60~90年代名作漫画(昭和漫画主体・ごくタマに新しい漫画)の紹介と感想。懐古・郷愁。自史。映画・小説・ポピュラー音楽。
Kenの漫画読み日記。
●小説・・ 「じじごろう伝Ⅰ」 狼病編..(12)
12.
小学校の校庭の隅の、花壇を四角く囲んだ縁石の一つに、和也は腰掛けて、姉が迎えに来るのを待っていた。五時限目の授業が終わり、ついさっき、この花壇まで来て腰を降ろしたばっかりだ。足元に置いたランドセルを開き、中を漁って、携帯電話器を取り出した。いわゆるキッズケイタイだ。時間と、メールの有無を確認する。新着のメールは入ってなかった。
「お姉ちゃん、まだかな。まだだろうな‥」
和也は小声で独り言で、そう言いながら、ケイタイをランドセルに戻した。いつも、中学生である姉・愛子の方が、授業が終わる時間が遅く、和也が、小学校や駅で愛子を待つことになる。学校の用事で愛子が、いつもよりももっと遅くなるときは、時には、和也が独りで先に帰ることもあった。勿論、その時は、愛子の持つ携帯電話に、メールを打って報せていた。
広いグランドでは、友達どおしじゃれあいながら、校門方向へ向かう生徒たちが見える。和也の座る位置から対極の、遠いグランドの隅でも、三、四人の子供たちがランドセルを背負ったまま、ぐるぐる追い掛けっこをしている。他にも、下校に、会話をしながらグランドを横断する、女の子のグループが居る。校舎からグランドへ降りる階段にも、下校途中の子供たちのグループが見える。それらを眺めながら、和也は両手を挙げて伸びをした。
「あ~あ、待ってるの、退屈だな。お姉ちゃん、早く来ないかな」
和也はまた、独りごちた。
「駅まで行って、待ってようかな…」
和也は、先に一人で駅まで歩いて行って、駅前で待っていようか、と考えた。それには姉·愛子に電話を入れて、その旨、連絡しないといけない。和也は、横に置いてあるランドセルから、携帯電話を取り出そうと、ランドセルの方を向いた。
「愛子ちゃんなら、今、こっちに向かってるよ」
声が聞こえた。和也は顔を上げて、辺りを見回した。違う。これは、普通の呼び掛けじゃない。和也は気付いた。これは、自分の頭の中に直接、話してる。ハチさんだ。
「ハチさん、居るの?」
和也はもう一度、辺りを見回しながら、声に出して問うた。キョロキョロしていると、また、頭の中に声が聞こえた。
「ああ。さっきから近くに居るんだが、下校の生徒さんが多いからね」
「ああ、それで姿を見せないんだね」
和也は声に出して、返事をする。また、ハチの言葉が頭の中に入って来た。
「僕やジャックは、ほら、見た目野良犬だろ。今は、野犬とかにイロイロ、世間はうるさいしね。特に小学校とかじゃ、直ぐに通報されちゃう」
「あ、そうなんだろうね」
和也が返事する。
「昔は、首輪さえしてたら普通、人間は、見逃してたけど、今は、ペットの放し飼いなんてないからね。今はほとんどの犬は、リードで繋いで人が連れてないと、駄目だ。自分ちの庭や私有地とか、公園とかだったら、放して遊ばせてるけど」
「昔って、どれくらい?」
「和也の、お父さんお母さんが子供の頃かな」
ハチの話を聞いて、和也は俯いて黙った。
「悪いことを思い出させたかな。お父さんは心配だよな」
「うん。いったい、どうしちゃったんだろう、って。今、何処に居るんだろうって」
ハチ自身も、何と答えて良いのか迷って、返しの言葉が出て来なくて、会話が途切れた。和也が、思い直したように顔を上げ、最初にハチが言ったことに気が付き、訊いた。
「お姉ちゃん、今、こっちに来てるんだ?」
「ああ。間違いないよ。もう十五分くらいすれば、着くんじゃないか」
「ねえハチさん、姿、見せれないの?」
「そうだな。下校してる生徒が、もう少し減ったらな」
「ハチさん見つけたら、先生たち、大騒ぎするかな?」
「いや、大騒ぎはしなくても、今の世の中は、野犬に厳しいからね。先生は、保健所に連絡するかも知れない。現代の日本じゃ、狂犬病は無いけれど、野犬だと、何かの病気に掛かってるとも限らないって、先生は考えるだろうし。学校は、子供ばかりの場所だからね」
「ハチさんは、狂犬病に掛かったことあるの?」
「無いけれど、狂犬病の犬は、何度も見たことある」
「今は居ないんだ?」
「世界のあちこちには居るだろうけど、今の日本には居ない」
「ハチさんは大丈夫なんだ?」
「僕やジャックは、免疫力が強いから、病気には掛からない」
「じじごろうさんも?」
「あの人は、どんな寒いところでも、裸で居て大丈夫な人だからね。多分、僕らより病気には強いだろう」
「へえ~、不思議だね」
会話が途切れた。お互い、しばし黙っていた。
「ねえ、もう出て来て良いんじゃないの?今、生徒見えないよ」
沈黙を破って、和也が喋った。和也の声は、普通の会話のトーンだ。
午後の授業、五時限目までで下校するのは、四年生くらいまでだ。高学年の五、六年生は午後は六時限まで受けて帰るから、もう少し遅くならないと校舎から出て来ない。
「そうだな。それ程、心配することもないか…」
ハチが返事する。勿論、音声ではなく、和也の頭の中に、だ。
「ねえ、ハチさん。出て来ないの?」
少しして、和也が前を向いたまま、独り言のように訊いた。
「隣だよ」
慌てて和也が、左右に首をやると、自分のランドセルの横に、ちょこんとハチが座っていた。中型犬サイズよりも少し小さめのハチは、ランドセルよりもひと廻り大きいくらいのサイズだ。「いつの間に…」と和也は、目をまん丸くして驚いた。
「ねえ、さっき、お姉ちゃんが、こっちに向かってるって言ったよね?」
「ああ。歩いて来てるようだから、もう少し掛かるだろうけどね。お客さんと一緒だ」
「お客さん?お客さんって誰なの?」
「僕の知らない人だ」
「お姉ちゃんの、中学校の友達かなあ?」
「いや。若いが、大人だな。愛子ちゃんは学校からでなく、元の家から向かって来てる」
「えーっ!お姉ちゃん、こっちの家に行ったんだ」
「そうみたいだな」
「誰なんだろう?お客さんって。家に、お父さんは居たのかな?」
「居なかったみたいだな。一緒に来てるのは、若い女だな」
「ふう~ん。誰なんだろうな。お父さん、居なかったんだね。会社、行ってるのかなあ?」
「僕は、吉川和臣の行方に関しては、解らない…」
ハチは、愛子や和也の父親については、これ以上は話し辛そうに顔を背けて、遠くを見た。ハチの沈黙に、和也は話題を変えた。
「ねえ、じじごろうさんやジャックさんは、今どうしてるの?公園の森に居るの?」
「ジャックは知らない。じじごろうさんなら、さっきまで一緒に居たけど」
「あ、そうだったんだ。お姉ちゃんがお客さんと、こっち来るの、一緒に見てたんだ?」
「いや。それを見たのは、僕だけだけどね。じじごろうさんは、森に戻ったんじゃないかな」
和也が返事をせず、会話が止まった。しばらく二人は黙って、あたりを見ていた。まだ、高学年の子供たちが、下校で校舎から出て来るには時間がある。小学校低中学年の子供たちの下校の流れも、途切れたり、ぽつりぽつりと校舎側からグランドに降りて来たりしていた。
「あーっ!」という大きな声で、和也とハチは首を廻した。和也とハチが、何気なく見渡していた方とは死角になる、斜め後ろ方向から、子供としては凄い勢いで走って、近づいて来る小さな姿があった。
「勇人くん…」
荒い息を吐きながら、同じ小学三年生の池田勇人が、目の前に立った。池田勇人は、和也と学年は同じだが、クラスメートではない。
「駄目なんだよ!」
池田勇人が叫んだ。片腕で、ハチを指差している。
和也は驚いて、勇人とハチとを交互に見た。突然のことに、和也は言葉が出ない。
「野良犬を放っといちゃ、駄目なんだよ!和也くん」
池田勇人はハチを指差したまま、子供ながら真剣な表情で訴えている。ハチはというと、和也の横にちょこんと座って、見た目はおとなしい犬そのもので、凝っとしたままだ。
「お母さんも先生も、言ってたんだ。野良犬は危険だって。噛まれたら、病気のバイ菌を持ってるって。ほら、この犬も毛並みなんか、汚いじゃないか」
勇人は興奮した様子で、一気に捲し立てる。和也はただただ、勇人の剣幕に気圧されて、言葉が出て来なかった。
「えらい言われようやな…」
ハチが、ボソッと言った。和也が驚いて、ハチを見る。勿論、ハチの喋りは、和也の頭の中に聞こえただけだ。ハチの声は音声としては流れていないので、勇人には聞こえない。ハチは、そっぽを向いた。和也はハチに気を遣って、戸惑いながら勇人に向かって言う。
「勇人くん!この犬はね、とても人懐こくって、おとなしいんだ。だから、大丈夫だよ」
和也は、ハチが形だけでも、勇人に尻尾でも振って、人懐こいふりをしてくれないかなあ、と思った。だがハチは、そ知らぬふうで遠くを見ている。
池田勇人は、小さな身体の腰を曲げて、凝いっと、ハチを見詰める。
「でも汚いし、やっぱり野良犬でしょ。お母さんが言ってた。野良犬は危険だから、見つけたら直ぐに保健所に電話しなさいって」
「いや、大丈夫だよ、勇人くん!この犬はそうだ、僕の飼い犬みたいなもんなんだ」
和也は慌てて、手振りを添えて、勇人の説得に掛かる。保健所なんか呼ばれたら大変だ。
「でも…」
勇人を何が何でも説得しようと、和也が腰を上げ勇人の前に立ち上がると、和也の隣におとなしく座っていたハチが、くるりと身体を回して、サッとひと跳びして、後ろの用具倉庫の陰に消えた。
「あっ!」と、ハモるように和也と勇人が同時に叫んだ。
勇人がダッシュして、用具倉庫の裏へ駆け込む。和也も勇人の背中を追った。勇人は用具倉庫の側面で、キョロキョロしながら辺りを見回し、倉庫の裏側を覗いたりしている。用具倉庫の裏側に沿って、低いフェンスがあり、その下の道路に向かってブロックの土手になっている。
勇人が、真下の道路から遠くまで、キョロキョロ辺りを見回したが、犬の姿は何処にも見当たらなかった。
「あれえ~、おかしいなあ」
勇人が首を傾げて、不思議そうにしている。勇人は暫く、辺りを見回し続けていた。和也の方は、ハチの能力からすれば、この場に居る人間の目から消えることなんて、雑作もないことだろうと、納得していた。
勇人が振り返り、和也を見詰めながら言った。
「何処行っちゃったんだろ?あの野良犬。取り敢えずさ、僕はこれから保健所へ連絡するからさ。和也くん、証人になってよ」
和也は驚いて、焦った。
「いや…。もういいじゃない、勇人くん。何度も言うけど、あの犬は悪い犬じゃないよ。保健所なんて通報したら、可哀想だよ。おとなしい犬なんだから」
「えっ。駄目だよ、和也くん。野良犬はおとなしくても保健所に通報しないと、衛生的に悪いんだ。お母さんが言ってたから間違いないよ。野良犬や野良猫から、いろんな病気が生まれるんだって」
「あの犬はそんなに汚くないよ。病気も持ってないよ。おとなしくて健康な犬なんだ」
和也は、勇人に保健所へ通報させないように、必死で説得する。でも、勇人も、こうと言い出したら聞かない、頑固な性格のようだ。小学三年生ながら、同い年の和也に譲りたくない、ライバル心のような気持ちが働いているのかも知れない。
「飼い犬なら良いけど、野良犬は駄目だ。僕、職員室行って電話借りて、保健所に連絡する」
毅然として、勇人が言いきる。和也は胸中で、困り果てていた。
勇人は、和也が携帯電話を持っているとは知らないらしく、和也に、通報しろとは言っては来ない。
突然、和也のランドセルから、呼び出しベル音が鳴った。ベル音は二回だけだ。ショートメールだ。多分、姉の愛子だろう。驚いた顔をして、勇人が和也のランドセルを見る。
「今の音、ケイタイでしょ?」
和也の目を見ながら問い質す勇人に、和也は困りながら、あやふやに返事した。
「直ぐ切れたね。メール?」
この問い掛けにも、和也は、あやふやな調子で返事をする。
「へえ~、良いなあ、和也くん。ケイタイとか持たせて貰ってるんだ!ねえ、それって、ゲームとかできるの?」
「いいや。引っ越して家が遠くなったから、お母さんとお姉ちゃんとの連絡用だけ。メールもショートメールだけだよ。遊びには使えない」
「ふう~ん。ちょっと見せて」
「良いけど、勇人くん、野球の練習に行かないと、いけないんじゃないの?僕はもう直ぐ、お姉ちゃんが迎えに来るんだ」
和也は六月に引っ越した際に、地域の少年野球チームからは一応、退団しているが、池田勇人はチームに所属して、周三回の練習を続けている。今日は練習日だ。
「ああ、そうだった。帰んなきゃ。また見せてね」
「良いけど、他の人たちに言わないでね」
「学校に黙って、持って来てるの!?」
融通の効かない性格の勇人が、子供ながら糾弾するように、強い調子で和也に問う。
「大丈夫だよ。学校にはお母さんから話してあるんだ。野良犬のことは、お姉ちゃんに言って電話して貰うから、心配しなくて良いよ。勇人くん、練習頑張ってね」
ここぞとばかりに和也は、一気に捲し立てた。和也の態度に怯んだように、勇人は後退り、「わかったよ。じゃあね」と、片手を挙げて、くるりと身体を翻して校門の方へと走って行った。
そうこうしている内に、校門に姉・愛子の姿が見えた。学校前道路の坂道の下の方で、池田勇人と擦れ違ったかも知れない。愛子の顔を見定めると、和也は急いでランドセルを取り上げて、背にかるい、校門へと駈けた。
愛子は一人ではなかった。愛子の後ろにもう一人、人影がある。女の人だ。若いお姉さんのようだ。ハッとして、走っていた和也は、急に立ち止まった。校門を抜けてグラントに入った愛子の手前、四メートルくらいのところで、駆け寄るのを急に止めた和也に、愛子は怪訝に思った。その位置から和也は、凝っと、愛子の後ろを見詰めている。
和也の視線に気付いた愛子は、後ろを振り返り、大佐渡真理の姿を認めて、和也の人見知りだろうと合点をして、和也に向かって微笑んだ。
「和也。この人はねえ、お父さんの会社の人の、知り合いの人。お父さんのことで、家まで来てくれたの」
離れている和也に向かって、少し大きめの声を出して、愛子が説明した。愛子の後ろに立つ大佐渡真理は、驚いた顔をして、和也の方を凝っと見ていた。
真理は、不思議な感覚に捉われていた。それは、敵意を持った者の放つ殺気的なものや、この世の者でない怪しい妖気のような、そんな恐ろしい気配とは違う、初めて感じる、不思議なものだった。しばらく何だか解らずに戸惑っていたが、突然閃いた。これは、あたしと同じものだ。多分そうだ。しかも、強い。
和也が再び、歩を進め始めた。今度はテクテクと歩いて、二人に近付いて行く。
「こんにちは」
愛子の後ろから、ニコニコしながら、大佐渡真理が和也に言った。真理は安心していた。この子は自分の仲間であり、敵では全くない。真理は感覚で、そう納得していた。
二人の前に立った和也が、ペコリと頭を下げた。和也が真理を見ながら、話し掛ける。
「お姉さんも、サイキックなんだね」
その言葉を聞いて、真理よりも先に、愛子が頓狂な声を上げた。
「ええーっ!すごーい。顔見ただけで解るんだ!?」
「うん。何か多分、同じような力があるんだ、って、そういうの、強く感じる」
「私も」
空かさず、大佐渡真理が応える。
「嬉しい。仲間に会えて。こんなの初めて。ただ、あなたの方が、力が強いみたいね」
「それは解んないけど…」
和也の言葉を受けて、直ぐに愛子が話し始めた。
「ねえ、和也。このお姉さんの超能力、凄いのよ!」
愛子の言葉に、真理が、恥ずかしそうな様子を見せる。
「お父さんの部屋のドアの前で、“この部屋の中がおかしい!”って、透視して見せたの」
「透視って…。何か変なもの、感じただけよ」
愛子の方は、言って、自分と弟の父親のことに想いを馳せて、急に表情を曇らせた。
「お父さんの部屋、どうだったの?」
和也が、姉に問う。愛子は、何と応えて良いのか当惑して、言葉を詰まらせた。姉の目を凝っと見詰めていた和也が、子供ながら険しい顔になって、言った。
「お父さんの部屋の中が、変わり果ててたんだ‥」
和也の様子を見ながら、真理は、この子はこの年齢にしては大人びている、と驚いていた。見た目は間違いなく小学三年生くらいだが、表情や態度が、とても子供とは思えないものがある。
和也も黙った。愛子が、自分の家庭というものに想いを馳せて、たまらず感情が込み上げて来そうになるのに、凝っと見詰めている幼い弟を見ていて、ふと疑問がわき、感情が爆発して泣いてしまうのを、押し留めた。
和也の顔だけ見ていても、表情が読めない。顔の表情だけ見ていても、いったい何を考えているんだろう、と思う。此の頃は特にそうだ。見ように寄っては、とても大人びている。平穏な家庭を失った悲しみから、感情が壊れそうになっていた状態から、直ぐ様立ち直った愛子は、真理の方を見た。
真理は微笑んで、愛子を見詰め返した。
「駅前まで行って、何か食べようか。もうお昼過ぎて、だいぶなるし」
真理の提案に、愛子はニッコリ笑ったが、今日は財布にあんまり、持ち合わせがないことに気付いた。愛子の気持ちを察したのか、続けて真理が言った。
「ああ、勿論、私のおごりよ。大丈夫」
真理がニコニコしながら、交互に姉弟の顔を見る。和也の表情に初めて、微笑が出て、こっくりと頷いた。
校門を出て、学校沿いの道路を下りながら、和也が愛子に訊いた。
「ねえ、お父さんの部屋って、どんなになってたの?」
「どんなにって、ね…。そうね、何か、白いクモの糸みたいのが張り巡らされてて、一見、真っ白く見えるの。濃い霧が掛かってるみたいに。でもよく見ると、クモの糸みたいなの。大きなクモの巣だらけみたいな」
和也は姉の説明を聞いて、子供ながら、考え込むような顔つきになった。黙ったままだ。和也としては、この不思議な現象を、ハチに訊ねてみたかった。けれど、和也には感覚で解った。ハチさんは今、近くには居ない。
大佐渡真理は、和也のことを考えていた。不思議な子供だな、と思う。妙に落ち着いていて大人びている。姉の愛子が、感情を顕にして取り乱した、父親の部屋の怪異な状態の話を聞いても、表情こそ、子供ながら険しくなるが、感情的になることは全くない。とても小学生には思えない態度だ。
確かに、この子には、自分と同じものを感じる。自分の能力と言っても、例えば霊感が強かったり、自分の周りで事故などが起こるとき、胸騒ぎがしたり、嫌な感じを覚えたりするくらいだ。この子は多分、明らかに、自分よりは力が上だ。この子はいったい、どんな力を持っているのだろう?
三人はテクテクと歩きながら、小学校下の大通りを駅へと向かった。
●小説・・「じじごろう伝Ⅰ」..登場人物一覧(長いプロローグ・狼病編)2013-05/28
◆(2015-05/21)小説・・ 「じじごろう伝Ⅰ」狼病編..(11)
◆(2016-02/20)小説・・ 「じじごろう伝Ⅰ」 狼病編..(12)