アブソリュート・エゴ・レビュー

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Feats Don't Fail Me Now

2016-05-03 21:30:06 | 音楽
『Feats Don't Fail Me Now』 Little Feat   ☆☆☆☆☆

 代表作『ディキシー・チキン』に続く、リトル・フィート四枚目のアルバム。私は熱心なフィート・ファンとまではいえないのでディープには語れないが、一般には前期がニューオーリンズR&Bをベースにした比較的シンプルな南部ロック、後期がプログレやジャズの影響も入りハイブリッド化したごった煮ロックと言われていて、この『Feats Don't Fail Me Now』はプログレやジャズの影響が入り始めた頃である。とりあえず私が持っている『ディキシー・チキン』と『Feats Don't Fail Me Now』と『Last Record Album』と『Time Loves A Hero』(ライヴ盤を除く)の中では、今のところこの『Feats Don't Fail Me Now』が一番気に入っている。

 そもそも南部ロックの土臭さがそれほど好きではなかった私は『ディキシー・チキン』を聴いてその奥行きと味わいの深さに驚き、フィートを聴くようになったわけだが、曲の艶っぽさは最高ながら、演奏、特にリズムセクションにもっとスリルというか捻りが欲しい、と思うことがなきにしもあらずだった。いや、聴く人が聴けば充分スリリングな音だということは分かるが、プログレ者の私としてはまた違う意味のテンションを欲してしまうのである。そういう意味で、このアルバムではリズムがぐっと複雑になって重厚感が増し、各楽器のアンサンブルの凝り方も深化している。一方、もっと後期の『Time Loves A Hero』ではフュージョンみたいな曲までやってしまっているが、あれでは別の意味で面白くない。ウェザー・リポートの真似みたいになってしまい、リトル・フィート独特の粘っこい風味が消えている。

 その点、このアルバムは両者がちょうどいいバランスで混ぜ合わさっていて、ごった煮ロックの面目躍如だ。アマゾンの商品紹介ではこのアルバムを「風変わりななめらかさを持つ、南部風味のブルース・ロックのセクシーなパスティーシュ」と表現してあるが、これはなかなか言い得て妙である。土台はニューオーリンズ風味のブルース・ロックだが、そのまんまではなく捻ってあるので「パスティーシュ」。批評性と茶目っ気が付与されている。かつ、風変わりで、セクシーである。このアルバムの魅力をきちんと言い当てていると思う。

 なんといっても前作『ディキシー・チキン』よりリズムが複雑になり、ファンクネスが増している。リズムセクションが以前より目立っているのだ。一曲目「Rock and Roll Doctor」からその魅力全開で、私の中でこのアルバムがフェイバリットなのもこれが一曲目というのが大きい。リズムにタメがあり、力強く、ドラムとベースとギターが絡み合うことによってかっこいい曲のグルーヴを作り出している。次の「Oh, Atlanta」は比較的ストレートなノリだが、三曲目の「Skin It Back」がまた風変りだ。パーカッションも入り、やはりリズムで聴かせる。曲調も陽性ではなく微妙な陰影があって良い。中盤、ギターとオルガンが絡むあたりもクールだ。

 これもリズムが力強い「Down the Road」を挟んで、名曲「Spanish Moon」へ。もうイントロからして妖しい。リズムセクションにホーン、ギター、オルガン、と絡んできめ細かなグルーヴを作り出していく流れが実にスリリング。次の2分半ほどの短いタイトル・チューン「Feats Don't Fail Me Now」と「The Fan」もアンサンブルが面白い。「The Fan」では変拍子が使われている。そして最後は約10分の「Cold Cold Cold」「Tripe Face Boogie」のメドレー。2曲ともアルバム『セイリン・シューズ』からの曲で、私はオリジナルを聴いたことはないがここでの演奏はまったく素晴らしく、タメが効いた前半、疾走する後半という展開が実が鮮やかだ。フィートの重厚かつ色っぽいサウンドを堪能できる。

 次の『Last Record Album』はもうちょっとジャズ色が強まった路線で、これも良いのだが、個人的にはこのアルバムの方が好きな曲が多く、ゆえに現時点でのフェイバリットとなっている。リズムセクションで聴くならやっぱりフィートは後期かな。とはいえ、『ディキシー・チキン』の少しへなっとしたサウンドも捨てがたいが。



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