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「犠牲のシステム」を超えた闘いへ~大飯原発再稼働から見えてきた「立地自治体問題」

2012-07-26 22:43:02 | 原発問題/一般
(当エントリは、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2012年8月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。)

 日本国民の大多数が反対し、抗議行動を繰り広げる中、大飯原発3号機の再稼働が強行された。安全対策は全く不備で、国際的な原発推進機関であるIAEA(国際原子力機関)の基準すら全く満たさない。事実上、日本の原子力村さえ利益を上げ続けられるなら事故で世界中の市民を巻き添えにしてもかまわないという宣言に等しい。

 私は、この再稼働強行は人類史上最悪の暴挙だと考える。あのヒトラーですら、自分の信じる思想のために特定民族の大虐殺を行ったが、自分の金儲けのために無差別に誰でも殺すということはなかった。他人の意見に全く耳を貸さず、10万人の抗議行動も「大きな音だね」(声ではなく!)としか認識できない野田首相は今やヒトラー以下の暴君だ。この発言は、ルイ14世が発した「朕は国家なり!」と同様、民衆の苦労に全く考えの及ばないのんきな暴君の言葉として歴史に残るであろう。

 ところで、今回の大飯原発再稼働へ至る道筋を改めて検証してみると、政府は最初、どうしたら再稼働への道筋をつけられるのか全くわからず、むしろ途方に暮れているような姿すら随所に見受けられた。福島原発事故を経験するまで、日本の原発は黙っていても動くものだというのが原子力村の支配的な雰囲気であり、どうすれば再稼働できるかなどという課題に直面すること自体なかったのだから当然かもしれない。

 そんななか、執拗に原発再稼働を求めているのがむしろ福井県やおおい町であることが次第に見えてきた。その姿は、言葉は悪いが奴隷行政、物乞い行政としか言いようがないほどの醜悪なものだ。

 ●地元が主導した再稼働

 地元で再稼働への本格的な「地ならし」が始まったのは4月からである。福島原発事故で、立地自治体でもない20~40km圏の飯舘村や浪江町がより深刻な汚染を受けた現実を見て、関西の多くの自治体が再稼働に反対するようになったが、これを再稼働の危機と捉えた地元は積極的に「巻き返し」をもくろんだ。

 4月2日、枝野幸男経産相が、再稼働に際しては京都、滋賀両府県知事の理解が前提との認識を表明したのに対し、全国原子力発電所所在市町村協議会(全原協)会長でもある河瀬一治・敦賀市長は「地元とは立地自治体のことだ」として、範囲拡大の動きをけん制した。「周辺(自治体)が福島の事故を受けて心配するのも理解できる。原子力災害があったときは日本全体が補償の対象地域」とする一方「(地元了解の)範囲が広すぎると収拾がつかない」と指摘。あくまで立地県と立地市町を「地元」と強調したのだ。

 4月14日には、福井県を訪れた経産相に対し、西川一誠県知事が「立地地域の果たしてきた努力や貢献が必ずしも理解されていない」と述べ、国が再稼働に反対している関西を説得するよう求めた。この会談の後の記者会見で、西川知事は、原発の使用済み燃料について「今後、福井県だけで対応するわけにはいかないものもある。電力を消費してきた地域にも、痛みを分かち合う分担をお願いしないといけない」と述べたが、再稼働に反対する関西への「恫喝」のように私には聞こえる。

 西川知事はまた「将来の見通しもなく、いろんなことを言うのは望ましくない。もっと真剣にこの問題を考えるべきだ。関西の反対とか賛成とか、同意を得るとかの話ではない」と、敦賀市長と同様の見解を繰り返した。「同意」し得る立場にあるのはあくまでも立地自治体だけ、部外者がごちゃごちゃ言うな、と言わんばかりだ。そうかと思えば「電力消費地が電気は必要ないと言い、国も必要性を感じないなら(大飯原発を)無理に動かす理由はない」と述べるなど、まるで駄々っ子だ。

 時岡忍・おおい町長は、再稼働に同意したことについて「苦渋の決断」と述べたが、顔は少しも苦渋になど満ちていなかった。未曾有の苦しみの中にある福島に比べれば、その苦渋など児戯に等しいと思う。

 一方、関西広域連合が、原発の稼働を「電力需給が逼迫」する夏季だけに限定するよう求めたことに対して、福井商工会議所の川田達男会頭は「関西は上から目線で『動かしていいよ』と言っているよう。そんなことを言われる筋合いはない。暫定、臨時などというわけの分からないものでは非常に収まらないものがある。県民感情として納得できず、電気を送ろうという気にならない」とまで言い放った。

 敦賀市長も「安全面からみれば動かす期間は関係なく、理屈に合わない」と暴言を吐いた。どうせ危険なのだから臨時だろうと通年だろうと大勢に影響はないというわけで、まさに「毒を食らわば皿まで」だ。

 総じて、福井県内の原発立地自治体の長や経済界の発言からは「電力を生産してやっているのだから消費地は黙って感謝だけしていろ」という傲りの姿勢しか見えない。

 ●救いがたい腐敗行政

 河瀬・敦賀市長が2011年11~12月にかけて、地元特産の越前ガニの詰め合わせ(1万円)を市長交際費で購入し、与野党の国会議員に「お歳暮」として贈っていたことが判明した。国会議員会館に陳情に来ていた市民による「受け渡し現場」の目撃情報もある。贈られたのは以下の11人だ。

細野豪志・原発事故担当相
川端達夫・総務相(元文部科学相)
中川正春・防災担当相(前文部科学相)
前原誠司・民主党政調会長
海江田万里・元経済産業相
谷垣禎一・自民党総裁
中川秀直・同元幹事長
石原伸晃・同幹事長
大島理森・同副総裁
糸川正晃・民主党福井県連代表
山崎正昭・参院議員(自民党、福井選挙区)

 敦賀市長は、地元住民によって贈賄罪で福井地検に告発されており、5月23日、福井地検は告発状を受理する決定をしている。

 時岡忍・おおい町長が役員を務める建設会社「日新工機」は、関西電力から過去6年間で4億円もの工事を受注しており、社長は町長の息子が務めている。この問題を取材していた朝のテレビ情報番組「モーニングバード」が時岡町長を直撃、取材班と町長の間で次のようなやりとりがあった。

 ――息子さんに譲ったとはいえ、今も取締役に名を連ねていますが…。

 「全然ノータッチ。関係ない、まったく中立です。…(会社は)いま倒産寸前ですよ。原発1本やりですから」

 ――だからこそ再稼動させて欲しいのでは?

 「そんな、うちの息子のために再稼働できるはずないですよ。原発が回る、回らないは町の命運に大きく影響するのは事実です」

 自分と息子のための再稼働なのではないのかという質問を否定しながらも、会社と町のために再稼働させてほしいという本音があけすけに語られている。

 ●行政をチェックすべき議会は?

 それでは、この救いがたい行政の腐敗に対し、チェック機能を果たすべき議会は何をしてきたのか。こちらも驚くべき実態が見えてきた。

 おおい町議会の新谷欣也議長は6月12日、再稼働の是非について審議中の全員協議会を取材していた民放テレビ局の取材班から「何かひとことコメントを」と求められたのに対し、「あ」と答えた。いぶかる取材班に対し、「ひとことと言うから“あ”と言ったじゃないですか」などと幼稚園児のような対応をしたのだ。

 このときの全員協議会は15分遅れでの開催となったが、その理由をメディアに尋ねられた際には「おなかを下して、トイレに行っていた」などと釈明にもならない釈明をした。この少し前、国会で田中直紀・防衛相(当時)が審議中に席を外していた問題で「コーヒーを飲みに行っていた」と答弁したことを「参考」にしたのだろうが、結果としてこのやりとりはテレビ放映されたばかりでなく、インターネットにも動画が掲載され、町議会には抗議が殺到。新谷議長は6月に辞任に追い込まれたが、議長は辞めても議員は辞職せず、歳費を受け続けている。

 おおい町議会には14人の議員がいるが、3.11以降福島を訪れた者は1人もいない。事故を起こさなかった女川原発だけを東北電力の接待で「視察」し帰ってくる議員らに危機感のかけらもない。

 とはいえ、こうした腐敗は首長や役場、議会の話で、一般住民の多くは原発再稼働に反対していることも付け加える必要がある。「おおい町がみんな(再稼働に)賛成しているように言われるのは心外。メディアがそんな報道をするのは議員や首長ばかり取材するからですよ。もし事故が起きて琵琶湖が汚染されて水が飲めなくなったら、これまで関心のなかった大阪の人も絶対に文句言い出す。関電にカネもらってる町民のせいだということになり、我々は石を投げられる」(ある住民)と事故を懸念している。福島原発事故以降、原発周辺は危険という意識が広がり、大飯でも旅館の客足はガクンと落ちたという。「原発が稼働しないと地元経済が疲弊する」というのは土建業に限定した話であり、観光産業にはむしろ原発こそ悪影響を及ぼしているのだ。

 ●生まれ変わる福島

 長く戦後補償・靖国問題を追い続けてきた高橋哲哉さんの「犠牲のシステム福島・沖縄」(集英社新書)の売れ行きが好調だという。「公害があるから差別が生まれるのではない。差別のあるところに公害が持ち込まれるのだ」。水俣病患者に寄り添い続け、先日、惜しまれながら他界した原田正純さんが生前、このように述べていたが、こうした差別構造の上に迷惑施設を押しつける社会構造を理解するための入門書としてこの本は格好のものだと思う。米軍基地に苦しむ沖縄でも書店に平積みにされ売れているようだ。

 もちろん筆者はこの本の意義を否定するものではないし、趣旨には全面的に賛同できるが、大飯原発再稼働を巡るこうした立地自治体のバカ騒ぎを見ていると、もはや事態は「犠牲のシステム」論だけでも説明できない新たな段階に入ったように思う。むしろ、自分から補助金をくれくれとせがむ地元自治体の「物乞い行政」をいかにして倒すか考えなければならないと思うのだ。

 筆者は、本誌133号(2011年11月号)でこのように記した。『奴隷に甘んずることを潔しとせず、自分たちを奴隷に落とし込んでいる者たちと闘うため進路を変えた魯迅のように、東北の労働者や農民たちは今こそ自立し決起すべきだ。中央からの涙金にすがって東北を腐らせてきた自治体首長たちに退場を宣告し、子どもを放射能から守るために東北独特の家父長制を突き破ろうともがいている母親たちをみんなで守らなければならない』。

 このことは、すべての原発立地自治体に同じように当てはまる。実際、山口県・旧豊北町(現・下関市)や新潟県巻町のように闘いで原発を拒否した町もある。そうした中で、なぜ現在の立地自治体が闘いきれなかったのか。原発を拒否した町と受け入れた町の間にどんな違いがあるのか。いま検証すべき時期に来ている。

 月刊誌「世界」(岩波書店)2012年4月号に掲載された「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」世話人である中手聖一さんの思いをご紹介しよう。

 『…避難にせよ、除染にせよ、日本政府のとってきた態度は福島棄民政策だ。私たちもそれは分かっている。避難政策の拡充もせず、自助努力に任せたままだ。いま行われている除染は、住民流出を防ぎたい自治体によるデモンストレーションに過ぎない。電気も食料も供給できない福島は、もう用無しとでも言いたいかのように、日本政府は本質的な解決策をとろうとしない。…(中略)…“福島人”は生まれ変わらなければならない。福島の再生こそ私たち福島人の願いであり、子孫への責任である。10基もの原発建設を許し、40年ものあいだ運転を容認してきた、過去の福島人のままでは、福島は完全に使い棄てられてしまうだろう。遠い将来(おそらく数百年後であろうが)、もう一度福島が再生するためには、私たち福島人が生まれ変わり、新しい福島人の文化を創り出していくことが必要だ』

 原発事故によって苦しみの中にある福島からの示唆に富んだ言葉だ。原発事故が起きれば、福井も福島と同じようになる。「電気も食料も供給できなくなった町に用はない」と完全にうち捨てられ、避難もさせてもらえず、住民は健康被害に怯え、苦しみ続けなければならない。本当にそれでいいのかもう一度考えてほしい。地元議会、首長が住民を代表しないなら、引きずり倒してでも変えるしかない。福島のようになる前に。

 原発はもはや「犠牲のシステム」問題ではない。立地自治体問題である。福島は県知事も議会も原発のない県を目指すと宣言した。原発を拒否して何で食べていくのか。どのようにして雇用を創り出していくのか。これらは大変難しい問題だが、私たち福島がその先例になりたいと思う。すべての立地自治体は私たち福島に続いてほしい。

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