アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

パニックの手

2009-02-28 12:57:28 | 
『パニックの手』 ジョナサン・キャロル   ☆☆☆

 かなりマニアックな支持を集めているらしい作家ジョナサン・キャロルの短編集を読了。この人の書くものはダーク・ファンタジーと称されているようだ。前に『死者の書』という長編を読んだが、色んな人が「衝撃的」といっているわりには特に感動がなく、今となっては話の内容もほとんど覚えていない。それではというので今度は短編集にトライしてみた。短編集なら色んな傾向の作品があるはずだから、どれか引っかかってくるかも知れないと思ったのである。

 で、結果的には『死者の書』よりも良かった。マニアックな読者に支持されるのも分かる気がする。基本的に「ええっ!?」と言いたくなるような大胆な発想、予想不可能な展開、そして残酷性とブラックな味わい、これらがこの人の特徴のようだ。

 しかし最初の『フィドルヘッド氏』を読んだ時は「こりゃ失敗した」と思った。オチがある短篇なのである。想像上の友人が具象化するというアイデアは面白いが、展開が昔のSFみたいだ。この作品を最初に持ってきたのは失敗だと思う。もし立ち読みでこれだけ読んでたら興味を失っていただろう。次の『おやおや町』は長い作品で、かなりユニークだ。なるほど、これがジョナサン・キャロルの本領なのだろうなという感じがする。細部が面白くてひきつけられるが、まったく話の先が見えず、唐突に「三十六分割された神」なんて異常なアイデアが飛び出してくる。

 『秋物コレクション』はおそらく本書中最良の短篇である。死病にかかった男がファッションに凝る話で、リチャード・ブローディガンやエイミー・ベンダーが書いてもおかしくない、どこか現実離れしていて詩情に溢れた短篇。『友の最良の人間』は世界幻想文学大賞を受賞したそうだが、犬が予言をするというアイデアの短篇で、本当に犬の予言なのか妄想なのかよく分からないところがミソである。表題作の『パニックの手』はやはり奇妙なファンタジーで、それほど傑作とは思わないが、独特の異様な感じがなかなか面白かった。不思議な余韻を残す結末もいい。

 しかし『細部の悲しさ』や『ぼくのズーンデル』はアイデアSF的で、個人的にはあまり面白いとは思えなかった。この人はユニークな発想が身上らしいが、それに頼ったような短篇はどうしても古さ、陳腐さを感じてしまう。私にとって小説はやはり「イメージの運動」であって、いかに美しい運動を見せてくれるかがポイントになってしまうようだ。ひねったアイデアとかオチというものがどんどんどうでも良くなってくる。ま、完全に好みの問題だろうけど。

 ところで解説を書いている津原泰水という作家(読んだことなし)も『死者の書』のことを「物凄い」と書いている。うーん、そうかなあ。


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