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安全問題研究会(旧・人生チャレンジ20000km)~鉄道を中心とした公共交通を通じて社会を考える~

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【管理人よりお知らせ】ノーモア尼崎事故!生命と安全を守る7.4集会での当研究会報告資料をアップしました

2020-07-11 23:39:22 | 鉄道・公共交通/安全問題
管理人よりお知らせです。

新型コロナウィルス感染拡大の影響で、毎年4月に開催されている「ノーモア尼崎事故!生命と安全を守る集会」は延期されていましたが、コロナウィルスの影響が小さくなってきたことを受けて、7月4日に尼崎市内で開催されました。

例年より会場の収容人員を少なくし、感染拡大のおそれがあるデモ、事故現場への献花行動が中止となりましたが、それでも例年以上に有意義な集会となりました。

安全問題研究会からは、ここ数年取り組んできたローカル線問題には大きな進展がなかったこともあり、今年は2014年以来久しぶりに安全問題に焦点を当てたJR北海道問題な報告を行いました。

その際に使用した報告資料を公式サイトにアップしました。以下のリンクから見ることができます。

~JR北海道~リンクする安全と経営問題(追補 ポスト・コロナの新しい鉄道像をも見据えて)

PDF版配付資料版も合わせて掲載しています。

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<安全問題研究会コメント>公共交通の未曾有の危機の中で迎えた福知山線脱線事故15年 風化許さぬ遺族・被害者と連帯し公共サービス再建の闘いを

2020-05-06 15:03:52 | 鉄道・公共交通/安全問題
1.乗客・運転士107名が死亡し、国鉄分割民営化以降では最悪となったJR福知山線脱線事故から4月25日で15年を迎えた。安全問題研究会は、公共交通の事故とその被害者をなくすことを目指して発足したみずからの原点を改めて確認するとともに、事故犠牲者、すべての被害者に改めて哀悼とお見舞いを申し上げる。

2.事故から15年の春を、被害者たちもまた異例の形で迎えることになった。節目であるとともに、JR西日本が毎年、事故日直前の土曜日に開催してきた慰霊の集いが、従来通りの開催であれば事故当日の4月25日に重なる今年は、単なる通過点の意味を超えた1日となるはずであった。だが新型コロナウィルス感染拡大で慰霊の集いを含む関連行事はほとんどが中止に追い込まれた。

3.関連行事が中止に追い込まれる中で、今年もほとんどのメディアが全国ニュースで報道を続けたことは、事故被害者にとって数少ない希望である。福島第1原発事故など、これより後に起きた出来事の多くが、責任追及を恐れる支配層の意を受ける形で全国ニュースから消し去られているが、この事故は1985年の日航機事故と並んで今なお全国ニュースでの報道が続く。

4.この背景に、遺族をはじめとする被害者たちの粘り強い闘いがあることはいくら強調してもしすぎることはない。JR西日本歴代3社長の刑事裁判は無罪となったが、被害者は事故企業に高額の罰金刑を科することができる組織罰制度の法制化を求めていまも取り組みを続けている。日航機事故の被害者団体である「8.12連絡会」は、その後に起きた大事故の被害者団体の多くが休眠状態となる中で、事故から35年目の今なお活動を続ける。事故被害者同士が互いの交流を通じて横の連帯を作り出し、先に起きた事故の被害者が後から発生した別の事故の被害者をケアする取り組みも広がる。事故被害者のケア、サポートに対する経験が市民社会に蓄積されてきている。

5.一方で、政府や加害企業の取り組み、意識改革は遅々として進んでいない。政府は被害者が強く求める組織罰法制化の願いを見捨てて顧みず、100年前に作られた個人中心の刑事罰制度を改める気配も見られない。2017年12月の新幹線「のぞみ」台車亀裂事故に関しては、直ちに列車の運行を中止しなかったJR西日本において「列車の走行に支障がないとありがたい」という心理状態(確証バイアス)が作用していたことが事故の原因とする運輸安全委員会の調査報告書がまとめられた。「何が起きているのかが分からない場合や判断に迷う場合は、列車を停止させて安全の確認を行う」(報告書)という当たり前のことを運輸安全委が改めて求めなければならない事態が続いている。

6.事故から15年を迎えた今年、JR西日本の労働者のうち事故後に入社した人が初めて過半数となった。同社労働組合が事故15年に当たり、社内327職場を対象に実施したアンケート調査でも、会社による事故風化防止対策が「十分できている」との回答は80職場(全体の24%)にとどまる。現場労働者を納得させることもできない会社が一般市民・利用客を納得させることはできない。

7.ローカル線問題に関しても、JR四国が路線維持を目指して努力を続け、JR北海道も「自社単独で維持困難」10路線13線区公表後も地元との協議を続ける中、両社に比べて圧倒的に経営体力のあるJR西日本が、2019年に三江線廃止に踏み切ったことは、地域公共交通を担う事業者としての責任を放棄するものと言わざるを得ない。

8.一方、新型コロナウィルスの感染拡大を防止するため人の移動が控えられた結果、経営規模を問わず公共交通を担う企業に大きな打撃となりつつある。海外の航空会社にはすでに経営破たんの例も出ている。JR北海道や航空会社は労働者の一時帰休に追い込まれた。通学、通院などの生活輸送を持たない航空会社に対して救済を求める声が一部で上がり始めているが、地方で人々の生活の足を担う鉄道やバス事業者こそ真っ先に救済すべきである。

9.新型コロナウィルスが先行してまん延した東アジアでは、すでに制圧に成功しつつある国や地域も見られる。日本だけいつまでも感染拡大を止められないのは、中曽根政権以来本格化し、30年以上途切れることなく続けられてきた新自由主義政策により、医療、教育、福祉などの公共サービスが徹底的に破壊されたからである。当研究会は内外すべての新自由主義者に対し、過去の自分たちの罪を悔い改め、誤った考えを捨てるようこの機会に強く警告する。

10.自民党と安倍政権は、新自由主義的「財政再建」路線に固執し、市民への支援はおろか、みずからの支持基盤であるはずの中小自営業者さえ「補償なき自粛」によって切り捨てている。100年に一度の危機は市民社会の連帯、そして健康や生活など「人間」に予算を振り向ける「大きく優しい政府」によってしか打開できない。その意味を理解せず、ピント外れの政策を場当たり的に打ち出すだけの自民党はすでに歴史的使命を終えた。日本の市民は今こそ新たな情勢認識の下、分断を超えて連帯し、新自由主義を悔い改めない自民党と安倍政権を歴史のゴミ箱に投げ捨てなければならない。

11.当研究会は、公共交通や医療、教育、福祉などすべての公共サービスの切り捨て、民営化に反対し、その公有化とともに人員と予算を大幅に増やすよう求める。1人でも多くの市民を危機から救い、新自由主義を完全かつ最終的に葬り去るため、今まで以上の決意をもって最後まで闘い抜く。

 2020年5月6日
 安全問題研究会

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【管理人よりお知らせ】ノーモア尼崎事故!生命と安全を守る6/8集会で当研究会が報告を行います

2019-06-07 23:28:12 | 鉄道・公共交通/安全問題
管理人よりお知らせです。

直前で申し訳ありませんが、明日6月8日、兵庫県尼崎市で行われる表記の集会で、安全問題研究会がJR北海道問題に関する報告を行います。

今年の集会では、メインとして企業に直接、刑事罰を科することのできる「組織罰」制度の導入をめざす立場から、津久井進弁護士が報告を行います。また、例年通りJR福知山線脱線事故遺族や公共交通企業で働く現場労働者からの発言も予定されています。詳しくはチラシをご覧ください(サムネイル表示になっている場合は、クリックで拡大します)。

なお、当研究会の報告内容は、集会終了後、ホームページに掲載予定です。

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新幹線「のぞみ」台車亀裂事故で国の事故報告書が公表 「正常性バイアス」は重要な指摘だが原因はそれだけか?

2019-04-25 23:59:17 | 鉄道・公共交通/安全問題
(この記事は、当ブログ管理人が月刊誌「地域と労働運動」2019年5月号に発表した原稿をそのまま掲載しています。なお、管理人の判断により「原稿アーカイブ」ではなく「鉄道・公共交通/交通政策」カテゴリで掲載しました。)

 2017年12月、博多発東京行き山陽~東海道新幹線上り「のぞみ34号」の台車に亀裂が発生、名古屋駅で運転を打ち切った事故に関する運輸安全委員会の事故調査報告書が3月末に公表された。JR西日本社員に極力、列車運行を継続したいという心理が働き重大事態との認識ができなくなる「正常性バイアス」が事故の原因と結論づけている。「正常性バイアス」は、福島第1原発事故でも東京電力が事前対策を怠った原因のひとつに挙げる声があり、重要な指摘に違いないが、公共交通の安全問題を長年見つめてきた当研究会の目には違う光景も浮かぶ。

 ●事故の経緯について

 1年以上前の事故でご記憶の向きも少ないと思うので、ここで事故の経過をもう一度まとめておこう。

 2017年12月11日、年末年始の繁忙期を間近に控えた時期に事故は起きた。博多駅を東京に向け発車(13時33分)したのぞみ34号の乗務員が異変に気付いたのは発車間もない小倉駅(13時50分)でのこと。7~8号車付近で異臭を感じたが、列車指令に報告するのみでそのまま運行を続けた。さらに異変が起きたのは福山駅発車(14時59分)後だ。13号車の車内でもやが発生、視界が悪くなる現象があった。

 岡山駅到着(15時16分)とともにJR西日本の車両保守担当社員3名が乗車する。異音が気になった保守担当社員は列車指令に対し「床下を点検したい」と報告。列車指令から「走行に支障があるか」と問われたのに対し、「そこまではいかないと思う」と応答。「新大阪駅で床下点検をやろうか」と提案したが、列車指令が別の指令員からの問い合わせに対応していたため、この重要な提案に応答できなかったとされる。モーターに異常があるかもしれないと考えたのか、乗務員は岡山~新神戸間でモーター開放(異常を疑ったモーターを電気回路から切り離し、走行に使用しないようにすること)の処置を行ったが異音に変化はなかった。

 列車はそのまま新大阪でも点検を行わず、「異音あり」との引き継ぎのみで乗務員の交代(JR西日本→東海)を行い、発車。車両保守担当社員が名古屋駅到着時に異音を感じて床下点検を実施したところ、台車枠に亀裂を発見。そのまま運転を打ち切った。

 以上が事故調査報告書に基づく事実経過である。当時の報道によれば、亀裂は台車枠側面17cmのうち14cmに達し、破断まであと3cmという間一髪の状態だった。東海道新幹線上り列車で名古屋の次の停車駅は1時間20分後の新横浜。名古屋で運転を中止しなければ、この間のどこかで破断に至っていた可能性は高い。東京~新大阪間の開業から54年目にして初めて起きた重大インシデントとして、運輸安全委員会がこの間、調査を続けてきた。

 ●乗務員、指令員の判断は妥当か

 小倉駅到着までに異音、異臭を感じたにもかかわらず列車運行を中止しなかった判断については疑問が残る。「焦げるような臭い」を感じたと関係者は証言しており、通常は発生しない異常な摩擦が発生していたとなれば火花が散る、火災が発生するなどが考えられるからだ。JR各社は安全確保と同時に列車の安定運行の責任も負っており、列車を止めにくい事情はわかるが、博多発の上り列車の場合、九州から本州に入れば一気に乗客が増え、ますます運行中止が難しくなる。新関門トンネルを越えた新下関駅には車両を引き揚げ留置できる線路もあることから、新下関まで様子を見て、乗客が少ないうちに運行を中止する判断もあり得た。

 異音、異臭の報告を受けた列車指令が車両保守担当社員の乗車を手配し、岡山駅から乗車させたことについては、運行継続を前提としている限り絶対に必要な措置である。乗車した社員が床下点検を行うべきだと判断したのも、彼らの役割を考えれば当然のことだ。列車はすでに岡山を発車しており、この次に大規模な車両基地があるのは新大阪だから、異常が発見された場合の対応も含め、新大阪が適当と考えた社員の判断はこの時点ではやむを得ない。乗務員が異臭、異音の報告を受けてなぜモーター開放の措置を執ったかは不明だが、通常、異音は動く部分で発生するから、回転部分であるモーターを真っ先に疑ったとしても、この時点では不自然とは言えない。

 列車指令からの問いかけに「走行に支障があるとまではいかない」と応答した車両保守担当社員の判断、そして列車指令が新大阪駅で床下点検をやりたいとの提案を聞き漏らしたことは事故発生原因にかかわる重大問題で、運輸安全委がここにこだわったのは納得できる。

 ここまでで重大なミスと言わざるを得ないのは、列車指令から指示がないまま、新大阪駅でJR西日本、東海のどちらも車両点検をしないまま列車を発車させたことだ。ここでの点検で異常を発見した場合、直ちに乗客を降ろし、鳥飼車両基地(新大阪~京都間)に車両を移動させればダイヤへの影響も最小限で済んだだけに悔やまれる。

 一方で、JR西日本、東海両社が、新大阪発車後も車両保守担当社員を降ろさず、乗車させたまま列車の監視を続けさせたことは好判断と言えよう。結果的に名古屋駅で再び異音を聞き、車両点検で亀裂を発見したのは彼らだった。会社間の境界だからといって彼らを新大阪駅で降ろしていたら、「のぞみ34号」は異音にも亀裂にも気付かれないまま走り続け、破局に至っていた可能性が高かった。この判断をした根拠はわからないが、現場を知る者にとってそれだけ不安な状況だったに違いない。駅に到着するときに都合よく異音が発生してくれるとは限らないから、今回は幸運なケースだったとは思うが、列車がスピードを上げるときや落とすときは、モーターや車輪の回転数が急激に変わるため、安定走行の時よりは異音が発生しやすい状況が生まれることは、指摘しておいてよいだろう。

 2017年12月11日、月曜日。危機を迎えながら走っていた「のぞみ34号」は、判断ミスと好判断のせめぎ合いの中で、かろうじて間一髪、破局を免れた。報告書からは、そんな危うい当日の状況が見えてくる。

 ●「正常性バイアスが原因」と断定

 「JR西日本の関係者が異音、異臭等を認めながら、列車の走行に支障があると判断するに至らなかったこと」について、報告書は(1)司令員の「列車の走行に支障があるか」との問いかけに対して、車両保守担当社員から「そこまではいかないと思う」との返答を得ていたことなど、指令員は、異常の重大性を理解するための明確な情報が得られていない状況にあったこと、(2)車両保守担当社員と指令員との認識の隔たりがあったこと、(3)車両保守担当社員が専門家であることから、本当に危険なときはそう言うはずだと思っていた指令員と、「床下点検の実施の判断は指令員の権限」と考えていた車両保守担当社員が、列車運行継続の判断について相互依存していたこと――を指摘。「大したことにはならないだろうとの心理」(正常性バイアス)、「列車の走行には支障がないだろう(支障ないとありがたい)」という自分の思いを支持する情報に対し意識が向く心理(確証バイアス)が作用した可能性が考えられる、とした。その上で報告書は、「何が起きているのか分からない事態は重大な事故に結びつく可能性があるとの意識を持って状況を判断し、行動することが重要」として、「適切な判断を行うための組織的取り組み」を鉄道事業者に対して求める内容となっている。

 車両の運行体制や点検、整備などの技術的側面に触れることはあっても、列車を動かす側の心理にまで踏み込んで運輸安全委がこうした指摘を行ったことは注目に値する。福知山線脱線事故でもJR西日本による厳しい社員締め付け教育(日勤教育)の問題性に触れる場面はあったが、それはあくまで副次的な位置づけに過ぎなかった。

 今回の報告書では、「再発防止策のポイント」に2ページが割かれ、台車亀裂防止の技術面と、現場が列車を止められない心理面が1ページずつ、ほぼ同等の文量となっている。事故の形態によりケースバイケースの部分はあるものの、運輸安全委が「巨大技術を扱う人間の問題」を以前より重視するようになっているのであれば、好ましい方向への変化といえよう。福島原発事故でもしばしば問題にされるが、技術面もさることながら「安全対策を行うべきであるのにしない」「列車を止めるべきであるのに止めない」という人間の行動こそが今、まさにクローズアップされているからである。「前進はできても退却ができない旧日本軍」以来連綿と続く日本人の「失敗の典型例」がここでも繰り返されていることは間違いない。

 ●その他の問題をめぐって

 この事故をめぐっては、他にも指摘しておかなければならないことがいくつかある。台車枠が亀裂に至った原因としては、メーカーである川崎重工業が台車枠製造の際、設計よりも薄く削ってしまったため強度不足に陥ったことがすでに分かっている。川崎重工業は謝罪会見を行い、社長みずから報酬の50%カットなどの処分も行った。川崎重工業に不信を抱き、同社からの部品納入を減らしているJR東海と対照的に、JR西日本は事故後も川崎重工業との取引を変わらず続ける。福知山線脱線事故から12年後の事故から見えてきたのは、相変わらず列車を止められないばかりでなく、事故から学ぶこともないJR西日本の姿勢である。

 「JR西は、(福知山線脱線事故以降の同社は)安全だと言い続けてきたが、それがゼロに戻った。苦しんできた12年間は何だったのか」。福知山線脱線事故で夫の浩志さん(当時47歳)を失った遺族の原口佳代さんはそう語る。長女早織さん(当時23歳)を事故で失った大森重美さんも「きちんと連絡が取り合えないなんて、あきれるしかない」と、変わらないJR西日本の体質に疑問の声をあげる。大森さんは現在、企業にも刑罰を科せるような法制定を求める団体「組織罰を実現する会」代表として活動を続けている。事故は福知山線脱線事故遺族からも大いに疑問を投げかけられている。

 「ハードウェアにより異常を検知するシステムを構築して、乗務員や指令に異常の発生やその程度を知らせる仕組みを検討することが望ましい」。報告書「再発防止策のポイント」が今回、行った重要な指摘だ。昨年4月、福知山線脱線事故の再発防止を目指す市民で作る「ノーモア尼崎事故!生命と安全を守る尼崎集会」で講師に招かれた筆者は講演で次のように指摘した。「鉄道と航空機は異なるシステムなので、すべて航空機と同様にすることはできないと思う。だが今回の事故で、新大阪駅での床下点検を求める車両保守担当社員の声を、列車指令が他の指令員(事故発生当時は「上司」とされていた)との対応に気を取られて聞き落としたことは重大問題だ。航空の場合、緊急事態を宣言した航空機がある場合、管制室にある全管制官のモニター画面に一斉に便名と“EMG”(緊急事態)が表示され、同時に警告音も鳴って知らせるシステムがもう30年以上前から運用されている。管制官の上司も警報を聞き、部下の管制官と同じモニター画面を覗き込めば、わざわざ聞かなくても緊急事態発生とその便名が把握できるシステムだ。上司に『何があったのか』と聞かれて指令員が答えているうちに、列車からの重大な連絡を聞き漏らすようでは本末転倒であり、鉄道の列車指令室にも航空管制室と同じようなシステムがあれば、それだけでも随分違うのではないだろうか」。今回、ここまで具体的でないとしても、それに近いシステムの整備を検討するよう運輸安全委が報告書で提言したことで、安全問題研究会の認識の正しさが裏付けられたものと思っている。

 今年もまもなく4月25日がやってくる。本号が読者諸氏のお手元に届く頃、メディアでは福知山線脱線事故から14年目の特集が行われているに違いない。事故の風化とともに「かつて来た道」を再び歩みつつあるJR西日本に対し、当研究会は、14年前の初心に帰るよう、改めて強く警告しなければならない。

(黒鉄好・2019年4月21日)

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JR北海道「レール検査データ改ざん事件」札幌簡裁判決に関する声明/安全問題研究会

2019-02-11 11:53:32 | 鉄道・公共交通/安全問題
<報道>
JR北元幹部3人に無罪=データ改ざん「認識できず」-会社は罰金刑・札幌簡裁(時事)

JR改ざん3幹部無罪 法人は罰金「悪質、責任重い」札幌簡裁(北海道新聞)

JRデータ改ざん 「安全軽視」のツケ今に 巨額投資、経営難に拍車(北海道新聞)

<参考>
JR北海道「レール検査データ改ざん裁判」が結審 傍聴して浮かんだJR北海道の「重大疑惑」(11月の論告求刑公判の傍聴記)

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<安全問題研究会声明>レール検査データ改ざん判決 企業犯罪を断罪した司法~JR北海道は判決を真摯に受け止め、強権的企業体質改めよ~

 2013年、JR函館本線大沼駅付近で貨物列車が脱線、その後、レール検査データに「改ざん」があったとして、保線業務の管理的労働者3名と法人としてのJR北海道が鉄道事業法違反(虚偽報告)、運輸安全委員会設置法違反(事故調査妨害)容疑で起訴されていた、いわゆるレール検査データ改ざん事件の判決公判で、2月6日、札幌簡裁(結城真一郎裁判官)は、JR北海道を罰金100万円とする一方、被告労働者3名を無罪とする判決を言い渡した。JR北海道は、両法における両罰規定(企業犯罪において犯罪行為を命じた企業も訴追可能とする規定)に基づいて起訴されていたものである。

 判決は、可搬式軌道変位計測装置(トラックマスター、略称トラマス)の検査データを検査表から台帳に転記する過程において、通り変位(遠心力による線路のずれ)の数値が次第に小さく書き換えられた経緯は認めたものの、改ざんの意図があったとする検察側の主張や、被告労働者が通り変位の数値に一貫して関心を示さないまま検査データ数値の書き換えを黙認していたことを改ざんの根拠とする検察側の主張をいずれも退けた。現場で起きていたのは保線不良による軌間変位(2本のレールの幅の拡大)であり、車輪全体が2本のレールの間に落下していた現場状況から、軌間変位が事故の主因であり、通り変位は原因のひとつを構成するとしても直接の主因ではないとする被告弁護側の主張を採用。「現場の曲線半径が400メートルではなく、もっと小さいのではないか」とする多くの現場労働者の裁判過程における証言を重視し、数値の書き換えがむしろ誤った数値の「補正」であった可能性を否定できないとした上で「疑わしきは被告人の利益に」との刑事裁判の原則に基づいて被告労働者を無罪としたのである。

 当研究会は、昨年11月に行われた被告側最終弁論を傍聴する中で、その内容と論理構成に破たんがないことを確認するとともに、多くの保線労働者の証言を基にして、実際はJR北海道が金をかけずにスピードアップを実現するため、不当に曲線半径を実際より大きくごまかすことで速度制限を緩和した企業犯罪ではないかとの仮説を立てた。この仮説についての事実認定こそ行われなかったものの、今回の判決内容を精査すると、裁判所が当研究会のこの仮説と同様の疑いをJR北海道に対して抱いたことはほぼ確実といえるのであり、当研究会の仮説は判決を通じて事実上証明されたものと言うべきである。

 一方で、判決はJR北海道について「従業員らを管理監督する立場にありながら、保線所長を含む多数の従業員が複数回にわたって虚偽報告もしくは検査忌避に関与することに至らしめたもの」であり「犯状はかなり悪く、その刑事責任は重い」と断罪。虚偽報告罪について鉄道事業法が認める最高刑である罰金100万円の判決とした。結城裁判官は「安全よりも列車運行を最優先するJR北海道の姿勢が事故を招いた。今後このようなことが二度とないよう真摯に反省し安全確立に万全を尽くすよう求める」としてJR北海道に反省を促した。曲線半径をごまかしてまでスピードアップを求め、現場労働者に虚偽のデータに基づいた保線作業を強要、挙げ句の果てに脱線事故を起こしたJR北海道の企業犯罪がついに司法の場で断罪されたのだ。

 JRその他の犯罪企業と闘う労働者・市民にとって今回の判決が画期的な意義を持つのは、なんと言っても企業にのみ刑罰を科し、強権的企業体質の下で社命に抗えなかった現場労働者を無罪としたことだ。福知山線脱線事故をめぐり、JR西日本と闘ってきた遺族はもちろん、当研究会も繰り返し求めてきた「組織罰制度」を事実上実体化させる先進性をこの判決は持っている。当研究会は今回の判決をてことして、今後は罰金額を企業罰として実効ある水準に引き上げる闘いを追求していく。検察側、被告のうち敗訴したJR北海道に対しては、判決を真摯に受け止め、控訴を断念するよう求める。

 安全投資を削ることでスピードアップを追求してきたJR北海道の冒険主義は、2011年、石勝線列車火災事故によって破たんした。JR北海道は、この事故を表向き「反省」する振りをしながら、まともな収支さえ公表しないまま経営危機を演出、「自社単独では維持困難」10路線13線区を切り捨てる意思を露わにしてきた。路線維持を求める沿線住民・自治体の声に一切耳を傾けず、一方的に廃止の結論だけを押しつけようと策動するJR北海道の姿は、脱線事故を引き起こしたウソまみれで強権的企業体質の路線問題における最も醜悪な反映である。当研究会はJR北海道に対し、このような強権的企業体質を改めるとともに、一方的廃線強要ありきではない、真の意味で沿線住民・利用者本位の地域協議を誠意をもって行うよう、改めて強く求める。

 国鉄労働者1047名の不当解雇以来、当研究会は人生の半分をJRとの闘いに捧げてきた。この闘いの歴史の蓄積、そして当研究会の不屈の意思を甘く見るなら、JR北海道にとって路線問題の行方はきわめて厳しいものになるであろう。10路線13線区の中でも、とりわけ切り捨ての意思が明確な5線区に対し、JR北海道が隠蔽やごまかし、だまし討ちや脅迫を続けることで当研究会の闘う意思を挫くことができると考えているなら、重大な誤りであると改めて警告する。

 当研究会は、全国JRグループの安全とサービスを引き続き厳しく監視していく。JR北海道に対しては、これに加え、全路線維持を求めて最後まで闘い抜く決意を、この機会に改めて表明する。

2019年2月10日
安全問題研究会

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福知山線事故で強制起訴の元3社長が厚かましくも退職慰労金を受給!

2018-12-24 11:53:03 | 鉄道・公共交通/安全問題
退職慰労金、半額を支給=福知山線事故で元社長3人―JR西(時事)

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 JR西日本の来島達夫社長は19日の定例記者会見で、乗客106人が死亡した2005年のJR福知山線脱線事故を受け、支払いを留保していた元社長3人の退職慰労金について、半額を支払う決定をしたと発表した。

 取締役会の決議は18日付。

 同社によると、3人は井手正敬(83)、南谷昌二郎(77)、垣内剛(74)各氏。事故の責任を重視し、支払額を5割減額した。総額は約1億7600万円という。

 3人は業務上過失致死傷罪で強制起訴され、17年に最高裁で無罪が確定した。退職慰労金の支給対象となる役員は6人いたが、うち3人は辞退。元社長3人は受領する意向を示していた。
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このニュース、時事の記事がYahoo!ニュースに転載の形で出ているものの、時事のニュースサイトに掲載されておらず、他のメディアもインターネット上では報じていない。不安になったので、JR西日本のサイトで確認すると、以下の通り掲載されている。

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「退職慰労金制度の廃止に伴う打ち切り支給」の支払いについて(JR西日本)

 当社は、12月18日開催の取締役会において、当社元社長3名に対して、かねて支払いを留保していた「退職慰労金制度の廃止に伴う打ち切り支給」につき、支払いを行う旨を決議しましたのでお知らせいたします。

 なお、支払額については福知山線列車事故を惹き起こした企業としての責任を重く受け止め、5割の減額を行いました。

詳細

1 対象者(敬称略)
 井手 正敬
 南谷 昌二郎
 垣内 剛

2 支払予定総額
 176百万円

(参考) 「退職慰労金制度の廃止に伴う打ち切り支給」に係るこれまでの主な経緯

 ・2002年6月26日
  退職慰労金制度の廃止に伴う重任取締役への「退職慰労金の打ち切り支給」を株主総会・取締役会を経て決定する。同取締役会にて「支払時期における会社の業績等諸般の事情により、取締役会の決議をもって相当額の減額をすることができる」と決定する。

 ・2005年4月25日
  当社が福知山線列車事故を惹き起こす。

 ・2005年6月以降
  対象役員の退任に際し退職慰労金の支払留保を決定・継続する。

 ・2017年6月12日
  当社元社長3名に対する刑事裁判が終結する。
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要するに、(1)3社長在任中に退職慰労金制度が廃止になったが、経過措置として廃止の時点で在任中だった役員は打ち切り支給を受けられるよう会社として決定した。(2)その後、3社長在任中に福知山線脱線事故が起き、3社長含む6役員に対しては支給を一時停止していた。(3)しかし刑事裁判が終わり、全員が無罪になったので、今回、半額に減額した上で支給はする――ということだ。

刑事被告人にされなかった3人の役員が受け取りを辞退しているのに、無罪となったものの強制起訴され被告人となった3人が、自分に受け取る資格があると思っているなら厚顔無恥もここに極まれりというほかない。

支給決定をしたJR西日本も同罪だ。そもそも退職慰労金の支給は会社法361条の規定により通常は株主総会の議決事項となる。例外的に企業が定款で支給条件を定め株主総会の承認を得れば、その後は1件ごとに株主総会の議決によらなくてもよいとされるものの、企業法務に詳しい弁護士によれば、1件ごとに株主総会の議決を得て支給するのが普通で、一律に定款で定めるのはむしろ例外に近いという。「お手盛り」との批判は当然だし、そもそもJR西日本は「すでに会社を辞め、今は無関係の人間だ」との理由で、3人が強制起訴された福知山線事故の刑事訴訟を会社としては一切支援しなかった。無関係というならなぜ今回、退職慰労金の支給を決めたのか。裁判など不都合なときは無関係を装いながら、都合のよいときは元役員だからとしてカネを支払うJR西日本に対し、当研究会は納得できる説明を求める。

JR西日本が退職慰労金制度の廃止と打ち切り支給制度の導入を決めたのは、福知山線脱線事故が起きる前の2002年であり、決めた時点でこの事態を予測することは困難だったとの「言い訳」はあり得るかもしれない。しかしこの年、JR西日本では福知山線脱線事故の「予兆」とも言えるような「救急隊員ひき殺し事故」が起きており、どちらにしてもこうした事故が連続的に発生していた責任を当時の役員たちは負うべきだ。救急隊員ひき殺し事故の時点で自社の安全体制を適切に見直していれば、福知山線事故はなかったかもしれないからである。井手、南谷、垣内の元社長は、この退職慰労金で事故犠牲者への「個人賠償」を行ってはどうか。

年末のどさくさに紛れてこっそりとこんなことを決め、自社のホームページ上だけでこっそり公表して「情報公開も果たした」とうそぶくJR西日本を当研究会は決して許さないし、やはりこの会社とは闘い続けるしかない。はっきり言おう。新幹線での台車亀裂事故や、人をはね殺しても新幹線の運転を続けるようなあり得ない事故が昨年末から相次いでいるのも、こうした腐った企業体質が何ら改まっていないからだ。

もうひとつ、重要なことを指摘しておきたいが、現在、この事故の後を追うように、検察審査会の議決によって強制起訴となった福島第1原発事故の刑事裁判が行われている。裁判は、今週26~27日に検察官役の指定弁護士による論告求刑が行われることになっており、当研究会も傍聴する予定になっている。もしこの裁判で勝俣恒久元社長ら3役員の「無罪放免」を許せば、いずれ東京電力でも同じようなことが起きるだろう。東京電力の刑事裁判で有罪を勝ち取ることの重要性は、今回の件でますます高まったと言わなければならない。

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JR北海道「レール検査データ改ざん裁判」が結審 傍聴して浮かんだ「重大疑惑」/安全問題研究会

2018-11-28 23:00:11 | 鉄道・公共交通/安全問題
JR北、2月6日判決=検査データ改ざん結審―札幌簡裁(時事)

11月27日午後、休暇を取って、私は札幌地裁802号法廷の前に並んでいた。今日、この法廷で行われる被告弁護側の最終弁論をもって1つの裁判が結審を迎える。JR北海道で起きたレール検査データ改ざん事件の刑事裁判だ。

5年も前の出来事なので、もう一度、経緯を見ておこう。2013年9月19日、JR函館本線大沼駅付近を走行中の貨物列車のうち貨車4両が脱線する事故があった。この事故の1年前(2012年10月)の検査で、事故現場ではレールの幅(JRの在来線の場合、通常は1067mm)が20mmも広がっており、JRもそれを確認しながら放置していた。19mm以上のレールの広がりは15日以内に補修する社内規則がありながら、人手不足のため放置されていたのだ。

この事故では、運輸安全委員会が委員を派遣して事故調査を実施。その過程で「本物」のレール検査数値を記載した紙の台帳をこっそり破棄し、パソコン上のデータに転記する際に検査数値を「補正」した台帳を提出したとされる。JR北海道保線担当社員らのこうした行為が鉄道事業法及び運輸安全委員会設置法違反(虚偽報告)に当たるとして、北海道警が強制捜査に踏み切る。2016年2月、当時の保線担当幹部3人のほか、両法の「両罰規定」(個人と併せて犯罪行為を指示した法人の処罰を認める規定)に基づいて、法人としてのJR北海道も起訴され、刑事裁判が続いてきた。前回、9月27日の論告求刑公判で、検察側が法人としてのJR北海道に罰金100万円を、また保線幹部3人に罰金20~40万円を求刑。今回、被告弁護側の最終弁論で結審することになったのである。

今回は結審ということで、ひときわ注目されたようで、普段より大きい札幌地裁802号法廷が使われたが、事件自体は札幌簡裁に係属している(罰金額140万円以下の事件は簡裁でも取り扱うことができるとする裁判所法の規定による)。13時40分過ぎ、メディアによる法廷内の代表撮影の後、13時45分に開廷、3被告のほか島田修JR北海道社長も入廷する。2016年11月にJR北海道が「単独では維持困難」とする10路線13線区を公表して以降、ローカル線廃止問題をめぐって、安全問題研究会はJR北海道と激しいせめぎ合いを続けている。私は、入廷する島田社長を思わず睨み付けた。

裁判は闘いである。刑事、民事を問わず、どちらの陣営も自分たちに有利な証拠や事実は積極的に援用し、不利な証拠や事実は黙殺し、自分たちに有利なストーリーを作り上げる。この裁判を傍聴するのは今回が初めてであり、前回の論告求刑を傍聴していない私には、検察側が有罪へ向けどんな筋道を立てたのか知ることはできない。しかし、今日の最終弁論を傍聴した限りでは、弁護側主張には筋が通っており、ストーリーに破たんはないように思えた。

今日の法廷で明らかになった驚くべき事実がいくつかある。JR北海道では、軌道変位(線路のズレ)を計測するため、可搬式軌道変位計測装置(トラックマスター、略称トラマス)を使っているが、トラマスは万能ではないとわかったことだ。測定ピッチが0.5m単位とおおざっぱなことに加え、測定位置等のズレなどもしばしば起き得るとされる。「測定ミスで2回測ったこともある」と証言する社員もいたことも明らかにされた。民営化以降のJR各社は、現場の人減らしを機械化で補っているから安全性は低下しないとして、人員削減を正当化してきた。しかし、その機械化がこんな状態では現場力が低下するのは当然だ。「人手不足で目の前の仕事に追われ、極度の繁忙状態。軌道変位の数値をじっくり確認する余裕はなかった」と人減らし合理化による現場疲弊を訴える証言もあった。

しかし、それすらも大した問題ではないと思い知らされる重大証言が飛び出す。トラマスに入力されているデータがそもそもデタラメだったことだ。最悪の例で言えば、曲線半径が230mのところ、400mとデータ登録されている場所もあったという(この「400m」という数字に私はピンときたが、それについては後述する)。「もっと半径が小さいのではないか」「もっとあのカーブはきついはず」という会話が保線担当社員の間で交わされていたという重大証言も飛び出した。被告弁護側は保線担当社員らのこうした感覚を「保線実務家としては自然な認識」であると主張。「被告らの取った行為が改ざんであるならば、改ざん後の検査数値が客観的に見て説明できないものであることを検察側が立証できなければならないが、そうなっていない。被告らは一貫して、検査数値に正されるべき誤りがあったとの認識の下、改ざんではなく誤った数値の訂正を行ったものである」として3被告全員に無罪を求めた。

弁護側はこの他、3被告が「通り変位」数値に一貫して関心を抱かなかったとする検察側の有罪立証を崩すための主張を繰り広げた。この脱線事故の原因のひとつが、レール幅が広がる「軌間変位」であったことは運輸安全委員会の事故報告書(2015年1月公表)でも指摘されているが、弁護側は「事故現場で車輪が線路内側に落ちるなどの状況から、3被告が軌間変位脱線を疑っていた以上、保線実務家の感覚として通り変位数値に関心を失うことに不自然はない」とした。「通り変位」とは、2本のレールが同じ方向、同じ幅で揃ってずれることである(弁護側は主張していないが、カーブでの遠心力は速度の2乗に比例し、その遠心力がカントで吸収しきれなかった場合、そこから発生した横圧はカーブ外側に向かって働くから、通常「通り変位」はカーブ外側に向けて発生する)。保線がきちんと行き届き、犬釘などの「締結装置」に不具合がない限り、レールは枕木にしっかりと固定されているから、列車の遠心力による横圧があったとしても、それは2本のレールが揃って動く「通り変位」になる。逆に、軌間変位は締結装置に不具合があった場合に発生する。3被告が現場の状況から脱線原因として軌間変位を疑ったことによって、通り変位ではないと判断し、それへの関心を失ったとしても何らおかしくないとして、それを根拠に有罪とした検察側に反論したわけだ。

<参考>
運輸安全委員会事故報告書
運輸安全委員会事故報告書説明資料

この日の最終弁論はおおむねこのような内容だった。もちろん裁判ではいずれの陣営も自分たちに有利な事実や証拠のみに依拠して闘う。不利な事実や証拠をあえて採用することは通常はないであろう。運輸安全委員会の報告書とこの日の最終弁論内容を見比べて、通り変位が今回の事故原因と完全に無関係だったとまで言い切れるかどうかなど、思うところはある(運輸安全委員会報告書は通り変位も事故原因のひとつとしている)。だが刑事裁判は原則「疑わしきは被告人の利益に」であるから、弁護側は白であることを立証できなくとも、検察側が黒としたものをグレーに変えられるだけで無罪を勝ち取れる可能性は飛躍的に高まる。この日のストーリーの組み立てとしてはまずまずの出来であり、裁判官がまともな人物なら判決の行方は五分五分との印象を持った。

さて、ここで重大な疑問がいくつか私の頭の中に浮かんだ。その中でも最も重大なのは、曲線半径が230mのところ、台帳に400mと入力データ登録されている場所もあったとの証言である。カーブの半径は前述した「通り変位」発生によって変わることがある。だがこれほど大きな曲線半径の相違は軌道変位による変化をはるかに超えているし、そもそも通り変位はカーブ外側に向かって発生するものだから曲線半径が小さくなる方向に作用することはあっても逆はあり得ないからである。保線担当社員の間でもそのおかしさは認識されていたという。もしこの証言が事実なら、JR北海道は会社ぐるみで本当は曲線半径230mのところを、400mと偽ったデータを基に保線作業をさせていたことになる。そして、保線担当社員たちもとっくにそのことを知っていて、むしろ400mという偽りの曲線半径に基づいた検査データを記録すれば事故が起きかねないから、それをこっそり本来の数値――230mの曲線半径に基づいた数値に「訂正」「補正」していたのではないかと考えられる。つまり、実際起きていた事態は巷間伝えられている「現場社員によるレール検査データ改ざん」とは真逆であり、むしろ「会社にウソの検査データを記載するよう強要されていた現場社員が、事故防止のためこっそり数値を正しいものに「補正」していたのではないかということなのだ。だとすれば、3被告はスケープゴートであり、処罰されるべきは法人としてのJR北海道だけでいいということになる。

2つ目の疑問は、そもそもこれらの証言が事実であるとして、なぜJR北海道がそのような偽り(それも、保線担当社員なら誰でも気付くような見え透いた偽り)に手を染めなければならなかったのかということである。この答えを見つけることはそれほど困難ではない。JR北海道の経営危機の深刻化を受けて社内に設置された「JR北海道再生推進会議」の第2回会議(2014年7月3日開催)で、JR北海道がこのように告白しているからである。「……高速道路網の道内整備計画に対抗するため、限られた財源を都市間高速事業に重点配分したこと等により、結果的に今日の老朽設備の更新不足を招くこととなった」。安全投資を犠牲にして、列車高速化を優先したとJR北海道みずから認めているのだ。

<参考>
JR北海道再生推進会議議事概要
うち第2回

2011年に石勝線トンネル内での特急列車火災事故が起きるまでの間、JR北海道が高速バスや飛行機に対抗するため、ひたすらスピードアップを目指していた時期があった。だからといってJR北海道が列車の大幅スピードアップを可能にするような大規模な線形改良工事を行った形跡はない。第一、半径230mのカーブを400mにするような大規模な線形改良工事であれば新たな用地取得などが必要になり施工は容易ではない。それに、本当に線形改良工事をしていたのであれば、保線担当社員から「もっと半径が小さいのではないか」「もっとあのカーブはきついはず」などという声が上がることなどあり得ないはずである。

あり得ない可能性を1つ1つ、消していくと、最後まで消えずに残るものがある。それは考え得る限りで最悪の選択肢である。今では廃止されてしまったが、脱線事故の起きた函館本線の線路建設当時には生きていた「普通鉄道構造規則」では、曲線半径400mでの制限速度は90~110km/hであるのに対し、曲線半径250mでは70~90km/h。曲線半径160mでは最高速度は70km/h以下に制限される。「230mのカーブなら最高速度を70km/hに抑えなければならないが、400mと偽れば速度制限を90km/hにまで緩和できる」――JR北海道上層部がスピードアップ実現のためそう考えたのではないかという、背筋も凍るような最悪の選択肢が、消えずに最後まで残ったのである。

2013年頃から、JR北海道各線で貨物列車を中心に脱線事故が相次いだ。私はなぜJR北海道でだけ次々と脱線事故が続くのか、理由が全くわからなかった。だが、本当は半径230mのカーブに対し、半径400mのカーブに対する速度制限が適用されていたと考えれば、脱線事故が続くのも当然で、辻褄が合う。まず初めに会社側が「金をかけずにスピードアップ」を実現するため、手っ取り早い方法として曲線半径を「改ざん」。それに合わせる形で故意に誤った検査基準値、軌道変位数値を台帳に記載することが日常化、それを知りつつ会社に逆らえなかった現場が事故防止のため必死で本来のレール検査数値に「補正」を続けてきたが、ついにそれが破たん。人手不足で多忙を極め、追い詰められた現場状況も重なって破局に至った――今回の裁判傍聴を通じて私の頭の中に浮かび上がった恐るべきストーリーである。このストーリーがウソであると、今後の裁判の中で明らかにされることを願っている。

「今回の事故を厳粛、重大に受け止めるとともに、利用者のみなさまにご迷惑とご心配をおかけしたことに対し深くお詫びいたします。JR北海道として、処罰を受けることに異存ありません。安全に必要な経費を削ったマネジメントに問題があったと認識しており、今後は事業再建に取り組みたいと思います」

「これにて結審としますが、裁判所に対して何か言いたいことはありますか」との結城真一郎裁判官の問いかけに、島田社長はこう謝罪した。3被告から発言はなかった。注目の判決は、2019年2月6日(水)午前10時から、札幌地裁805号法廷で言い渡される。

(文責:黒鉄好)

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33年迎えた日航機事故 原因めぐって新たな動きも……

2018-08-12 20:49:17 | 鉄道・公共交通/安全問題
墓標そばの木、夫婦は赤パーカ着せた 日航機乗った息子(朝日)

墜落事故で失った娘へ 完成まで15年、千羽鶴を2人に(朝日)

単独機の事故としては史上最悪の520名が死亡した日航123便墜落事故から33年を迎えた御巣鷹では、例年通り多くの遺族に加え、他の事故や災害で犠牲になった人の遺族も慰霊登山をした。東日本大震災による津波で息子さんを亡くした七十七銀行女川支店員の遺族も4度目の慰霊登山だ(参考記事)。時を超え、場所を超え、災害や事故など「企業による過失犯罪」の犠牲となった人の関係者の多くを引き付ける「磁場」として、御巣鷹は今年も健在だ。

安全問題研究会は、昨年8月12日にも現地を訪れたが、遺族以外は事故当日の慰霊登山を遠慮してほしいと言われ、入山は断念している(関係記事)。これだけ多くの人がこの事故のことを思い、考え、行動している事実を目の当たりにした当研究会は、この事故に関する限り、みずからの役割は事実上終わったと判断し、慰霊登山は今後しばらくは行わない考えでいる。次に行うのは、早くても節目の35周年か40周年のいずれかになるだろう。

その一方、ここ数年で新たな動きが出てきている分野もある。この事故の原因に関してである。事故20年を過ぎた2005年に、何者かの手によって持ち出されたボイスレコーダーの音声が流出し、メディアで流されたのを境として、原因究明の動きには一区切りがついたと思われた。2000年代後半からしばらくの間、この事故に関する本の出版などが下火になった時期もある。しかし、事故29周年の2014年に「8.12日航機墜落30回目の夏~生存者が今明かす“32分間の闘い”ボイスレコーダーの“新たな声”」(関係記事)が放映されて以降、再びこの事故の原因をめぐる本の出版などが活発化した感がある。端的に言えば、事故調説(圧力隔壁破壊説)対「撃墜/無人標的機衝突説」の闘いが再び激しさを増しているのである。

「撃墜/無人標的機衝突説」を唱える本は、「疑惑 JAL123便墜落事故―このままでは520柱は瞑れない」(角田四郎・著、早稲田出版、1993年)以来、読み応えのあるものは久しく出ていなかったが、昨年7月出版された「日航123便墜落の新事実~目撃証言から真相に迫る」(青山透子・著、河出書房新社)は「撃墜説」を唱える本の中では久しぶりに読み応えのある内容だった。当ブログ管理人が現在、読み進めている本は「日航機123便墜落 最後の証言」(堀越豊裕・著、平凡社新書)だが、こちらは事故調の圧力隔壁説をベースとし、青山説への反論を試みながらも撃墜説を「一笑に付せない」と結局、否定しきれずに終わっている。これらの本については、久しぶりに読後、書評を書いてみようと思っている。当ブログの事故原因に関する最新の見解も、併せて公表できるだろう。

当ブログのおすすめ番組 ボイスレコーダー~残された声の記録~ジャンボ機墜落20年目の真実(2005年放送,TBS)

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【訃報】信楽高原鉄道事故遺族会代表世話人、吉崎俊三さん死去

2018-05-05 13:00:41 | 鉄道・公共交通/安全問題
信楽高原鉄道事故遺族の吉崎俊三さんが死去(神戸)

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 信楽高原鉄道事故の遺族で、民間機関「鉄道安全推進会議(TASK)」の会長を長年担った吉崎俊三(よしざき・しゅんぞう)さんが2日午後11時23分、肺炎のため兵庫県猪名川町の病院で死去した。84歳。滋賀県浅井町(現長浜市)出身。自宅は宝塚市中山桜台1の4の8。通夜は3日午後7時から、葬儀・告別式は4日午後1時半から、いずれも宝塚市売布東の町15の14、宝塚平安祭典会館で。喪主は長女の溝口恵美子(みぞぐち・えみこ)さん。

 1991年5月、滋賀県信楽町(現甲賀市)で信楽高原鉄道とJR西日本の列車が正面衝突する事故が発生。吉崎さんの妻佐代子さん=当時(53)=ら42人が犠牲になった。

 事故2カ月後に遺族会を立ち上げ、代表世話人として対応に尽力。93年8月には、ほかの遺族らとTASKを結成し、2005年から9年間にわたって代表を務めた。

 鉄道事故を対象にした調査機関の必要性を国に訴え、01年、国土交通省の航空・鉄道事故調査委員会(現運輸安全委)設置が実現。日航ジャンボ機墜落事故(1985年)や明石歩道橋事故(01年)、尼崎JR脱線事故(05年)の遺族らと連携して、被害者支援の充実を求め、国の体制強化にも尽くした。
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1991年5月に起きた信楽高原鉄道事故(死者42人)で、遺族会の代表世話人として遺族を取りまとめ、その後もTASK(鉄道安全推進会議)を立ち上げるなど、公共交通事故の被害者救済と事故原因究明の両面から意欲的、献身的に活動してきた吉崎俊三さんが亡くなった。80歳を過ぎる頃から、高齢のため体調がすぐれず、ここ数年はJR福知山線脱線事故など他の事故関係で開かれる集会などにもほとんど出席できない状況だということは、福知山線事故遺族の藤崎光子さんを通じて、何度か耳にしていた。

吉崎さんの功績は、上の神戸新聞の記事にある通りであり、改めて繰り返さないが、神戸新聞が触れていない点をいくつか補足しておくと、旧運輸省にはそれまで、船舶の事故を調査する海難審判庁と航空機事故を調査する航空機事故調査委員会があるだけだった。公共交通機関の事故調査や原因究明には専門的な知識と大規模な調査体制が必要であるにもかかわらず、陸上交通機関の事故を調査する常設の機関はなかったのである。

航空機事故調査委員会を航空・鉄道事故調査委員会に改める法改正が、ようやく国会で実現したのは2001年10月のこと。吉崎さんが、最愛の妻を失ってから10年が経過していた。その後、海難審判庁を統合して、航空・鉄道事故調査委員会が運輸安全委員会に改組されたのは2008年10月。国家行政組織法第3条に基づき、より独立性の高いとされる「3条委員会」となった(3条委員会には、他に公正取引委員会(内閣府に設置)や原子力規制委員会(環境省に設置)などがあるが、特に原子力規制委員会が独立性を維持できているかどうかについては、別の機会に改めて触れたい)。

3条委員会の組織形態になっても、運輸安全委員会は国土交通省の外局に位置づけられている。独立性が高いとはいえ、国土交通省と運輸安全委員会事務局との間で人事異動による官僚の行き来が繰り返され、その影響もあって鉄道会社への勧告はしても国の鉄道安全対策への勧告や提言は行えないなど、完全独立機関でないことの弊害は大きく、その是正は今後の課題だ。

しかし、航空・鉄道事故調査委員会への改編によって、鉄道事故や重大インシデントが発生した際、直ちに調査官を現地に派遣することができるようになったのも、吉崎さんたちの活動が実ったからである。事故や重大インシデント発生の都度、調査委員会を立ち上げて調査官を任命・派遣し、調査が終わったら解散するという体制に比べ、より機動的に調査ができるようになったことはもちろんである。吉崎さんのこの功績は、いくら強調してもしすぎることはない。

信楽高原鉄道事故は、JR発足後、2桁の死者を出す初めての大事故であり、安全問題研究会にとっても活動の原点となった事故のひとつである。安全問題研究会は、吉崎さん死去にあたり、謹んで哀悼の意を表する。


<関連写真>(撮影はいずれも2008年11月2日、安全問題研究会)

写真1 TASKの活動を伝えるパネル(信楽駅)


写真2 TASKの要望を受けて製造された信楽高原鉄道車両の紹介パネル(信楽駅)


写真3 小野谷信号場跡(事故後廃止)ここの信号設計ミスが事故原因とされる


写真4 信楽高原鉄道の始発(終着)駅、貴生川駅構内に国鉄マンが建てた安全の碑 JR西日本はこの鉄道マンの誓いも裏切った


写真5 事故後、信楽町は「鉄道安全の町」を宣言した

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昨年から続く鉄道トラブル「異常事態」 ついに運輸安全委員会も指摘 JR北海道ローカル線問題と同じ背景?

2018-02-05 23:00:32 | 鉄道・公共交通/安全問題
すでに報道から半月近く経過しているが、当ブログ・安全問題研究会にとってはきわめて重要な内容だと思うので取り上げることにする。なお、リンクはすでに切れており、NHKのニュースには飛べないのでご了承いただきたい。当ブログの知る限りでは、全国ニュースで取り上げたのはNHKだけのようだ。

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運輸安全委 地方鉄道の脱線事故の背景について異例の指摘(NHK)

1月25日 17時47分

去年、和歌山県の紀州鉄道と熊本県の熊本電鉄の列車が相次いで脱線したことを受け、国の運輸安全委員会は調査報告書で、地方鉄道に共通する課題として、事業が小規模なため技術力の維持、向上が困難になっていると、事故の背景について異例の指摘を行いました。

去年1月に和歌山県の紀州鉄道で、2月には熊本県の熊本電鉄で、相次いで列車が脱線し、国の運輸安全委員会は25⽇、それぞれの調査報告書を公表しました。それによりますと、いずれもレールの幅が広がったことが原因と考えられ、枕木の腐食やレールと枕木の固定が不十分だったことなどで広がった可能性があるとしています。

紀州鉄道と熊本電鉄は、いずれも社内規定に基づいて線路の点検を行っていましたが、脱線の危険性などを十分に把握できていなかった可能性があると指摘しています。

これについて、運輸安全委員会は、地方鉄道に共通する課題として、事業が小規模なため技術力の維持、向上が困難になっていると、事故の背景について異例の指摘を行いました。そのうえで、運輸安全委員会は、社員教育の充実や木製の枕木をメンテナンスが簡単なコンクリート製のものに交換することなど、対策の実施を求めました。
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2017年1月に紀州鉄道で起きた脱線事故、2月に熊本電鉄で起きた脱線事故について、去る1月25日に運輸安全委員会から事故調査報告書が公表された。報告書は紀州鉄道熊本電鉄それぞれをご覧いただきたいが、とりわけNHKが注目したのは紀州鉄道の事故報告書だ。PDF版の事故報告書の31ページ(PDFファイルのページでは48ページ中39ページ)に「軌道の整備(保線)体制」として、確かに以下のように記述されている。

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 地方鉄道に共通する課題として、鉄道事業が小規模であるために、組織として軌道整備に関する技術力の維持、向上させることが困難な状況であることが考えられ、同社〔紀州鉄道〕においてはそのような状況が継続していた可能性があると考えられる。

 このため、……(中略)……脱線事故につながる危険性を同社が十分に把握しておらず、安全上問題ないものと判断した可能性があり、それに応じた軌道整備が速やかに行われなかったことが本事故の発生に関与した可能性があると考えられる。

 技術力を維持、向上させる又はその不足を補うためには、保線業務に従事する社員に対し、社内及び社外の研修等の社員教育を実施することや、外部から適任者を増員することが有効であると考えられる。

 また、即効性、確実性を考えると、木まくらぎに比べ耐久性に優れ、容易な保守が可能であるコンクリート製まくらぎに交換(数本に1本程度の割合で置き換える部分交換を含む。)していくこと等ハード対策も検討することが望ましい。
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事故調査報告の中でこのような意見を表明すること自体はもちろん好ましいが、一方で運輸安全委員会には国や自治体の地方私鉄支援に道を開くような政策や財源についての提言も併せて行ってほしかった。地方私鉄にただ体制整備のための自助努力を求めるだけでは、かつて多くの地方私鉄がたどったような「安全が維持できない→廃止」という流れがいっそう強まることになりかねない。何しろ今やJR北海道ですら「石勝線列車火災事故(2011年5月)をきっかけに安全投資が滞り今日の事態を招いた。安全を維持しながら全路線を維持することは困難だ」として維持困難線区の廃線や地元負担に向けた協議を呼びかけているくらいなのだ。

鉄道以外の公共交通にはある程度(全額とまでは行かなくても、航空会社や海運会社がそれなら何とか運行を維持していこうかと思える程度)には安全維持のための補助制度が設けられている。この面でも鉄道だけそうした財源措置が乏しい状況にある。地方中小私鉄に限った話ではない。東急田園都市線の渋谷地下線区間で昨年から相次ぐ電気系統トラブルは、大都市鉄道でも安全投資が事業者任せのまま放置されていることの表れである(同じNHKが昨年12月にも「鉄道トラブルが相次ぐ3つの理由」としてこの問題を取り上げている)。大手私鉄、地方中小私鉄問わず続いている安全トラブルと、ローカル線廃止問題はどちらも「鉄道だけ国や自治体の関与、支援が少なすぎる」という点で根本的に同じなのだ。

当ブログと安全問題研究会は、先日公表した「こんなにおかしい!ニッポンの鉄道政策」リーフレットで示したように、他の公共交通と比べて鉄道にだけ国の支援が手薄であることに根本的な疑問を持っている。鉄道への国の支援がせめて他の公共交通並みになるよう、引き続き求めていきたいと考えている。

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