アブソリュート・エゴ・レビュー

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ライフ・イズ・ビューティフル

2015-01-26 23:30:18 | 映画
『ライフ・イズ・ビューティフル』 ロベルト・ベニーニ監督   ☆☆☆☆

 ブルーレイで初見。公開当時の評判やタイトルや映画のポスターなどから、典型的なヒューマニズム感動もの、家族愛ものだとずっと思っていたが、実際観るとかなりアクが強い映画で、イメージが覆った。前半はほとんど、というか完全なドタバタ・コメディである。リアリティ皆無、ほとんどコントだ。主人公グイド(ロベルト・ベニーニ)は常に早口で喋りまくり、他人になりすまして小学校の机の上でパンツ一丁で踊ったりする。前半は正直退屈で、こりゃハズレたかなと思った。ギャグもベタで全然笑えない。

 グイドが一目惚れしたドーラを追いかけ回し、めでたく結ばれるまではずっとこの調子。後半になると急に暗転し、ナチズムの影がグイド一家を覆う。グイドとドーラとまだ幼い息子ジョズエは収容所に送られる。グイドとドーラは強制労働、年老いた父親はガス室へ。一気にシリアスになる。そんな状況でグイドは、ジョズエが怖がらないよう「これはゲームなんだ。楽しいだろう」と明るく振舞い、息子をダマシ続けようとする。収容所で「ゲームだ」なんて相当無理があるが、そこはそれ、前半のドタバタ感を多少引き継ぎつつ、ずっと隠れて見つからなかったら10点、空腹を我慢したら20点、点がたまって一等賞になったら戦車がもらえる、などと言うのである。

 また息子を騙すためには自分も楽しげに振舞う必要があるので、ボロボロの小汚いベッドを見て「ほら、楽しそうだな!」、囚人服を着せられて「かっこいい服をもらったぞ!」などと喜んで見せる。超ハードな強制労働を終えて戻ってきたら「今日のゲームはすごく楽しかった! 100点もたまったぞ」。結構笑ったのは、収容所初日にドイツ兵がやってきて規則を説明する時、グイドが通訳を買って出て「ゲームのルールを説明します。点がたまったら戦車がもらえます」などとメチャメチャな通訳をするところ。こういう風に、収容所が舞台になる後半は基本シリアスだが、ユーモラスな部分もある。

 この調子でグイドは収容所で楽しげに振る舞い、息子には必死で嘘をつき、離れた場所にいるドーラに聞かせるために息子の声を所内放送したり、ジョズエにお菓子を食べさせるためにドイツ人の子供たちに紛れ込ませたりする。この映画のあらすじを読むと大抵「子供のために嘘をつく」みたいに書いてあって、どんな話かいまひとつよく分からなかったが、要するに絶えず息子を笑わせ元気づけ続ける話である。また、これは突然収容所の中で始めるのではなく、以前から街中で「ユダヤ人と犬入るべからず」という貼り紙を見て「パパ、これはどういう意味?」などとジョズエに聞かれた時、「あ~、あれはね」と口からでまかせで嘘をつき、悲惨なユダヤ人差別の現実を息子に隠してきた、その延長線上なのである。

 更にいうと、前半のドタバタ劇部分ではグイドは明るい笑顔でその場しのぎの嘘をつくテキトー男だったが、後半ではそれと同じことをまったく別の理由で必死にやり続ける、涙ぐましいほど子供思いの父親となる。いわばあの前半は壮大な前フリだったわけだ。そういう仕掛けが効いてきて、この映画の後半はなかなかユニークな感動ものとなっている。

 ナチの収容所という題材にユーモラスな演出ということで、この映画をふまじめだと批判する人がいるようだが、私はそうは思わない。もっと本質を見て欲しい。コミカルな演出があったとしても、この題材を揶揄したりユダヤ人をからかうような内容ではまったくない。根底にはこうした忌むべき行為への嘆き、異議申し立て、そして絶望的な状況にあったユダヤ人達への真摯な思いがあるのは明らかだ。また単純にシリアスな、あるいはお涙頂戴的なヒューマンタッチで描くよりも、こちらの方が表現者としての勇気が必要なはずである。

 一見軟弱な見かけとはうらはらに、実はこの映画は多くの反ナチ映画よりも骨太で、ストイックだと私は思う。もし本当に収容所に入れられたら、大抵の人間は脱走もできないし、看守に口答えもできないし、土壇場で味方が救援にも駆けつけることもないだろう。子供や妻を助けてドイツ兵と戦うなんてもちろん不可能だ。そんな中で、普通の父親が子供にしてあげられることとは、一体何だろうか? グイドが私達に見せてくれるのは、その質問に対するもっとも誠実で尊い回答ではないだろうか。

 そんなわけで、前半のドタバタとギャグはかなりイケてなかったが、全体としては良作であり、感動作の名に恥じない作品だと思う。この映画をこれから観る人は、前半で挫けて観るのを止めないように注意して下さい。



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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
お久しぶりです。 (しの)
2015-01-27 23:02:48
この映画、良いですよね。
大好きです。
ラストシーンがまた秀逸。

一見ロマンティックに見せかけて、実はかなり骨太な作品だと私も思います。
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Unknown (ego_dance)
2015-02-03 11:53:17
お久しぶりです。
確かにいい映画でした。前半と後半で随分雰囲気が変わるのに驚きましたが。終盤、あまりお涙頂戴にしないところも良かったです。
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