いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

日産の新型エンジンHR12DDR

2012年07月17日 | 自動車
 日産自動車は小型車「ノート」の全面改良に伴い、新型エンジン「HR12DDR」を搭載すると発表しました。

 小型のエンジンに過給して出力を上げる手法は1980年の日産スカイライン(C210、通称ジャパン)を嚆矢として日本で流行し、日産の小型車「マーチ」にも「マーチターボ」およびルーツブロワーとターボのダブル過給エンジンを搭載した「スーパーターボ」がありました。ダブル過給エンジンを市販したのは日産がVWより先行していたのです。

 ただ、当時はガソリンエンジンの燃焼管理が未熟であり、高圧で安定して燃料供給を精密制御する直噴技術もありませんでした。従って圧縮比を見ると、標準のマーチが9.5に対してマーチターボは8.0、スーパーターボは7.7と大幅に下げています。オットーサイクルでは圧縮比すなわち膨張比なので、燃焼エネルギーをどれだけ有効に出力にできるかは、圧縮比でほぼ決まります。せっかく過給により排気エネルギーを回収しても、圧縮比を下げることで、それ以上に廃熱として捨ててしまうので、「過給すると燃費は悪化する」が常識だった時代です。

 HR12DDRは精度の高い直噴技術により、過給エンジンながら圧縮比が12.0。これは立派です。吸気バルブの遅閉じによるミラーサイクルを採用していますので、実質的な圧縮比はもっと低く、これでノッキングを回避しているのでしょう。もちろんガソリンの気化熱による冷却も効いているはずです。

 実はこのエンジン、小型車の技術的要求レベルが高いヨーロッパで販売することを目標にしているらしく、ヨーロッパ仕様は圧縮比13.0、CO2排出量95g/kmと性能が一枚上手です。これはガソリンのオクタン価の違いを反映しています。ノートは国内市場で130万円前後からの手頃な価格帯をカバーする車種なので、レギュラーガソリンが使えることが必須であり、性能を抑えざるを得なかったのです。大きさではノートに類似するVWポロはハイオク指定ですが、これは価格帯が210万円以上の輸入車だから、経済性のみに関心のある人は最初から選択肢に入れていません。

 HR12DDRはフリクションと重量を減らすために、従来の同クラスのエンジンが4気筒であったのに対して3気筒です。また最新エンジンとして普及しつつある、ダイヤモンドライクカーボン(DLC)によるコーティングなどの細かい努力も積み重ねました。かつてはベンツなどの高級車で、エンジンブロックの鋳造でアルミにシリコンを混入したシルミン合金を採用し、しかもシリコン濃度を高めにすることで硬度の高いシリコン粒子が晶出して磨耗に強いシリンダーになる、と「モーターファン」の記事にありました。さすがベンツだと思ったものですが、DLCなら耐摩耗性は更に上でしょう。

 こうした努力の結果、JC08モード燃費で25.2km/Lを達成。ハイブリッドにはやや見劣りするものの、スカイアクティブのマツダ デミオと同等の立派な数字です。過給しているだけトルクが太いので、実燃費で悪化しやすいと言われているデミオよりも良好な結果が出る可能性もあります。

 なかなか面白いエンジンですが、1.2Lながら過給のため1.5L並の出力があるのはいいとして、1.5Lエンジンより重量が重くなったというのは問題ですね。それだけ構造が複雑になったということですし、新型の四葉型ルーツブロワーとか、ナトリウム封入排気バルブとか、DLCコーティングなど、相当に贅沢なエンジンなのでコストも高いと思います。量産でコストの下がったターボは使えなかったのでしょうか?それとも、これはベースエンジンで、更にターボを追加した上級機が出ると見るべきでしょうか?
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする