アブソリュート・エゴ・レビュー

書籍、映画、音楽、その他もろもろの極私的レビュー。未見の人の参考になればいいなあ。

紙の空から

2007-05-12 08:41:24 | 
『紙の空から』 柴田元幸編   ☆☆☆☆

 旅にまつわる短篇小説を集めたアンソロジー。柴田元幸のセレクトなので例によってシュールで奇妙な短篇が多く、楽しめた。あと、色んなイラストレーターの描いた挿絵が入っている。

 気に入ったのは、まずジュディ・バドニッツ『道順』。この人の小説は初めてだったが、スピーディーな文体で描かれた遊戯的かつ詩的な短篇。ドナルド・バーセルミにちょっと似ている気がする。私の大好きなマーク・ストランドの短篇集のあとがきで村上春樹がイメージのすばやい移動とそのダイナミズムについて書いていたが、この人もそういうタイプの作家のようだ。ぴょんぴょん跳ね回るようないきのいい想像力が気持ちいい。

 それからジェーン・ガーダム『すすり泣く子供』。断片的なゴースト・ストーリーだが、ナンセンス性と抽象的なリリシズムがあって面白い。ただ、最後の一言の意味が分からなかった。誰か分かった人教えて下さい。

 スティーヴン・ミルハウザー『空飛ぶ絨毯』。なかなか新作が出ないミルハウザー、この短篇は本書を買った目的のひとつだった。子供時代のノスタルジーと空飛ぶ絨毯というガジェットが見事に融合した傑作。空飛ぶ絨毯に乗って空を飛ぶ際の細かい描写と、過ぎ去ってしまう子供時代の夢のようなはかなさきっちり描出されていて、いかにもミルハウザーらしい作品。

 ピーター・ケアリー『アメリカン・ドリームズ』。これもちょっとミルハウザーに肌合いが似た感じの短篇。ある町に住んでいる男が死に、町の人々は彼が作った町の精巧なミニチュアを発見する。それは人々に最初感動をもたらし、やがて災厄をもたらす。町のミニチュアというガジェットが話の核になっているのがミルハウザーっぽいが、そこにグリーソン氏が塀で敷地を囲んでしまうとか、彼が何に腹を立ててこのような行為をしたのかとか、奇妙でオフビートな話の進め方がこの作家らしい。この人は『どこにもない国―現代アメリカ幻想小説集』の中に収録されている『"Do You Love Me?"』もすごくいい。長編も出ているみたいだが読んだことはない。

 他の短篇もそれぞれ結構面白い。装丁もきれいで、内容に合ってる。


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