アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

町長選挙

2006-05-15 21:46:43 | 
『町長選挙』 奥田英朗   ☆☆

 伊良部医師シリーズ第三弾だが、残念ながら前二作と比べるとレベルダウンは否めない。暇つぶしにはいいが、それ以上のものはない。

 今回の特色は、四篇中三篇の患者のモデルが容易に想像がつくことである。というか、もう最初からバレバレで、名前もあからさまにもじりにしてある。球団のオーナーが田辺満夫、通称ナベマン、IT長者が安保貴明、通称アンポンマン、40代なのに若い、が売り物の女優が白木カオル。残りの一篇『町長選挙』のモデルは分からないが、これだけモデルがいないのか、それとも私が知らないだけか。ひょっとしたら日本に住んでいる人には容易に分かるモデルがいるのかも知れない。

 こういう風にモデルをはっきりさせて小説にすると、その人の顔や言動を思い浮かべながら読めるのでヤジウマ的興味はよりそそられるだろうが、虚構の力は弱まって小説としてのクオリティは下がってしまうと思うのだが、どうだろう。実際話のインパクトは『イン・ザ・プール』や『空中ブランコ』より明らかに弱い。あまり笑えるポイントもない。実在の有名人に、無理に伊良部をからめてみましたという不自然さが拭えない。

 しかし、モデルにされた人の中では、どう考えても黒木瞳(=白木カオリ)にだけ特に意地が悪い書き方がされているように思えるが、私の思い過ごしだろうか。それとも奥田英朗氏は何か含むところでもあるのだろうか。ラストに『若作り』という歌詞が出てくるが、この意地の悪さは相当なもんだ。


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