アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

マスカレード・ホテル

2011-10-16 22:09:28 | 
『マスカレード・ホテル』 東野圭吾   ☆☆☆★

 マンハッタンの紀伊国屋で平積みになっているのを見かけ、休日の一気読み用に買ってきた東野圭吾の新作。予定通り、翌日一気読み読了した。何でも今年は作家生活25周年記念ということで、第一弾が加賀恭一郎シリーズ新作(『麒麟の翼』)、第二弾がガリレオシリーズ新作(『真夏の方程式』)、そして第三弾が新ヒーロー登場の新作、という三段構えの企画をやっているらしい。本書『マスカレード・ホテル』はその新ヒーロー登場の第三弾ということになる。

 まあ例によって例のごとくというか、出来としては水準作である。サクサク読めて適度にハラハラする。細かい謎解きがちりばめられ退屈はしないが、登場人物たちはステレオタイプに近い。しかしいつも思うのだが、この人の書くミステリにはやっぱり華がある。売れるのも分かる。読んでいるとテレビドラマを観ている気分になる、というのが褒め言葉になるかどうかは別として、とりあえず、華やかな舞台にあの俳優この女優が出てきてドラマを繰り広げるというゴールデンタイムのドラマ的なワクワク感を、活字メディアながら持っているとは言えると思う。それを薄っぺらさの裏返しだという人もいるだろうし、私も全肯定するつもりはないが、もっと薄っぺらくキャラ頼みのミステリでも、この華やぎをもっているものは意外とない。やはり、ウェルメイドなのだ。

 たとえば、本書の舞台は東京の一流ホテル。主人公は連続殺人を阻止するためにホテルマンに化ける若い刑事、ヒロインはその教育係になった一流のホテルウーマン。それぞれにそれぞれの分野で優秀なプロ意識を持った二人は、最初激しくぶつかり会う。刑事の新田は「おれはホテルマンになりに来たんじゃなくて捜査に来たんだ」と言い、フロントレディーの山岸は「どこから見ても刑事にしか見えない今のあなたはホテルにとっても捜査にとってもいい結果になりません」と反駁する。そして客をジロジロ観察するな、姿勢を正せ、「俺」と言うな、「客」じゃなく「お客様」と言え、髪を切れを注意を連発する。閉口した新田は影で「あんなお局さんみたいなのと組まされたおれは運が悪い。ありゃ若作りしてるが30越えてるな」などと悪口を言うのである。

 こうしてホテルのフロントに立つ二人は、連続殺人というメインプロットの他に、ホテルにやってくる人々のさまざまなエピソードに関わっていく。たとえばバスローブを盗む客、「この男を私に近づけないで」と言って写真を見せる若い女、目の見えないふりをする品のいい老婦人、新田にいいがかりをつけて執拗に絡んでくる中年男、などなど。いってみれば、刑事もの+ホテルものという、一粒で二度おいしい設定である。主人公の男女二人が最初は反発しあう、というのもお約束。

 ただし、単にキャラ頼みではなく、刑事・新田とフロントレディー・山岸の反発がそれぞれのプロ意識からきている、つまり他人を疑いの目で見る刑事と、感謝の念をもって接するホテルマンの違いから来ているというあたりの理由づけはしっかりしている。最初の方で、「客のわがままを聞いていたらきりがない、客だってルールを守るべきだだろう」と言う新田に、山岸は「客が望むことがホテルのルールだ」と説明する。このあたりの確かさがウェルメイドの証だ。

 ところで新ヒーローの新田はあまり容貌の描写もなく(刑事にしてはソフトというぐらい)、最初は印象が薄いが、ストーリーが進むにつれだんだん個性が出てくる。若いが優れた推理力と洞察力に優れ、プライドが高い。プライドが高いがゆえにまだ見えないものもあるが、それを克服し、成長していく柔らかさもある。彼は加賀恭一郎のように一を聞いてすぐさま十を知る名探偵ではないが、時々ヒラメキを得て、誰にも解けなかった謎を解く能力を持っている。ついでにいうと、そのヒラメキは山岸との会話から得られることが多い。

 それからもう一人重要なキャラとして、新田とコンビを組む所轄の中年刑事、能勢がいる。一見もっさりしたおじさんだが「実は切れ者」と噂されており、最初は信じられなかった新田もやがてその懐の深さに感服するようになる。一方能勢の方は、新田の発想力、推理力を買っている。こういう、若い二人を見守る人間味溢れる年長者、というキャラもまあ、テレビドラマのお約束である。田山涼成とか竹中直人あたりが演じがちなキャラだな。

 クライマックスはホテルで行われる結婚式、そして結婚披露宴が舞台となりこれも華やかだ。ドラマ化されれば盛り上がるだろう。ただし真相はかなりひねってあり、相当な変化球だ。変化球過ぎて肩透かしと感じる人もいるかも知れない。事件全体のトリックもかなり現実離れしている。

 さて、新ヒーローを登場させたということは、おそらく今後新田浩介シリーズが続いていくのだろう。ずっとホテルが舞台のわけはないと思うが、山岸は次回作にも登場するのだろうか。またいずれTVドラマ化されるだろうが、新田浩介は誰が演じるのだろう。若い俳優さんだと思うが、ひょっとしてジャニーズ系か?
 


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2 コメント

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面白そうですね. (coollife)
2011-10-22 07:33:46
未読ですが,平積みが気になっていました.
ニューヒーロー登場なんですね.これは是非読まなくては,と思いました.
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ニューヒーロー (ego_dance)
2011-10-23 23:54:31
登場時の印象が悪いので、最初はこれが主人公だとは思いませんでした。だんだん印象が変わりますが。フロントレディーの山岸もいいです。
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