アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

Spirits Having Flown

2011-10-18 01:17:34 | 音楽
『Spirits Having Flown』 Bee Gees   ☆☆☆☆

 ビージーズの曲を最初に耳にしたのは、多分映画『小さな恋のメロディ』のサウンドトラックだったと思う。そしてご多分に漏れず、「メロディ・フェア」「イン・ザ・モーニング」「若葉のころ」といった瑞々しい曲の数々にやられた。優しくきれいなメロディとハーモニー、アコースティックで繊細なアレンジ、そして印象的なバリー・ギブの歌声にたちまち惹きつけられてしまったのである。それでなんとかいうアルバムを買ったのだが、あのサウンドトラックを越えるものではなかった。まあ、子供の頃のことである。今にして思えば、特にティーン受けするような曲ばかり選んで映画に使ったのだろう。ついでにいうと、オリジナル・アルバムを聴いてロビン・ギブの、あのフガフガいってるみたいなヘンなヴォーカルには度肝を抜かれた。大体あの人は歌がうまいのだろうか。まあそれはいいとして、そのままビージーズは「小さな恋のメロディ」とともに私の胸の奥にしまわれたのだった。

 やがて「サタデー・ナイト・フィーバー」が流行ってさかんにラジオから聴こえてくるようになった。なにやらディスコ・サウンドで、しかもアーティストはビージーズだという。「え、あのビージーズがディスコ?」と意外に思った私は、とりあえず「ナイト・フィーバー」「ステイン・アライブ」といったヒット曲を聴いてみた。あの「メロディ・フェア」のイメージとディスコがどうしても結びつかなかったのである。

 そして腰を抜かすほど驚いた。これが同じグループだろうか。大体、この気持ち悪いウラ声は何なのか。当時まだ子供だった私はファルセット・ヴォイスの歌など聞いたことがなく、ウラ声といえばショッカーの戦闘員が出す「ヒィッ! ヒイッ!」という叫び声ぐらいしか知らなかった。あの「メロディ・フェア」の美しい声の主だったバリー・ギブが、ショッカーの怪人みたいな声でディスコ・ソングなんぞを歌うとは。

 というわけで、最初は大嫌いだったファルセット声のビージーズだが、聴いているうちに慣れてきた。そしてシングル「Too Much Heaven」を聴いた時は「結構いいじゃないか」とまで思うようになった。慣れとは恐ろしいものである。とはいえ、私とビージーズとの関係はそれまでだった。

 さてそれから数十年が過ぎ、最近になってようやくこのアルバム『Spirits Having Flown』を通して聴いてみた。言うまでもなく「サタデー・ナイト・フィーバー」直後に発表された、ビージーズ最大のヒット作である。あまりこの手の音を聴かない私だが、さすがのクオリティだ。「Too Much Heaven」も久々に聴いたが、やはり良い。至福の音である。幸せ過ぎる。なんせ「天国過多」である。昔は抵抗があったファルセットもすんなり耳に入ってくる。

 その他の曲もキャッチーで個性的な、いい曲が揃っている。メロディー・メーカーとしての才能が全開だ。私のお気に入りは「Too Much Heaven」「Love You Inside Out」「Reaching Out」「Living Together」あたりである。ほぼすべての曲で聴けるウラ声コーラスも絶好調。それにしても、以前はほとんどファルセットなど使っていなかったビージーズ、突然ウラ声に目覚めたのは何か理由があるのだろうか。どうも気になる。

 稀代のヒット・メーカーであるビージーズだが、その魅力の秘密は洗練性とそこはかとないダサさの同居にあると個人的には思う。このアルバムだってひたすらお洒落というわけではなく、一抹のダサさがあり、それが親しみやすさと温かみにつながっている。このアルバム・ジャケットを見ていただければ、私の言いたいことを分かっていただけるのではないかと思う。しばらく前に「スティル・ウォーターズ」なんて最近のアルバムを買ったことがあるが、シティ・ポップスという他ないそのサウンドは面白くもなんともなく、すぐに処分してしまった。

 その点、このアルバムは繰り返し聴ける。ビージーズならではポップ・センスがいっぱいだ。もちろん、ウラ声もいっぱい。


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