アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

TECHNODON

2007-03-12 19:19:47 | 音楽
『TECHNODON』 Yellow Magic Orchestra   ☆☆☆☆★

 散会後、YMOが一度だけ復活した時のCD。廃盤になっているようで入手できず、ずっと残念に思っていたのだが、先日ブックオフで見かけてすかさず買った。ラッキー。

 賛否両論と聴いていたので、あまり面白くないかもと覚悟をしながら聴いたら、これがイケる。「え?これいいじゃない」という嬉しい驚き。なんとなく、コント抜きの『サーヴィス』みたいなものを想像していたのだが、全然違う。他のYMO作品のどれとも違うオリジナルな作品になっているし、ソロの寄せ集めのような散漫さもなく、統一感がある。

 感じとしてはインスト主体の音響派的なアプローチで、『BGM』『テクノデリック』あたりに近い。少なくとも初期のキャッチーなテクノポップでは全然ない。しかし、意図的にノイズがかった、とんがった音を出していた『BGM』『テクノデリック』よりもっとリラックス感がある。曲もアンビエント的でありながらコード感を感じる時も多いし、音ももっと柔らかい、きれいなものが使われている。ところどころにクラブジャズのような、いわゆる「スムース」な肌触りを感じたりする。『BE A SUPERMAN』や『SILENCE OF TIME』では女性のウィスパー・ヴォイスを入れたりしているので、余計にそんな感じだ。とはいえ、YMOがクラブジャズになってしまうわけもなく、情緒を内側から破壊するような即物的な音、ノイズ的な、違和感のある音を入れて曲を覚醒させていくセンスは明らかにYMOだ。

 全体に静かな曲が多く、静謐なアルバム、という印象。メランコリックな曲もいくつかあり、以前のYMOの茶目っ気みたいなものは抑えられている。以前のYMOが細野色が強かったとすれば、本作品では坂本色が強いような気がする。それから、以前のYMOはアンビエント・テクノをやっても、やっぱり高橋幸宏がドラム叩いてるなって感じがする曲が多かったが、本作ではそれがない。実際にドラム叩いてる曲はほとんどないんじゃないか。ブレイクビーツ的なリズムの組み立てになっていて、それが以前のYMOとの違いを感じさせる。

 5曲目の『HI-TECH HIPPIES』のみ、テクノポップと呼ばれた頃の初期YMOを思わせる、メロディアスなヴォーカル曲になっている。英語の歌詞、微妙に東洋旋律、ということで『浮気のぼくら』の頃ではなく明らかに『ライディーン』の頃の香りがある。でもそれはうっすらと、であって、あの頃のピコピコ・サウンドよりはるかに繊細でスムースなサウンドになっている。いい曲だ。
 それから最後の『POKETFUL OF RAINBOWS / ポケットが虹でいっぱい』も感じが違う。プレスリーのカヴァーだ。スケッチ・ショウでもこういうのをやっているが、いかにも高橋幸宏らしい、ロマンティックな曲。

 それにしても、YMOの音のセンスはやはり素晴らしい。特にヴォーカルなしのアンビエントな曲、『NANGA DEF?』や『FLOATING AWAY』や『WATER FORD』のような曲でそれが光る。一つ一つの音が辛辣で、存在感があり、そこで鳴る必然性と美意識に貫かれている。それらがモザイク状に組み合わさって成立する、硬質なオブジェのような音楽。これはYMO以外の何物でもないですぞ。

 確かに『BGM』『テクノデリック』ほどの攻撃性はないが、これぐらいのものを作ってくれれば私は十分満足できるし、YMOとしてやる意味はあると思う。しばらくはヘビー・ローテーションになりそうだ。
 


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