アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

九月が永遠に続けば

2011-11-08 20:57:24 | 
『九月が永遠に続けば』 沼田まほかる   ☆☆★

 東京に出張した際、本屋で平積みになっているのを見かけて手にとった。ホラーサスペンス大賞受賞作で、あとがきで相当褒めてあったのでそのまま購入。仕事の合間にホテルで読み終えた。読んでいるうちにはサクサク読めたので、つまらないわけではないが、読み終えて特にどうという感慨がない。印象が薄い。

 新人さんのデビュー作としてはもちろん、よく出来ていると思う。プロットが結構錯綜していて、緻密に計算したあとが窺える。しかしそれが裏目に出たか、どーんと強烈なインパクトがない。つかみ所がない。

 最初に、主人公である中年女性(バツイチ)が年下の男とつき合う様子が描かれる。彼女の息子が失踪する。夜、ゴミを出しに行ったまま帰って来ない。続いて、年下の恋人がホームから転落し電車に轢かれて死ぬ。これは事故か殺人か、互いに関係があるのかないのか。女性は取り乱し、息子の手がかりを得るため元夫とその妻・亜沙実とその娘・冬子の周りを調査する。なぜかというと、息子は冬子と会っていた形跡があるからだった。

 この失踪事件がミステリ・パートすれば、それと平行して描かれる元夫と亜沙実のなれそめがホラー・パートである。元夫は精神科医で、亜沙実はその患者だった。亜沙実は美人なのだけれども悲惨な経験をして精神を病み、おぞましさのかたまりのような人間になってしまう。元夫は彼女を治療し、やがて惹かれていき、主人公の女性と別れて亜沙実と再婚する。回想に出てくる、この病気時代の亜沙実は相当不気味である。

 この二本の軸が分離したまま話が進み、あまり相互に干渉し合わないのがつかみどころのない理由だと思われる。物語が膨らんでいかない。主人公があっち行ったりこっち行ったりしているだけだ。それから本書には二つの死が出てくるが、その真相は更にまた違うところから出て来る。かつ、解決もなんだか安直で、唐突だ。そしてなんといってもメインである息子の失踪、この決着がしょぼい。竜頭蛇尾で、全然説得力がない。

 本書は人の心の闇を描いた、みたいな評価をされていて、確かに平凡な人々の隠れたおぞましさを描いているところはあるが、それだけを「どう、気持ち悪いでしょ?」と差し出されてもなあ、という感じを持った。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿