アブソリュート・エゴ・レビュー

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北北西に進路を取れ

2009-02-26 20:14:55 | 映画
『北北西に進路を取れ』 アルフレッド・ヒッチコック監督   ☆☆☆☆

 ご存知、ヒッチコックの代表作の一つである。軽妙な二枚目のケイリー・グラント、金髪美女、巻き込まれ型サスペンス、濡れ衣、誰も信じてくれないもどかしさ、どんでん返し、多彩な舞台で繰り広げられるハラハラドキドキ、そしてそこはかとないユーモア。ヒッチコックの得意技満載で、円熟の職人芸を安心して堪能できる。

 今回は広告マンのケイリー・グラント、例によって口から先に生まれてきたとしか思えないお調子もんの嘘つき野郎である。冒頭いきなり嘘ついて他人のタクシーを横取りだ。この人はいつもこうだからもう慣れっこだが、こうなると本人もこんな人だとしか思えなくなってくる。その広告マン・ロジャーがいきなり誘拐され、殺されかけるが、どうやらカプランという男に間違えられたらしい。とんだ災難である。九死に一生を得たロジャー、翌日警官と母親を連れて誘拐犯人の屋敷に行くが、出てきた女に言いくるめられて誰もロジャーの言うことを信用しない。「どうしておれの言うことを信じないんだあ!」と嘆くロジャーだが、これは普段から嘘ばかりついているツケが回ってきただけと思われる。何せ実の母親が息子の言葉をまったく信じないのである。ケイリー・グラントなだけに説得力がある。

 こうなったら自分で身の証を立ててやる、と調査に乗り出すロジャーだが、会っていた人物がナイフで殺され、殺人犯として指名手配されてしまう。逆効果満点である。目の前で人が殺された時にナイフを手に取っちゃいかん、というのがなぜ分からんか。何はともあれ列車に乗るロジャー。すると金髪美人のエヴァが現れてかばってくれるという夢のような展開。ウハウハ状態のロジャーだが、実はエヴァは敵方と通じており……。

 窮地に陥ってもどこか余裕があるケイリー・グラントはこういう巻き込まれ型プロットにぴったりだ。いくらドツボにはまっても深刻になり過ぎず、軽妙さが失われない。汽車の中でエヴァに指名手配の犯人と見破られた時の「ウープス!」には大笑い。しかしエヴァは美人だなあ。こんな美女が指名手配されているロジャーに自分から言い寄ってくるなんてあまりに不自然だが、そこはちゃんと理由づけされる。そのあたりの展開は今や定石といってもいいが、そういう意味でこの手のストーリーの原型となった作品と言ってもいい。しかも細かい部分が丁寧に作られているので、今観ても陳腐さは感じない。緻密に張られた伏線も見事だ。

 クライマックスは例の巨大な人面が彫られたラシュモア山で、トラベル・ミステリー並みの華やかさだが、あそこを降りるという趣向は秀逸なアイデアだと思う。なんとなく高さがイメージできるからか、普通の崖を降りるよりずっと怖い。

 しかしケイリー・グラントというのはやはりルックス的にいい男なのだろうか。私にはどうも今ひとつピンと来ない、というか普通の横わけおじさんとしか思えないが、この映画の中でロジャーが無断侵入した部屋の女性が、最初に怯えて「止まって!」と言い、次にめがねをかけてロジャーを見てうっとりと「止まって」と言う場面がある。昔見た時はちょっと驚いた。


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