アブソリュート・エゴ・レビュー

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狂骨の夢

2010-11-15 21:55:05 | 
『狂骨の夢』 京極夏彦   ☆☆☆

 京極堂シリーズ第三作目。再読。いつものテイストに変わりはないが、全体的にやや印象が薄めかも知れない。

 今回の舞台は厨子あたり。ややこしい話なのはいつも通りで、メインとなるのは朱美という女だが、この女は記憶の一部が欠けており、かつ自分の記憶の中に他人の記憶が混在しているというわけのわからない女である。また、彼女はかつて自分の夫を殺して首を切断した容疑をかけられたことがあり、その疑いは官憲による鉄壁のアリバイによって晴れたはずなのだが、やはり夫を殺したのは自分ではなかったかと疑い始める。こうしてお得意の現実崩壊が始まる。

 やがて彼女はキリスト教の教会に現れ、自分が夫を殺したこと、そして夫が何度も蘇っては自分を訪れるので、そのたびに殺して首を切断していることを告白するにいたる。いやまったく、陰惨きわまりない話である。

 メインのミステリーはこれだが、その他にも海を漂う金色髑髏の目撃談、発見された生首、集団自殺事件、など色んな事件がボコボコ起き、互いに関係ありそうななさそうな渾沌とした様相を呈していく。話が進むにつれて手がつけられない感じになっていくのもいつもと同じだ。今回すべてをくくる共通項は髑髏、または骨である。

 終盤、京極堂の憑き物落とし=謎解きがすべてを説明していくが、まあ、この真相を推理できる読者は皆無というか、もうそういう小説ではなくなっている。拡散しまくったプロットに一応の筋を通すために京極堂が駆使する「説明」は荒唐無稽の極みであり、「んなアホな」の連続だ。ありえない偶然やご都合主義も多い。そんなことをする奴いないだろ、という行動の連続であって、つまりはいつもの京極堂シリーズなわけだ。メインである朱美と何度も復活してくる夫の謎に関してはかなりアクロバティックな錯覚テクニックが駆使してあるが、説明が冗長でくどく、明快さに欠けるため、インパクトが弱まってしまっている。これはおそらく京極堂シリーズ全般に共通する欠点なのだが、本作ではそれがとりわけあからさまな形で出ている。とはいえ、京極堂の喋りをできるだけ長く楽しみたいという筋金入りのファンにとっては気にならないに違いない。京極夏彦の小説には、プロットやトリックや整合性はさておいて、とにかくこの文章を読んでいられれば幸せ、とファンに思わせる独特の麻薬的効果があるのである。

 本作には木場や榎木田、関本も登場するがそれほど活躍はしない。個人的には釣り堀経営者の伊佐間のキャラクターが面白かった。


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