途中下車してときどき嵐

ブログ人から引っ越してきました。

読書感想「悲素」帚木蓬生

2019年06月26日 14時54分28秒 | 乱読本感想
新潮社 2018年1月27日

★3

「閉鎖病棟」が映画になると知った。
その少し前に本書を買っていた。
扱われているのはあの、和歌山カレー事件だ。
帚木先生の作品にはただ好き、と言い切ってしまえないものがある。
深さ重さに耐えられない作品もある。
重いだろう内容を想像して、しばらく手に取れなかった。
意を決して読み始める。
『えっ?』『あれっ?』
物語はカレーのその日から始まるのだが、少し読み進むと“サリン”というワードが出てくる。
そう、あのオウムの、松本の事件だ。
主人公の先生はその事件にも関係しているのか。
そういう設定なのねと自分に言い聞かせる。
“医学捜査小説”とわざわざ書いてあるのに、カレー事件に登場する人物も似たような違う名前になっているのに、無意識に事実として読んでいた。
帚木先生は精神科の先生だと知っているのに、主人公の衛生学の先生と重ねて読んでいた。
和歌山の事件は事実だ。
小説の和歌山の事件は虚構なのだが、たぶん多くの部分は事実に則しているのだろう。
患者や病院の様子、計測された数値などに虚構が入る余地があるだろうか?
真実と虚構が入り乱れる。
カレー事件の話の所々に毒物に関する歴史的な話が挟み込まれる。
そういう講義を受けているような気分になる。
上巻では被害者たちの様子がカルテに書かれたそれをなぞるように無機質に語られる。
また、保険金に関することも信じられないような数字が並ぶ。
私が知りたいのは犯人とその周辺の人の“気持ち”なんだけどな~
精神科である帚木蓬生が推測する“気持ち”
推測するから小説なんでしょ!
下巻に入ると裁判の様子が語られる。
が、なぜだか先生、警察、検察、弁護士、裁判官のやり取りばかり。
え~、私は犯人とその周辺の人たちのことが知りたいんだけど~~
最後の最後でちょっと犯人“真由美”の心理が出てきた。

結局この話はなんだったのか?
和歌山カレー事件に協力した医学部の教授のお話ってことか。
最後の参考文献の所に同じ名前がこれでもかというくらい出てくる。
“井上尚英”という方。
調べたら、実際にカレー事件の砒素の特定に尽力された方だった。
その時に見かけた記事に帚木先生が本書を書いた経緯が載っていた。
そういうことか。
なら、医学部の教授の話ということで合ってたのか。

【著者に訊け】帚木蓬生https://www.news-postseven.com/archives/20150905_346902.html


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読書感想「パラレルワールド・ラブストーリー」東野圭吾

2019年06月22日 10時33分25秒 | 乱読本感想
1998 講談社

★2

キスマイの玉森くんがやたらテレビに登場して、映画の宣伝をしている。
だが、そのストーリーが浮かんでこない。
自分のレビューを見ても無い。
文庫の発売日を調べるとレビューを書き始める前のようだ。
その頃は東野作品を多く読んでいた筈だが、読んでなかったのか?
読んでないことはない筈だけどなぁ~ともやもやした。
で、近所のBOOK・OFF、108円なら読んでいてもいいかぁ~と買ってきた。
読み始めて、電車が併走して進む場面、向こうの電車に乗っている女性に恋をする出だし、『あぁ、知っている!』
ここは何故か鮮明に思い出した。
が、やっぱりその後の展開、結末がまったく浮かんでこない。
変な気持ちになって、読み進む。
結果として、その後のストーリーにはまったく記憶が無かった。
私はこの作品を本当に読んだのか?読んでないのか?
主人公、敦賀崇史の体験したこととリンクして不思議な気持ちになった。

それにしても、20年以上前、携帯電話が普及する前の作品は読んでいて変な気持ちになる。
特に、最新(その当時)のバーチャルリアリティを研究するとかという設定でも連絡は固定電話。
パソコンも出てくるがどの程度だったのかな?と余計なことが気になる。
正直、作品の中に入り込めない。
入り込めないまま、最後を迎えた。
パラレルワールドでもラブストーリーでもあった。
当時の東野作品だなぁ~と思った、だけ。
その当時に読んでいたらもっと違った感想になったかもしれない。

・・・私は読んでいなかったのか?
崇史は結論が出たが、私は出ないまま。


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読書感想「みんなのうた」重松清

2019年06月08日 09時45分38秒 | 乱読本感想
角川書店 2013年8月24日

★2

読み始めて、『えっ!これってうちらが舞台やん』とニタニタしてしまった。
何故って、直接本当の地名は書かれていないが、地元の人ならすぐに気が付くワードがあからさまに地名に使われていたからだ。
そして描かれる景色は私の目の前に広がっている、そのまんま。
重松清さんをWikipediaなどで調べると最初に出てくる出生地だ。
今まで重松作品を読んできて、育った場所である瀬戸内の描写はよく出てきていたが、”ここ”が舞台になったことはない気がする。
”ここ”は”市”だが田舎だ。
”ここ”で育って、東大を目指し上京していたレイコさんが3浪の末、夢破れて帰郷する。
行き詰っているレイコさんを家族も地域も温かく迎える、が・・・
描かれる自然、地域の状況、人々、『あぁ~うちらだ』
ここで生きている人、生きられる人、生きられない人、出ていく人、戻る人、戻らない人・・・すべて”ここ”のまんま。
登場人物のそれぞれの気持ちが解る。
が、どう生きるかは自分自身が決めること。
レイコさん、さあどうする?
決めても、どうなる?
この作品は「家の光」で連載されていたそうだ、だから田舎の状況は良く描かれていた。
その通り!なのだ。
でも、そこに感動を持ってこようとして・・・ちょっと・・・逆に感動しなかった、かな。


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読書感想「ペテロの葬列」宮部みゆき

2019年06月08日 09時34分26秒 | 乱読本感想
文藝春秋 2016年4月8日

★4

結果が分かっている本を読む場合、主人公が幸せになるとか生きているというのが分かっているとハラハラドキドキしながらも安心して読んでいける。
でも、本書は・・・
シリーズ2作目の「名もなき毒」を読んで気が滅入っていたところに、追い打ちをかけるようにドラマ「ペテロの葬列」で杉村三郎の結末を先に知ってしまった。
まさかの展開だった。
宮部みゆきならあり得るとは思っても、胸が痛くて本書を読む気がしなかった。
先日、これにつづく「希望荘」を読んだ。
杉村三郎が”杉村三郎”らしく暮らしていた。
その時、今なら「ペテロの葬列」が読めるかもしれないと思った。
読み始めて、ドラマと同じ状況がドラマのキャストで進んでいく、結末に向かって進んでいく。
忘れっぽい私の記憶が意外にも鮮明だ。
【ここからネタバレ】
でも、結末、菜穂子の不貞行為に至る過程のドラマの記憶が無い。
結末が意外だったので、びっくりして記憶になかったのか?!
本書ではその過程が長く描かれるのかと思っていたが、終盤になっても出てこない。
ひょっとしたらあれはドラマ用のセンセーショナルな結末だったのか!・・・それならそれが良いが・・・最後の最後で出てきた。
短かったけれど、”理由”は解った。
そうだった、ドラマでもそう描かれていた!
やっぱり苦いものが残ったが、救いはその後の杉村三郎を知っていること。
今回、思い切って読んでみて、タイトルの「ペテロの葬列」の意味をちゃんと理解できたような気がした。
ペテロの行為をどう評価するのか?
すぐに見解を述べることはできないけれど、ペテロの行為自体にも苦いものが残る。
宮部みゆきの作品は深いな~


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