現状では、前原大臣も財務省側も「ちょっと手詰まりで困っている」というところではないかと思います。でも、減額しないと、現役従業員たちが大量にリストラされる上、年金支給の為に経営を圧迫するということになってしまうので(当然現役従業員たちの賃金も減らされるかもしれない)、年金受給者たちと現役従業員たちの不均衡は過酷になってしまうでしょう。
先日の毎日新聞に続いて、懲りずに今度は産経新聞が似たような記述をしているので、これから取り上げたいと思います。
>【イチから分かる】日本航空の年金問題 削減立法は財産権侵害か 13ページ - MSN産経ニュース
新聞記事中には、『法的整理となった場合でも、「強制的な年金削減が可能なのは、会社を清算する破産だけで、存続を前提とした民事再生法や会社更生法でも削減できない可能性が高い」(専門家)という。』と、まるで同じような部分があるのですね。喧嘩でも売られている気分ですよ(笑)。
専門家、って何故に「匿名さん」なのか疑問ではあるよね。ロイター記事みたいに、回答した人がどんな人(TMI法律事務所、とか)なのかを書けないというのは、どうしてなのかな?その専門家というのは、本当に専門家なのですか?
大体、JALの年金基金を解散できない、とまで言っていた専門家がいたらしいですが、それは事実でしたか?違ったでしょ。毎日新聞に書かれていたみたいな、確定給付型に移行したから(事実上)解散できない、なんてことはなかったでしょう?できるんですってば。
で、会社更生法では削減できない可能性が高い、って本当なんですか?そりゃまあ、債務超過の額が極めて小さければ、減額なんかしなくとも再建できるかもしれんね。共益債権に分類されない部分については、どうなるか判らんよね。優先的更生債権ではあるけれども、分配原資がどれくらい残るかによるでしょう。
1)企業年金が「賃金の後払い」なのか?
これは誰がそう言ったんでしょうか?必ずしも該当しないと思います。「賃金の後払い」としての性格というのは、そもそも退職金だったのではありませんか?
退職金というのは、「賃金の後払い」的な性格を有しているので、賃金同様に「できるだけ保護されるべき」というような考え方に基づくものでしょう。退職金規定を変えるなどの場合に、安易に事後的変更が行われると、特に、不利益変更である場合には、争議の素となってしまうよ、ということでしょう。労働債権として扱われるべき、というような考え方ということです。これはあくまで「退職金」についてです。
では、企業年金だとどうなのでしょうか(今は厚生年金基金は考えないものとします)。
JALの確定給付企業年金にも見られるように、「退職金の一部」を年金原資として充当(退職金受取額の割合は受給者ごとで変更できるのかも)し、そこから一定利率の上乗せ利息を払ってもらって年金として受取る、というものでしょう。そうすると、本来的に「退職金部分」というのは、年金原資に充当した額であり権利主張の可能な範囲もその部分についてのみだろうと思います。将来支払予定の「退職金の一部+利息部分」の全てについて、「退職金である」とか「賃金の後払いである」といった主張はできないものと考えます。
最高裁が不受理となって確定した松下電器産業の企業年金減額訴訟(因みに産経記事は間違っています。平成13年に確定と書かれていますが、デタラメです。本当は2007年5月23日(たぶん)です。それに請求棄却ではなく不受理ということみたいですよ?)における年金の仕組みも、これと似たような「退職金の一部を充当し、上乗せ金利を一緒に受取る」というものです。
平成18年11月28日判決の大阪高裁判例がこちら(高裁判決が出たのでさえ18年なのに、最高裁確定が13年に可能なわけなかろう?)
>平成17ネ3134福祉年金請求控訴事件
この中で、
『被控訴人ら会社の退職者は,その希望により,被控訴人の社員退職金規程に基づいて受け取った退職金(退職慰労金,退職加給金,特別慰労金)の一部を年金原資として被控訴人に預け入れ,被控訴人は,その預入金に一定の利率(以下「本件給付利率」という。)による利息を付け,年2回ずつ,一定の支給期間,これを退職者に支給する。これが本件基本年金である。年金原資として予定されているものは,退職金以外はなかった。本件基本年金は,預入金とこれに対する支給期間中の利息とを合算した額をもとにして,支給期間中の各支給日における支給額が均等になるように計算されており,被控訴人は,これを,毎年3月21日と9月21日(ただし,その日が公休日である場合には翌日が支給日となる。)の年2回支給する。』
となっており、原資は退職金以外なかった、ということです。毎日新聞や産経新聞の言うように、年金が賃金の後払いだというなら、松下の年金も減額できないことになるよ。違うでしょ。全部じゃないんだよ。
2)確定給付企業年金は減額できないのか?
確定給付型だから解散できない、というのは、ウソです。法令に合致していれば、解散できます。減額要件ですけれども、同意条件などは既に書いてきた通りです。
JALの企業年金は減額できるか?
JALの企業年金は減額できるか?~少し補足
JALの企業年金は減額できるか?~またまた続き
JALの企業年金は減額できるか?~コメントへの回答など
また条文を読んでいたら、偶然にも気づいたので、他の可能性について書いてみます。
厚生労働大臣が命令すれば、可能ではないかと思いますが、いかがでしょうか。
○確定給付企業年金法 第102条
厚生労働大臣は、前条の規定により報告を徴し、又は質問し、若しくは検査した場合において、事業主等の確定給付企業年金に係る事業の管理若しくは執行が法令、規約、若しくは厚生労働大臣の処分に違反していると認めるとき、事業主等の事業の管理若しくは執行が著しく適正を欠くと認めるとき、又は事業主若しくは基金の役員がその事業の管理若しくは執行を明らかに怠っていると認めるときは、期間を定めて、事業主又は基金若しくはその役員に対し、その事業の管理若しくは執行について違反の是正又は改善のため必要な措置をとるべき旨を命ずることができる。
2 厚生労働大臣は、規約型企業年金又は基金の健全な運営を確保するため必要があると認めるときは、期間を定めて、当該規約型企業年金に係る事業主又は基金に対し、その規約の変更を命ずることができる。
3 以下略
=====
この102条第2項規定を適用すると、基金の健全な運営を確保するため、必要があると認めるときは、期間を定めて(JAL年金)基金に対し規約変更を命ずることができる、ということになります。
JAL年金基金についてみますと、健全運営確保の為という合目的性は該当しますし、厚生労働大臣が必要があると認めるときという条件も当てはまりますから、規約変更を命ずることは可能と考えます。
4条第1項第5号の、給付の種類、受給要件、額の算定方法、給付方法(年金給付の支給期間及び支払期月を含む)に関する事項を規約で定めることが義務付けられています。この5号事項を厚生労働大臣命令によって変更させる、ということになります。
通常ですと、6条、16条等規定によって変更手続ということになるかと思いますが、102条第2項規定の発動においては、減額変更の要件(施行令、施行規則等による規定)には縛られないものと考えます。言ってみれば「オーバールール」適用、みたいなものですかね。
3)大臣命令は何らの制限を受けないか?
これがポイントになるかと思います。仮に、破産法適用とか会社更生法適用といった、かなりシビアな法令適用を回避するとしますと(これらは債権に対する法的拘束力が割りと強めだと思うので)、大臣命令が何でも絶対ということにはならないはずでしょう。これについては、法的な争いが発生する可能性はあるかもしれません。行政裁判なんかと似たようなものです。行政側の決定や命令が不服です、ということは有り得ますからね。
これを検討する上で、賃金や退職金等の変更についての要件と同等と見なして(一部退職金などを充当したりしますし)、考えてみたいと思います。過去に争点となったのは、就業規則とか労働協約の変更などについてですね。こうした論点については、労働関係の裁判で大筋の論点は出ています。
最高裁判例から、以下に抜粋してみます(最高裁HPの検索でpdfが出てきます)。
>平成4年(オ)第2122号最二小判、H.9.2.28
(便宜的に~の番号を割り振りしていますが、元の文にはありません。改行なき一連の文章です)
()新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されない。
()そして、右にいう当該規則条項が合理的なものであることは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい、特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。
()右の合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。
当方の理解として簡略化して書きますと、
()からは、就業規則新規作成又は変更によって、
ア:既得権を奪い不利益変更を一方的に課することは原則許されない
イ:労働条件の集合的処理、統一的、画一的決定が就業規則の性質
ウ:規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者が同意しないからといって適用拒否は不可
()からは、規則条項が合理的というのは、
エ:必要性、内容両面で「法的規範性を是認できうるだけの合理性」を有するものであること
オ:その際、労働者の被る不利益程度を考慮せよ
カ:賃金、退職金等や労働条件の実質的不利益を及ぼす規則条項が効力を生ずるのは条件を満たす場合だけ
キ:その条件とは、不利益を法的に受忍させるを許容できるくらいの高度の必要性と合理的内容があるもの
()から、具体的に考慮するべき点として次のものがある。
①労働者が被る不利益の程度
②使用者側の変更の必要性の内容・程度
③変更後の就業規則の内容自体の相当性
④代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
⑤労働組合等との交渉の経緯
⑥他の労働組合又は他の従業員の対応
⑦同種事項に関する我が国社会における一般的状況等
つまりは、ア~キを考える上で、①~⑦のことをよく検討して、総合的に判断しなさい、ということです。賃金や退職金のような重要な権利といえども、途中からの不利益変更が必ずしも認められないというわけではなく、高度の必要性と合理的内容であれば是認される場合も有る、ということです。勿論、原則的には相手方(労働者)に対して一方的に不利益変更を法的規範性をもって受忍させることは慎むべきで、これが例外的に認められるとすれば条件を満たす場合のみです、ということです。
(※ところで、ウは「俺は変更プランに賛成したわけじゃない、だから他の大多数のヤツラが賛成してもそいつらだけに適用し、俺には適用すんな」というような主張は認め難い、ということです。同意、不同意が個別に見ればまだらであっても、大多数が賛同したのであれば適用は受けますよ、と。普通の法律なんかと一緒ですね。法案成立にいくら「俺は反対したんだ」といったって、法が成立してしまえば「反対したから適用を拒否できる」なんてことにはならないもんね。年金規約とか改廃規定なども同じようなもの、ということかと。)
これらに関する重要な判例としては、判決中にあったものを挙げると以下のものがあります。
(昭和40年(オ)第145号最大判、S.43.12.25)
(昭和55年(オ)第379号最二小判、S.58.11.25)
(昭和55年(オ)第969号最二小判、S.58.11.25)
(昭和60年(オ)第104号最三小判、S.63.2.16)
(平成3年(オ)第581号最二小判、H.4.7.13)
(平成5年(オ)第650号最三小判、H.8.3.26)
従って、賃金や退職金という権利であったとしても、減額変更は不可能ではない、ということになりますので、年金原資に退職金を充当するような場合であれば、当然それに準ずると考えることは可能でありましょう。ただ、102条第2項規定による大臣命令である場合であっても、一方的不利益変更には注意を要するということになり、上記①~⑦の要件についてはクリアするべきものと考えてよいのではないかと思います。
4)JAL年金基金における不利益変更の要件の検討
(以下の「就業規則」という部分は、年金規約と読み替えて下さい)
①労働者が被る不利益の程度:
年金受給者に予定利率引下げ同意が得られない場合、受給者ばかりではなく現役従業員たちが会社倒産などの大きな不利益を被ることになります。会社更生法適用となれば、年金受給権者の債権すら共益債権部分以外は回収が困難になる可能性を否定できません。減額が不同意となれば、受給者だけではなく、加入者にも多大な不利益が及ぶことになります。
②使用者側の変更の必要性の内容・程度:
資金調達できないと会社倒産の可能性があり、年金減額の必要性は高度です。会社存続の危機ですので。
③変更後の就業規則の内容自体の相当性:
予定利率を4.5%から例えば1.5%に引下げられたとしても受取退職金そのものが失われるわけではありません。
④代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況:
受給者にとっては定かではありません。が、現役従業員である加入者たちの多くが救われることになります。
⑤労働組合等との交渉の経緯:
会社側が交渉したりしましたが、厚生労働省が音頭を取って労組やOB団体と会社を含めた交渉テーブルを早急にセットするべきでしょう。年金受給者たちは「断りもなしに勝手に削るな」という反発が強いのだと思いますし、お願いしない姿勢というのがそもそも気に入らないということはあるかもしれません。前原大臣と例のタスクフォースみたいに、いきなり大上段から強権でやる、という、あの姿勢こそが気に入らないのだということでは(笑)。
⑥他の労働組合又は他の従業員の対応:
OBだけの問題ではないので、⑤に書いたように、労組や非労組職員(非正規職員も大勢いると思います)の意見なども一緒に聞くべきでしょう。
⑦同種事項に関する我が国社会における一般的状況等:
会社存続ができるかどうかの瀬戸際ですし、年金減額ができない(乃至削減できない可能性が高い)などという産経新聞や毎日新聞の記事中に出てくるような「専門家」の言うことを聞いてやっていては、話にならんでしょうな。松下、りそな、早大等の裁判例があるのですし、企業経営が窮地に追い込まれる、現役従業員(加入者)に多大なしわ寄せと負担が行くことになるので既受給者たちとの不均衡が著しく拡大する、などの問題がありますから、減額決定も止むを得ないということはあると思います。
以上のことから、改めて、減額できないことはない、と申し上げたいと思います。
更には、102条第2項規定適用で「規約変更命令」を発動するべし、ということを提案したいと思います。
先日の毎日新聞に続いて、懲りずに今度は産経新聞が似たような記述をしているので、これから取り上げたいと思います。
>【イチから分かる】日本航空の年金問題 削減立法は財産権侵害か 13ページ - MSN産経ニュース
新聞記事中には、『法的整理となった場合でも、「強制的な年金削減が可能なのは、会社を清算する破産だけで、存続を前提とした民事再生法や会社更生法でも削減できない可能性が高い」(専門家)という。』と、まるで同じような部分があるのですね。喧嘩でも売られている気分ですよ(笑)。
専門家、って何故に「匿名さん」なのか疑問ではあるよね。ロイター記事みたいに、回答した人がどんな人(TMI法律事務所、とか)なのかを書けないというのは、どうしてなのかな?その専門家というのは、本当に専門家なのですか?
大体、JALの年金基金を解散できない、とまで言っていた専門家がいたらしいですが、それは事実でしたか?違ったでしょ。毎日新聞に書かれていたみたいな、確定給付型に移行したから(事実上)解散できない、なんてことはなかったでしょう?できるんですってば。
で、会社更生法では削減できない可能性が高い、って本当なんですか?そりゃまあ、債務超過の額が極めて小さければ、減額なんかしなくとも再建できるかもしれんね。共益債権に分類されない部分については、どうなるか判らんよね。優先的更生債権ではあるけれども、分配原資がどれくらい残るかによるでしょう。
1)企業年金が「賃金の後払い」なのか?
これは誰がそう言ったんでしょうか?必ずしも該当しないと思います。「賃金の後払い」としての性格というのは、そもそも退職金だったのではありませんか?
退職金というのは、「賃金の後払い」的な性格を有しているので、賃金同様に「できるだけ保護されるべき」というような考え方に基づくものでしょう。退職金規定を変えるなどの場合に、安易に事後的変更が行われると、特に、不利益変更である場合には、争議の素となってしまうよ、ということでしょう。労働債権として扱われるべき、というような考え方ということです。これはあくまで「退職金」についてです。
では、企業年金だとどうなのでしょうか(今は厚生年金基金は考えないものとします)。
JALの確定給付企業年金にも見られるように、「退職金の一部」を年金原資として充当(退職金受取額の割合は受給者ごとで変更できるのかも)し、そこから一定利率の上乗せ利息を払ってもらって年金として受取る、というものでしょう。そうすると、本来的に「退職金部分」というのは、年金原資に充当した額であり権利主張の可能な範囲もその部分についてのみだろうと思います。将来支払予定の「退職金の一部+利息部分」の全てについて、「退職金である」とか「賃金の後払いである」といった主張はできないものと考えます。
最高裁が不受理となって確定した松下電器産業の企業年金減額訴訟(因みに産経記事は間違っています。平成13年に確定と書かれていますが、デタラメです。本当は2007年5月23日(たぶん)です。それに請求棄却ではなく不受理ということみたいですよ?)における年金の仕組みも、これと似たような「退職金の一部を充当し、上乗せ金利を一緒に受取る」というものです。
平成18年11月28日判決の大阪高裁判例がこちら(高裁判決が出たのでさえ18年なのに、最高裁確定が13年に可能なわけなかろう?)
>平成17ネ3134福祉年金請求控訴事件
この中で、
『被控訴人ら会社の退職者は,その希望により,被控訴人の社員退職金規程に基づいて受け取った退職金(退職慰労金,退職加給金,特別慰労金)の一部を年金原資として被控訴人に預け入れ,被控訴人は,その預入金に一定の利率(以下「本件給付利率」という。)による利息を付け,年2回ずつ,一定の支給期間,これを退職者に支給する。これが本件基本年金である。年金原資として予定されているものは,退職金以外はなかった。本件基本年金は,預入金とこれに対する支給期間中の利息とを合算した額をもとにして,支給期間中の各支給日における支給額が均等になるように計算されており,被控訴人は,これを,毎年3月21日と9月21日(ただし,その日が公休日である場合には翌日が支給日となる。)の年2回支給する。』
となっており、原資は退職金以外なかった、ということです。毎日新聞や産経新聞の言うように、年金が賃金の後払いだというなら、松下の年金も減額できないことになるよ。違うでしょ。全部じゃないんだよ。
2)確定給付企業年金は減額できないのか?
確定給付型だから解散できない、というのは、ウソです。法令に合致していれば、解散できます。減額要件ですけれども、同意条件などは既に書いてきた通りです。
JALの企業年金は減額できるか?
JALの企業年金は減額できるか?~少し補足
JALの企業年金は減額できるか?~またまた続き
JALの企業年金は減額できるか?~コメントへの回答など
また条文を読んでいたら、偶然にも気づいたので、他の可能性について書いてみます。
厚生労働大臣が命令すれば、可能ではないかと思いますが、いかがでしょうか。
○確定給付企業年金法 第102条
厚生労働大臣は、前条の規定により報告を徴し、又は質問し、若しくは検査した場合において、事業主等の確定給付企業年金に係る事業の管理若しくは執行が法令、規約、若しくは厚生労働大臣の処分に違反していると認めるとき、事業主等の事業の管理若しくは執行が著しく適正を欠くと認めるとき、又は事業主若しくは基金の役員がその事業の管理若しくは執行を明らかに怠っていると認めるときは、期間を定めて、事業主又は基金若しくはその役員に対し、その事業の管理若しくは執行について違反の是正又は改善のため必要な措置をとるべき旨を命ずることができる。
2 厚生労働大臣は、規約型企業年金又は基金の健全な運営を確保するため必要があると認めるときは、期間を定めて、当該規約型企業年金に係る事業主又は基金に対し、その規約の変更を命ずることができる。
3 以下略
=====
この102条第2項規定を適用すると、基金の健全な運営を確保するため、必要があると認めるときは、期間を定めて(JAL年金)基金に対し規約変更を命ずることができる、ということになります。
JAL年金基金についてみますと、健全運営確保の為という合目的性は該当しますし、厚生労働大臣が必要があると認めるときという条件も当てはまりますから、規約変更を命ずることは可能と考えます。
4条第1項第5号の、給付の種類、受給要件、額の算定方法、給付方法(年金給付の支給期間及び支払期月を含む)に関する事項を規約で定めることが義務付けられています。この5号事項を厚生労働大臣命令によって変更させる、ということになります。
通常ですと、6条、16条等規定によって変更手続ということになるかと思いますが、102条第2項規定の発動においては、減額変更の要件(施行令、施行規則等による規定)には縛られないものと考えます。言ってみれば「オーバールール」適用、みたいなものですかね。
3)大臣命令は何らの制限を受けないか?
これがポイントになるかと思います。仮に、破産法適用とか会社更生法適用といった、かなりシビアな法令適用を回避するとしますと(これらは債権に対する法的拘束力が割りと強めだと思うので)、大臣命令が何でも絶対ということにはならないはずでしょう。これについては、法的な争いが発生する可能性はあるかもしれません。行政裁判なんかと似たようなものです。行政側の決定や命令が不服です、ということは有り得ますからね。
これを検討する上で、賃金や退職金等の変更についての要件と同等と見なして(一部退職金などを充当したりしますし)、考えてみたいと思います。過去に争点となったのは、就業規則とか労働協約の変更などについてですね。こうした論点については、労働関係の裁判で大筋の論点は出ています。
最高裁判例から、以下に抜粋してみます(最高裁HPの検索でpdfが出てきます)。
>平成4年(オ)第2122号最二小判、H.9.2.28
(便宜的に~の番号を割り振りしていますが、元の文にはありません。改行なき一連の文章です)
()新たな就業規則の作成又は変更によって労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として許されないが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由として、その適用を拒むことは許されない。
()そして、右にいう当該規則条項が合理的なものであることは、当該就業規則の作成又は変更が、その必要性及び内容の両面からみて、それによって労働者が被ることになる不利益の程度を考慮しても、なお当該労使関係における当該条項の法的規範性を是認することができるだけの合理性を有するものであることをいい、特に、賃金、退職金など労働者にとって重要な権利、労働条件に関し実質的な不利益を及ぼす就業規則の作成又は変更については、当該条項が、そのような不利益を労働者に法的に受忍させることを許容することができるだけの高度の必要性に基づいた合理的な内容のものである場合において、その効力を生ずるものというべきである。
()右の合理性の有無は、具体的には、就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、使用者側の変更の必要性の内容・程度、変更後の就業規則の内容自体の相当性、代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、労働組合等との交渉の経緯、他の労働組合又は他の従業員の対応、同種事項に関する我が国社会における一般的状況等を総合考慮して判断すべきである。
当方の理解として簡略化して書きますと、
()からは、就業規則新規作成又は変更によって、
ア:既得権を奪い不利益変更を一方的に課することは原則許されない
イ:労働条件の集合的処理、統一的、画一的決定が就業規則の性質
ウ:規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者が同意しないからといって適用拒否は不可
()からは、規則条項が合理的というのは、
エ:必要性、内容両面で「法的規範性を是認できうるだけの合理性」を有するものであること
オ:その際、労働者の被る不利益程度を考慮せよ
カ:賃金、退職金等や労働条件の実質的不利益を及ぼす規則条項が効力を生ずるのは条件を満たす場合だけ
キ:その条件とは、不利益を法的に受忍させるを許容できるくらいの高度の必要性と合理的内容があるもの
()から、具体的に考慮するべき点として次のものがある。
①労働者が被る不利益の程度
②使用者側の変更の必要性の内容・程度
③変更後の就業規則の内容自体の相当性
④代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況
⑤労働組合等との交渉の経緯
⑥他の労働組合又は他の従業員の対応
⑦同種事項に関する我が国社会における一般的状況等
つまりは、ア~キを考える上で、①~⑦のことをよく検討して、総合的に判断しなさい、ということです。賃金や退職金のような重要な権利といえども、途中からの不利益変更が必ずしも認められないというわけではなく、高度の必要性と合理的内容であれば是認される場合も有る、ということです。勿論、原則的には相手方(労働者)に対して一方的に不利益変更を法的規範性をもって受忍させることは慎むべきで、これが例外的に認められるとすれば条件を満たす場合のみです、ということです。
(※ところで、ウは「俺は変更プランに賛成したわけじゃない、だから他の大多数のヤツラが賛成してもそいつらだけに適用し、俺には適用すんな」というような主張は認め難い、ということです。同意、不同意が個別に見ればまだらであっても、大多数が賛同したのであれば適用は受けますよ、と。普通の法律なんかと一緒ですね。法案成立にいくら「俺は反対したんだ」といったって、法が成立してしまえば「反対したから適用を拒否できる」なんてことにはならないもんね。年金規約とか改廃規定なども同じようなもの、ということかと。)
これらに関する重要な判例としては、判決中にあったものを挙げると以下のものがあります。
(昭和40年(オ)第145号最大判、S.43.12.25)
(昭和55年(オ)第379号最二小判、S.58.11.25)
(昭和55年(オ)第969号最二小判、S.58.11.25)
(昭和60年(オ)第104号最三小判、S.63.2.16)
(平成3年(オ)第581号最二小判、H.4.7.13)
(平成5年(オ)第650号最三小判、H.8.3.26)
従って、賃金や退職金という権利であったとしても、減額変更は不可能ではない、ということになりますので、年金原資に退職金を充当するような場合であれば、当然それに準ずると考えることは可能でありましょう。ただ、102条第2項規定による大臣命令である場合であっても、一方的不利益変更には注意を要するということになり、上記①~⑦の要件についてはクリアするべきものと考えてよいのではないかと思います。
4)JAL年金基金における不利益変更の要件の検討
(以下の「就業規則」という部分は、年金規約と読み替えて下さい)
①労働者が被る不利益の程度:
年金受給者に予定利率引下げ同意が得られない場合、受給者ばかりではなく現役従業員たちが会社倒産などの大きな不利益を被ることになります。会社更生法適用となれば、年金受給権者の債権すら共益債権部分以外は回収が困難になる可能性を否定できません。減額が不同意となれば、受給者だけではなく、加入者にも多大な不利益が及ぶことになります。
②使用者側の変更の必要性の内容・程度:
資金調達できないと会社倒産の可能性があり、年金減額の必要性は高度です。会社存続の危機ですので。
③変更後の就業規則の内容自体の相当性:
予定利率を4.5%から例えば1.5%に引下げられたとしても受取退職金そのものが失われるわけではありません。
④代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況:
受給者にとっては定かではありません。が、現役従業員である加入者たちの多くが救われることになります。
⑤労働組合等との交渉の経緯:
会社側が交渉したりしましたが、厚生労働省が音頭を取って労組やOB団体と会社を含めた交渉テーブルを早急にセットするべきでしょう。年金受給者たちは「断りもなしに勝手に削るな」という反発が強いのだと思いますし、お願いしない姿勢というのがそもそも気に入らないということはあるかもしれません。前原大臣と例のタスクフォースみたいに、いきなり大上段から強権でやる、という、あの姿勢こそが気に入らないのだということでは(笑)。
⑥他の労働組合又は他の従業員の対応:
OBだけの問題ではないので、⑤に書いたように、労組や非労組職員(非正規職員も大勢いると思います)の意見なども一緒に聞くべきでしょう。
⑦同種事項に関する我が国社会における一般的状況等:
会社存続ができるかどうかの瀬戸際ですし、年金減額ができない(乃至削減できない可能性が高い)などという産経新聞や毎日新聞の記事中に出てくるような「専門家」の言うことを聞いてやっていては、話にならんでしょうな。松下、りそな、早大等の裁判例があるのですし、企業経営が窮地に追い込まれる、現役従業員(加入者)に多大なしわ寄せと負担が行くことになるので既受給者たちとの不均衡が著しく拡大する、などの問題がありますから、減額決定も止むを得ないということはあると思います。
以上のことから、改めて、減額できないことはない、と申し上げたいと思います。
更には、102条第2項規定適用で「規約変更命令」を発動するべし、ということを提案したいと思います。