アブソリュート・エゴ・レビュー

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帰ってきたウルトラマン Vol.10

2012-01-24 21:37:31 | テレビ番組
『帰ってきたウルトラマン Vol.10』   ☆☆☆☆

 前にもちょっと書いたが私は『帰ってきたウルトラマン』のDVDを何枚か所有していて、これもその一枚。収録されているのは以下の4話である。

第37話「ウルトラマン 夕陽に死す」
第38話「ウルトラの星 光る時」
第39話「20世紀の雪男」
第40話「まぼろしの雪女」

 知っている人は知っているだろうし、知らない人も各話タイトルを見れば想像がつくように、ここはシリーズ中最高の盛り上がりを見せるところだ。第37話の「ウルトラマン 夕陽に死す」とその次の「ウルトラの星 光る時」である。これは前後編になっていて、最終回でもないのにウルトラマンがナックル星人に負け、処刑されるというショッキングなエピソードなのだ。セブンでいえばガッツ星人の回である。実際このエピソードはセブン対ガッツ星人を参考にしたと思われ、ナックル星人がおとりの怪獣を使ってウルトラマンの能力を検証するところや、負けたウルトラマンが夕陽の中で磔にされるところなどよく似ている。

 しかしセブンにはなかった新たな要素があり、それが重要。そう、善男善女の皆さんはすでにご存知の通り、①ヒロインが殺される、②ウルトラ兄弟が助けに来る、の二点である。この二点によって、本エピソードはウルトラ・シリーズ全体の歴史の中でも特に画期的なエピソードとして記憶されることとなった。

 とりわけ衝撃的なのは、なんといっても①のヒロインの死である。ヒロインというのは榊原るみだが、もちろん初回からずっと登場していて、ウルトラマンこと郷秀樹といい感じなガールフレンドで、そのかわゆい笑顔は一服の清涼剤として少年たちに癒しを与えていた。歴代のウルトラ・ヒロインをざっと眺めても、女優のグレードという点で榊原るみに匹敵するヒロインはいないだろう。なんせ『男はつらいよ』のマドンナ女優である。それがまさか、宇宙人に殺されるとは思わない。が、ウルトラマンに精神的打撃を与えたいナックル星人は彼女に目をつける。「これだ。ウルトラマンはこの娘を愛している。この娘を狙え」

 そして殺し方がまたあまりにも非情である。郷にプレゼントを買ってルンルン気分の彼女が道を歩いているところをむりやり拉致、車に押し込み、前に立ちはだかった兄(岸田森)を躊躇なくはね飛ばす。そのまま連れ去るのかと思いきや、なんとドアをあけて彼女を外へ放り出し、しばらく引きずって走る。そして虫の息となった彼女を道端に捨てて走り去る。

 これはひどい、ひど過ぎる。病院で彼女の死を見届けた郷は、シリーズ始まって以来のどす黒い怒りを胸に、ウルトラマンに変身する。ナックル星人は言う。「今だ。ウルトラマンの心は嵐の海のように荒れ狂っている。今なら勝てる!」

 それにしてもナックル星人、作戦が裏目に出て、怒り心頭に発したウルトラマンに瞬殺されるとは思わなかったのだろうか。感情の乱れを誘うというのは悪くない着眼点だが、かなりリスキーでもあるように思う。

 まあとりあえずナックル星人の作戦は図にあたり、ウルトラマンはブラックキングにやられる。そこにナックル星人も加わり、夕陽の中、二対一でボコボコにされる。このやられ方はかなり痛々しい。そして磔にされて引き回され、「ウルトラマンは死んだ!」とナックル星人が高らかに宣言するところで第37話は終わる。

 そして、次の第38話で初代ウルトラマンとウルトラセブンが新マンの救出にやってくる。これが前述の②である。ウルトラシリーズも後になると兄弟の出演は珍しくもなんともなくなり、ありがたみが薄れてしまうが、過去のウルトラ兄弟が複数登場したのはこれが史上初だ。変身後の姿だけでなく、ちゃんとハヤタとダンが出てくるのもいい。当時の子供にとってはまさに夢のような企画だ。それから泣かせるのが、まず旧マンとセブンの主題歌が流れ、新マンが復活した時に「帰ってきたウルトラマン」の主題歌に変わるというこの音楽上の演出。これは大人になって見ても結構感動するぞ。

 本来ならばここにゾフィーもいるべきなのだろうが、それはまあ仕方がない、まだウルトラ兄弟の設定が固まっていない頃だ。そういうわけで「ウルトラの星作戦」が何なのか良く分からないまま新マンは救出され、地球に戻ってナックル星人と再戦し、今度は勝つ。めでたしめでたし。しかし地球に戻ってからも郷がナックルに操られるMAT隊員に銃殺されそうになったり、ブラックキング+ナックル星人のコンビに再び苦戦したりと、盛りだくさんである。やはりこの前後編は力が入っている。

 ところで個人的には、ヒロインの榊原るみの降板以上に残念なのがその兄、岸田森の降板である。岸田森はおちゃらけからシリアスまで幅広い役柄をこなす曲者俳優だが、この「帰ってきたウルトラマン」の坂田は彼が演じた中でも特にかっこいいキャラだったと思う。足が悪い元レーサーで、郷をクールに突き放しながらも実は誰よりも温かく見守る、精神的な師ともいうべき人物。彼がいなくなったことで、この後の「帰ってきたウルトラマン」は人間ドラマの面で生彩を欠くようになってしまった。

 さて、深刻な話の次だからか、第39話「20世紀の雪男」はかなり笑えるエピソードとなっている。まず、雪山をゆくカップル登場。男は雪男の研究をしていて、雪男の写真を撮りに来ている。写真が取れれば著作が完成し、二人は結婚できるらしい。と、突然女が「あっ、あれを見て!」見ると雪原を、まるで散歩でもしているような呑気さで「ほえ~、ふげ~、はえ~」などと言いながら歩いている等身大のバルダック星人。どう見ても地球外生物のその姿を見て男は叫ぶ。「あっ、雪男だ!」ところが女が足をすべらせる。「きゃあ」「大丈夫か」「私はいいから早く雪男の写真を!」「何を言うんだ、君はぼくの一番大切な人だよ」「秀男さん…」
 などとラブラブカップル・コントをやっているうちに、バルダックは「ほげ~、はが~♪」などといいながらどこかへ歩いて行ってしまうのだった…。

 やがてMATに通報が行くが、日常的に怪獣や宇宙人と接しているくせに雪男を全然信じようとしないMAT隊員たち。「そんなばかな」「夢でも見たんでしょう」「この20世紀に」と言いたい放題だ。やがてバルダックが巨大化して暴れ出すが、最初にバルダックの全身がはっきり画面に映った時は思わず「わははははは」と笑ってしまった。かなりふざけた造形である。

 次の第40話では雪女が出てくる。この回の見所は何といっても、全身バラバラにされるウルトラマンである。手足、首、全部もげてしまう。これもかなりショッキングな映像と言っていい。子供が見たらトラウマ必至だ。ところがブレスレットがきらりと光り、何事もなかったかのごとくウルトラマンは元に戻ってしまう。第38話でナックル星人に処刑されそうになった時、ナックルが「ウルトラマンを八つ裂きにしてしまえ!」と言うので「ああ、これは大ピンチだぞ」とハラハラしたものだが、八つ裂きにされてもどうってことないのだった。心配して損した。

 というわけで、やはりこのディスクのハイライトは第37話と38話の前後編だが、あとの雪山怪談シリーズもそれなりに見所はある。「帰ってきたウルトラマン」の中ではお勧めと言えるだろう。


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