久々に創作童話を掲載します。
原稿用紙7枚の作品を2回にわたって連載します。
感想を聞かせてくださると嬉しいです。
笑い上戸(その1)
土筆文香
アーハッハ イーヒッツヒ ウーフッフ
今朝も五年三組の教室は笑い声にあふれていた。さやかはハンカチで涙を拭きながら、おなかをかかえて笑っている。
「何がそんなにおかしいんだよ?」
遅れて登校してきた亜佐美が、さめた目でさやかをみた。
「えっと、何がおかしかったんだっけ……忘れちゃった。アーハハハハ」
さやかは忘れたことがおもしろくて、また笑った。亜佐美はあきれながらも自然に顔がほころんでくるのを感じた。
さやかは一日に何回大笑いするんだろう。鉛筆が転がっただけで笑うのだからおめでたい性格だ。きっと何の悩みもないんだろうな。
亜佐美はいつも怒っていた。何をしていても両親から「勉強は?」といわれる。いい返せば「いいかげんにしなさい」としかられる。ちっとも話を聞いてもらえないのでふてくされ、まるで心に棘が生えたようになってしまった。
秋の学芸会で三組は劇をすることになった。
脚本は作家志望の棚橋さんが書いた『ジャックと笑う王女さま』笑い上戸の王女が主人公で、王女の笑いを止めた男が王女と結婚できるというストーリーだ。
亜佐美は、笑い上戸の役にさやかを推薦し、クラス全員が賛成した。
「それでは、王女の役は柿本さやかさんに決定しました。柿本さん、いいでしょうか」
学級委員の中本君がいった。
また大笑いするだろうと、亜佐美は隣の席のさやかを横目でみていた。さやかは笑わなかった。こわばった顔で返事もせずにじっと机の角をみている。こんな顔のさやかをみたのははじめてだ。
「返事しなよ。さやかにぴったりの役だよ」
亜佐美がささやくと、さやかは口を一文字に結んで首を横にふった。
「どうする、大木亜佐美。柿本がやらないなら、お前やれよ」
「何であたしがぁ。じょうだんじゃない」
亜佐美はげんこつで机をたたいた。
「推薦したんだから、責任持てよ」
中本君がいうと、
「そうだ、そうだ。柿本がやらないんだったら、大木がやればいい」と声が上がった。
「それでは、主役は大木さんがいいと思う人」
いっせいに手が挙がった。
「多数決で主役は大木さんに決まりました」
「多数決で決めるなんて、反対」
亜佐美が中本君をにらんだ。
「やりたくないんなら、柿本を説得しろよ」
中本君がいうと、また「そうだ、そうだ」の声が上がる。
「みんなもそう言ってるから、決定します」
大勢の人の意見が正しいとは限らないのに何でも多数決で決めるやり方に亜佐美は腹を立てた。
こうなったら何としてもさやかに主役をやってもらうしかない。
次の日、亜佐美はさやか顔をみて驚いた。唇がへの字になっている。笑ってないときでも、いつも微笑んでいたのに……。
「さやか、劇に出たら学校中の人気者だろ」
亜佐美は一生懸命さやかをおだてた。
「さやかほどいい笑い方をするヤツはいないよ。いつもつられて笑っちゃうし」
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今朝も五年三組の教室は笑い声にあふれていた。さやかはハンカチで涙を拭きながら、おなかをかかえて笑っている。
「何がそんなにおかしいんだよ?」
遅れて登校してきた亜佐美が、さめた目でさやかをみた。
「えっと、何がおかしかったんだっけ……忘れちゃった。アーハハハハ」
さやかは忘れたことがおもしろくて、また笑った。亜佐美はあきれながらも自然に顔がほころんでくるのを感じた。
さやかは一日に何回大笑いするんだろう。鉛筆が転がっただけで笑うのだからおめでたい性格だ。きっと何の悩みもないんだろうな。
亜佐美はいつも怒っていた。何をしていても両親から「勉強は?」といわれる。いい返せば「いいかげんにしなさい」としかられる。ちっとも話を聞いてもらえないのでふてくされ、まるで心に棘が生えたようになってしまった。
秋の学芸会で三組は劇をすることになった。
脚本は作家志望の棚橋さんが書いた『ジャックと笑う王女さま』笑い上戸の王女が主人公で、王女の笑いを止めた男が王女と結婚できるというストーリーだ。
亜佐美は、笑い上戸の役にさやかを推薦し、クラス全員が賛成した。
「それでは、王女の役は柿本さやかさんに決定しました。柿本さん、いいでしょうか」
学級委員の中本君がいった。
また大笑いするだろうと、亜佐美は隣の席のさやかを横目でみていた。さやかは笑わなかった。こわばった顔で返事もせずにじっと机の角をみている。こんな顔のさやかをみたのははじめてだ。
「返事しなよ。さやかにぴったりの役だよ」
亜佐美がささやくと、さやかは口を一文字に結んで首を横にふった。
「どうする、大木亜佐美。柿本がやらないなら、お前やれよ」
「何であたしがぁ。じょうだんじゃない」
亜佐美はげんこつで机をたたいた。
「推薦したんだから、責任持てよ」
中本君がいうと、
「そうだ、そうだ。柿本がやらないんだったら、大木がやればいい」と声が上がった。
「それでは、主役は大木さんがいいと思う人」
いっせいに手が挙がった。
「多数決で主役は大木さんに決まりました」
「多数決で決めるなんて、反対」
亜佐美が中本君をにらんだ。
「やりたくないんなら、柿本を説得しろよ」
中本君がいうと、また「そうだ、そうだ」の声が上がる。
「みんなもそう言ってるから、決定します」
大勢の人の意見が正しいとは限らないのに何でも多数決で決めるやり方に亜佐美は腹を立てた。
こうなったら何としてもさやかに主役をやってもらうしかない。
次の日、亜佐美はさやか顔をみて驚いた。唇がへの字になっている。笑ってないときでも、いつも微笑んでいたのに……。
「さやか、劇に出たら学校中の人気者だろ」
亜佐美は一生懸命さやかをおだてた。
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