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『終わりの感覚』 ジュリアン・バーンズ ☆☆☆
ジュリアン・バーンズの2011年度ブッカー賞受賞作。私はこの人の『フロベールの鸚鵡』はかなり好きだが、他のは今ひとつツボに来ない。いつも知的な仕掛けが施されているのだけれども、変にあざとい感じがするせいだ。この『終わりの感覚』は仕掛けという点では控えめで、普通の小説に近いが、やはり物足りなかった。
すでに老年に入った男が語り手で、彼が自分の人生を回想する。前半は若い頃の恋愛と、学生時代の友達づきあいの顛末が主に語られる。結果的に恋人とは別れ、友達の一人が自殺する。時は流れ、男は他の女性と結婚し家庭を築き離婚を経験し、平凡だがまあまあの人生だったな、などと思いながら日々過ごしている。そこへある日弁護士事務所から知らせが届く。かつて若い頃につきあった女の母親が自分にあるものを遺産の一部として遺している、が、娘がその引渡しを拒んでいる。そしてその遺したものとは、自殺した友人の日記だった。
何がどうなっているのか分からない主人公は昔の恋人にコンタクトして日記を入手しようとするが、女は「あなたは何も分かってない」と言うばかりで応じようとしない。おどしたりすかしたり、ちょっとだけ会ってもらったりしながら徐々に隠された過去の断片が小出しにされ、最後、男は自分の人生にかかわる重大な、しかもそれまで夢にも思っていなかった、ある真実を知る。
という話で、最後に男が知る真実とはかなり痛々しいものだ。基調となるトーンは、痛み、後悔、悔恨の念。要するに、過去自分はある行為をしたのだけれど、その行為は他の人々の人生に対して、自分が夢にも思わなかった波紋を投げかけた、そしてそれを自分はまったく知らずにいた。こういう歓迎すべからざる発見を、老境になってしてしまうかわいそうな男の小説である。
訳者のあとがきによれば著者は身近な人の死を経験した後、長い内省の時を過ごし、その後に生まれたのがこの小説だという。上記の通り、確かにそういう人生の痛みや、死や、取り返しのつかないあれこれの過ちのことなどが語られる。そのテーマは悪くないし、プロット上の仕掛けもそつがない(終盤に、二度どんでん返しがある)。もちろん文章も達者だ。が、個人的には最後の「謎解き」に至る迄のストーリーテリングに魅力を感じない。特に前半、基本的に時系列で語られる恋愛の顛末は、私の苦手な青春小説みたいで、いまいち芸がないように思う。恋人との関係も地味だし、友人達の肖像もぼんやり感がぬぐえない。要するに、大して印象的なエピソードがない。
ラストの「意外な真実」も、万人の共感を得る普遍的事例というより、言ってみればこの人々特有の事情だし、痛ましいには違いないが、三面記事的な話とも思える。やっぱりこの人の小説って、どうしても「仕掛け」優先のあざとさを感じてしまうなあ。私の先入観だろうか。
ジュリアン・バーンズの2011年度ブッカー賞受賞作。私はこの人の『フロベールの鸚鵡』はかなり好きだが、他のは今ひとつツボに来ない。いつも知的な仕掛けが施されているのだけれども、変にあざとい感じがするせいだ。この『終わりの感覚』は仕掛けという点では控えめで、普通の小説に近いが、やはり物足りなかった。
すでに老年に入った男が語り手で、彼が自分の人生を回想する。前半は若い頃の恋愛と、学生時代の友達づきあいの顛末が主に語られる。結果的に恋人とは別れ、友達の一人が自殺する。時は流れ、男は他の女性と結婚し家庭を築き離婚を経験し、平凡だがまあまあの人生だったな、などと思いながら日々過ごしている。そこへある日弁護士事務所から知らせが届く。かつて若い頃につきあった女の母親が自分にあるものを遺産の一部として遺している、が、娘がその引渡しを拒んでいる。そしてその遺したものとは、自殺した友人の日記だった。
何がどうなっているのか分からない主人公は昔の恋人にコンタクトして日記を入手しようとするが、女は「あなたは何も分かってない」と言うばかりで応じようとしない。おどしたりすかしたり、ちょっとだけ会ってもらったりしながら徐々に隠された過去の断片が小出しにされ、最後、男は自分の人生にかかわる重大な、しかもそれまで夢にも思っていなかった、ある真実を知る。
という話で、最後に男が知る真実とはかなり痛々しいものだ。基調となるトーンは、痛み、後悔、悔恨の念。要するに、過去自分はある行為をしたのだけれど、その行為は他の人々の人生に対して、自分が夢にも思わなかった波紋を投げかけた、そしてそれを自分はまったく知らずにいた。こういう歓迎すべからざる発見を、老境になってしてしまうかわいそうな男の小説である。
訳者のあとがきによれば著者は身近な人の死を経験した後、長い内省の時を過ごし、その後に生まれたのがこの小説だという。上記の通り、確かにそういう人生の痛みや、死や、取り返しのつかないあれこれの過ちのことなどが語られる。そのテーマは悪くないし、プロット上の仕掛けもそつがない(終盤に、二度どんでん返しがある)。もちろん文章も達者だ。が、個人的には最後の「謎解き」に至る迄のストーリーテリングに魅力を感じない。特に前半、基本的に時系列で語られる恋愛の顛末は、私の苦手な青春小説みたいで、いまいち芸がないように思う。恋人との関係も地味だし、友人達の肖像もぼんやり感がぬぐえない。要するに、大して印象的なエピソードがない。
ラストの「意外な真実」も、万人の共感を得る普遍的事例というより、言ってみればこの人々特有の事情だし、痛ましいには違いないが、三面記事的な話とも思える。やっぱりこの人の小説って、どうしても「仕掛け」優先のあざとさを感じてしまうなあ。私の先入観だろうか。
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