いい国作ろう!「怒りのぶろぐ」

オール人力狙撃システム試作機

新銀行東京に学ぶ経済学~その5

2009年11月21日 15時11分14秒 | 経済関連
ちょっと気になったので。

確かに報道からすると黒字ではあるようですが、民主・共産党の主張するのが概ね妥当ではないかと思いますね。
銀行発表の中間決算資料を見ると、大体は見えてくるかと思います。

新銀行東京


①業務そのものは、やっぱり赤字

数字を拾ってみますと、主な収益は貸出利息10.5億円、その他収益の合計は36.1億円でした。しかしながら、営業経費は25億円です。平たく言えば、お店を開いて営業しているだけでかかってしまうのが25億円ですので、資金調達コスト20億円(多分、主に定期預金に払うべき利息だろうと思います)とか、その他経費が捻出できないということです。よって、銀行の業務収益はやはり赤字で、10億円のマイナスということになります。

黒字化した理由というのは、前期に巨額の貸倒引当金(まだ処理してないけど、不良債権が焦げ付いてしまったものと思って、損失分として取っておくお金)を積んでいたので、その一部が返ってきた(貸倒損失が思ったよりも大きくならなかった)というだけに過ぎません。

これは、どういうことかというと、喩えば弁当屋であるとしますか。
毎日弁当の売れた額は36000円ですが、弁当を作る材料費とか店の借り賃とか電気水道代とか、そういった経費が毎期46000円かかってしまっている、ということです。そうすると、弁当を作って売れば売るほど、マイナスが拡大してゆくことになりますよね。今回の中間決算で黒字化したのは、弁当の材料仕入れを頼んでおいた魚屋に預けておいたお金のうち、「こんなに仕入れ代がかからなかったから返すよ」と言われて戻ってきた2万円が「たまたま」あったから、です。その2万円のお陰で36000-46000=-10000という差引きマイナス1万円だったものが、2万円戻ってきたので1万円が浮きました、というだけなのです。
このまま作り続けると、やはり36000円の売上に対して46000円かかってしまうので、赤字に陥る可能性があります。経費削減ができるとか、もっと売上が増やせるというのであれば、戻す可能性もあるでしょうが、業務を大幅縮小している中ですので、かなり困難ではないかと思われます。来期には、もう「戻ってくる2万円」は存在していませんからね(埋蔵金が返ってくるのは一度きり、というのと同じですね)。


②貸出利息が大幅減少

特に問題になるのは、融資を増やさないと儲からない、という商売なのに、前期に比べて受取利息が15.7億円から10.5億円と約3分の2にまで減少していることです。融資残高を減らします、ということを再建目標としてやってきたので、今後の改善は見込めないだろうと思いますね。これは、シリーズの以前の記事にも書いた通りです。

貸出が1684億円→1152億円と、532億円も減少しているわけですから、かなり厳しいと思いますね。今後にもこうした傾向が継続するなら、やはり営業を続ければ続けるほどに業務赤字を生み出すことになり、縮小がアダとなるだろうと思います。


③出した1400億円は戻ってこない

東京都は出資金として初期に1000億円、再建計画で処理する追加費用として更に400億円出資してしまっています。この400億円追加が大問題とされ、潰すべきと言われたのに無理矢理に通したわけですね。仮に、今回の決算のごとく10億円程度を回収していったとして、初期投資額を回収するまでに一体全体何年かかるのか、という話です。追加出資した400億円ですら、40年もかかって回収じゃあ、「やらない方がマシ」ということですね。通年だと20億円の黒字になるよ、とか言うかもしれませんが、それでも1400億円分を回収できるまでとなると、気が遠くなりますね。

今後、新銀行東京だけが他の銀行や信金等金融機関よりも「ジャンジャン貸せる」能力がついて、何故か新銀行東京だけが融資拡大ができて、利益を大量に生み出せるようになるということなら、単年度で100億円とか回収できるようになって、そうすると、もっと短い年限で取り返せるかもしれません。そんな夢物語みたいな事態が、どうして他の銀行には訪れず、新銀行東京にだけはやってくるのか、全く判りませんが(笑)。

同じ1400億円と使うのであれば、これを基金として運用し、年間2%の運用利益を出せるならば、28億円増えることになります。この28億円だけを貸出資金とし、零細企業や優秀な学生に貸すのです。平均貸出300万円程度で考えてみると、900件貸出だとして、27億円です(28億円との差額1億円は事務経費とか)。この全部が焦げ付いて全額貸倒となったとしても、基金の1400億円は減ってはいません。普通は、元金返済と利息を払えるでしょう。貸倒額以上に返済される方が多ければ1400億円よりも財産は増える可能性だって十分あります。
なので、別に銀行という名前で貸出をせずとも貸す方法なんていくらでもあるのです。毎年貸倒損失が27億円も発生するでしょうか?それはないだろうと思うのですよね。そうなのであれば、こちらの方が基金元本の損失はないし、小口融資に対応できるし、全然いいと思いますね。要するに、石原の個人的功名心で「銀行を作りたい」というのを好き勝手に実行した挙句、やっぱりダメで損失拡大させ、1400億円をムダに棄てるようなハメになった、というわけです。

これまでのところ、この1400億円を使って、「半期の業務収益が-10億円」という事業を展開中、ということですね。
それ以上ではありません。

一応、基金で1400億円を作る場合というのは、調達コストを考えていませんでしたので、生まれる利息28億円をまるまる使えるのですが、実際には都債発行などで「調達コスト」がそれなりにかかってるでしょう。新銀行東京の生み出した「この中間期の10億円」は恐らく出資金の都債の利払い費用にも満たない金額なのでは。そうであれば、やはり「マイナスはもっと拡大する」ということになるわけで、やらない方がマシという商売でしょう。



④番外編

ところで、最近の銀行というのは、商売がオカシイというのが見受けられる。
「銀行」という名を借りた、「ノンバンクもどき」なんじゃないのかな、と思わせる事例がある。これは別に、日本振興銀行ばかりの話ではないんですよね。

どういうスキームかというのを説明してみる。

まず、「X銀行」という銀行があり、傘下には「ノンバンクY」(リース・カード会社など)がある。
で、顧客がX銀行に融資を申し込む。
そうすると、意外な契約が行われてしまうのだ。

ア)X銀行は顧客に対し、「短期プライムレート+α」の融資金利を提示する
イ)X銀行は、融資全額をノンバンクYに債務保証を引受させ、保証料を顧客に請求する
ウ)ノンバンクYは銀行に代わって顧客との融資関係?となり、担保物権に抵当権を設定する
エ)X銀行には別途融資の手数料を支払う
オ)融資の一括繰上げ返済には特別の金利分をX銀行に支払わねばならない

これはどう見ても銀行の丸儲けである。
まず、担保物権の抵当権設定は普通だとして、何故銀行ではなくノンバンクが債権保有者とならねばならないのか?銀行に融資申込みをしているにも関わらず、自動的にノンバンクとの契約関係を締結させられてしまうのだ。だったら、銀行を挟まずに、ノンバンクに借りればいいだけなんじゃないの?銀行は、軒を貸しているだけ、ということではないか。

しかも、銀行は全額債務保証をノンバンクに引受させているので、貸倒リスクはゼロ。貸倒の場合には、ノンバンクが回収するだけだからである。ならば、貸出金利が「短期プライムレート+α」というのは、明らかにおかしい。リスクゼロなのに、何故資金コスト以上の経費を顧客に請求するのか?貸倒は発生しないのに、だ。
銀行の審査コストなどがかかるからだ、とか言うかもしれないが、それは別途手数料(しかも数万円~十数万円という高額だ!)を請求されているのだ。

銀行は自分の債権を守るべく保険をかける、という意味で「債務保証」をノンバンクにさせるのであれば、そのコストは銀行自身が払うのが筋ではないのか?
消費者金融ですら、団信の保険料は業者側が払っていたそうだが、これが銀行となると何故か「顧客に保証料を払え」と請求してくるのである。
普通、信用保証協会を使うような場合であれば、顧客側が保証料を払うが、その分銀行の取り分である「貸出金利」は大きく下がるはずなのに、だ。ところが、銀行側は「ノーリスク」融資をしておきながら上乗せ金利を請求する上に、手数料も取れるという仕組みになっているのである。これはオイシイわ。

というか、このスキームは、銀行とノンバンクの二重取り、ということでしかない。
担保の抵当権設定で、ある水準の回収率が見込める上に、貸倒リスクを負っているのは全て「ノンバンク」である。保証料を取るのであれば、銀行を介さずに顧客がノンバンクに申し込んだのと、外見的には何らの違いもないのだ。しかも、担保の登記では銀行名ではなく、「ノンバンク」名が登記されてしまうのである。融資申込み側が「銀行に借りている」というつもりであるにも関わらず、何故か「ノンバンク」と顧客との債権債務関係が自動的に強要されているのも同然なのだ。登記を見られたら、銀行の抵当権設定と、ノンバンクの設定であれば、どちらが「優良な借り手に見えるか」というのはあるんじゃないのか?

要するに、銀行傘下のノンバンクを肥えさせる、銀行はリスクを遮断できる、リスクを負わないくせに上乗せ金利を請求できる、という、一粒で二度も三度もオイシイ仕組みになっているのである。だったら、銀行の看板を降ろして、ノンバンクYだけで営業しろ、とは思うね。店の入口には「信用のある名前」を掲げておき、店内に入った途端に別な店の営業になっているのと何が違うというのか?

「○○ラーメン」みたいに有名な安心できる店の名前でやっていて、中に行けば「お客さんはこっち、こっち、『××ラーメン』しか注文できないですから」というようなのと何が違うのか。

と思ったりするね。


これが銀行のやることか?

要するに何でも銀行側に有利なようにできており、借り手側は損させられることばかり、ということだな。嫌ならヨソに行け、ということかもしれんな。