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亜人

2017年10月10日 | 邦画(17年)
 『亜人』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。

(1)佐藤健綾野剛が共演するというので、映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭では、字幕で、「亜人とは、死ぬことができない新しい人類である」「26年前、アフリカで初めて発見された」「全世界で46体確認されている」「日本政府は、亜人管理委員会を設置し、日々研究を重ねている」と説明されます。

 次いで、亜人の永井圭佐藤健)の目が大写しに。
 場所は、亜人研究所。
 彼は、包帯でぐるぐる巻きにされて、台の上に横たえられていて、その周りを医師たちが取り囲んでいます。
 「腕を切断します」との声。亜人の圭が唸ります。さらに、「次は、足を切断しろ」の声。
 別室でディスプレイを見ていた亜人管理委員会のトップの戸崎玉山鉄二)が、マイクに向かって、「大きな差異はないな」「リセットだ」と言います。

 ここで、圭の声が「またか?」「いつまで続くんだよ」「いったい、いつからこんなことに」。
 そして、圭がトラックに轢かれる交通事故の映像が挿入されます。
 轢かれて死んだはずの圭が、蘇って立ち上がります。
 「亜人だぞ」との人々の声。そして、「なんで僕が?」との圭の声。

 ここでタイトルが流れ、次いで、TVニュース。
 圭の画像が映し出され、キャスターが、「国内3件目となる亜人が確保されました」「永井圭さんで、東都大学病院の研修医です」とニュースを読み上げます。

 戸崎が、上司に「3日前に亜人と判明しました」と説明すると、上司は「2年前のこともあるからな」と言い、それに対し戸崎は「警備は万全です」と応じます。

 その時、大きな爆発音がし、皆が驚いていると、亜人の佐藤綾野剛)と田中城田優)が現れます(注2)。
 佐藤は、「皆さん、お久しぶり」「この部屋に来るのは3年ぶり」「永井君をいただきに来た」「今や、亜人事情は大きく変わるんだ」と言います。



 戸崎が「眠らせて捕獲しろ」と命じると、警備員たちが麻酔銃を構えます。
 すると、佐藤は「いくよ」と言って、手にしていた銃を撃ち続け、警備員らを倒します。
それでも、警備員の麻酔銃の銃弾が佐藤の腕に刺さると、佐藤はその腕を切り落としてしまいます。
 また、麻酔銃の銃弾が体に突き刺さると、佐藤は自分の銃を首に当てて引き金を引きます。それで佐藤は、倒れるものの、たちどころに蘇ります。

 佐藤は圭に対して、「お早う、永井君、私は君と同じ亜人だ」「この国は、息を吐くように嘘をつくんだ」などと言うと、圭も「政府が亜人を保護しているなどというのは嘘だ」と応じ、それに対し佐藤は、「亜人の未来のために、共に戦おう!」と言います。

 こんなところが本作の始めの方ですが、さあ、物語はこれからどのように展開するのでしょうか、………?

 本作は、大ヒットコミックを実写化した作品で、何度でも生命が甦るという「亜人」に属する主人公とテロリストの「亜人」との壮絶な戦いが描かれます。いくら銃弾を打ち込まれても死なない「亜人」同士の戦いが、一体どのように決着するのか見ものになりますが、本作は余りにそこに焦点を当てすぎていて、例えば、昨今の映画の流れに反して、女性の役割がかなり限定的になってしまっているようにも思えます。なにしろ、主に登場するのが、主人公の妹だったり、政府要人の秘書の女性だったりするだけなのですから。

(2)本作はアクション物であり、方や文芸物ですから、両者を比較することに意味があるとは思えないものの、最近その原作者のカズオ・イシグロ氏がノーベル文学賞を受賞したこともあって、2011年に公開された『わたしを離さないで』を思い出してしまいました。
 というのも、同作ではクローン人間が描かれていて、彼らに人権はあるのかといったことが一つの問題にされているように思われ、他方、本作でも「亜人に人権はあるのか?」という問題が持ち出されているために、なんだか両作に共通点があるように感じられたからです。

 もう少し申し上げると、『わたしを離さないで』に登場するクローン人間たちは、特定の場所に隔離されて暮らしていて、時期が来て通知があると人間に臓器提供をして死んでしまいます。
 他方本作では、亜人は、亜人研究所において様々な人体実験を受けています。
 こんなところから、クローン人間、あるいは亜人に「人権」はあるのか、と言った問題が提起されることになります。
 ただ、『わたしを離さないで』におけるクローン人間は、幼い頃に受ける教育によるのでしょうか、自分たちの運命を静かに受け入れています。
 他方、本作の亜人たちは、再び蘇るとしても苦痛の大きな実験に堪えきれず、佐藤と田中は研究所から逃げ出し、圭も戸崎らに捕まらないように逃げ回るのです。

 そして、その際の戦いのシーンが、本作の最大の見ものになっています。
 特に、亜人研究の総元締めである厚生労働省を破壊するとして、佐藤が旅客機に乗って同省のビルに突っ込み、現れたSAT(警察の特殊急襲部隊)を佐藤が一人で全滅させてしまう戦闘は迫力満点です。
 また、VXガスを求めて「ファージ重工」を襲撃する佐藤は(注3)、そうはさせまいとする圭と死闘を繰り返しますが、それぞれのIBMまでもが繰り出され、実に凄まじいものがあります。



 とはいえ、佐藤の破壊衝動には凄まじいものがあって、自分が死なないことを最大限に利用しながら、相手をとことん殺戮し続けます。
 この背景には、亜人研究所で受けた苦痛があるのでしょう。
 でも、あそこまでやる必要があるのかと思ってしまいます(注4)。
 他方、この佐藤と対決する圭の心情もよくわからない感じがします。
 彼もまた、亜人研究所での人体実験で苦痛を味わっていて、決して政府側ではないはずです。ならば、なぜ佐藤と同一の行動を取らないのでしょう?
 あるいは、圭は、研修医であり、人間の命を救う側にいて、人間の命をなんとも思わない佐藤とは気が合わないのかもしれません。
 ですが、その程度であれば、佐藤のやることは黙認しつつ、自分は、例えば田舎(吉行和子扮する老婆がいる)に引っ込めば済むのではないでしょうか(注5)?

 加えて言うと、本作に登場するIBMがわけの分からないシロモノです。
 圭は、IBMのことを何度も「ユーレイ」と言いますが、とても実体のあるような生き物とは思えません。
 公式サイトの説明では、「インビジブル・ブラック・マターの略。黒い粒子を放出して戦わせる事ができる(注6)、亜人だけの能力。人間には見る事はできない」とされていますが、どうしてこんな得体のしれないものがわざわざ登場して戦う必要があるのかよくわかりません。
 まあ、そんなことを言えば、肝心の「亜人」にしても、本作においてはほとんど何も説明されていないも同然です。なぜ、こうしたものが突如世界に現れたのか、ウイルスのようなもので他の人に感染するのか、第一、どういうメカニズムで死から蘇るのか、などなど(注7)。

 更に言えば、本作においては、女性の登場人物が副次的な役割しか与えられておらず、昨今の映画の流れからすると、不思議な感じがするところです。
 なにしろ、本作に登場する主だった女性の登場人物は、圭の妹・慧理子浜辺美波)と、戸崎の秘書・川栄李奈)くらいで、泉が亜人として闘う場面が幾つかあるとしても、2人ともストーリーの大きな流れに絡むわけではない感じがします。

 また、原作漫画については、第1巻だけを読みましたが、そこで大きな役割を演じている圭の親友・海斗(カイ)が本作には登場しません(注8)。
 おそらく、本作においては、圭と佐藤との対決に焦点を絞り込もうとしているために、海斗は省略されてしまったのでしょう。
 でも、それはとても残念なことではないかと思いました。

 総じて言えば、本作は、死んでもそのたびに蘇るという亜人という着想はトテモ興味深いものの、ストーリー展開は説明不十分といった感じであり、見どころはアクションシーンと言えるでしょう。
 そうなると、『るろうに剣心』の佐藤健といえども、綾野剛の頗る付きの格好良さに比べると、一歩退いたところにいる感じでした(注9)。



(3)渡まち子氏は、「人間対亜人、亜人対亜人、ループする命、とテーマはかなり深淵なのに、この作品からは深いメッセージ性が感じられなかったのが残念だ」として55点を付けています。



(注1)監督は、『幕が上がる』の本広克行
 脚本は、瀬古浩司。
 原作は、桜井画門著『亜人』(講談社)。

 なお、出演者の内、最近では、佐藤健は『バクマン。』、綾野剛は『新宿スワンⅡ』、玉山鉄二は『阪急電車―片道15分の奇跡―』、城田優は『黒執事』、千葉雄大は『帝一の國』で、それぞれ見ました。

(注2)佐藤と田中は、日本国内で確認された最初の亜人と2番目の亜人で、2年ほど前、亜人研究所から逃げ出しています。

(注3)佐藤は、亜人特別自治区の設置がはかばかしくないのに業を煮やして、東京を亜人特別自治区にしないとVXガスを散布すると通告し、VXガスを製造する「ファージ重工」を襲おうとするのです。

(注4)佐藤は、マスコミを通して、「亜人に市民権を認め、特別自治区を設定してほしい」との要求を政府に突きつけますが、その実現をどの程度本気に考えていたのかわかりません。

(注5)尤も、老婆(吉行和子)が暮らす山村では、TVニュースを通じて、圭が亜人であることがわかると、圭を村から追い出そうとするのですが。
 それで、圭は戸崎と直談判をして、自分に特別のポストを与え、や妹・慧理子を自由の身にする代わりに、戸崎に協力することを約束します。

(注6)劇場用パンフレットの「STORY」の注には、「亜人が放出する黒い粒子の集合体で、人型となり戦わせることができる」とあります。

(注7)亜人は死ぬことができないとされていますが、ラストでは、圭は蘇り、佐藤が消滅したような感じで終わっています。確かに、対亜人専用の部隊によって圭と佐藤は氷漬けにされ、それが打ち壊されて微細な小片になってしまいますが、その小さな破片の中で一番大きなものから佐藤は蘇るのではないでしょうか(圭が腕から蘇ったように)?そうなると、この戦いは終わらなくなってしまうでしょう。

(注8)原作漫画(第1巻)においては、圭が山奥に逃げるにあたって、オートバイに乗った海斗が色々と支援しますが、本作では、山に逃げた圭と妹の慧理子が、見知らぬ農家の老婆(吉行和子)に助けられます。

(注9)佐藤は、失踪していた2年間どこかで訓練を受けていたのではないでしょうか?それに引き換え、圭は研修医として勉強に明け暮れしていたはずですから、いきなり戦闘場面に放り込まれても満足に動けるはずはないので、佐藤と圭とでは、アクションシーンで動きに差が出てしまうのは仕方がないでしょう(圭は、最初のうち、IBMも満足に動かすことはできませんでした)。



★★★☆☆☆



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6 コメント

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Unknown (ふじき78)
2017-10-11 23:11:26
> 佐藤が消滅

粉々に断裁されましたが、彼の身体の一部は臓器売買で売られていたので、そこから再生するのがPART2だろうな。
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Unknown (クマネズミ)
2017-10-12 05:20:50
「ふじき78」さん、TB&コメントを有難うございます。
クマネズミも、続編においては、圭が蘇ったように、佐藤は何かから蘇るものと思います。
ただ、佐藤が、圭との戦いの前に自分の臓器を売ってしまうとは考えられず(そんなことをしたら、激しい戦闘に耐えられないのではないでしょうか)、蘇るとしたら、粉々に裁断された彼の身体の中で一番大きな小片からではないでしょうか?
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Unknown (ふじき78)
2017-10-12 23:09:53
ヤクザに臓器販売するカットはありました。亜人的には臓器を抜き出して、そこで死んでも抜き出した臓器はそのままで(カットされた手足が別にそのままなので)、本体は生き返る事によりリセットされる。リセットによって体力が消耗するような描写もなかったので、精神的に疲れる程度じゃないかと思います。死んだ直後から凄いアクションできるのは「死」その物がダメージでないという事でしょう。

臓器売買に関しては佐藤・田中が二人だけの時から行っているので(銃火器はヤクザと折衝して手に入れてるが佐藤の登場時から持ってる)佐藤の臓器がなんぼか含まれているのは間違いないだろうと思います。
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Unknown (クマネズミ)
2017-10-13 05:54:46
「ふじき78」さん、再度のコメントを有難うございます。
「亜人的には臓器を抜き出して、そこで死んでも抜き出した臓器はそのままで(カットされた手足が別にそのままなので)、本体は生き返る事によりリセットされる」と述べておられますが、ここでは、死んだ「亜人」がその場でそのまますぐに再生する話と、切り取られた腕等を起点にして「亜人」が再生する話とがまぜこぜになっているように思われます。
「臓器移植」の場合、臓器を取り出された佐藤が死んでも、佐藤はたちどころに再生するでしょうが、それは取り出された臓器を起点にしての再生ではなく、「亜人」本来の特性による再生ではないでしょうか?
右腕を起点にしての圭の再生と同じように、佐藤が取り出された臓器を起点に再生するとしたら、臓器の提供を受けた患者自体はどうなってしまうのでしょうか(元の佐藤の死骸はそのままなのでしょうか←元の体を粉砕しないと、片腕等からの再生はできないのではないでしょうか)?
それに、佐藤と圭とが「ファージ重工」で闘う場面そのものでは、そうした臓器移植は行われていません(圭は自分の腕を切り落としましたが)。
また、佐藤は、警戒厳重な「ファージ重工」に侵入するに際して、同社の中に予め持ち込まれた左腕を拠り所にして再生しますが、この戦いに先立って移植された臓器がある場合には、左腕の方ではなくて、どこにあるのかわからない臓器を拠り所として再生してしまう恐れが出てきてしまうのではないでしょうか(どれを拠り所にして再生できるのかは、佐藤の方で選択できるのでしょうか?あるいは、一番大きな肉片を拠り所とするとされているようなので、左腕の方が移植臓器よりも大きいがために、「ファージ重工」に侵入できたのでしょうか?佐藤が何回か臓器移植を行っている場合には、その中で一番大きな臓器を拠り所にして佐藤は再生するのでしょうか)?
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Unknown (atts1964)
2017-10-15 15:01:06
アニメ劇場版、それを詳しくした連続アニメ版と、時間を置かない実写版だったので、同1作にまとめるかが注目されました。
なかなか良く仕上がっていたと思います。この実写版での、続編を見たくなりました。
いつもTBありがとうございます。
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Unknown (クマネズミ)
2017-10-15 18:07:04
「atts1964」さん、コメントを有難うございます。
おっしゃるように、本作は、「なかなか良く仕上がっていた」と思いますが、1作にまとめるために沢山のファクターを切り捨ててしまっていて、かなり薄味になっている感じがします。本作の設定のままで続編を制作するのは相当難しいのでは、という気もしますが。
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