アブソリュート・エゴ・レビュー

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太陽にほえろ! マカロニ刑事編 (その2)

2006-05-03 19:06:18 | テレビ番組
(昨日の続き)

 しかし山さんを演じる露口茂の渋い演技はもう国宝ものである。基本的にはその表情に常にキビシサをたたえる山さんで、眉間にはいつも皺が寄っている。犯罪者に対した時のその視線の鋭さはアーミーナイフ級であるが、一旦その視線が弱い人間に向けられると、実にたまらない優しさをたたえるのである。いや~、ほんとに惚れ惚れしてしまう。とにかく露口茂の山さんは、他の俳優を寄せつけない名演技である。

 山さんのセリフがまたいい。例えば『おしんこ刑事誕生』で、新米刑事のシンコを山さんは事件現場のラブホテルへ連れて行く。緊張しているシンコに山さんの容赦なく厳しい視線と言葉が飛ぶ。「おい、ボーっと突っ立ってちゃ仕事にならんぞ」「なんだ手袋しないからお前さんの指紋がつくじゃないか」
 落ち込んでいるシンコが、あとで山さんに謝る。「私、あがっちゃって」
 そこで山さん、ニヤッと笑って一言。「シンコちゃんよ、あんなところで若い娘に平気な顔をされたら、こっちの方がふるえがくるよ」
 か、かっこいい……。

 第41話『ある日女が燃えた』で、山さんは政界の実力者に立ち向かうことになる。警察にも圧力がかかり、検死医すら証拠隠滅を図る。山さんはある女の罠にはまり、レイプ未遂の嫌疑をかけられる。彼は休暇を取って背水の陣で捜査に当たり、自分を罠にはめた女が車に乗り込んだところを捕まえる。山さんのナイフのような視線が女に突き刺さる。あくまで静かな声で、「いつかは世話になったな」
 突然山さんが女の足の上からアクセルを目一杯踏み込み、車はすごいスピードで暴走を始める。やめてやめて、助けてと絶叫し、わめきちらす女。山さんは眉一つ動かさず女を見つめたまま、「しっかり前を見てないと、二人で心中することになるぜ」

 マカロニ主演編の第47話『俺の拳銃を返せ!』では、マカロニの拳銃が盗まれたと聞いて七曲署の刑事達が動揺し、ゴリさんが「マカロニの奴もそうとうまいってるんですよ」というと、山さん一言「あいつがまいるだけですみゃいいんだがね」

 とにかく、山さん最高。

 山さんの話ばかりになってしまったが、こうして観ると駄作もあれば傑作もある。他に印象に残ったエピソードとしては、『男はつらいよ』のおいちゃん役でおなじみの下絛正巳が、騙されたせいで殺人を犯してしまうかわいそうな経理マンを演じる『奪われたマイホーム』。これも山さん主役編で、彼の経理マンに向ける温かい視線が心に沁みる。
 それから一幕芝居みたいな異色作『危険な約束』。スナックに居合わせた客達が人質になり、それぞれの人間模様があらわになっていく。この中にマカロニが混じっているのだが、これはどう観ても舞台劇である。マカロニのキャラクターも生きていて、面白い。
 マカロニの拳銃が盗まれる『俺の拳銃を返せ!』も良い。森本レオがかわいそうな復讐者を演じている。
 マカロニが、やはり悲惨な境遇の殺人者に恋をしてしまう『愛するものの叫び』も痛々しい悲劇的なエピソード。ただ、この犯人役の女優はきれいなんだけどセリフが棒読みで、それが惜しい。それからこのエピソードには松田優作がちょい役でパイロット出演している。施設の係員の役で、小児マヒの患者を放り出すというのでマカロニに責められ、「でも規則なんですよ刑事さん、規則なんです」と言って泣く、という、後の松田優作からは考えられない役である。しかしショーケンと松田優作のツーショットというのもなかなかすごいものがある。

 他にも色々あるが、全部で52話もあるのでとても書ききれない。ボスのガールフレンドが出てきたりと、違う意味で興味深いエピソードも多々ある。しかしさすが名作刑事ドラマ、レギュラー陣のバランスやケミストリーが素晴らしい。ボス、マカロニ、山さんはもちろん、ゴリさん、殿下、長さん、それぞれのキャラクターが魅力的で、どんどんドラマがふくらんでいく。やっぱり『太陽にほえろ!』は至高の刑事ドラマだった。

 さて、次はジーパン編を制覇したいと思う。
 


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