本的な考え方、改革の方向性、改革の道筋、そして社会保障4分野と言われる、少子化対策、医療、介護、年金というそれぞれについても改革の方向性が述べられています。
本当は本編全部を読むのが一番ですが、何しろ分量が多いのでとっつきにくくもあります。
さて、ではそれでも少しくらい勉強しようかな、と思うときはどうするか。
それは信頼できる先達を見つけて、その人の説明を見るのが良いでしょう。私の場合は、それが慶応大学商学部の権丈善一教授です。
権丈ファンの間ではおなじみなのですが、権丈先生はかつて一度だけテレビに出演したことがあります。
フジテレビ系列で日曜日の朝7時半から放送されている「報道2001」がそれですが、私が偶然テレビを付けた時に、まさに権丈先生と民主党の岡田さんとの間で福祉を巡る対談があって、岡田さんの主張をことごとく論破する姿に、「こ、この人誰?」と思ったのが最初でした。
その後、福祉を勉強しようと思ったときに権丈先生がブログを使って、ご自身の主張や各種講演会や審議会などでの資料、やりとりなどを積極的に発信していることを知り、追っかけの一人になったというわけです。
そんな権丈先生は、昨年4月に、全国地方銀行協議会の月報に「持続可能な中福祉という国家を実現するために」という文章を寄せられています。
2012年春当時までの社会保障を巡る政治上の動きを解説し、図や表を使ってこれからの日本が取るべき姿を説明しています。
これならまだ読みやすくて、現代日本を覆っている社会保障の問題を分かりやすく理解することができます。
私が印象的だったのは、権丈先生は将来的には消費税を20%近くまで上げなくてはならないと述べて、現代日本財政の病状を説明した次の下りです。
「ところで、なぜ、消費税を20数%まで上げても、ささやかな中福祉しか実現できないのか。
少し立ち上まって考えれば分かるように、今や世界一に達した高齢国家日本は、高負担・高福祉国家と言われる北欧諸国より、今も、そして将来も、はるかに高い高齢社会を迎えることになる。
そして、国・地方の公債等残高の対GDP比が200%に至る日本は、将来世代に多額の公債の元利払い費を負わせてしまった。
それゆえに、この国の将来は、仮に北欧諸国のような高負担を実現できたとしても、国民一人一人はそれらの国々のように高福祉を享受できるわけではなく、分相応な未来としては、「高負担で中福祉」、「中負担で低福祉」という選択肢しか残されていない。
残念ながら、我々が次世代に残した未来とは、すでにそうした社会でしかないのである。
日本の国民負担率は、先進国の中ではきわめて低い。そうした状況であるのに、永らく日本は「中の下」程度の社会保障を展開してきた。それが、他国と比べて圧倒的に高い公債等残高を残してしまった原因である」
国の財政の有り様は、社会保障で決まると言っても過言ではありません。
我が国の現状をまずしっかりと理解すること無しには、賛成も反対もできそうにありません。
まずは私も我が国の社会保障を生涯学習しようと思います。
【持続可能な中福祉という国家を実現するために】
権丈善一 『地銀協月報』2012年4月 http://bit.ly/18GjHli