アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

慟哭

2008-03-21 22:21:22 | 
『慟哭』 貫井徳郎   ☆☆☆

 貫井徳郎のデビュー作を再読。

 これはあっと驚く結末がウリのミステリである。ジャンルでいうと叙述トリックものということになり、つまり作者が読者に対してトリックを仕掛けるタイプのミステリだ。ややこしい謎をあーでもないこーでもないと名探偵が推理し解き明かすというシロモノではない。だからあっと驚けるのは初読の時であって、そんなものを再読してレビューするなというご意見はもっともだ。本棚を見回していてなんとなく目についたのでつい読み返してしまったのである。

 まあかなり大胆な叙述トリックになっている。大胆過ぎて、最初から身構えている人は途中で見当がつくかも知れないが、そんなことを考えずに素直に読む私はやっぱりびっくりした。が、「驚倒する」まではいかない。「え? そーゆーことだったの?」ぐらいだ。

 構成としては警察側と犯人側の話が交互に描かれる。テーマは幼女連続殺人事件。犯人側の描写では新興宗教が徐々に重要な役割を果たすことになる。新興宗教が信者を取り込む手口なんかは面白いが、男が宗教にはまっていく過程には多少無理が見える。また志摩という怪しげな男が出てきて重要な役割を演じるのだが、扱いが尻すぼみになってしまう。それにあの沙貴という女の子は何だったんだろう。警察側は佐伯というキャリアの捜査一課長がメインで、親の七光りと陰口叩かれながら実は切れ者、という設定はなかなか良いが、性格が冷徹というか、妙に抑圧された息苦しいキャラクターなので人間的魅力には欠ける。他にもあんまりぱっとしたキャラクターが出てこないので、全体に地味だ。

 しかしまあ、この小説の特徴を一言で言うととにかく暗い。結末にまったく救いがない。どーんと突き落とされて終わりである。後味はかなり悪いと言えるだろう。まあ『慟哭』というタイトルからして嫌な話であることは充分予想できる。

 全体としては最後のどんでん返し、あっと言わせる叙述トリックを実現するためにあちこちで無理をしている印象は否めない。破綻しているとは言わないが、かなり力技を使ってある。偶然も多い。しかしあまり安直なご都合主義を感じさせないのは、やっぱりこの堅実かつ重厚な筆致の賜物だろう。そういう意味ではなかなか手堅い。警察小説が好きな人は楽しめると思う。しかしまあ、暗い。


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