いい国作ろう!「怒りのぶろぐ」

オール人力狙撃システム試作機

JALの企業年金は減額できるか?

2009年10月30日 16時18分23秒 | 法関係
これまでにも、何度も書いてきた通りに、拙ブログの結論としては「減額できる」というものである。
日本の法学関係者?なのか、一部弁護士の解説なのか不明であるが、どうも「でまかせ」的な解説が広まっているようであるが、それは誰に聞いたのか?本当なのだろうか?
法科大学院の惨状が指摘されている昨今、法学教育が心配ですな。

あくまで法学素人の私見であるが、書いてみる。

ありがちな解説、よく流通している説がこれ>日本航空:再建問題 年金が焦点 積み立て不足3314億円、再建を左右 - 毎日jp毎日新聞

(以下に一部引用)

企業年金は賃金の後払いの性格があるため、受給権は強力に保護されている。法的整理の場合も、強制的に減額が可能なのは破産だけで、民事再生法や会社更生法では減額されない可能性が高い。また、企業年金の解散は、確定給付型に移行した日航では事実上困難。こうした事情から、政府内の一部には年金受給額を強制減額する特別立法を模索する動きもあるが、財産権の侵害になりかねないため慎重論が強い。
=====


このような解説がマスコミに大体行き渡っているわけです。他の新聞なんかでも似たようなものなんですね。これは、一体どこの誰が言ったのですか?
もし専門家がそう述べたとか、解説したということなら、出典を明らかにしてもらいたいもんですね。
日航の年金は、どうやら確定給付型企業年金ということらしいです。これについて検討してみますから。

まあ、順に見てゆくことにするよ。


(1)確定給付型企業年金は減額不可能か?

いいえ、減額可能です。
ただ、それには一定の条件が課されているのであって、その条件のクリアは「ハードルが低いものではない」というだけです。これは、労働条件変更にほぼ準ずる性格のものとして考えられているからであろうと思われます。確定給付型企業年金は一部労働対価という観念が存在している為であろうと思われます。具体的には、法の定めによる、ということになります。

確定給付企業年金法第6条で規約変更の規定があり、同施行令に次の規定があります。


確定給付企業年金法施行令(平成十三年十二月二十一日政令第四百二十四号)
○第4条

二 加入者等の確定給付企業年金の給付(以下「給付」という。)の額を減額することを内容とする確定給付企業年金に係る規約(以下「規約」という。)の変更をしようとするときは、当該規約の変更の承認の申請が、当該規約の変更をしなければ確定給付企業年金の事業の継続が困難となることその他の厚生労働省令で定める理由がある場合において、厚生労働省令で定める手続を経て行われるものであること。


つまり、決められた手続に則り規約変更して厚生労働省に承認されると、減額変更は可能である、ということです。具体的には、同施行規則にあります。


確定給付企業年金法施行規則(平成十四年三月五日厚生労働省令第二十二号)

○第5条  
令第四条第二号 の厚生労働省令で定める理由は、次のとおりとする。ただし、加入者である受給権者(給付を受ける権利(以下「受給権」という。)を有する者をいう。以下同じ。)及び加入者であった者(以下「受給権者等」という。)の給付(加入者である受給権者にあっては、当該受給権に係る給付に限る。)の額を減額する場合にあっては、第二号及び第三号に掲げる理由とする。

一  確定給付企業年金を実施する厚生年金適用事業所(以下「実施事業所」という。)において労働協約等が変更され、その変更に基づき給付の設計の見直しを行う必要があること。

二  実施事業所の経営の状況が悪化したことにより、給付の額を減額することがやむを得ないこと。

三  給付の額を減額しなければ、掛金の額が大幅に上昇し、事業主が掛金を拠出することが困難になると見込まれるため、給付の額を減額することがやむを得ないこと。

(以下略)


日航の場合には、上記各号に適合すると考えるのは十分可能です。特に、経営破綻危機状況ですので2号規定は問題なく、給付水準を保つとすれば職員の大量リストラで掛金の大幅上昇の可能性が高いので3号も要件に該当します。なので、減額理由の合理性は十分と考えてよいと思います。

また、手続は、同6条に規定されています。


○第六条  
令第四条第二号 の厚生労働省令で定める手続は、次のとおりとする。

一  規約の変更についての次の同意を得ること。

イ 加入者(給付の額の減額に係る受給権者を除く。以下この号及び次項において同じ。)の三分の一以上で組織する労働組合があるときは、当該労働組合の同意

ロ 加入者の三分の二以上の同意(ただし、加入者の三分の二以上で組織する労働組合があるときは、当該労働組合の同意をもって、これに代えることができる。)

二  受給権者等の給付の額を減額する場合にあっては、次に掲げる手続を経ること。

イ 給付の額の減額について、受給権者等の三分の二以上の同意を得ること。

ロ 受給権者等のうち希望する者に対し、給付の額の減額に係る規約の変更が効力を有することとなる日を法第六十条第三項 に規定する事業年度の末日とみなし、かつ、当該規約の変更による給付の額の減額がないものとして同項 の規定に基づき算定した当該受給権者等に係る最低積立基準額を一時金として支給することその他の当該最低積立基準額が確保される措置を講じていること。


つまり、1号規定では規約変更同意の条件(加入者or労組)、2号規定では「受給権者等の3分の2」ルールと更には最低積立基準額確保の措置、といったことです。これらが満たされていれば、減額は可能、ということです。今から別な法律を立法せずとも、現行法内でも減額可能ということです。
これら施行令及び施行規則以外には、実務上のガイドライン的な行政側の疑義解釈としては、「年発第0329008号(H14.3.29)」や「年発0530001号(H15.5.30)」などがあります(所謂「通知」というやつですな)。

ですので、確定給付企業年金であっても減額は可能です。ただし、JALの場合には、最後の規約変更が08年に行われており、その前にも代行返上やJASとの合併などの変更が度重なってきているので、またか、という面は否めません。上記厚労省通知では、概ね5年以上経過してから変更しろよ、という文言があるので厚労省側が「規約変更は認められません、ガイドラインに反するから」と拒否すれば変更できなくなります。しかし、これは絶対的な基準でもなく法でもないので、実務上の留意点ということで今回の特例的取扱いということにすれば、変更は可能です。

これには、加入者及び受給権者の同意が欠かせないのは当然なのですけれどもね。これは次項以降でも触れたいと思います。


(2)会社更生法適用でも、既受給者の年金は守られるのか?

いいえ、必ずしもそうではありません。
確定給付企業年金は「給与の一部である」、とか「退職金の一部である」といった主張があり、仮にそれを認めたとしても、「全額が保護されているということにはなりません」。

毎日新聞の記事にあったような、「強力に保護されている」ということにはなりません。保護されているには違いありませんが、強力かどうかは別問題です(笑)。ましてや、破産だけが減額可能で、「会社更生法では減額されない可能性が高い」ということになるかどうかは疑問でしょう。


結論から言えば、従業員給与の場合には「開始決定前6ヶ月分」が共益債権として保護されます。それを超過する部分は優先的更生債権です。開始決定前に退職した場合の未払退職金についても、「給与6ヶ月分か退職金の3分の1」の多い方が共益債権として保護されますが、それを超える部分は同じく優先的更生債権となります。
年金のような定期金も同じく、定期金の3分の1相当額が共益債権であり、それを超える部分は優先的更生債権となります。条文で確認してみますと、次の通り。


○会社更生法 第130条  

株式会社について更生手続開始の決定があった場合において、更生手続開始前六月間の当該株式会社の使用人の給料の請求権及び更生手続開始前の原因に基づいて生じた当該株式会社の使用人の身元保証金の返還請求権は、共益債権とする。

2  前項に規定する場合において、更生計画認可の決定前に退職した当該株式会社の使用人の退職手当の請求権は、退職前六月間の給料の総額に相当する額又はその退職手当の額の三分の一に相当する額のいずれか多い額を共益債権とする。

3  前項の退職手当の請求権で定期金債権であるものは、同項の規定にかかわらず、各期における定期金につき、その額の三分の一に相当する額を共益債権とする。

4  前二項の規定は、第百二十七条の規定により共益債権とされる退職手当の請求権については、適用しない。

5  第一項に規定する場合において、更生手続開始前の原因に基づいて生じた当該株式会社の使用人の預り金の返還請求権は、更生手続開始前六月間の給料の総額に相当する額又はその預り金の額の三分の一に相当する額のいずれか多い額を共益債権とする。


この共益債権というのは、他の更生債権や取引債権などに優先して払われますから、この部分だけは「強力に保護されている」と考えられますけれども、受給権全体の3分の1ですとか給与6か月分という額に留まるので、債権額全てが受給権者に与えられるわけではありません。

では、超過部分が他の一般更生債権と同列かというと、議論の分かれる余地はあるかもしれませんが、あくまで更生計画の範囲内ということになりますから、全額が保護されるかどうかは判りません。他の債権者や額とのバランスということになるかと思われます。先取特権として、民法上で規定があります。

○民法 第306条  
次に掲げる原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。

一  共益の費用
二  雇用関係
三  葬式の費用
四  日用品の供給

○民法 第308条  
雇用関係の先取特権は、給料その他債務者と使用人との間の雇用関係に基づいて生じた債権について存在する。


これが、他の債権に優先するよ、という主張の根拠となっているのかもしれませんが、雇用(労働)債権があるとしても、それが更生計画によって権利変更を受けることがない、ということにはならないでしょう。現に、会社更生法上では他に優先される共益債権といえども、按分になってしまう場合はあるわけで。


○会社更生法 第133条  
更生会社財産が共益債権の総額を弁済するのに足りないことが明らかになった場合における共益債権の弁済は、法令に定める優先権にかかわらず、債権額の割合による。ただし、共益債権について存する留置権、特別の先取特権、質権及び抵当権の効力を妨げない。


なお、民事再生法適用であると、一般優先債権として年金受給権が扱われる可能性はあるでしょう。会社更生法上では必ずしも確定給付企業年金の受給権が特別に強力な保護を受けているとは考えにくいでしょう。あるのは、一部だけです。

もし年金減額や規約改正に応じない、ということになれば、自動的に破綻処理へと移行させるよりなく、会社更生法なり破産法適用ということになると、現在の債権額よりも小さな債権額しか保護されない可能性があります。共益債権となるのは、一部分だけですので。他の部分は更生債権になってしまう為、受給権者たちが回収できる額ははるかに小さくなってしまう可能性があります。
(厚生年金基金であれば租税債権といった考え方がありますが、これが適格企業年金のような場合で退職金や給与の一部を構成していないようなものであると、一般更生債権と同じ扱いになってしまうことも考えられるのです。企業年金は制度間の違いなどによって、一概には言えない部分はあるようです。)


年金減額訴訟はいくつかあり、早大の減額訴訟では妥当、という判決になったようですね。

年金減額訴訟:早大元教職員ら逆転敗訴 東京高裁 - 毎日jp毎日新聞




最新の画像もっと見る

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (ponpon)
2009-10-31 09:59:01
倒産情報を見ると、毎日のように小さな会社が倒産しまくっていますが、JALのように大きな会社の扱いは面倒ですね。

大株主にも日本の名立たる企業、機関投資家が名を連ねていますし・・・。

一体どうなることやら、この問題。
返信する
ご存知の上でのご発言? (山ちゃん)
2009-10-31 17:15:12
日本航空(株)と日航企業年金は独立した異なる法人です。またOBは、退職時に数百万円~1千数百万円、退職金から拠出しています。
この拠出金はどうなるのでしょうか?
ご存知の上でのご意見でしょうか?
返信する
なぜ会社分割しないのか (mac)
2009-10-31 17:21:58
倒産処理手続きでは、特に定めが無い限り、年金債務は労働債権ではなく、一般債権ではないのですか?
新設会社をつくって、そこに航空事業だけを分割譲渡し、必要な労働者とは新たな労働契約をする。年金を含め不要な業務はJALに残す。新設会社は譲渡代金を査定する必要があるが、購入額は融資と資本でまかなう。株式は、年間の予想売上額から合算した費用額を引いた額の何年分をリスクレートで割り引いて総額した額とし、リスクの低い融資とリスクをとる融資か優先株に分ける。調達資金は譲渡代金として支払い、JALはその資金で融資と年金を返済しつづけ、目的を達するまで業務するか、その場で清算手続きするかの選択になる。
飛行場との関係他ライセンスなどの問題で新設会社が直ちに運営できないなら、最初は国営にして、後から売却すればよいのでは。
この方法で年金から分割が債権者切捨ての違法な目的だとして、裁判所に否認される理由があるのか。
というのが普通の者が考えることではないか。
返信する
遅くなりましたが (まさくに)
2009-10-31 22:04:19
全てにお答えできるわけではありませんが、別な記事に書いてみましたので、よろしくお願い致します。
返信する
JALの年金種類 (Unknown)
2009-11-11 11:02:04
企業年金は「厚生年金基金」と「適格年金」に大別されるかと存じますが、JALはどちらなのですか?
返信する
Unknown (まさくに)
2009-11-11 18:51:50
上の記事中に書いているように、「確定給付企業年金」ということだろうと思います。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。