食育を通じて日本の再生に取り組む服部幸應(はっとりゆきお)さんと老舗酒造場の再建を通じて地域の活性化を実現したセーラマリ・マリ・カミングスさんの対談が、今月号の雑誌「致知」に掲載されていました。
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カ「…私が二十年前に酒造に入った時には、若い人はいなくて、後継者不足だったんですが、いまは若い人がたくさん跡を継いでくれるようになりました。
農業も後継者不足ですごく困っているのですが、自分が実際に農業をやろうとしてみると、ゼロからのスタートはものすごくハードルが高いんです。もちろん楽しい部分もたくさんあるけれど、これまでやろうとしたことの中で最も大変です」
服「たしかにそうでしょうね」
カ「ですから、長年農業を営んでこられた先輩方の宝物のような経験や知識から学んでいく必要があります。先輩方からご協力をいただくためにも、お互いの絆を高めていかなければなりません。
私が若いころは、先輩と若い人を繋げておけばいいと思っていたんですが、気付いたらやがて先輩方はいなくなるんですよね。ですからいまのうちに七十代、八十代の先輩の方々からできるだけ吸収して、それを若い人に伝えられるようにしたいと思います」
服「それはまさしく、これから挑戦される農業を深めていく道といえますね」
カ「農村ではお互いに採れた野菜を交換したりして、心の通い合う共同生活をしえているところに私はすごく魅力を感じています。そういう交流は若い世代では途絶えているので、先輩と若い人が手を結んで、協力し合える体制が必要だと思うんです。いまのうちに繋げておかないと、日本の地方は他人同士ばかりになってしまいます。
日本ではたしか『同じ釜飯を食べる』というでしょう?」
服「『同じ釜の飯を食べる』ですね(笑)」
カ「そうそう(笑)ですから私は、農業や食を通じて人とのコミュニケーションをもっと育むような働きかけをしたいと思うんです。
…『遠くの親類より近くの他人』といいますが、いまは核家族になっていますから、大きなテーブルを囲んでみんなで仲良く食事をしたり、おしゃべりを楽しんだりするような場があれば、うちのような一人っ子でも、きっと近所の皆さんと大きな家族のようになって、みんなで育てていただけるでしょう。それができたら、ぜひ服部先生にもお越しいただきたいと思っています」
服「カミングスさんはいつもご自分のベストを尽くしてこられましたから、その夢もきっと実現すると僕は思います」
カ「私の好きな英語のことわざに、"Bloom where you are planted to."(植えられた場所で咲きなさい)という言葉があります。いつも自分の置かれた場所でベストを尽くしてきたことでいまの自分がいることを実感しています。
日本の人口はこれから減っていきますけれども、お互いの絆をより大切にしていくことで、もっと快適な暮らしに繋がっていくことを願っています」
服「僕が信条にしてきたのもカミングスさんと同じような言葉なんです。
『必要とされる人間になりなさい』
どんな場面でもこのことを意識して歩んできましたが、例えば仕事仲間に『そろそろ辞めたいな』と言った時、やっぱり『辞めないでくださいよ』って言われるような人間でありたいですよね。
ですから僕はこれからも、必要とされる人間であり続けるよう、自分の置かれた場で常に全力を尽くしていくつもりです。
それが自分の歩んでいく道を深めていくことにも通じると信じています」
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セーラ・マリ・カミングスさんは、長野県小布施で傾きかけていた桝一市村酒造場に入りこみ、立て直したことで一躍有名になった方。
金髪の若い女性が日本の伝統産業の場で頑張っているという姿が日本人にも感動を与えてくれました。
これまで二十年近く市村酒造場で働いてきたのですが、小さな子供がいるために、仕事は誰かに代わってもらえても、母親の代わりはいないと思って、最近会社を離れて独立したのだそう。
今のところはウィークエンド・ファーマーとして二ヘクタールくらいの土地に野菜や果物を作り、名古屋コーチンなども飼っているそう。人は皆農業に帰るのでしょうか。
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それにしても『同じ釜飯を食う』は良かったですね。新しい諺が誕生したかもしれません(笑)。
そして「植えられた場所で咲きなさい」という思いが立派です。今いる環境に不満を抱くのではなく、今自分がいる場所で頑張ることですね。
彼女のこれからに幸多かれと祈りたいものです。