『ポアロのクリスマス』 アガサ・クリスティー ☆☆☆☆
黄金時代本格ミステリのマイブームはまだまだ続いている。『ポアロのクリスマス』を再読。
それほど有名じゃないけれども、クリスティーの中では結構好きな一篇。何度も読み返している。犯罪スレスレのことをして身代を築き上げた強欲じいさんのもとへ、クリスマスに家族・親戚たちがぞろぞろ集まってくる。中には、長いこと行方不明だった放蕩息子なんてのもいる。意地悪なじいさんは遺言状を書き換えるだなんだいけずを言って一波乱起こして楽しもうとしているのだが、案の定殺される。そこへ警察長官に依頼されたポアロがやってくる。
なぜ本書が好きなのか考えてみた。まず、犯罪が派手である。わざわざ冒頭でクリスティーが断っている通り、大量の血が流される血まみれの、強烈な殺人である。おまけにど真ん中ストレートの密室殺人、不可能犯罪だ。話が進めば進むほど不可能興味が横溢してくる。それからクリスマスの雰囲気がよろしい。ポアロは、一見博愛精神が行き渡るクリスマスこそ要注意、なぜなら憎み合っている人々がそれを隠して一つ屋根の下に集まり、仲が良いふりをし、必然的に抑圧が高まるから、と言うが、このさまざまな思惑を秘めて集まってくる家族たちという舞台設定が、心理描写を得意とするクリスティーの持ち味にぴったりはまる。それに訳者のあとがきに親切な解説があるが、本書には『クリスマス・キャロル』などのクリスマス意匠が驚くほどたくさんちりばめられていて、わくわくする雰囲気を盛り上げてくれる。
それからもちろん、ポアロの謎解きもいい。これはもともと謎が多い殺人で、たとえば密室殺人であるだけでなく密室にする理由がさっぱり分からないし、ひ弱な老人相手になぜあんな乱闘が必要だったか、現場に落ちていたゴムのきれっぱしは何かなど、ポアロも言うとおり不合理だらけである。それらが、最後のポアロの謎解きできれいに収束する。美しい。使われているトリックも意外と大技で、びっくりする。
『オリエント急行』や『アクロイド殺し』ほど有名じゃないが、クリスティーの美点がきっちりつまった佳作だと思う。少なくとも『愛国殺人』あたりよりいいと私は思う。クリスティーの有名どころを大体読んで、さて次は何を読もうかと迷っている人にお薦めする。
ところで、事件の前と後に、ポアロが友人である警察長官と一緒に暖炉の前に座ってお喋りする場面が出てくるが、「やっぱ冬は暖炉に限るな!」と言う友人に対し、いややっぱセントラルヒーティングの方が上っしょ、と内心で反論するポアロがおかしい。これで微笑ましく終わるのも、また本書のいいところである。
黄金時代本格ミステリのマイブームはまだまだ続いている。『ポアロのクリスマス』を再読。
それほど有名じゃないけれども、クリスティーの中では結構好きな一篇。何度も読み返している。犯罪スレスレのことをして身代を築き上げた強欲じいさんのもとへ、クリスマスに家族・親戚たちがぞろぞろ集まってくる。中には、長いこと行方不明だった放蕩息子なんてのもいる。意地悪なじいさんは遺言状を書き換えるだなんだいけずを言って一波乱起こして楽しもうとしているのだが、案の定殺される。そこへ警察長官に依頼されたポアロがやってくる。
なぜ本書が好きなのか考えてみた。まず、犯罪が派手である。わざわざ冒頭でクリスティーが断っている通り、大量の血が流される血まみれの、強烈な殺人である。おまけにど真ん中ストレートの密室殺人、不可能犯罪だ。話が進めば進むほど不可能興味が横溢してくる。それからクリスマスの雰囲気がよろしい。ポアロは、一見博愛精神が行き渡るクリスマスこそ要注意、なぜなら憎み合っている人々がそれを隠して一つ屋根の下に集まり、仲が良いふりをし、必然的に抑圧が高まるから、と言うが、このさまざまな思惑を秘めて集まってくる家族たちという舞台設定が、心理描写を得意とするクリスティーの持ち味にぴったりはまる。それに訳者のあとがきに親切な解説があるが、本書には『クリスマス・キャロル』などのクリスマス意匠が驚くほどたくさんちりばめられていて、わくわくする雰囲気を盛り上げてくれる。
それからもちろん、ポアロの謎解きもいい。これはもともと謎が多い殺人で、たとえば密室殺人であるだけでなく密室にする理由がさっぱり分からないし、ひ弱な老人相手になぜあんな乱闘が必要だったか、現場に落ちていたゴムのきれっぱしは何かなど、ポアロも言うとおり不合理だらけである。それらが、最後のポアロの謎解きできれいに収束する。美しい。使われているトリックも意外と大技で、びっくりする。
『オリエント急行』や『アクロイド殺し』ほど有名じゃないが、クリスティーの美点がきっちりつまった佳作だと思う。少なくとも『愛国殺人』あたりよりいいと私は思う。クリスティーの有名どころを大体読んで、さて次は何を読もうかと迷っている人にお薦めする。
ところで、事件の前と後に、ポアロが友人である警察長官と一緒に暖炉の前に座ってお喋りする場面が出てくるが、「やっぱ冬は暖炉に限るな!」と言う友人に対し、いややっぱセントラルヒーティングの方が上っしょ、と内心で反論するポアロがおかしい。これで微笑ましく終わるのも、また本書のいいところである。
クリスティ、私もぽつぽつと再読し始めていました。
『ポワロのクリスマス』は良いですよね。
クリスマスの雰囲気がよく出ていて、殺人事件なのに、どこかしら楽しく(?)ウキウキした気分になってしまいます。
また、いつもながら、女性の登場人物たちの造形や、夫婦関係の描き方の巧いこと。
ちょっとした所ですが、思わずニヤッとしたり、唸ってしまう箇所が多々あります。
ポワロがヒルダに何が分かったのか、と尋ねられて「あなたはいつも母親でなければならなかった、妻でいたいときにも」と返すところなどは、そういう返事か、と感心してしまいました。
リディア、マグダリーン、ピラールもそれぞれ味がありますし。
さすがクリスティだなあと改めて感じました。