先週の土曜日に行われた「はこぶねクラブ」のクリスマス会で行った紙芝居「羊のヨハナン」を紹介します。この童話は、わたしが7年前に書いたもので、かつて教会学校でペープサートにして子どもたちに披露しました。
今回は紙芝居で、ヨハナンとエルダじいさんの声を40代の牧師先生が、ルシアとベナヤさんを60代壮年の方が声を出してくださいました。わたしはナレーションとその他です。
羊のヨハナン
土筆文香
むかしイスラエルにベナヤという羊飼いの若者がいて、百二匹の羊を飼っていました。 ベナヤは羊にヨハナン、ニコル、ルシアという人間のような名前をつけて、とてもかわいがっていました。
ヨハナンは灰色のまるまると太った羊です。ヨハナンは、ご主人のベナヤさんのことが大好きでした。
ベナヤさんは、羊のところに来て口笛をふきました。きょうは丘の上までいくのです。
ベナヤさんは、囲いの戸を開けると、いつものように自分のそばにいちばん小さなルシアを連れてきました。ルシアは体が弱く病気ばかりしていたので、小さくてやせています。
ベナヤさんとルシアが並んで歩き、その後ろからヨハナンを先頭に百匹の羊たちがぞろぞろと続いて出かけました。
ヨハナンは、ベナヤさんと並んで歩きたいのに、いつもルシアがベナヤさんのそばにいて横にいくことができません。
「ベナヤさんは、ぼくなんかよりルシアのことが好きなんだ。あんなにかわいがっているもの」
ヨハナンは、ルシアのことを気づかいながら歩くベナヤさんの後ろすがたを見てつぶやきました。
緑の草がところどころに生えているなだらかな丘につくと、羊たちは散らばって草を食べはじめました。ベナヤさんは、いねむりをしています。
食いしんぼうのヨハナンは、まっ先に草の青々としげったところにかけていきました。 口いっぱいに草をほおばって、ふと前を見ると、すぐそばにルシアがきていました。
「ルシア、ここの草は食べちゃだめだよ」
ヨハナンは、ベナヤさんがねむっているのをたしかめてから、ルシアにいいました。
「ぼくが先に見つけたんだからな。あっちへいけよ」
ヨハナンは鼻先でルシアをつつきました。 ルシアはおびえたような目をして、ベナヤさんの方へいくと、その横で丸くなりました。
「ルシアのやつ、ベナヤさんのそばにばっかりいって! ルシアさえいなければ、ぼくがいちばんにかわいがってもらえるのに……」
ヨハナンは鼻息をあらくつぶやきました。 おなかがいっぱいになると、ヨハナンは丘のてっぺんまで上ってみました。石ころだらけの谷があり、その向こうに山がそびえています。
(あの山の上までいったら、ルシアのやつ、ひとりでもどってこれないだろうな。よし、ルシアを少しこまらせてやろう)
ヨハナンが丘を下っていくと、ベナヤさんはまだねむっていました。
「ルシア、さっきはごめんよ。とびきりおいしい草があるから、いっしょに食べにいこう」
ヨハナンは、ベナヤさんを起こさないようにルシアの耳元でささやきました。
「おいしい草って、どこに生えているの?」
「いいから、後についておいでよ」
ヨハナンは、ルシアを丘のてっぺんまで連れていきました。
「あの向こうの山に、おいしい草がたくさん生えているんだよ。ここをすべりおりよう」
「待って。そんなに遠くへいったら、ベナヤさんがしんぱいするわ」
ルシアは、ぶどうのような目でヨハナンをじっと見つめました。
ヨハナンは、
「だいじょうぶ。ベナヤさんが、目をさますまでにもどるから。さあ、おしりですべってごらん。楽しいよ」
と、ズズーッと谷をすべりおりていきました。 ルシアは、少しためらってから、ヨハナンの後に続きました。
「こんどは、坂道をのぼっていこう」
谷から山に向かって坂道が続いていました。
「ねえ、ヨハナン。わたし、つかれちゃった」
ルシアは、息をきらしていいました。
「じゃあ、ぼくがおしりをおしてあげるよ」
ヨハナンは、ルシアの後ろに回ると、頭でおしりをぐいっとおしました。
「ありがとう。ヨハナンってやさしいのね」
「てっぺんに着けば、おいしい草が食べられるんだ」
ヨハナンは、ルシアを頭で持ち上げるようにして坂を上りました。なかなか頂上に着きません。ヨハナンもつかれてきました。
道のわきにいばらのやぶがありました。ヨハナンは、いいことを思いつきました。
「このやぶの向こうにとびきりおいしい草があるんだ。この下をくぐっていけたら、上までのぼらなくていいんだけど……ぼくは太っているから、とてもくぐれないなあ」
「それなら、わたしがいって取ってくるわ。わたしなら細いからだいじょうぶよ。口いっぱいに草をつんで持ってくるわ」
ルシアは、目をかがやかせていいました。ヨハナンは、ちくりとむねがいたみました。
つづく