ストレスフリーの資産運用 by 林敬一(債券投資の専門家)

新刊「投資は米国債が一番」幻冬舎刊
「証券会社が売りたがらない米国債を買え」ダイヤモンド社刊
電子版も販売中

中国は世界制覇できるか、その2.いつかきたみち

2021年12月27日 | 中国問題

 このみちーは、いつかきたみーち。

そうだよー、日本がたどった道だ。

  前回は中国がすでに一人当たり国民所得1万ドルの壁を難なく突破し、1万4千ドルに達していることをお知らせしました。日本も先進国の仲間入りするまでひたすら高度成長を貫き、平均所得1万ドルの壁もなんなく突破。しかしその後の日本は不動産や株式市場の崩壊に見舞われてスローダウンしました。日本と同様、中国でも巨大不動産企業恒大集団が実質的に崩壊。それを国家が介入することで何とか大崩壊に至らないよう支えているのが現状です。その他でも地方の大きな不動産開発業者の倒産が続いています。

  日本はバブル崩壊後の90年代後半にタイミングを合わせるようにして団塊ジュニアの労働参加がピークを迎え、労働人口の増加が止まりました。いわゆる人口のボーナスがなくなり、逆に人口オーナスと言われる足を引っ張る状態になり成長率の低下に見舞われました。

  今の中国も同じみちをたどりつつあります。日経新聞の5月21日の記事を引用しますと、

「人口全体の7割を占める15~64歳の生産年齢人口は20年に9億6776万人と、ピークの13年から3.8%減った。 中国は働き手世代の減少が成長の足かせとなる「人口オーナス」に入っている。」

  中国も日本同様労働人口減少のため経済成長率が低下し始めています。5年ごとに平均成長率を見ますと、2015年までの2桁成長から明らかにスローダウンを始めています。

2001-5年  9,8%

 06-10年 11.3%

 11-15年 11.1%

 16-19年  6.6%  

20年はコロナの影響が大きいため除き、それまでの4年平均です。

  中国の労働人口減少は今後一人っ子政策が本格的に影響を及ぼすため、長期にわたり継続しますし、一人っ子政策が解除された後も教育費などの高騰で少子化がますます進行し、回復の目途は立っていません。

  人口問題の他に日本と大きく異なるのは中国の所得格差がとてつもなく大きく、それが今後全体の足をひっぱることです。80年代の半ばに鄧小平が「先に豊かになれるものから豊かになる」という「先富論」を唱え、そのまま突き進んできましたが、習近平政府は貧富の格差が社会不安を生み出しつつあることに気づき、今年10月の六中全会で「共同富裕論」を唱え方向転換しました。

  では中国の貧富の格差がどれほどのものか見てみましょう。所得格差がどの程度かを国際的に比較するために「ジニ係数」という統計処理方法があります。私はこの係数は役立たずだと思っています。各国の係数を示しますと、

中国;0.47  アメリカ;0.39 日本;0.33

これを見せられても「なんのこっちゃ」、でしかありません。

  むしろ中国首脳の次の言葉がよほど事実を把握しやすいと思います。すでに国民の平均所得が1万4千ドルだと記しました。平均月収に直すと13万円程度です。しかし李克強首相は20年5月に「毎月の収入が1000人民元程度(日本円で1万7000円程度)の人がまだ6億人いる」と述べています。年収に直すと1,800ドルで、平均値の14,000千ドルのわずか13%しか得ていません。人口の45%がたったそれだけの所得にも関わらず平均が14,000ドルになるためには、高所得層の所得がとてつもなく巨額だからにちがいありません。

  共同富裕を目指すのはいいのですが、今は「共同貧困」そのものです。一方で昨今の中国国内ニュースでは、ネット上で活躍するインフルエンサーの女の子に政府が追徴金を含め240億円の支払いを命じました。それを12月21日のNHKニュースから引用しますと、

「黄薇(こうび)氏はおととしから去年にかけてうその申告を行って所得を隠すなどし、およそ6億4300万人民元、日本円で110億円余りを脱税していました。税務当局は黄氏に対し、追徴課税や罰金などとしておよそ13億4100万人民元、日本円でおよそ240億円の支払いを命じたということです。」

  この額、巨額過ぎて把握しかねるほどです。いったい所得の総額はいくらなのでしょうか。その他にも10億円以上の罰金などの支払い命令を受けたインフルエンサーや女優などの摘発が進んでいます。

  これらのニュースは人民のみんなが知ることになったので、私が中国人民だったら当然、「この格差のどこが共産主義だ!」と叫ぶに違いありません。大多数の人民の月収1万7千円とのギャップはあまりにも多すぎ、世界でも有数の格差国が共産主義を標榜することなどありえない。

  さらに規制の網が厳しくなっているのは新興企業に対する規制です。ご存じのようにアリババの創業者ジャック・マーは昨秋から姿を見せなくなり、最近オランダにいるというニュースが流れただけです。21年1月のフォーブスのニュースを引用します。

  「中国一の富豪だったマーが最後に公の場に姿を見せたのは、昨年10月に上海で開催された「外灘(バンド)金融サミット」だった。サミットで、マーは規制当局がイノベーションを阻害していると批判し、11月初旬に政府機関から呼び出しを受けたとされる。

  11月3日には、2日後に控えたアリババ傘下の金融会社「アント・グループ」のIPOが突如中止された。その後、国家市場監督管理総局は、アリババを独占禁止法違反で調査していると発表した。マーは、10月後半から姿を見せていない。」

 

  彼は最近になってオランダにいることが目撃されその身は安全であっても、アリババという巨大ネット企業の成功を当局が嫌っていることは明らかです。こうしたことは今後同様な成功を目指す起業家にとって冷や水を浴びせることになります。インフルエンサーや成功した女優などへの処罰を含め、私に言わせれば「みんなを引き上げる共同富裕は難しいので、とりあえず上が落ちてくるように共同貧困に舵を切った」となります。

  なんともなさけない共産主義であり、習近平独裁体制です。はたしてこの格差の矛盾と成功の芽を摘んでいく新政策がどうなっていくか、さらに見通していきましょう。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする