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『火を熾す』 ジャック・ロンドン ☆☆☆☆
これも新宿紀伊国屋書店で買ってきた、柴田元幸訳の短編集。ジャック・ロンドンと柴田元幸というのはなかなか意外な組み合わせだ。九篇が収録されている。
ジャック・ロンドンは大昔に『白い牙』を読んだぐらいであんまり良く覚えていないが、本書を読んだ限りでは極限状況における生命力とその闘い、というテーマがどの作品にも共通しているようだ。語り口は力強く、直截で、伝統的な情景描写と心理描写を積み重ねて丁寧にプロットを紡いでいく。帯に「ジャック・ロンドンは小説の面白さの原点だ」という柴田元幸の言葉があるが、確かにそんな感じだ。子供の頃の読書の、あのワクワク感を思い出す。
なんといっても冒頭の『火を熾す』『メキシコ人』の二連発でやられる。いきなりのハイライトである。どっちもすごく面白い。『火を熾す』は厳寒の地を行く男が足を水に濡らしてしまい、火を熾そうとする、それだけの話。そんなものが面白いのかと思うかも知れないが、厳寒の地では私たちの常識は通用しない。すべてがたちまち凍りついてしまう世界、そこで足を濡らすというのがどれほど危険なことかあなたはご存知だろうか。そしてそこで火を熾すのがどれほど困難かということも。一挙手一投足が文字通り命がけの世界。これは生と死の狭間を彷徨う男のギリギリの闘いを描いた小説である。そして都会に住む私達の想像を絶する自然の厳しさというものを教えてくれる。
『メキシコ人』はボクシングの話。ある少年が金を調達するために無謀なボクシング・マッチに挑戦する。簡潔で力強い文体で描き出されるボクシングの試合の迫力には、まったく夢中にさせられてしまった。これもまた、一種の「極限状況」で燃え盛る生命の物語である。少年の動機が革命のためというのも、単なるスポ根ものではない切迫感を物語に与えている。
『一枚のステーキ』もボクシングもので、これは年老いたチャンピオンが若いボクサーと戦う話。『メキシコ人』と対照的な設定で、老いというものの苦さがしみじみと描き出される。もちろん試合場面の興奮度は『メキシコ人』に劣らない。最後の『生への執着』は『火を熾す』のように極地の近くで彷徨う男の話で、やはり極限状況を描いているが、この男が戦わねばならないのはすさまじい飢えである。
こういういかにもジャック・ロンドン的な短篇以外に、『影と閃光』や『世界が若かったとき』といったSF的な短篇も収録されている。この人がこんな小説を書いていたというのは意外だった。この手の作品でもアイデアの面白さより、その中で描かれる生命力や闘いというものに作者の関心が向いているところに、この作家らしさを感じる。ただ個人的にはSF的な短篇には古さを感じてしまい、あまり面白いとは思わなかった。
これも新宿紀伊国屋書店で買ってきた、柴田元幸訳の短編集。ジャック・ロンドンと柴田元幸というのはなかなか意外な組み合わせだ。九篇が収録されている。
ジャック・ロンドンは大昔に『白い牙』を読んだぐらいであんまり良く覚えていないが、本書を読んだ限りでは極限状況における生命力とその闘い、というテーマがどの作品にも共通しているようだ。語り口は力強く、直截で、伝統的な情景描写と心理描写を積み重ねて丁寧にプロットを紡いでいく。帯に「ジャック・ロンドンは小説の面白さの原点だ」という柴田元幸の言葉があるが、確かにそんな感じだ。子供の頃の読書の、あのワクワク感を思い出す。
なんといっても冒頭の『火を熾す』『メキシコ人』の二連発でやられる。いきなりのハイライトである。どっちもすごく面白い。『火を熾す』は厳寒の地を行く男が足を水に濡らしてしまい、火を熾そうとする、それだけの話。そんなものが面白いのかと思うかも知れないが、厳寒の地では私たちの常識は通用しない。すべてがたちまち凍りついてしまう世界、そこで足を濡らすというのがどれほど危険なことかあなたはご存知だろうか。そしてそこで火を熾すのがどれほど困難かということも。一挙手一投足が文字通り命がけの世界。これは生と死の狭間を彷徨う男のギリギリの闘いを描いた小説である。そして都会に住む私達の想像を絶する自然の厳しさというものを教えてくれる。
『メキシコ人』はボクシングの話。ある少年が金を調達するために無謀なボクシング・マッチに挑戦する。簡潔で力強い文体で描き出されるボクシングの試合の迫力には、まったく夢中にさせられてしまった。これもまた、一種の「極限状況」で燃え盛る生命の物語である。少年の動機が革命のためというのも、単なるスポ根ものではない切迫感を物語に与えている。
『一枚のステーキ』もボクシングもので、これは年老いたチャンピオンが若いボクサーと戦う話。『メキシコ人』と対照的な設定で、老いというものの苦さがしみじみと描き出される。もちろん試合場面の興奮度は『メキシコ人』に劣らない。最後の『生への執着』は『火を熾す』のように極地の近くで彷徨う男の話で、やはり極限状況を描いているが、この男が戦わねばならないのはすさまじい飢えである。
こういういかにもジャック・ロンドン的な短篇以外に、『影と閃光』や『世界が若かったとき』といったSF的な短篇も収録されている。この人がこんな小説を書いていたというのは意外だった。この手の作品でもアイデアの面白さより、その中で描かれる生命力や闘いというものに作者の関心が向いているところに、この作家らしさを感じる。ただ個人的にはSF的な短篇には古さを感じてしまい、あまり面白いとは思わなかった。
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