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33回忌の節目迎えた「御巣鷹」 悲劇の地から「安全の聖地」への新たなステージ

2017-08-16 23:19:23 | 鉄道・公共交通/安全問題
1985年8月12日に起きた日航123便ジャンボ機墜落事故から32年となった。麓の川では灯籠流し、「慰霊の園」では上野村主催の慰霊式と、今年も恒例の追悼行事が滞りなく行われた。

32年というのは数字上は節目ではないが、仏教では33回忌の節目に当たる。37回忌、50回忌の法要を行う宗派もあるが、37回忌はともかく50回忌となると、弔う側も「弔われる側」になっている場合がほとんどで、行われている実例を見聞きしたことはない。多くの宗派は33回忌で「弔い上げ」として法要の区切りにすることが多く、仏教の上では大きな節目の年であったと言えよう。


慰霊を伝える記事(2017年8月13日付「北海道新聞」)



実は、筆者は8月11~12日にかけて都内にいた。せっかく事故当日の12日に都内にいるのだから、御巣鷹の尾根に足を伸ばし、事故当日の追悼の雰囲気がどのようなものか知りたいと思った。真夏とは思えない雨天続きの異例の天気の中を、新幹線で高崎まで行き、高崎駅でレンタカーまで借りて現地入りを目指した。だが、現地を前にして、交通整理に当たっていた警備員(日航職員?)に「遺族の方ですか?」と問われ、違うと正直に答えたところ「遺族以外の方の登山は事故当日はご遠慮いただいております」と言われ、引き返すことになってしまった。

メディア報道を見ると、この事故の直接の犠牲者遺族でない方々、例えばJR福知山線脱線事故の遺族なども慰霊登山をしている。遺族だと「虚偽申告」をして慰霊登山を強行するという方法もあり得た。だが、事故の傷が癒えないまま、今も悲しみを抱いてここに来ている遺族を前にしてそのような行為をするのは気が引けたし、天気もあまりよくなかったため、無理をせず引き返すことにしたが、せめて「慰霊の園」だけでも訪問したいと思った。幸い慰霊の園は出入り自由だったので、お線香をあげてきた。

御巣鷹の尾根慰霊登山の体験記をアップしているブログやサイトはそれなりの数、存在しているが、「事故当日の8月12日は遺族以外は登れない」とはどのブログ・サイトにも書いていなかったから行けると思っていた。筆者の事前調査不足が原因であり、誰を恨むつもりもないが、事故27年の2012年に訪問した際も、尾根の入口まで来ながら、雷鳴が轟き始めたため登山を断念している。3回訪問して無事、尾根に登れたのが1回だけとは、噂には聞いていたが、なかなか厳しい山だ。

そんな「御巣鷹の尾根」だが、記事にあるように、事故から30年以上の時を経て位置づけが大きく変わってきた。高齢化した遺族の中には尾根への登山を断念せざるを得ない人たちが出てきたが、それに代わるように、遺族の子や孫といった若い世代が慰霊登山を引き継ぎながら今日まで来ている。直接の遺族でない方の慰霊登山も(8月12日を避ける形で)増えてきた。この事故を初め、JR福知山線脱線事故など多くの公共交通の事故と向き合ってきた柳田国男さんのコメントが、その変化をうまく言い表している。「大事故も、歳月の中でポジティブな意味を持ち得る。遺族だけでなく、日航や地域住民なども加わり、山を守り育ててきた。それが磁場のように、人を呼び寄せる力を与えたのだろう」。

「悲劇の地」から「安全の聖地」へ――御巣鷹の尾根は、もちろん順風満帆に変化を遂げてきたわけではなく、この間、様々な紆余曲折があった。そのようなポジティブな変化の背景を、美谷島邦子さんの存在を抜きにしては語れないだろう。美谷島さんは、遺族でつくる「8.12連絡会」の事務局長を、創設以来30年以上にわたって一貫して務めてきた。日航に責任を取らせたい、事故の真相を究明したい、二度と同じ事故を起こさせたくないという「筋」を通しながらも、時として苦しむ遺族にも柔軟に向き合い、相談に乗ってきた。8.12連絡会にならってJR福知山線脱線事故遺族が作った「4.25ネットワーク」が事実上、休眠状態になっている中で、公共交通事故の遺族会としては最も古い8.12連絡会が今なお活動を続けているのは、美谷島さんの卓越した能力・見識・人望に負うところが大きい。

『1989年11月22日、日航機事故から4年3ヵ月、検察の下した結論は、全員不起訴でした。事故の責任は、誰ひとり問われませんでした。現実に、何らかの原因で520人は死んでいったにも関わらず、です。法律っていったい、誰のためにあるのだろう。ごく普通の市民の生活や命が守られるためにあるはずなのに。市民の感覚が生きた司法の仕組みが欲しい。今ある法の仕組みの中で、私たち市民に与えられた手段は限られているけれど、できることはすべて取り組もう。そう思いました』

この一文は、筆者も加わっている福島原発告訴団が東京電力を告訴・告発した際に、美谷島さんが福島原発告訴団宛てに寄せてくださったものである。企業犯罪で誰も責任が問われない、この国の巨大な無責任システムへの無念と怒り、そしてそれを社会を変えるエネルギーにしていこうとする美谷島さんの決意が感じられる。私たちも大いに励まされるし、懸命に取り組んできた先達である美谷島さんの決意を私たちも引き継ぎたいと思っている。

美谷島さんがかつて直面し、藤崎光子さんたちがJR福知山線事故で再び直面し、そして筆者が今、福島原発事故で三たび直面している「無責任システム」という名の巨大な壁。しかし、少しずつ世の中が進歩していることも感じる。JR福知山線事故、福島原発事故では美谷島さんたちがかなえられなかった強制起訴を実現した。美谷島さんたち、日航機事故の遺族が望んだ「再発防止」の願いは、何よりも御巣鷹を最後に32年間、1件の航空死亡事故も起きていないことによって事実上かなえられている。「今度あのような大事故を起こしたら、間違いなくうちの会社はなくなります」。JALの経営破たんのあおりで不当解雇された165人の労働者のうち、あるパイロットの被解雇者に話を聞く機会があった。こう話す彼の目は真剣そのものだった。

政府が、ありもしない急減圧をでっち上げ、ウソで塗り固めた事故調査報告書を発表しても、遺族と心ある労働者の真摯な取り組みによって、32年間航空死亡事故ゼロという金字塔が打ち立てられた。市民・遺族・労働者によって下から作られた航空安全文化という、日本社会にとってかけがえのない財産。御巣鷹は今、その財産の象徴としての地位を確立しつつあるのだ。

8月12日、御巣鷹の尾根への登頂は、遺族でないという理由で実現しなかった。だが、事故当日、遺族以外の入山を制限しなければならないほど多くの人々が御巣鷹に関心を寄せているという事実に筆者は満足を覚えた。この「山」に関する限り、安全問題研究会の役割は終わりつつある。残された課題は、事故原因調査のやり直しを国に、165名の被解雇者の職場復帰をJALに、それぞれ求めていくことくらいだろう。御巣鷹の尾根への慰霊登山は、もう遺族の子・孫や安全文化の新たな担い手として登場した若者に任せ、安全問題研究会はしばらく、JRローカル線問題と原発問題に徹してもよいのではないか――今、私にはそんな思いも芽生え始めている。

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<安全問題研究会声明>JR西日本歴代3社長「無罪」判決を超えて~判決の評価と今後の闘いのために~

2017-06-27 22:09:06 | 鉄道・公共交通/安全問題
尼崎JR脱線事故 歴代3社長の無罪確定 異議申し立てなく(神戸新聞)

歴代3社長に刑事責任は問えず JR福知山線事故「無念」幕引き(サンデー毎日)

上記記事ですでに報じられているように、JR福知山線脱線事故をめぐり、1審神戸地裁、2審大阪高裁の無罪判決を不服として、検察官役の指定弁護士が行っていた上告が6月12日、最高裁に退けられた。これで、歴代3社長の無罪判決が確定する。

なお、この無罪判決確定を受け、安全問題研究会の声明を以下のとおり発表する。

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<安全問題研究会声明>JR西日本歴代3社長「無罪」判決を超えて~判決の評価と今後の闘いのために~

 2005年4月25日、JR福知山線で快速列車が脱線・転覆、107名が死亡した尼崎事故に関し、6月12日、最高裁は、業務上過失致死傷罪で強制起訴されていたJR西日本歴代3社長(井手正敬、南谷昌二郎、垣内剛の各被告)を無罪とした1、2審判決を支持し、検察官役の指定弁護士の上告を棄却する決定を行った。指定弁護士は異議を申し立てず、6月20日をもって無罪判決が確定。「これだけ多くの犠牲者を出しながら、なぜ誰ひとり責任を問われないのか」という遺族・被害者の疑問に司法は答えず、「日本企業犯罪無責任史」に新たな1ページを加えるだけに終わった。

 そもそも2015年3月の2審判決から2年もの間、1度の弁論も審理も開かず棚ざらしにしたまま、最高裁は何をしていたのか。司法の怠慢と言わざるを得ない。

 当研究会は、2010年の強制起訴以来7年にわたったこの裁判がまったくの無意味であったとは思わない。確かに判決結果だけを見る限り、事故の真相究明と責任追及の両面でこの裁判は大きな成果をあげることなく終わった。だが、史上初めて犯罪企業のトップを被告人として法廷に引きずり出し、被害者による直接尋問を実現させたこと、JR西日本が事故の大きな原因とされた日勤教育を廃止、ヒューマンエラー(人為ミス)を社内処分の対象から除外し、エラーの積極的な報告を求める姿勢に転換したことなどはこの裁判がもたらした大きな成果だ。裁判と直接の関係はないが、鉄道事業者の裁量に委ねられていた速度照査型ATS(自動列車停止装置)の設置がこの事故の直後に義務化されたことも、107名の貴い犠牲がもたらした確かな前進として評価すべきである。

 一方、事故の予見可能性が最大の焦点となり、それが否定される形で3社長の無罪が確定した今回の結果は、今後の企業犯罪訴訟に大きな負の影響を及ぼすだろう。安全対策は企業・経営者が危険を予見することによって始まるものだからである。事故を予見できなかったことが無罪の根拠とされる一方、危険を予見してきちんと安全対策を講ずる事業者が予見可能であったが故に有罪に問われることになれば、まじめに安全対策を講ずる企業・経営者ほど損をすることになる。社会全体で安全対策が後退し、かえって危険な社会が到来する結果を招くことになりかねない。当研究会はこの点を強く危惧しており、事故の予見可能性が最大の焦点となる現在の企業犯罪訴訟の流れは変える必要がある。当面の闘いの方向性として、予見可能性の有無にかかわらず、事故がもたらした結果の重大性のみに着目して経営者の量刑を決めるよう司法に求めることが必要だ。

 「法人組織としてのJRの責任を問うのであれば(指定弁護士側の主張は)妥当する面がある」。2015年3月、大阪高裁での2審判決で裁判長がこのような異例の判示をしている。遺族の一部が求めている組織罰法制(企業に対する罰金刑を規定するもので、英国の「法人故殺法」の例がある)の必要性に司法みずから踏み込んだものであり、注目すべき内容だ。企業経営者個人の罪しか問えない現行刑法に対する問題意識が特定の一裁判官だけにとどまらず、司法内に広がりを見せていることを示している。

 組織罰法制を求める動きに対しては、「企業が証拠を隠す恐れがあり、真相究明につながらない」とする反対意見がある。これらの意見が、過去、公共交通の安全問題に真剣に取り組んできた専門家からも出されていることは残念だ。企業に無限の罰金刑を科することができる「法人故殺法」を制定した英国では、公共交通機関の事故が3割も減少したと評価されている。企業に安全対策を行わせることによって事故を未然に抑止することこそ組織罰法制の真の目的であり、反対している専門家はそれを理解していない。

 グローバル企業の手を縛り、あるべき責任を負わせていく組織罰法制の整備に向けた運動展開が今後の課題であり、そのために運動側の構想力、組織力、行動力が問われている。遺族からのこの問いに、私たちは全力で応える必要がある。

 安倍政権は、この問いに応えるどころか、犯罪企業を守るために、組織化されてもいない一般市民を処罰する「改正組織犯罪対策法」(共謀罪法)を強行採決した。私たちが望む法整備とは正反対の道を進み、立憲主義も法の支配も破壊する安倍政権に代わる、政治変革可能な勢力を生み育てることが、私たち市民にとってますます重要かつ喫緊の課題になっている。

 JR史上最悪の悲劇となった尼崎事故をめぐって、JR西日本歴代3社長の刑事裁判の結果が確定した今年は、奇しくも国鉄分割民営化から30年の節目の年でもある。国鉄労働者に不当な攻撃を浴びせ、国家的不当労働行為の露払い役を務めた挙げ句、汐留の旧国鉄用地を格安で払い下げられた大手メディアは、節目の年にも沈黙を守り、その負の歴史を伝えないことで「国鉄改革は大成功」と宣伝し続ける政府のお先棒を担いだ。ぼろ儲けの本州3社、上場を果たしたJR九州、バブル期以来の鉄道事業営業黒字に沸き立つJR貨物だけを見ていると、国鉄改革「大成功」の幻覚に目まいがしそうになる。

 だが、事実がすべてを語っている。実質的倒産状態となったJR北海道は全営業キロの半分を「JR単独では維持困難」として、地域社会を顧みない路線廃止を強行しようとしている。四国でも路線別の収支を公表する動きが出るなど、廃線危機が表面化する寸前だ。1047名の被解雇者、150人にも及ぶ事故犠牲者、そして「病院にも学校にも通えない」と悲鳴を上げる北海道の地域住民を切り捨てたまま、巨大なカネを持て余したJR東海はリニア建設へ突き進む。国鉄の線路を引き継いだ「兄弟会社」であるはずのJR北海道の危機を前に、国も、道も、他のJR各社のどこも救いの手を差し伸べない――まるで漫画のような巨大な悲劇が進行している。

 日本の鉄道のために日夜、血と汗を涙を流してきた先人たちは、果たしてこんな姿を望んだだろうか。先人たちの幾多の犠牲は、こんな無残な姿の鉄道を生むためだったのだろうか。その答えは断じて否である。日本中にあらゆる悲劇をもたらし、破たんしたまやかしの国鉄「改革」は歴史のごみ箱に捨てられるべきである。

 鉄道国有化を公約に掲げた英労働党は堂々と闘い前進した。大義は私たちの側にある。当研究会は、すべての鉄道労働者、地域住民、貴い犠牲を払ったすべての事故遺族が報われる真の鉄道改革、制度疲労が露わになった民営JR7社体制の抜本的な見直しを強く求め、今後もあらゆる行動を続ける。

 2017年6月27日
 安全問題研究会

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「ノーモア尼崎事故!生命と安全を守る4.22集会」での遺族・藤崎光子さんの訴え

2017-05-05 22:39:41 | 鉄道・公共交通/安全問題
管理人よりお知らせです。

4月22日、兵庫県尼崎市で開催された「ノーモア尼崎事故!生命と安全を守る4.22集会」での遺族・藤崎光子さんの発言内容の動画をYoutube「タブレットのチャンネル」にアップロードしましたのでお知らせします。なお、関連記事も併せてご覧ください。

170422JR福知山線脱線事故遺族の訴え 藤崎光子さんノーモア尼崎集会

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ノーモア尼崎事故!生命と安全を守る4.22集会」報告資料

2017-04-25 22:33:34 | 鉄道・公共交通/安全問題
4月22日、兵庫県尼崎市内で「ノーモア尼崎事故!生命と安全を守る4.22集会」が例年通り行われ、約130人が集まりました。今年の集会は「国鉄分割民営化30年を検証する」がメインテーマに、坂口智彦・国労中央執行委員長が記念講演。安全問題研究会もJR北海道の現状について報告を行いました。

以下、安全問題研究会が行った報告の内容をアップします。これ以外の主な内容は以下の資料の通りです。なお、JR福知山線脱線事故「遺族からの訴え」(藤崎光子さん)については、動画で録画していますが、youtubeへのアップが終わっていません。アップでき次第ご紹介します。

170422「ノーモア尼崎!生命と安全を守る4.22集会」配布資料

170422安全問題研究会報告のPDF版(以下の内容と同じものです)

170422記念講演・JR30年~坂口智彦国労委員長(音声ファイル・約35分)

集会参加者からの報告記事(レイバーネット日本)「重大事故の責任いまだ問われず~ノーモアJR尼崎事故!命と安全を守る4.22集会」

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ノーモア尼崎事故!生命と安全を守る4.22集会」報告資料~全営業キロの半分が廃線の危機! JR北海道の経営破たんを招いた国鉄「改革」

2017.4.22 安全問題研究会

 JR北海道は、島田修社長が2016年11月18日に記者会見し、宗谷本線名寄~稚内間など計13区間について、同社単独では「維持が困難」になったことを公表した。対象区間のうち3区間(輸送密度200人未満)はバス転換が適当とし、残る10区間(輸送密度200人以上2000人未満)についても、上下分離方式などの地元負担が必要としている。



 廃止路線が旧産炭地の路線や盲腸線中心だった国鉄分割民営化当時と異なり、今回の13区間には、根室線帯広~釧路~根室間、釧網線東釧路~網走間など、主要都市間輸送を担う基幹路線のほとんどが含まれている。営業キロで見ても1,237kmと、JR北海道全体(約2,500km)の半分に相当する。もしこのすべてが廃止や地元負担となった場合、地元の社会経済に与える打撃は計り知れないものになる。

 すでに、JR北海道は2015年9月、「2015年度末までには社員の給与支払いに充てる資金がマイナスに陥る」として国から1,200億円の緊急支援を受けている。民間企業であれば、労働者の賃金が支払えない状態は事実上の倒産とされる。今回の発表は、実質的にはJR北海道の「破産宣言」に当たる。この際のJR北海道の試算では、同社が経営破たんに陥るのは「2018年度」となっていたが、試算よりはるかに早く破たんした。

 JR北海道は新幹線含む全線が赤字であり、経営破たんの原因が、北海道だけを単独の会社とした国鉄分割民営化の枠組み自体にあることは当然だ。民営化初年度(1987年度)決算で、JR7社の営業収入全体に占めるJR北海道の割合はわずかに2.5%、JR四国が1%、JR九州が3.6%に過ぎなかった。JR北海道全体の営業収入(919億円)は東京駅の収入(約1000億円)より少なく、JR東日本1社だけでJR7社の営業収入の43.1%を占めていた。

 2017年2月17日、衆院予算委で本村伸子議員(共産党)が行った質問によれば、JR東海の鉄道事業営業収益は5,556億円であるのに対し、JR北海道は-483億円。3島会社とJR貨物を合わせた4社の営業損失は741億円だが、本州3社で最も収益構造が脆弱なJR西日本でさえ1,242億円と、4社合計の営業損失を大幅に上回る営業収益を上げている。これは、3島+貨物の全体をJR西日本だけで救済でき、お釣りが来ることを示している。強い会社はより強く、弱い会社はより弱くなる格差拡大と弱肉強食こそ国鉄「改革」とJRの歴史であったことが鮮明になった。

 儲かる路線で儲からない路線を支えていた国鉄時代の内部補助制が分割で崩壊、儲かる路線の利益はJR本州3社の経営者が分捕り、北海道、四国、九州の損失は地元自治体・住民に押しつけられた。国鉄を葬った者、1047名の国鉄労働者を路頭に迷わせ、それ以外の多くの国鉄労働者を自殺に追い込んだ者、東京駅より少ない収入のJR北海道にできもしない「自立」を迫り、経営破たんに導いた者の責任を追及しなければならない。

 経営破たんの原因として、民営化に当たって政府が用意した経営安定基金の運用益が、低金利によって約4,000億円も減少したことに加え、2009年の「高速道路1,000円乗り放題」政策による乗客の逸走(自動車への転移)も大きい。JR北海道の経営を支えていた長距離旅客は、1,000円高速政策が終了後も今なお鉄道に戻っていない。

 長距離旅客減少による経営悪化は、安全崩壊となって表面化。2011年の石勝線トンネル内における特急列車火災事故、2013年の函館本線における貨物列車脱線事故と続いた。その後のレール検査データの組織的な改ざんは、JR会社法に基づく初の監督命令の発出に加え、当局の強制捜査、起訴によって刑事事件に発展した。この間、2人の社長が自殺している。

 JR北海道社内に設けられたJR北海道再生推進会議は、同社が民営化以降の30年にわたって、本来であれば安全投資に回すべき費用を、高速バスや航空機との競争の中で高速化に充てていたと指摘。2011~13年にかけ相次いだ事故やトラブルは、30年にわたった安全軽視と怠慢の明らかな帰結だ。再生推進会議は、こうしたJR北海道の安全軽視と怠慢を棚に上げ「安全か路線かの二者択一」を会社に迫る提言をまとめたが、地域公共交通、住民の足が守られるよう願う地元の意思を無視した一方的な提言であり、認めることはできない。

 北海道で生産された農産物は、全国津々浦々に鉄路で運ばれ消費されている。北海道から本州に向けて運ばれる鉄道貨物の4割は食料品輸送であり、ホクレン(農協)がみずからコンテナを製作、北海道新幹線の開業に伴って並行在来線が経営分離された第三セクター「道南いさりび鉄道」にも農協が出資しているほどである。この陰には保線や除雪などの莫大な経費を、北海道民が本州より高い運賃を通じて負担している事実もある。

 仮に道内の鉄路がなくなった場合、同じ輸送力を確保しようとするとどのようなことが起こるだろうか。青函トンネルを挟んだ青森~函館~札幌間に限っていえば、500t×51本(上下合わせて)の貨物列車で1日当たり25,500tもの貨物が運ばれている。仮にトラック(10t車)で置き換えるならば、1日当たり延べ2,550両もの車両と延べ2,550人もの運転手が新たに必要になる。ネット通販拡大による小口荷物の激増とトラック運転手の不足で首都圏などではすでに指定期日・時間通りに宅配便が届かないことが常態化しており、こんな時に大量輸送に適した鉄道を廃止してどうするのか。

 一方、北海道庁内に設けられた北海道鉄道ネットワークワーキングチームは、JR北海道が単独では維持困難とした13線区に関する鉄道網のあり方として、(1)札幌市と中核都市を結ぶ路線、(2)広域観光ルートを形成する路線、(3)国境周辺・北方領土隣接地域の路線、(4)広域物流ルートを形成する路線、(5)地域の生活を支える路線、(6)札幌市を中心とする都市圏路線――の6類型に分類。(1)については「維持すべき」、(2)及び(5)は地域で検討、(3)は鉄路の維持が必要、(4)は総合的に対策を検討、(6)は「道内全体の鉄道網維持に資する役割を果たすべき」――とそれぞれ位置づけ、6類型のうち「(1)が石北線、(3)に宗谷線が該当」とした。特に(2)と(5)については、地元との協議の結果次第では廃止~バス転換を容認するものであり、道が地元路線を守るどころか、一部線区の廃止に積極的に手を貸すものになっている。

 2002年の鉄道事業法「改悪」によって路線の廃止が許可制から届出制となり、鉄道会社は廃止届を出せば1年後に路線を廃止できるようになった。国交省には廃止を繰り上げる権限だけが与えられ、廃止を差し止める権限がないなど問題だらけの改悪であった。だが、ローカル線廃止のこれまでの例を見ると、地元自治体との協議が整うまでは廃止届を出さないという「紳士協定」はとりあえず守られており、2016年12月に行われた日高本線の廃線提起の席でも、JR北海道は「地元同意のない状態では廃止届は出せない」と、地元同意がないままの廃止届の強行提出を一応は否定している。

 2017年2月8日の衆院予算委で、松木謙公議員(民進党)の質問に対し、麻生太郎副総理兼財務相が「JR九州の全売上高がJR東日本品川駅の1日の売上高と同じ。JR四国は1日の売上高が田町駅と同じ」「貨物も入れて七分割して、これが黒字になるか。経営がわかっていない人がやるとこういうことになる。(JR北海道をどうするか)根本的なところをさわらずしてやるというのは無理」と答弁するなど、危機感は自民党内の一部にも広がりつつある。(参考資料――衆院予算委員会会議録 平成29年2月8日

 国民の公共交通であった国鉄を解体し、新自由主義を社会の隅々にまで浸透させ、絶望と対立と分断の淵に全国民を追いやる端緒となった国鉄「改革」。労働者、乗客・利用者、地方にすべての犠牲を押しつけ、利益はJR株主・経営者と財界が総取りしてきた「犠牲のシステム」――これこそ30年の歴史を通じて見えてきたJRの真実だ。

 2000年にハットフィールド脱線事故を起こした英国は線路保有部門を再国有化、民営でスタートした米国の鉄道アムトラックも国有化されるなど、鉄道の「民営から公共的企業形態へ」は国際的潮流である。国鉄「改革」から30年。耐用年数の切れた「民営JR」体制を根本的に改め、再国有化など、国民の足の復活を求める広範な闘いに今こそ踏み出すときである。

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市民に支持された「安全問題」でのストライキ

2016-12-11 18:04:54 | 鉄道・公共交通/安全問題
サムネイル写真=スト決行を予告する労働組合の掲示(クリックで拡大)


なぜ臨港バスは36年ぶりのストに踏み切ったのか(神奈川新聞)

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【文化部=齊藤大起】最長16時間に及ぶ勤務の「拘束時間」の軽減を求め、川崎鶴見臨港バス(川崎市川崎区)の運転士らが36年ぶりのストライキに踏み切ってから1週間。その訴えは、バス業界全体で長時間勤務や休日出勤が常態化している厳しい労働環境を浮き彫りにした。

■6時間の「中休」

 「カネじゃない、安全のために訴えている」。同社の労働組合幹部は話す。労働条件を巡る「秋闘」の一環で12月4日、組合は24時間の時限ストを実施、横浜市鶴見区を走る一部路線を除き、全ての運行を止めた。

 会社に求めたのは、労働時間外の休み時間である「中休」を減らすことだった。バスは朝夕のラッシュ時間帯に運行が集中し、日中は間隔が空く。そのため、中休を挟んで1人が早朝から夜まで担当することが多い。

 以前は早朝から午後早くまでの「早出」と、午後から深夜までの「遅番」を別々の運転士が担当することが多かったが、同社は「2人を要していた仕事を1人に担当させれば効率よく走らせられる」との理由で、中休の必要性を説明する。

 だが、6時間ほどもある中休は「拘束時間」には含まれるものの労働時間とは見なされず、若干の手当が付くほかは無給。街中へ出たり、いったん帰宅したりできる自由時間とはいえ「夕方からの乗務に備え緊張状態は続く」と労組は主張する。営業所の仮眠室で休憩する社員もいるという。帰宅が遅いことで家族と過ごす時間も削られる。

 中休を含む勤務は、組合の話では総数の約4割に上り、5年ほど前は週1回程度だった頻度が週2、3回に。会社側は「営業所ごとに異なり、一概に割合は示せない」とするが、組合員の一人は「人命を預かる重大さを分かってほしい」と訴える。

■実効性薄い基準

 「そもそも、運転士を守るべき規制が脆弱であることに問題がある」。労働経済学が専門で、バスやタクシーなど運輸業界の実態に詳しい北海学園大の川村雅則教授は指摘する。

 実際、同社が「法令の範囲内で勤務を組んでいる」と強調する通り、16時間に及ぶ「拘束」は、厚生労働省の基準に収まっている。

 同省は「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」(改善基準告示)でバス運転士の拘束時間を1日16時間、週71時間半まで許容。同基準の意義を「バス運転者の労働条件を改善するため」としつつも「労働実態を考慮して基準を定めた」と、むしろ長時間拘束を容認している形だ。

 その上、睡眠不足への対策も十分でない。労働後の休息を11時間と定めた欧州連合(EU)に比べ、同基準は8時間。例えば、午後11時までハンドルを握った運転士に、翌朝7時からの運転を命じることができるのだ。

 川村教授は調査で「十分な睡眠時間がとれない」と訴える運転士が半数近くを占め、健康や安全に影響を与えている現状を指摘。「自動車には鉄道や飛行機のような自動制御装置がなく、運転者の状態が安全を左右する」として、規制強化を訴える。

 しばしば、バス会社に寄せられる「運転士が無愛想」「運転が乱暴」といった苦情にも、川村教授は着目。「背後に長時間労働による疲労があるのでは、と想像してほしい」と話す。

■背景に規制緩和

 だが、現実は真逆だ。2000年以降の規制緩和のあおり受け、バス事業は過当競争の渦中にある。運転士の給与にも反映している。

 厚労省の統計を基にした川村教授の分析によると、かつて全産業平均を上回っていたバス運転士の平均年収は同年に逆転し、15年は427万円と全産業平均の548万円の8割未満に。15年にわたり120万円以上も下がり続けている計算だ。

 そもそも、かつて全産業平均を上回っていたのも、バス運転士の総労働時間が一貫して長いためで、給与水準が高いからではなかった。川村教授は、運転時間の長さが収入を左右する給与体系自体が、望まない超過勤務や休日出勤を強いられる「強制性と自発性がないまぜになった長時間労働」を生じさせていると指摘。「基本給で生活できる社会を築くべきだ」と話している。
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神奈川県川崎市を営業区域とする「川崎鶴見臨港バス」の労働組合(臨港バス交通労働組合)が、12月4日(日)、1980年以来、実に36年ぶりの24時間ストライキに踏み切った。会社側は、表向き、組合側との協議を続けているようにホームページ上では説明していた。だが、誠意のある姿勢とはとても言えなかったらしく、結局、労使交渉はまとまらないまま、組合側は24時間ストを打ち抜いたようだ。

公共交通機関のストが頻発していた1980年代まで、これらのストに対する市民感情は、賛否相半ばしていた。支持する声ももちろん強かったが、交通機関利用者からは迷惑だとして組合側を批判する声も多かった。こうした批判を気にして、交通機関の労働組合から、いつしか戦術としてのストライキは消えていった。

その結果、記事にあるように、人命を預かる重要な仕事であるにもかかわらず、バス運転手の待遇は全産業平均を下回るようになった。公共交通企業の人員削減と、生活に必要な賃金を確保するための両面から、運転手は長時間労働を受け入れざるを得なくなった。過酷な勤務実態が社会問題化した夜行高速ツアーバスはもちろん、最近は一般の路線バスでも、以前なら考えられなかったようなお粗末な事故が起きるようになってきている。

川崎鶴見臨港バスの、6時間の「中休」を間に挟んだ16時間拘束の勤務形態は、バス労働者の労働条件悪化の象徴例だろう。「中休があるからいいじゃないか」という声もあるだろうが、それは現場実態を知らないからだ。6時間後にまた勤務が控えていると思うと気が休まらないし、仮眠を取ったところで熟睡もできず、疲れも取れないのは当然だ。実質的には拘束時間と言ってよい。「カネじゃない、安全のために訴えている」という労働組合幹部の発言からは、ひしひしとした危機感が伝わってくる。

驚いたのは、インターネット上でこのストライキを「支持」する声が相次いだことだ。例えば、スト決行を伝える臨港バス交通労働組合関係者と見られるツイッターや、ニュースサイトのコメント欄には、次のような感想が書き込まれている。

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・労働者には不当搾取に抵抗する権利がありますからね。ストライキに踏み切った鶴見臨港バスの労働者の皆様には敬意を表すとともに、全面的に支持したいと思います。

・ストライキを馬鹿にしたり、うざいとか迷惑って言ってる奴らは何なの? 条件さえ守ればストライキは労働者の権利なんだよ。ストライキを起こさせたり、ストライキが起こってもある程度は対応出来る仕組みを作ってない企業に文句を言うべき。

・最近落ち込むことも多かったけど、朝バスがストライキ起こしたニュースを見て少し元気になった。ストライキ起こせるあたり日本もまだ捨てたもんじゃないね。労働環境に関する暗いニュース多いから尚更。

・ストライキしてるバス会社があるのか。労働者がものを言える社会は健全だと思う。

・ストライキ権が認められない世の中になったら、ブラック企業がやりたい放題になるよ。ストライキって、世の中に多大なる影響が出るからこそ、やる意味が出るんじゃないのかね。何の影響もないストライキやったとこで、意味ない気がするんだけど。

・この問題を放置しておくと、大きな事故が増える気がする。既に、東急バスで運転士が運転中に眠くなって電柱に激突なんて事故も起きたし…

・バスの運転士は高い運転技術と責任感そして緊張を強いられる。そういう職種の人が安月給で長労働時間っていうのはおかしな話。

・命を預けるわけだから、運転手さんにはベストな状態で働いてもらいたい。
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相次ぐ公共交通の事故とブラック企業の蔓延で、今、明らかに潮目は変わった。ストを支持する多くの声を聞くと、川崎鶴見臨港バス労働者でなくとも元気が出てくる。これらの声が、ストを打ち抜いた労働者に届くよう願っている。

今回、ストライキが市民に支持された理由としては、安全問題を基軸に据えたことが大きいと思う。通勤ラッシュへの影響が最も少ない日曜日をスト決行日に選んだことも、敵に回す市民・利用者を最小限にとどめたいという執行部の判断によるものだろう。こうした柔軟な戦術も、市民の支持を得るために重要なことだと思う。

安全問題研究会は、先のコメントに見られるように、バスの安全問題にも重大な関心を持っている。国交省は、ツアーバス事故で命と将来を奪われた犠牲者たちに謝罪もしないまま、バス事業の規制強化に舵を切ったが、これは2000年の道路運送法改正による規制緩和を事実上、誤りと認めるに等しい。引き続き、当研究会は「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」の改正など、実効ある法制度の整備を求めて行動を続けていきたいと考えている。

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<安全問題研究会コメント>法令違反高速バスへの罰則強化する改正道路運送法成立~実効ある規制と監査体制の充実求める~

2016-12-05 22:53:14 | 鉄道・公共交通/安全問題
1.法令違反を犯した悪質な高速バス会社に対する罰則強化を盛り込んだ道路運送法改正案が、12月2日、参院本会議において全会一致で可決、成立した。この改正法では、国が行った改善命令に違反した場合にバス会社に課せられる罰金を、これまでの100万円から1億円に引き上げたほか、バス会社の経営者に対し、初めて懲役刑も新設。また、これまで無期限であったバス事業の免許を5年ごとの更新制とし、定期的に悪質業者を排除できる体制を整備した。安全問題研究会は、今回の法改正を高速バス事業の安全強化への第1歩として歓迎する。

2.今回のバス制度見直しは、今年1月、長野県で起きたスキーバス事故を踏まえたもので、遺族から厳罰化を求める声が高まったことを受けたものである。従来、国交省は「支払能力の低い中小業者への配慮」として罰金を100万円としてきたが、相次ぐバス事故の原因となった2000年の道路運送法「改正」(バス車両を5台所有していれば誰でもバス事業に参入できる)に合わせた実効性を欠くものであり、また鉄道や航空機における安全配慮義務違反の罰金1億円と比べてもあまりに低額であった。

3.人命を預かる公共交通の分野から法令違反を繰り返す悪質業者を排除するためには、一度の違反行為で会社が倒産するほどの厳しい罰則でなければならない。今回の罰金上限の引き上げは、悪質バス会社の大半を占める中小業者にとっては厳しいリスクを伴うものになろう。同時に、法令を守っていては運行ができないほどの無理な旅行計画を押しつけてくる旅行業者に対し、バス会社が罰則を理由に拒否しやすくなることが期待される。さらに、中小業者の淘汰が進んでバス会社の数が減れば、旅行業界に対するバス業界の発言力が増すことにつながる。

4.国土交通省に設置された「バス事業のあり方研究会」の報告を受け、2013年、国は「新高速バス制度」に移行。(1)ツアーバスにも道路運送法を適用し、旅行業者が責任主体となって貸切バス事業者に運行を委託するツアーバスの業態を廃止、(2)自社でのバス車両保有、バス停の設置、運行の事前届出を義務づけ、(3)ワンマン運転について上限規制を導入――などの対策を講じたにもかかわらず、2014年の北陸道バス事故と今回のスキーバス事故が発生している。あずみ野観光バス事故(2007年2月、27人死傷)、関越道バス事故(2012年4月、7人死亡)が発生した2013年の規制強化直前の5年間と比べても、死亡事故の発生ペースに変化はほとんど見られない。

5.原因として、国による規制強化の実効性が担保されていないことを指摘しなければならない。国交省には、全国に約12万社もあるバス・タクシー・トラック業者の監査官をわずか330人しか置いていない。今回の法改正では、バス会社を巡回指導する民間機関を設立するとしているが、国交省の監査官を増員しないまま、民間機関への「業務丸投げ」で実効性あるバス事業の監督ができるわけがない。当研究会は、引き続き、国に対し、国交省監査官の増員など抜本的な安全対策を強く求めてゆく。

6.また、相次ぐバス事故の背景に、旅行業者による無理な運行計画の押しつけがあるにもかかわらず、旅行業者に対する規制措置が盛り込まれなかったことに対して、当研究会は強い不満を表明する。事故原因を作った旅行業者にも、一定期間、業務停止や旅行業免許取り消しを行えるような強い罰則を設けなければ、せっかくの規制強化も中途半端なものに終わりかねない。

7.悲劇的なバス事故が相次ぐ中で、今回の法改正を後押ししたのは、抜本的な対策を求める事故遺族やこれを支援する市民の声と闘いの力である。当研究会は、「闘いなくして安全なし」との教訓を改めて心に刻み、公共交通の安全向上のため、今後もあらゆる努力を続ける。

 2016年12月5日
 安全問題研究会

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【管理人よりお知らせ】組織罰を実現する会総会・公開シンポ「組織罰を実現するために」にご参加ください

2016-04-21 21:17:32 | 鉄道・公共交通/安全問題
管理人よりお知らせです。

来る4月23日(土)、兵庫県伊丹市内で「組織罰を実現する会」主催の公開シンポ「組織罰を実現するために」が開催されます。同時に、この集会で「組織罰を実現する会」が正式に発足します。

この会は、JR福知山線脱線事故遺族らが、企業犯罪の際、法人に罰金刑を科することのできる「組織罰」を法制度として実現するために、広く国民運動を起こそうとの趣旨で設立するものです。福知山線脱線事故をめぐる歴代社長の裁判などを通じて、企業役員を「個人罰」で裁くことしかできない現行刑法の限界が、広く指摘されるようになってきました。

その後、福知山線脱線事故の遺族たちは、組織罰を実現するため、2年前から勉強会などを続けてきました。その成果を踏まえ、いよいよ組織罰法制の整備に向けた運動が、この会を通じて正式に始まることになります。

公開シンポ「組織罰を実現するために」は、パネリストに柳田邦男さん(作家)、郷原信郎さん(元検事)をお迎えし、組織罰法制の必要性と、その実現のための方策を議論していただきます。柳田さんは、企業が引き起こす事故などの問題に詳しく、JR福知山線脱線事故に関しても積極的な提言を続けてきました。また、郷原さんは、企業法務、コンプライアンス分野に詳しく、また元検事でもあることから刑事司法分野にも明るい方です。

集会は、以下の日時、場所で開催されます。詳しくは、チラシ(サムネイル写真:クリックで拡大)もご覧ください。

日時:2016年4月23日(土)14:00~16:30(開場13:30)
場所:伊丹スワンホール地図

入場無料・予約は不要です。なお、「組織罰を実現する会」については、併せて、以下のニュース記事をご覧ください。

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<JR福知山線脱線>「組織罰」制定へ署名活動 遺族ら表明(2016.4.13 毎日)

 JR福知山線脱線事故の遺族らが13日、大阪市内で記者会見し、重大事故を起こした企業や法人の刑事責任を問う「組織罰」の制定に向け、署名活動や国会への働きかけなどを始めることを明らかにした。今月23日に「組織罰を実現する会」を発足させる予定で、代表に就く大森重美さん(67)は「多くの人の命が奪われた事故で、組織の誰も責任を問われない事態はおかしい。組織罰の必要性を訴えたい」と話した。

 遺族らは2014年に「組織罰を考える勉強会」を設立。専門家の意見を聞くなどして約2年議論し、企業などが起こした事故で職員らに業務上過失致死罪が成立する場合、法人自体に罰金を科す両罰規定を取り入れた特別法の制定案をまとめた。対象を死亡事故に限った特別法とし、処罰対象の拡大を抑えた。安全対策が十分だったと立証できた場合は免責されるようにし、安全対策の進展や真相解明に役立てる。

 23日には勉強会を衣替えして「組織罰を実現する会」を発足させ、兵庫県伊丹市のスワンホールで午後2時から組織罰の実現を考えるシンポジウムを開く。他の事故遺族との連携やホームページでの情報発信も進める。

 脱線事故では業務上過失致死傷罪で起訴されたJR西日本元社長は無罪が確定。同罪で強制起訴された歴代3社長は1審で無罪、検察官役の指定弁護士側が控訴したが棄却され上告中。【田辺佑介】
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【管理人よりお知らせ】ノーモア尼崎事故! 生命と安全を守る4.17集会にご参加ください!

2016-04-15 22:06:55 | 鉄道・公共交通/安全問題
管理人よりお知らせです。

直前のご案内になってしまいましたが、あさって4月17日(日)、尼崎市で「ノーモア尼崎事故!生命と安全を守る4.17集会」が開催されます。尼崎事故以降、毎年この時期に開催されている集会です。昨年は統一地方選のため5月の開催となりましたが、今年は再び以前の開催時期に戻っています。

今年の集会では、「公共鉄道を守る労働組合の役割~JR関連企業での組織拡大の経験」と題して、国労東日本前執行役員の青柳義則さんが講演します。長野でのバス事故など、相次ぐ公共交通の安全崩壊を踏まえ、職場段階から利用者の命を守るため、物言う労働組合の拡大が必要との視点からお話しします。

なお、当ブログ管理人が、JR北海道の安全問題、ローカル線廃止問題について、短い報告を行うかもしれません(実現するかどうかは不明です)。詳しい開催内容は、チラシ(サムネイル:クリックで拡大)をご覧ください。

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長野バス事故の原因とその背景 このままでは事故はまた繰り返される

2016-01-17 13:03:46 | 鉄道・公共交通/安全問題
長野県・碓氷バイパスで起きたスキーツアーバス事故は、若者を中心に14人(乗客12名・運転手2名)が死亡する惨事となった。自然災害などバス事業者の責任でない事故を除けば、1985年1月の犀川スキーバス事故(死者25人)以来の悲劇だ。未来ある若者の犠牲が日本社会に与えた損失は計り知れないほど大きい。

ツアーを企画した旅行会社「キースツアー」と運行を請け負ったバス会社「イーエスピー」社のずさんな管理体制については、メディアで報道されているとおりだろう。キースツアーに関していえば、事故前から利用者のインターネット上での評価もさんざんだ。バス以外にも、同社が手配したホテルについて「部屋にバスタオルや歯ブラシすらない」「ホテルというより合宿所」「怒りを通り越し、もはやネタ(笑わせるための過剰な演出を意味する若者用語)としか思えない」などという手厳しい評価が並ぶ。「安かろう悪かろう」の典型例と言ってよい。

運転手に対する採用時健康診断の未実施(労働安全衛生法違反)、運行前に「無事到着」の書類を作成し押印(有印私文書偽造)、運行前点呼の未実施(道路運送法違反)など唖然とする実態があり、両社が責任を免れないのは当然だ。とりわけ、「無事到着」の書類を事前に作成していたことは、行政への虚偽報告に当たることから、捜査、調査の経過によっては、今後、送検~起訴などの事態も予想される。

事前の運行計画では高速道路を通行することになっているにもかかわらず、真冬の夜間に急峻な山道を含む一般道(国道18号碓氷バイパス)に承諾なくルートを変更したのはなぜなのか、解明すべき謎も多く残る。

一方で、この手の事故が起きるたびに思うことがある。悪質業者の責任を問うだけでよいのか、監督行政の責任はないのかということだ。安全問題研究会として指摘しておかなければならないのは、7人の死者を出した関越道バス事故(2012年)の後、国土交通省が遅まきながらも「バス事業のあり方検討会」を設け、高速ツアーバスの業態を廃止。団体ツアーバスにも道路運送法を適用、バス停を利用させるとともに、運転手ひとりあたりの連続運行距離を従来の670キロメートルから400キロメートル(夜間)に制限する規制強化を行ったにもかかわらず、再び大事故を招いたという点だ。

『(バス事業のあり方検討会の報告を受けて発足した新たなバス事業制度は)規制強化にはなりません。なぜかというと、ツアーバスが無くなってすべてがこれに移るならマシかなとは思いますが、要するに傭車を認めているわけですから、……事故が発生した場合、傭車では誰が一体責任を取るのか』『ツアーバスはバス会社がお客さんと契約することはほとんどなくて、旅行業者がする。そして「新高速バス」はその旅行会社に何台か(バス車両を)保有させて運行させる。路線行為を行わせた上で、その時の需給によって他社のバスを使えるようにする。……すると今のツアーバスはそのまま委託すれば走れるわけですから、基本的なものは変わっていません』『高速ツアーバスが始まった当初はディズニーランドのチケットをセットで販売していましたが、これと同じように観光チケットや宿泊などをセットにすれば従前のツアー旅行になりますので、「新高速バス」に移行しなくても違法にはなりません』(『高速ツアーバス乗務員は語る 規制緩和と過酷な労働実態 家族は乗せたくない』(2012年、自交総連、日本機関紙出版センター)より抜粋)

こんな重大証言をするのは、自交総連大阪地連書記次長の松下末宏さんだ。格安だけが売り物だったツアーバス会社の4割を廃業に追い込み、鳴り物入りで発足したように見える「新高速バス制度」も抜け道だらけ、穴だらけで規制強化の体を成していないというのだ。結局のところ、「旅行業者は格安でツアーを募集、バス会社に対する強い発言力を利用して無理な運行条件を押しつけ」「旅行者はバス運行現場の実態を知ることもなく、乗客に対する責任も負えない」というツアーバスの最も本質的な部分に国交省は何ら手をつけず、事実上放置したのだ。

しかも、監査や行政処分も中途半端で大甘だった。国交省は、イーエスピー社が運転手の採用時健康診断を怠っていたとの理由で、事故2日前に同社に行政処分を下したが、その内容は同社が7台保有するバス車両のうち1台だけを使用停止にするというものだった。全車使用停止の処分にしていれば、結果は違ったものになった可能性がある(松下さんが指摘する「傭車」という抜け道がある限り、仮に全車使用停止の行政処分が下ったとしても、キースツアー社は他社に運行委託すればよいだけであり、行政処分に実質的意味もない。だが、外国人観光客の急増による最近のバス需要の逼迫により、全車使用停止の処分が下っていれば、急な傭車の手配ができず、事故につながる危険なツアーを中止に追い込むことができた可能性はある)。このように考えると、目先だけの制度変更でお茶を濁しながら、危険な格安ツアーバスの本質的部分には何ら手をつけず、悪質業者に対しても、ないよりマシとさえ言えないような大甘の行政処分で済ませていた国土交通省の責任を、当研究会としてはやはり問わざるを得ないと考える。

バス事業のあり方検討会を受けて新高速バス制度が発足した直後の2013年8月4日付で、安全問題研究会はコメントを発表。新高速バス制度への移行を基本的には歓迎しながらも、このように指摘した。

『過当競争の中、バス事業者は間断のないコスト削減圧力にさらされている。この機会に、当研究会は国交省に対し、バス事業者に対する不断の検査、チェックの徹底を期するよう改めて求める。もしこの検査、チェックが有効に実施されなければ、今回のせっかくの規制強化も画餅に終わるであろう』

すでに報道で指摘されているように、規制強化後もバス業界は運転手の人手不足、過当競争に苦しんでいる。今回の事故は、2年前、当研究会が新高速バス制度への不安を感じて発した警告が最悪の形で現実になったことを示した。事故再発の危険性を感じながら止められなかったことは、当研究会としても痛恨の極みである。

「バス事業のあり方検討会」の議論には、バスファン向けの趣味雑誌「バスラマ・インターナショナル」編集長の和田由貴夫さんも有識者委員のひとりとして参加した。報告書がとりまとめられるに当たり、和田さんは「バス事業のあり方検討会」事務局に宛てて意見書を提出している。「今こそ、バスのあり方の検討を」と題された意見書では、次のような傾聴に値する提言が行われている。単なる趣味雑誌編集長としての域を超えた、このような大局的な考え方こそ、今後のバス事業にとって最も必要なことだと当研究会は考える。

『公共性が高いバス事業に関しては規制緩和という前提条件の正否も議論の俎上に上げるべきではないだろうか。……バスの安全は制度が保障するものではなく、最終的にはドライバーに委ねられているという事実は、安全教育に厳しい事業者や現場には共通した認識である。本委員会にも労組の代表が参加し有益なご意見を述べられたが、近年は大手事業者が非採算部門を子会社に委託する例が多く、そこで働くドライバーには組合がない例が多い。その人々は津波で防潮堤が破壊された沿岸部で仕事をしているようなものである。……利用者にとってのバスは、よりよい生活の道具になることが求められている。それには「健康で持続可能=ロハス」が前提だが、日本のバス業界は、残念ながら現場のドライバーを含めて歯を食いしばって懸命に維持している実情にある。「年始も祝日も勤務があり、休暇が取りにくい。拘束時間が長いが賃金は安い」という産業が「健康で持続可能」といえるのだろうか』

国土交通省とバス業界は、今こそ、この和田さんの意見に真剣に耳を傾けるべきだ。そうでないと、悲劇はまた繰り返されると、改めて当研究会は警告する。

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笹子トンネル天井板崩落事故、中日本高速に5億円賠償命令

2015-12-22 23:54:12 | 鉄道・公共交通/安全問題
笹子トンネル事故4億円賠償命令=中日本高速の過失認める―横浜地裁(時事)

笹子トンネル崩落訴訟判決 遺族「組織罰に道」(神戸)

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 笹子トンネル天井板崩落事故で松本玲さん=当時(28)、兵庫県芦屋市出身=を亡くした父邦夫さん(64)は「分厚い判決文を娘の遺影に供えたい」と中日本高速道路側の過失を認めた横浜地裁判決を評価。だが、家族を失った痛みは癒えず、母和代さん(64)は「娘の声は聞かれない。メールも来ない。遺族は死ぬまで遺族」と涙ぐんだ。(1面参照)

 判決後、原告ら遺族5人が横浜市内で会見。邦夫さんは「判決にはびっくりした。同じような事故の裁判で原告に有利な判決は少ない。期待はあまりしていなかった」と打ち明けた。

 夫妻は結審まで15回に上った口頭弁論にほぼ出席。自宅の芦屋市から横浜地裁に通い続けた。これまでの裁判で会社側は「工作物責任は認めるが、検査しても事故は予見できなかった」と一貫して過失を否定してきた。

 娘のペンダントを着けて地裁に赴いた和代さんは「私たち一般市民と、安全管理のプロであるはずの会社の感覚に大きな違いがあることを知り、痛めつけられた裁判だった。でも、きょうの判決には感謝の気持ちでいっぱい」と語った。

 事故後、夫妻は日本の刑法では企業の刑事責任を問えないことを知り、尼崎JR脱線事故の遺族らと組織罰を考える勉強会にも参加してきた。邦夫さんは「日本での組織罰に道を開いた歴史的な判決」と力を込めた。(藤森恵一郎)
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2012年12月の中央自動車道・笹子トンネル天井板崩落事故をめぐって、亡くなった9人の遺族が道路管理に当たっていた中日本高速道路(株)(NEXCO中日本)などに対して損害賠償を求めていた民事訴訟で、横浜地裁が今日、NEXCO中日本とその道路保守子会社の2社に対し、4億円の賠償を命ずる判決を出した。この種の事故としては異例の高額賠償であり、当ブログと安全問題研究会はある意味で驚きをもって受け止めている。

旧日本道路公団から民営化された他の高速道路会社(NEXCO東日本、西日本)では行われていたトンネル天井や壁面の打音検査などの義務を果たさず、目視のみの検査態勢で老朽化したトンネルを放置してきたNEXCO中日本。責任認定のハードルは、常識的に考えればかなり低いと考えられたものの、最近は企業側が「予見不可能」と主張すれば何でも責任が否定されるのが既定路線になりつつあり、当ブログは判決の行方を危惧していた。不通となっていたトンネルの通行再開を控えた2013年2月には、インターネットメディアの記者として事故現場の取材も行っている。

死者ひとりあたり約4,900万円という今回の賠償額は、1991年の信楽高原鉄道事故(死者42人)において裁判で確定した賠償額の約5億円(死者ひとりあたり換算で約1,200万円。参考記事)と比較しても4倍に相当する高額賠償となった。

こうした背景には、犠牲者が若者だったこともあり、逸失利益(その人が寿命まで生きていた場合にいくらの収入を得られたか)相当分が大きく認定されたという可能性はある。しかし一方でこのところ日本企業の責任体制やガバナンス(企業統治)のあり方に対する批判がかつてなく高まっていることも併せて指摘しておく必要がある。この手の事故では例のない高額賠償が認められた背景に、このような日本企業の「総無責任体制」に一石を投じたいという司法の問題意識が反映した結果と評価できるだろう。

引用した神戸新聞の記事は、JR福知山線脱線事故が起きた兵庫県の地元紙らしく組織罰に言及している。福知山線事故の遺族と交流し、組織罰の学習を続けてきた遺族は今回の判決を「日本での組織罰に道を開いた歴史的な判決」としている。当ブログと安全問題研究会は、早くから英国の法人故殺法の例にならい、日本でも同様の組織に対する刑事罰制度を整備するよう呼びかけてきた。だが、刑事裁判では過失認定のハードルが高すぎ、裁判は企業優位になりやすい。また、経済界の代理人である自民党が圧倒的多数を占める現在の国会の議席構成では、組織罰法制の整備の見通しは立たない。当面は、刑事訴訟に比べれば過失認定のハードルの低い民事訴訟の場で、米国に見られるような「懲罰的高額賠償」の判例・裁判例を積み上げながら、過失による事故を引き起こした大企業を包囲していく闘いが重要だ。

このように考えるなら、この種の事故では前例のない高額賠償を勝ち取った今回の判決は、日本における企業への「懲罰的賠償」を実現する最初の入口に立ったと積極的に評価できるものだ。NEXCO中日本は控訴することなく、今回の判決に従って速やかな賠償を行うべきである。

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