草莽隊日記

混濁の世を憂いて一言

日本人の物語の復権を説いた坂本多加雄

2023年01月19日 | 思想家
 坂本多加雄は『知識人 大正・昭和精神史断章』で「昭和五十年前後からの日本の知的世界においては、『思想』に代わって、庶民の『常識』の立場が大きく浮上してきたという印象がある」と書いた。
 もはやその当時から左翼の影響力は減退し、ポストモダンと呼ばれるような曖昧な立場に逃げこむことが主流になった。その一方では、保守派の論客の山本七平や渡部昇一の本が読まれたのである。
 しかし、坂本からすれば、説得力あった「常識」も平成に入って揺らぎだした。そこで坂本は「『思想』への不信を表明して、仮に自分が『常識』と思うものに従う場合でも、その場合重要なことは、そもそも『討議』が必要になってくるような状況では、やはり『常識』に基づいた判断の根拠を『言葉』によって明示していく必要があるということである」と主張したのだ。
 坂本が司馬遼太郎を高く評価していたことも忘れてはならない。「その内容の具体的な当否は別にして、多くの読者が、そうした歴史小説のなかに登場する個々の人間の活動やありかたに魅惑され、しかも、そのことで何事かを学んできたという事実である」と述べていたからだ。いうまでもなく、それは日本人としての物語の復権なのである。
 令和の世にあっては、ネットによって情報収集が楽になり、知識は通り一遍ではなく、多面性を帯びるようになり、私たちは、失われた日本の歴史を取り戻しつつある。坂本の「本来の『思想』の回復のなかに、新たな知の可能性があるのではないか」という見方が現実性を帯びることになったのである。あまりにも長かった、戦後の日本がようやく終わろうとしているのだ。

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