アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

妻の女友達

2018-08-04 08:31:42 | 
『妻の女友達』 小池真理子   ☆☆★

 小池真理子初期の、サスペンスものの短篇集を読了。収録作品は「菩薩のような女」「転落」「男喰いの女」「妻の女友達」「間違った死に場所」「セ・フィニ ー 終幕」の六篇。

 これまで読んだ小池真理子の短篇集の中では、明らかに若書きである。まだまだ模索段階って感じだ。プロットが人工的だし、似たパターンが多く、先が読めるいかにもな展開があって、明確にオチがある。後の『会いたかった人』『モンローが死んだ日』、それからアンソロジーに収録されていた「命日」のような小説巧者ぶりはまだ見られない。へえー、昔はこんなん書いていたんだなあ、という軽い驚きがあった。中にはデビューした時から後と変わらないすごい作品を書く作家もいるが、この人はそうではなく、努力型の作家なのだろう。

 それぞれの短篇に軽く触れておくと、まず「菩薩のような女」は豪邸の中で車椅子生活をしている暴君的な夫が殺されるという、本格パズラー風に始まる短篇。最後はブラックなオチで終わる。捻りがストレートなので大抵の読者にはオチが読めるだろう。「転落」は作家志望の女が事故で死んで愛人がとばっちりを受ける話だが、サスペンスというよりちょっとギャグっぽい。笑わせようとしているわけではないと思うが、これは意図されたものだろうか。ハラハラするというより、ちょっとブラックなコントみたいだ。

 次の「男喰いの女」は「菩薩のような女」に似たタイプの話。家庭に次々と起きる不幸をある女のせいと考える人妻がヒロインだが、これもやることなすこと裏目に出るみたいな不条理コント風の味がある。まあ、それはそれで楽しく読めるが、とても軽い。表題作の「妻の女友達」は倒叙推理もので、家庭に満足している男が妻の女友達に生活を乱され、しまいに殺人を犯す。これもやはりブラックなオチがついていて、主人公がひとり相撲をとるような展開も「転落」に似ている。さすがに心理描写は手堅いのでちゃんと倒叙推理として読めるが、最後があまりにも見え透いた「ギャフン!」(<死語)というオチで、冗談になっちゃったという感じがするなあ。

 「間違った死に場所」は、政治家の愛人に死なれた若い女のところへ家族が押しかけてきて遺言のことで右往左往する、いかにもなドタバタ劇。これもギャグよりで、オチはえらく荒唐無稽。最後の「セ・フィニ ー 終幕」は再び倒叙推理で、劇団を舞台に、売れ始めた新人俳優が愛人である年上の女優を殺す話。ビデオを使ったトリックも含め、全体の雰囲気がいかにも「刑事コロンボ」や「古畑任三郎」だ。それはそれで嫌いじゃないが、やはりいかにもなオチが安っぽい。

 解説にフレンチ・ミステリの味がすると書かれていて、まあこのブラックなオチや倒叙推理形式を意味しているのだと思うが、エスプリとか洒脱という域にはまだ達していないようだ。細かいことを言うと、放火やベルトをつかった絞殺が違う短篇で何度か出てくるが、そういうのも使い回しというか、引き出しの狭さを感じさせて損をしている。ただし私は倒叙推理が大好きなので、それなりに楽しめた。ものによってはギャグがかっているため、これはサスペンスというより「奇妙な味」系と言う方が適当だろう。



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