連日乱高下が繰り返される株式市場であるが、米国の輸入関税がどれ程の影響度があるのか少し考えてみたい。
まず、米国の2024年の財輸入額を並べると、
1Q 9917 億ドル
2Q 10116
3Q 8372
4Q 8453
通年 3兆6858億ドル (うち貿易赤字額は約1.2兆ドル程度?)
GDP統計では、輸入寄与度が「-0.7%」、純輸出で「-0.4%」とされ、名目GDP約29兆ドルなら「1.16兆ドル」となって概ね近い水準かな?
1期目のトランプ政権で対中国関税措置が実行された結果、輸入相手国のシェアは1位が中国からメキシコに変化した。今回のトランプ関税はその延長線上と言ってよいだろう。
輸入額のGDPに占める割合は約12.7%にすぎず、これが小売販売額となるとGDPの数倍は多い金額となるはずで、輸入財の占有率は更に低下する。
簡単に例で書くと
輸入原価 60
人件費 20
その他販管費 10
利潤 10
販売価格 100
ここで関税40%が課せられ、全て輸入原価に転嫁されたとすると、原価は84(+24)となるので、販売価格は+24となる。
つまり、店頭の消費者が負担する価格で見れば「100」→「124」と+24%の影響度に低下するということ。
これは、例えば日本の野菜価格高騰や米価の高騰で生じた「物価上昇の変化率」の方がずっと大きいことが分かる。他にも、円安やエネルギー価格上昇による輸入物価の上昇率は、日本がこの3年で経験した物価指数の上昇の方が大きいのである。
一般に、価格が大幅に上昇すると需要量は減少するだろう。代替不可能とかの特殊な財以外は価格上昇で需要が減るなら、輸入の数量減少をもたらすので、輸入額にマイナス寄与となろう。
すなわち、関税によって販売価格が上昇するなら、需要減少を招くことで輸入の総額が一方的に増加することは少ないだろう、ということである。
仮に、輸入物価上昇によっても数量減少効果が発現しなかったとして、米国の輸入額約3.7兆ドルに平均関税率50%が課せられて全て価格転嫁されたとして、輸入額が5.55兆ドル(+1.85兆ドル増加)となる。
名目GDPの増加額を見ると、2023年の27.72兆ドル→24年29.17兆ドルと+1.45兆ドルであり、関税転嫁の輸入増加額1.85兆ドルを負担できないとは考え難い。つまり、インフレ率上昇にとって関税分のコスト増加分が吸収可能であろう、ということ。
これは需要減少が全く起こらない場合を想定している数字なので、数量減少が起これば更に輸入額は減少する。米国経済の中で、輸入物価上昇分のコストは吸収可能だろう、ということです。
24年は米国の輸出額は減少だったが、輸入財を加工するなどして製品化して輸出する場合、原材料コストを転嫁するだろうから、輸入増による純輸出の改善に繋がる可能性もあるかもしれない。
また、米国政府が関税引き上げで得るであろう税収は、どうなるのか?
借金返済に消えるかもしれないが、「輸入品に対する消費税(or VAT )」はGDP統計に対し中立だと言ってなかったか?(笑)
だとすると、関税率が上がったとて形式的には「輸入品に対する消費税」と同じく作用するのが関税なのだから、経済に対してはあくまで「中立」になるのでは?
それなのに、株式市場などが「景気悪化だ、経済崩壊だ」みたいになって、株価が暴落したり国債金利が急騰したりというのも、変な話だと思いませんか?
だったら、輸入品に対する消費税は景気を悪化させGDP成長率を引き下げる、という事実を認めるべきでは?
そんなに言うほど、関税が破壊的威力を有するとも思えないわけですよ。それは市場操作を意図する側の「都合のいい口実」の可能性すらあるのでは?
まあ、実体経済は理屈とは異なる反応や結果というのもあるとは思うので、関税引き上げ後の経済活動を見てみないと結果は分からないわけですが、トランプ政権1期目の対中国関税の引上げで世界経済が破滅したかと言えば、そんなことは全然なかったわけで。
それから、トランプ関税だけ脚光を浴びてるが、バイデン政権の時からUSTR は中国その他に対する「関税率の引上げ」は予定されていたわけで、その当時には今のような「米国経済だけじゃなく世界経済の破局だ」みたいな話は一切出てなかったと思うんですよね。それってどうしてでしょう?
例えば
>https://www.fastmarkets.com/insights/biden-hikes-tariffs-on-chinese-imports-steel-aluminium-electric-vehicles-among-sectors-targeted/
『
・Steel and aluminium: The tariff rate on certain steel and aluminum products under Section 301 will increase from 0-7.5% to 25% in 2024.
・Semiconductors: The tariff rate on semiconductors will increase from 25% to 50% by 2025.
・Electric vehicles (EVs): The tariff rate on electric vehicles under Section 301 will increase from 25% to 100% in 2024.
・Batteries, battery components and parts, and critical minerals: The tariff rate on lithium-ion EV batteries will increase from 7.5%% to 25% in 2024, while the tariff rate on lithium-ion non-EV batteries will increase from 7.5% to 25% in 2026. The tariff rate on battery parts will increase from 7.5% to 25% in 2024. 』
このように引上げ時期の違いや関税率もトランプ関税とは違うけれども、バイデン時代から引上げを予定していた物品や相手国は既に決まっていた、ということだ。トランプ関税を批判するなら、どうしてバイデン政権時代から同じく「関税引き上げは悪」と徹底攻撃し、USTRへの批判をしてこなかったのだろうか?
むしろ産業界からも好意的に支持されている、とか言ってたわけでしょう?
それなら、今の市場混乱の意味が分からないのだが?
当時から経済破壊だと言って、大幅下落になってないとおかしいのでは?
こちら24年9月のバイデン政権による対中国への高関税引き上げ措置は、今のような大混乱を招いていなかったでしょう?
>https://www.reuters.com/business/us-locks-steep-china-tariff-hikes-many-start-sept-27-2024-09-13/
『 The USTR determination, opens new tab, published on Friday and first reported by Reuters, showed that a 50% duty on Chinese semiconductors, now including two new categories - silicon wafers and polysilicon used in solar panels - is due to start in 2025.
The action, which marks the end of a more than two-year review of tariffs that had been imposed by former president Donald Trump, mostly left unchanged the top-line duty increases announced in May by President Joe Biden. These include a new 25% tariff on lithium-ion batteries, minerals and components, with those for EVs taking effect on Sept. 27, and those for all other devices on Jan. 1, 2026. 』
(google翻訳)
USTRの決定は金曜日に公表され、ロイター通信が最初に報じたところによると、中国製半導体への50%の関税は2025年に開始される予定で、シリコンウエハーと太陽光パネルに使用されるポリシリコンという2つの新カテゴリーが追加された。
ドナルド・トランプ前大統領によって課された関税の2年以上にわたる見直しの終了を示す今回の措置は、ジョー・バイデン大統領が5月に発表した最高レベルの関税引き上げをほぼ据え置いたものだった。これにはリチウムイオン電池、鉱物、部品への新たな25%の関税が含まれており、EV向けは9月27日、その他のすべてのデバイスは2026年1月1日に発効する。
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トランプ政権がこれら税率や相手国を変更したという意味合いであり、高関税を課すという政策決定はバイデン民主党政権も同じだったじゃないですか。
なのに、どうして当時から「馬鹿阿呆マヌケ」とバイデン大統領を徹底批判しなかったのですか?
関税引き上げが米国経済を破滅の淵に追いやるなら、24年9月に株式市場の下落が始まっても良さそうなのに。特別反対してた人々を見かけた記憶はないですが?
株価はむしろ上がって行った(笑)。
それは恐らく「関税が少々上がった程度では、実体経済に大きな影響を及ぼさないだろう」という見通しだったからなのでは?
それなのに、トランプ政権になった途端に「株価が暴落するほどの影響を与え、経済はリセッションに至る」と考えるようになるのは、どういう理屈でそうなるのかな?
そんなに言うほど、米国の輸入ウェイトが大きいとも思えず、関税分の物価上昇にしても販売価格・売上高に占める割合がべら棒に高くなるとも思われないのである。