安全問題研究会~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

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笹子トンネル天井板崩落事故、中日本高速に5億円賠償命令

2015-12-22 23:54:12 | 鉄道・公共交通/安全問題
笹子トンネル事故4億円賠償命令=中日本高速の過失認める―横浜地裁(時事)

笹子トンネル崩落訴訟判決 遺族「組織罰に道」(神戸)

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 笹子トンネル天井板崩落事故で松本玲さん=当時(28)、兵庫県芦屋市出身=を亡くした父邦夫さん(64)は「分厚い判決文を娘の遺影に供えたい」と中日本高速道路側の過失を認めた横浜地裁判決を評価。だが、家族を失った痛みは癒えず、母和代さん(64)は「娘の声は聞かれない。メールも来ない。遺族は死ぬまで遺族」と涙ぐんだ。(1面参照)

 判決後、原告ら遺族5人が横浜市内で会見。邦夫さんは「判決にはびっくりした。同じような事故の裁判で原告に有利な判決は少ない。期待はあまりしていなかった」と打ち明けた。

 夫妻は結審まで15回に上った口頭弁論にほぼ出席。自宅の芦屋市から横浜地裁に通い続けた。これまでの裁判で会社側は「工作物責任は認めるが、検査しても事故は予見できなかった」と一貫して過失を否定してきた。

 娘のペンダントを着けて地裁に赴いた和代さんは「私たち一般市民と、安全管理のプロであるはずの会社の感覚に大きな違いがあることを知り、痛めつけられた裁判だった。でも、きょうの判決には感謝の気持ちでいっぱい」と語った。

 事故後、夫妻は日本の刑法では企業の刑事責任を問えないことを知り、尼崎JR脱線事故の遺族らと組織罰を考える勉強会にも参加してきた。邦夫さんは「日本での組織罰に道を開いた歴史的な判決」と力を込めた。(藤森恵一郎)
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2012年12月の中央自動車道・笹子トンネル天井板崩落事故をめぐって、亡くなった9人の遺族が道路管理に当たっていた中日本高速道路(株)(NEXCO中日本)などに対して損害賠償を求めていた民事訴訟で、横浜地裁が今日、NEXCO中日本とその道路保守子会社の2社に対し、4億円の賠償を命ずる判決を出した。この種の事故としては異例の高額賠償であり、当ブログと安全問題研究会はある意味で驚きをもって受け止めている。

旧日本道路公団から民営化された他の高速道路会社(NEXCO東日本、西日本)では行われていたトンネル天井や壁面の打音検査などの義務を果たさず、目視のみの検査態勢で老朽化したトンネルを放置してきたNEXCO中日本。責任認定のハードルは、常識的に考えればかなり低いと考えられたものの、最近は企業側が「予見不可能」と主張すれば何でも責任が否定されるのが既定路線になりつつあり、当ブログは判決の行方を危惧していた。不通となっていたトンネルの通行再開を控えた2013年2月には、インターネットメディアの記者として事故現場の取材も行っている。

死者ひとりあたり約4,900万円という今回の賠償額は、1991年の信楽高原鉄道事故(死者42人)において裁判で確定した賠償額の約5億円(死者ひとりあたり換算で約1,200万円。参考記事)と比較しても4倍に相当する高額賠償となった。

こうした背景には、犠牲者が若者だったこともあり、逸失利益(その人が寿命まで生きていた場合にいくらの収入を得られたか)相当分が大きく認定されたという可能性はある。しかし一方でこのところ日本企業の責任体制やガバナンス(企業統治)のあり方に対する批判がかつてなく高まっていることも併せて指摘しておく必要がある。この手の事故では例のない高額賠償が認められた背景に、このような日本企業の「総無責任体制」に一石を投じたいという司法の問題意識が反映した結果と評価できるだろう。

引用した神戸新聞の記事は、JR福知山線脱線事故が起きた兵庫県の地元紙らしく組織罰に言及している。福知山線事故の遺族と交流し、組織罰の学習を続けてきた遺族は今回の判決を「日本での組織罰に道を開いた歴史的な判決」としている。当ブログと安全問題研究会は、早くから英国の法人故殺法の例にならい、日本でも同様の組織に対する刑事罰制度を整備するよう呼びかけてきた。だが、刑事裁判では過失認定のハードルが高すぎ、裁判は企業優位になりやすい。また、経済界の代理人である自民党が圧倒的多数を占める現在の国会の議席構成では、組織罰法制の整備の見通しは立たない。当面は、刑事訴訟に比べれば過失認定のハードルの低い民事訴訟の場で、米国に見られるような「懲罰的高額賠償」の判例・裁判例を積み上げながら、過失による事故を引き起こした大企業を包囲していく闘いが重要だ。

このように考えるなら、この種の事故では前例のない高額賠償を勝ち取った今回の判決は、日本における企業への「懲罰的賠償」を実現する最初の入口に立ったと積極的に評価できるものだ。NEXCO中日本は控訴することなく、今回の判決に従って速やかな賠償を行うべきである。

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