アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

幻夜

2007-03-10 12:51:32 | 
『幻夜』 東野圭吾   ☆☆☆☆

 『白夜行』の続編。『白夜行』を読むとどうしても続けてこれを読みたくなる。物語の構成はほぼ『白夜行』と同じで、新海美冬という美女が恐るべき策略でのし上りつつ回りの人間を不幸にしていく過程が描かれる。

 本書の美冬が『白夜行』の雪穂と同一人物であるとははっきり書かれていないが、まあ同一人物と解釈できる。そして『白夜行』と同じく男性のパートナーが存在するが、物語は二人が出会う阪神大震災のシーンから幕を開ける。これも前作同様、震災からサリン事件まで当時の世相を取り込んで物語が作られている。

 と基本路線は前作と同じだが、異なる部分もある。まず、『白夜行』では主人公二人:雪穂と亮司の関係は決して直接描かれなかったが、本書では美冬と雅也の関係がはっきりと描かれている。そして何より、前作での雪穂と亮司はお互いを理解し、何かを共有した真実の関係だったと思われるが、本書の美冬と雅也は違う。雅也は美冬にすべてを捧げているが、美冬は雅也を騙しており、他の連中と同じように利用しているだけなのだ。二人のやりとりが明瞭に描かれている理由もここにあると思われる。つまり、騙されている雅也の葛藤が物語の大きなポイントになっているのだ。雅也は『白夜行』の亮司ほどシニカルな人間ではなく、善良さを持っている。近所の食堂の娘に慕われたりしており、この娘と一緒になれば幸せになれただろうにと思わずにはいられない。
 またそういう意味では、本書の美冬はより孤独で、救いようのない人間に思える。たった一人で、パートナーまでも騙してのし上っていくのである。ここまでくると、一体この女は何のためにこんなことを続けているのか疑問に思ってしまう。

 それから前作は子供時代から大人までを追った大河ドラマ的構成だったが、続編であるこちらはもちろん大人時代からスタートしており、成長物語的なテイストはない。その代わり、個々のエピソードはサリン事件を模したり、残酷な殺人が出てきたり、より派手になっている気がする。

 これも前作同様、美冬の正体に気づいて嗅ぎ回る刑事が出てくるが、加藤というこの刑事のキャラクターがなかなか面白い。どことなく汚れ刑事的なうさんくささを持っていて味がある。

 結末は『白夜行』をなぞるような終わり方で、ちょっと物足りなかった。このあと三作目が書かれるかどうか分からないが、個人的にはこの女の人生に何らかのケリをつけてあげて欲しい。
 『白夜行』を引き継いだ話なので似たような作品になっていること、雪穂と亮司の関係にあった哀感が欠けていること、などで『白夜行』には及ばないと思うが、ページターナー振りは同レベルだ。読み始めると止まらなくなる。


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