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『愛国殺人』 アガサ・クリスティー ☆☆☆
クリスティーのミステリを再読。今回の趣向は、歯医者と患者たち。つまり、ある日ロンドンの歯医者を色んな人々が患者として訪れる。政治的な要人、突然歯が痛くなった中年婦人、謎のギリシャ人、凶暴な顔をした青年、そして世界的な名探偵エルキュール・ポアロも。その直後、歯医者が死ぬ。自殺か、他殺か。犯人は患者の中にいるのか、それとも…。
歯医者というアイデアは面白い。いつも得意げで自信満々なポアロも、さすがに歯医者の診察室では憂鬱そうである。が、事件はその後意外な方向へ展開していく。つまり保守派の要人が患者だったことから、過激派団体の暗殺とか、スパイとかいう話になってくるのである。ポアロが元情報局の人間と会ったりする。タイトルの『愛国殺人』はそのあたりに関わってくる。
クリスティーはスパイものもいくつか書いているらしいが、あまり興味がなくて読んだことがない。あの牧歌的でロマンティックな筆致とスパイものはミスマッチな気がするからである。まあ読んでないものをどうこう言っても仕方ないが、この『愛国殺人』も、政治的な背景を云々するあたりはあまり面白くなかった。政治ものやスパイものが嫌いなわけではないが、クリスティーが書くとなんだかおとなしくて食い足りない。持ち味が生かせないような気がする。
最後の謎解きは悪くはない。例によって、それまで前提となっていた事件の全体像がポアロの推理で覆る。ほんのちょっとした着眼点で事件の様相がガラっと変わってしまうのは、クリスティーのミステリならでは快感だ。また本書では殺人が三つ起きるのだが、それぞれの殺人の関係性や、関係者が提供したピースによって組み立てられるパズルはかなり複雑である。ポアロものの中ではかなり精緻な謎解きといっていいと思う。ポアロが真相解明の糸口としたある「気づき」も充分にリーズナブルで、そういう意味ではよく出来ている。が、クリスティーらしい情緒やロマンティシズムに欠けるせいか、印象の薄さは否めない。
歯医者と患者たちという初期設定の面白さがあまり生かされず、政治的・情報組織的色彩が濃くなるあたりで好みが分かれる作品だろう。
クリスティーのミステリを再読。今回の趣向は、歯医者と患者たち。つまり、ある日ロンドンの歯医者を色んな人々が患者として訪れる。政治的な要人、突然歯が痛くなった中年婦人、謎のギリシャ人、凶暴な顔をした青年、そして世界的な名探偵エルキュール・ポアロも。その直後、歯医者が死ぬ。自殺か、他殺か。犯人は患者の中にいるのか、それとも…。
歯医者というアイデアは面白い。いつも得意げで自信満々なポアロも、さすがに歯医者の診察室では憂鬱そうである。が、事件はその後意外な方向へ展開していく。つまり保守派の要人が患者だったことから、過激派団体の暗殺とか、スパイとかいう話になってくるのである。ポアロが元情報局の人間と会ったりする。タイトルの『愛国殺人』はそのあたりに関わってくる。
クリスティーはスパイものもいくつか書いているらしいが、あまり興味がなくて読んだことがない。あの牧歌的でロマンティックな筆致とスパイものはミスマッチな気がするからである。まあ読んでないものをどうこう言っても仕方ないが、この『愛国殺人』も、政治的な背景を云々するあたりはあまり面白くなかった。政治ものやスパイものが嫌いなわけではないが、クリスティーが書くとなんだかおとなしくて食い足りない。持ち味が生かせないような気がする。
最後の謎解きは悪くはない。例によって、それまで前提となっていた事件の全体像がポアロの推理で覆る。ほんのちょっとした着眼点で事件の様相がガラっと変わってしまうのは、クリスティーのミステリならでは快感だ。また本書では殺人が三つ起きるのだが、それぞれの殺人の関係性や、関係者が提供したピースによって組み立てられるパズルはかなり複雑である。ポアロものの中ではかなり精緻な謎解きといっていいと思う。ポアロが真相解明の糸口としたある「気づき」も充分にリーズナブルで、そういう意味ではよく出来ている。が、クリスティーらしい情緒やロマンティシズムに欠けるせいか、印象の薄さは否めない。
歯医者と患者たちという初期設定の面白さがあまり生かされず、政治的・情報組織的色彩が濃くなるあたりで好みが分かれる作品だろう。
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