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ファンド資本主義が資本主義を救う、自由主義対専制主義

2021年11月22日 | ファンド資本主義への変貌

  「ファンド資本主義が資本主義を救う」というテーマで、これまで8回にわたり書いてきました。その主な趣旨は、

 

・現代のファンドは超巨大化し金融市場を支配するほどの大きさになっている

・しかし彼らは企業を独善的に支配するのではなく、巨大ファンドとしての責任をしっかり果たしている

・総会での議決権行使に当たっては、専門の議決権行使アドバイザーという、優れて客観的な視点を持った有力なアドバイザーにおおむね従っている

・アドバイザーの最重要点は企業がESGという観点から正しい経営をしているかである

・その内容はE=環境に代表される地球温暖化問題への取り組み、S=社会正義の観点から生産活動において人権抑圧が行われていないか、G=企業統治が公正におこなわれているか

 

  このような観点は現代の企業経営の基本となりつつあり、透明性を確保することに役立ち、企業の成長性や永続性に貢献しています。昨日のニュースでも日本のアパレルメーカーが、「中国の新疆ウイグル地区で生産されている綿は使用しない」と宣言したことが流れていました。

  また最近やっと合意に達したCOP26においても、国家が脱炭素社会のリード役になることが期待され、企業も生産性の向上と同時に脱炭素化社会実現への貢献度を試されることになりました。

  こうした自由主義・資本主義がリードする大きな流れは専制主義国家である中国、ロシアのみならず、石油がすべてであった中東の国々も巻き込む世界的潮流となり、巻き戻しの利かないところにまで至りました。

  一方、コロナ禍の世界で早々とコロナを制圧した中国は、その制圧をもって専制主義が自由主義社会に勝利したかのような宣伝を行いました。そして今月開催された「6中全会」において、史上3回目の「歴史決議」を採択し、習近平の独裁をより強固なものにしています。

  その歴史決議の内容をちょっと長いですが、よくまとまっているNHKニュースから見てみます。

引用

中国共産党は11月11日まで開いた重要会議の「6中全会」でことし党の創立から100年の節目を迎えたことを踏まえ、これまでの成果と歴史を総括する「歴史決議」を採択し16日、全文を公表しました。
国営の新華社通信によりますと全文は3万6000字余りでそのうち半数以上の2万字近くが習近平国家主席のもとでの党の歴史に割かれています。習主席が党のトップに就任した2012年以降を「新時代」と表現し、業績などを詳細に記述しているのが特徴です。

そのうえで「習近平同志を核心とする党中央を中心として、一層緊密に団結し、中華民族の偉大な復興という中国の夢の実現に向けてたゆまず奮闘しなければならない」と呼びかけていて、来年秋の共産党大会で党トップとして異例の3期目入りを目指す習主席の権威をさらに高めるねらいがあるとみられます。

このほか決議では中国全土を混乱に陥れた文化大革命について「全く誤った判断」と指摘し、毛沢東の過ちだったとする従来の見解を維持しているほか民主化を求める学生らを軍が武力で鎮圧した1989年の天安門事件については「動乱」と記述しています。

また台湾をめぐっては「台湾独立をもくろむ分裂の行動や外部勢力からの干渉に断固反対し両岸関係の主導権を握った」としたうえで、台湾統一は「党の変わることのない歴史的任務だ」としています。

一方、習主席が汚職撲滅を名目にみずからのライバルを失脚させた政治キャンペーンにも言及し、元重慶市トップの薄煕来氏ら、かつての党幹部を名指しで批判しながら習主席の権力基盤の確立につながった汚職撲滅の取り組みを正当化しています。

中国共産党が16日に公表した「歴史決議」の全文は、毛沢東と鄧小平の時代に採択された過去2回の「歴史決議」よりも長くなりました。
最初の決議はおよそ2万8000字、2回目の決議はおよそ3万4000字だったのに対し、今回は3万6000字余りに及びました。これは、400字づめ原稿用紙で90枚以上になります。

今回の決議全文の中で歴代指導者の名前が登場する回数は、
▽習近平国家主席が22回出てくる一方、
▽建国の父、毛沢東は18回
▽鄧小平は6回
▽江沢民元国家主席と胡錦涛前国家主席が、それぞれ1回で、
習主席の登場回数は、ほかの指導者を大きく上回りました。

また、前回、鄧小平の時代の「歴史決議」に明記された「個人崇拝禁止」や「集団指導」の文言は、盛り込まれなかったほか、独裁を防ぐために明記された「指導者の事実上の終身制を撤廃する」との文言もなくなっています。

このほか、今回の決議には「党が習近平同志の党中央と全党の核心としての地位を確立することは新時代の党と国家の事業の発展と、中華民族の偉大な復興という歴史的プロセスを進める上で、決定的な意義を持つ」とも明記されていて、習主席の権威を高め、権力の集中を印象づけるねらいがあると見られます。

引用終わり

 

  自由で開かれた現在の世界でも専制主義が蔓延していて、専制主義国家の数が多くなりつつあります。しかし昨今言われている「世界では専制主義国家の方が多い」という議論は誤りです。しっかりとした統計資料を見てみましょう。最も優れた研究はアメリカにベースを置く国際的NGO、Freedom Houseですが、今年出された研究レポートを見てみます。そのレポートを要領よくまとめている第一生命経済研究所の報告を引用します。

引用

米Freedom Houseは1972年から毎年、各国の自由度を3つの区分(①Free(自由)、②Partly Free(一部自由)、③Not Free(自由ではない))に分類・評価している。1991年のソビエト連邦崩壊以降、国の数自体が増加し、Freeの国の数も増加傾向にあったが、2005年の89か国を頂点に2020年は82か国まで減少している。逆にNot Freeは同期間に45か国から54か国に増加している。

Freedom Houseの自由度3区分にGDPを掛け合わせると、その結果はより示唆に富むものとなる。1990年にはNot Freeは調査対象164か国中50か国も存在していたものの、GDPで見れば世界の僅か6.2%とその影響力を無視できるレベルであった。Not Free国は2020年時点では54か国と国の数としてはさほど増えていないものの、世界のGDPに占める割合は25.6%とその影響力は無視し得ない規模にまで拡大している。

2020年においてFree国の世界GDPに占める割合は63.7%となっており、民主主義国家の勢力は経済力で見れば当面、世界の主流派であり続けるであろう。

引用終わり

Freedom Houseのサイトはこちらです。インターネットの自由度などの調査もあります。興味のある方はどうぞご覧ください。 

https://freedomhouse.org/

 

  今回のシリーズ「ファンド資本主義は資本主義を救う」の趣旨は、「変貌しつつある自由主義・資本主義は、必ず専制国家に勝る」というものです。盤石な基盤を誇る習近平の中国にも弱点はあるということをこれから示していきたいと思います。

 

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