いーなごや極楽日記

極楽(名古屋市名東区)に住みながら、当分悟りの開けそうにない一家の毎日を綴ります。
専門である病理学の啓蒙活動も。

レバ刺し復活考「名古屋レバ刺し処理センター(仮称)」を

2012年06月15日 | 医療、健康
 この7月1日から、食品衛生法に基づいて、生食用牛肝臓の販売が禁止されます。愛好家も多かった焼肉店でのレバ刺しが禁止されるということです。

 私は職業柄、人間の肝臓やその顕微鏡標本をしょっちゅう見ており、しかも対象が肝癌とか肝炎、肝硬変など病変のある肝臓がほとんどなので、肉屋で牛のレバーを見たところで「ああ、SOL(場所占拠性病変)も硬化もない健康な肝臓だなあ。切除からちょっと時間経ってるけど。」ぐらいしか感想が浮かばず、あまり食欲は涌きません。ただ、世の中には「サラリーマンの喜びを阻害する厚労省 新社会人よ、初任給でレバ刺しを食べなさい」みたいにレバ刺しが大好物の人はおられるし、Twitterで検索してみると、高名な棋士の
という書き込みもありました。

 厚生労働省の立場は、「牛肝臓の生食(「レバ刺し」等)に関するQ&A」に明らかです。腸管出血性大腸菌は、ごく少数でも摂食により人間に感染して腸管で増殖し、溶血性尿毒症症候群(HUS)をはじめとする重篤な症状を引き起こす可能性があるから、ということです。

 これに対して、「自己責任でレバ刺しを食べるのだから問題はない」とする反論がありますが、ごく少数の腸管出血性大腸菌が牛肝臓に感染しており、その牛に明らかな発症がない場合、その感染を察知するのは食肉のプロでもほぼ不可能です。(肝臓をすべて使ってもいいのなら、そこから腸管出血性大腸菌のプローブを使って遺伝子増幅(PCR)で検出することは可能ですが、それだと食べるところがなくなってしまいます。)このような場合、消費者の自己責任による選択に任せることは危険だと厚生労働省は判断したのでしょう。「腸管出血性大腸菌はヒトからヒトへ2次感染することもある」との記載があり、そこまで考慮すると、とても自己責任では収まらないからです。

 実は今まで提供されてきたレバ刺しも、本当に生食を想定した処理を受けているとは限らず、焼肉店でも「元々生食に対応した処理のできる施設は日本に数ヶ所しかなかったはず」「正直言って禁止でほっとしている店も多いのではないか」などと中の人から聞きました。こういうときはTwitter本当に便利です。焼肉店としても「自己責任だから生で食わせろ」と強要されて、本当に感染、発症した際には営業停止と200万円以下の罰金、下手すれば2年以下の懲役食らいますので、7月からレバ刺し食べたい人は「加熱用」として売っている生レバーを買って、自宅で食べるしかないのでは。もちろん発症したところで肉屋に責任はありません。

 そういう「捨て身」でないレバ刺し愛好家のために、塩素系の薬剤を注入して内部まで殺菌してしまえ、という手法が報道されました。実は今まででも生食にきちんと対応した処理場では、同じように塩素系の薬剤が使われていたようです。塩素と言われると残留が気になる方もおられるでしょうが、水道水も塩素系薬剤で殺菌されていますので、奇異なものではありません。より濃度の高い塩素系漂白剤を食器などに使いますが、十分な水で洗浄すれば残留は問題になりません。

 もうひとつの手が放射線による殺菌です。日本では食品に対する照射は、ジャガイモの発芽抑制ぐらいにしか使われていませんが、アメリカではアイオワ州立大学の関連サイトにまとめられているように、100年以上前から研究が続き、1990年代からは様々な食肉の殺菌に許可されています。アメリカでも照射に対する消費者の不安があるらしく、一般消費者向けのQ&Aがあります。少しご紹介しましょう。


Q:照射した食物からは放射線が出るようになるの?

A:食品照射に用いられるレベルではその心配はありません。自然界には元々あらゆる物に微量の放射性物質が混在しており、食品も例外ではありません。普通の食生活をしていれば150-200ベクレルの微量な放射性物質を毎日摂取することは避けられません。


Q:放射線を照射された食品と、放射能で汚染された食品の違いは?

A:食品照射には殺菌や発芽抑制などの明確な意図があって、正しく管理されています。化粧品やワインのコルク、食品容器、病院で使う注射器などの医療機器も、照射による殺菌の恩恵を受けているんですよ。


Q:照射によって食品が化学変化を起こして有害なことはないの?

A:食品照射に使うレベルでは、化学変化はほとんどないことがわかっています。照射により微量のブドウ糖や蟻酸、アセトアルデヒド、二酸化炭素が生じますが、いずれも食品中にわずかに含まれているものであり、照射により発生する量も特に問題になりません。


Q:既に汚染された食品に照射すると食べられるようになる?

A:それは無理。既に細菌が繁殖して細菌毒素が蓄積されたものとか、他の毒物が混入されたものに対しては照射しても無駄です。


Q:食品照射の工場で働く人は危険じゃないの?

A:一般論として、放射線関連工場に限らず、工場で働く人の危険はゼロにはなりません。危険な被ばくを避けるために放射線源は密封されており、どこかで機器の不備があったとしても、それを感知し被ばくを避けるために、何重もの安全策が施されています。


Q:食品照射施設がメルトダウンを起こして近隣の環境が汚染されることは?

A:照射に使われる設備のエネルギーレベルでは中性子が発生しません。メルトダウンに至る連鎖反応は中性子によって起きるので、照射施設でのメルトダウンは起こりえません。


Q:食品照射のコストはどの程度でしょう?

A:施設の建設に100-300万ドル必要です。大規模な食品処理施設なら、この範囲の費用は検討の範囲内になるのではないでしょうか。



 同サイトを見ると、一般消費者向けの解説の他に、研究者用に合衆国政府による11,000ページもの研究文献が公開されていますが、とても読めませんわなw
ともかく、施設は大掛かりになるのですが、建設してしまえば塩素系薬剤による消毒よりずっと簡単で恐らくコストも安く、薬剤の残留や化学反応による変性も考えなくて済むわけですから、照射で十分な殺菌が可能なら(多分大丈夫だと思います)、ずっとスマートな方法だと言えます。

 さて、ここから提案。名古屋陽子線治療センター(総事業費245億円)に多額の支出を決定した河村たかし市長に、今度はその数十分の一の予算で「名古屋レバ刺し処理センター(仮称)」を造ってもらいたい。全国の牛レバーや生食用の食肉、魚介類をまとめて照射殺菌する需要はかなり見込めるし、周囲に飲食店を誘致すれば、今まで「名古屋メシ」などというB級グルメしかなかった名古屋が、一躍食の都に変貌する手掛かりとなるでしょう。

 中京都とか首都機能移転とか言っても、東京都がタダで権限を委譲してくれるはずがないでしょう。物を言うのは中京地方の実力です。東京に負けない人口と経済力があれば、むしろ企業や官庁の方から移転してくるものだと思います。名古屋の人口が500万にでもなれば、あらゆる企業が名古屋を無視できなくなります。それにはまず産業。加えて旨いものが食べられて、全国の消費者に感謝されるのなら言うことなしじゃないですか。ぜひ「中京都」とやらを目指すための政策として考えて頂きたいと思います。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする