アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

いのちのパレード

2018-09-01 15:44:28 | 
『いのちのパレード』 恩田陸   ☆☆☆

 アンソロジー『バタフライ和文タイプ事務所』で「かたつむり注意報」に感嘆し、しかも解説で「これを収録した短編集『いのちのパレード』は想像力の限りを尽くした短篇ばかりの傑作」と書かれていたので、これは買うしかないと思ってすみやかに入手した。

 が、期待値が高すぎたか、結果的にはまあまあレベルだった。想像力の限りを尽くした短篇ばかり、というのはちょっと言い過ぎじゃないだろうか。確かに色々がんばって仕掛けているのは分かるが、必ずしもうまくいっていない。私が選ぶ本書中のベストはやっぱり「かたつむり注意報」である。本書はハヤカワの「異色作家短篇集」シリーズを意識して書かれたということだが、「かたつむり注意報」から類推してファンタジー作品集なのかと思っていたらそうでもなく、色んな傾向の作品にバラけている。意外と怖い話、ダークな短編が多いのが特徴だ。以下にざっと収録作を紹介したい。

 まず、「観光旅行」は手の形をした石が地面から生えてくる村の話。異国における奇観の観光ということで、「かたつむり注意報」に似た雰囲気だが、これには「奇妙な味」系のオチがついている。「スペインの苔」はロボットのオモチャと不幸な女とスペインの苔、という無関係に思えるモチーフをつなぎ合わせた三題噺で、かなりぶっとんだ破格の小説である。意欲は買うが、三題噺のつなぎ方に無理があって、あまり面白いとは思えなかった。不幸な女のエピソードはかなりダークで陰惨だ。「蝶遣いと春、そして夏」は、恩田陸の少女マンガ的耽美主義が満開となったファンタジーである。私にはちょっとなあ。

 「橋」はまるで初期の筒井康隆やかんべむさしみたいな短篇で、橋によって二つに分断された未来の日本が舞台。風刺色が強く、昔なつかしいアイデアSFの味わいはあるけれども、これはノスタルジーを狙ったのだろうか。「夕飯は七時」はフレデリック・ブラウンのアイデア・ストーリーみたいだし、「隙間」はホラー。こういうところには確かに、「異色作家短篇集」シリーズっぽいテイストを感じる。「エンドマークまでごいっしょに」は、紙上でミュージカルをやってみましたというおふざけ色が濃い短篇で、これも努力は買うが、正直全然面白くなかった。「走り続けよ、ひとすじの煙となるまで」は再び「かたつむり注意報」風の幻想小説で、汽車のように走り続ける王国というアイデアがちょっとボルヘスやミルハウザーを思わせる。

 全体に「異色作家短篇集」シリーズのテイスト、すなわちホラーあり「奇妙な味」ありファンタジーあり懐かしのSFあり、という、アソートメント的な作品集を目指していることは伝わってくる。想像力の限りを尽くした、とまでいかなくても、バラエティ豊かなのは確かだ。ただし、恩田陸という作家の色として少女マンガ的な耽美志向、そしてダークな人間性への志向があちこちに見てとれる。私が好きだったのはやはり幻想小説のカテゴリに入る三篇、「観光旅行」「かたつむり注意報」「走り続けよ、ひとすじの煙となるまで」だった。

 ちなみに昔『ユージニア』のレビューにも書いたが、この人の改行の多い文章は私にとっては抒情に流れ過ぎ、センチメンタルに過ぎる。今回読んでやっぱりそれを強く感じた。特に「蝶遣いと春、そして夏」にそれが顕著だ。「かたつむり注意報」などは、それがうまくロマンティシズムに転化された例だと思う。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿