映画的・絵画的・音楽的

映画を見た後にネタバレOKで映画を、展覧会を見たら絵画を、など様々のことについて気楽に話しましょう。

愚行録

2017年03月24日 | 邦画(17年)
 『愚行録』を新宿ピカデリーで見てきました。

(1)妻夫木聡の主演作と聞いて、映画館に行ってきました。

 本作(注1)の冒頭は、夜、混雑しているバスの中。空いている座席は見当たりません。
 週刊誌の記者・田中武志妻夫木聡)は、窓側の席に座っています。
 武志が雨の降っている外をぼんやり見ていると、立っている中年過ぎの男が、「チョット、譲ってあげなさいよ」と武志に言います。ソバに立っている老婆が、「もうすぐ降りますから」と遠慮するものの、男がなおも「ボケっと座っているんじゃないよ」と言い募るものですから、ムッとした感じながらも、武志は老婆に席を譲ります。
 その際、武志は、脚に障害があるのでしょうか、倒れ込みます。
 ですがそのまま、停留所で停まったバスから降り、しばらく足を引きずって歩きます。
 そして、バスが十分に離れた頃合いを見計らって、武志は正常に歩き出します。



 次いで、留置場の面会室。
 娘のちひろの育児を放棄したことで逮捕された武志の妹の光子満島ひかり)が、アクリル板の向こう側に座っています。



 光子は兄の武志に、「兄ちゃん、なーに?来たのは半年ぶりくらい?チョット痩せた?」、「来てくれなくても良かったのに。すぐに戻るのだから」と言い、そばにいる女性を指して、「この人は弁護士のさん」と紹介すると、武志は「わかってる」と応じます。
 さらに、光子が「ちひろ、見てくれた?」と尋ねると、橘弁護士(濱田マリ)が「大丈夫」と答えます。
 そして、橘弁護士が「前に約束したよね」と言うと、光子は「そうそう」と頷いて、「何も喋っちゃいけないんだった」「私、秘密って大好き」と言います。

 武志と橘が警察署の外に出てきます。
 橘が「連絡もらった時、いつもの取材かなと驚いた」と言うと、武志は「自分のこととなると、橘さんしか思いつかなくて」「ちひろが無事でよかったです」と応じます。
 これに対し橘は、「ただ、回復しても脳に重い障害が残るよう」と答え、「回復してもしなくても、いずれにしても、起訴の可能性が高いでしょう」と付け加えます。
 武志が、「その間にこっちでも何かすることがありますか?」と尋ねると、橘は、「精神鑑定」、「光子さんの様子は何か変。責任を感じていないみたい」と答えます。

 こんな感じで物語は始まりますが、さあ、どのように展開するのでしょうか、………?

 本作は、直木賞候補作の小説を映画化した作品。主人公の男やその妹のみならず、本作に登場する男女の行為には、どれもどこかしら愚かしさが伴います。その最たるものが一家惨殺事件。事件が起きて1年ほど経過してから、週刊誌記者の主人公が再度その調査に乗り出します。その過程で、主人公は様々な人間と会って証言を得るのですが、証言者の愚かしさもまた暴露されていきます。ハッピーエンドに至らない物語展開ながら、出演者らの熱演もあり、その重厚さに感銘を受けました。

(2)本作は、田向家の3人、すなわち、夫の田向浩樹小出恵介)と妻の友季恵松本若菜)、それに長女が惨殺され、その犯人は誰かを探るというストーリー(注2)。
 でも、本作がミステリー物なことを考慮して、これ以上はあまりネタバレはしないようにいたしましょう。
 以下では、本作を見て感じたことを少々書くにとどめます。

 本作のシナリオを書いているのは、『マイ・バック・ページ』や『もらとりあむタマ子』などを手がけている向井康介。実績のある脚本家だからでしょうか、原作小説には明示的に登場しない週刊誌記者・田中武志を本作において創り出して主人公とし、狂言回し以上の役割を与えています(注3)。
 そんなことによって、原作小説の映画化に際しては起こりがちなことですが、本作は、原作小説を離れて(注4)、映画独自の世界が描かれていると言えるでしょう。
 更に言えば、そのことによって、本作はミステリー物として1本の芯が通り、かなりまとまりが出てきたように思われます。

 ただ、本作においては、殺人の現場はごくわずかの時間しか映し出されず、また、主人公や妹の小さい頃の映像が挿入されることもなく、大部分は、妹を含めて、武志が接触する事件関係者が話す場面であり、さらにはその話の内容が映像化されたものです。確かに、この点からすれば、原作小説と同じような雰囲気を映画は持っているといえるかもしれません。
 といっても、原作小説が、どちらかというと、話が様々な方向に拡散してしまうような雑然とした感じを与えるのに対し、本作にあっては、主人公とその妹の印象が強く残ります。
 こうなるのも、本作で主人公が新たに措定されたことによっているとはいえ、主人公を演じる妻夫木聡と妹役の満島ひかりの熱演も大いに与っているものと思います。

 また、大部分の関係者が所属した大学(注5)を巡っての様々な出来事(注6)は、一体こんなことが現実に起こりうるのだろうかとの疑問が持たれてしまうかもしれません。ですが、原作者の談によれば、決して作り話ではなさそうです(注7)。
 そして、そうしたところは、映画でも原作に沿って描かれているように思われます。
 本作で描かれていることはフィクションですから、言うまでもなく現実には起きておりませんが、実際に起きてもおかしくない事件ではないか、という感じです。
 そして、本作はミステリー物ですから、リアリティーもその程度で十分なのではないでしょうか?

 なお、例えば、同じ場面が異なる語り手によって説明されるというのは、最近見た『お嬢さん』を思い起こさせます(注8)。

 さらには、田向家の3人が殺される事件(注9)については、『怒り』の冒頭で映し出される夫婦殺人事件を思い出しました。その事件の犯人も、本作の犯人と同じように、被害者に対してことさらな恨みを持っていたわけではないようなのです(注10)。

(3)渡まち子氏は、「劇中には、いくつかの驚きの仕掛けがあって、そのことが“愚行”という言葉を決定づけている。物語と呼応するかのように、映画全体の色彩が暗いトーンで統一されているのが印象に残る」として65点を付けています。
 宇田川幸洋氏は、「終局の意外性はあるものの、ミステリーとしてのおもしろさは不満足」として★3つ(「見応えあり」)を付けています。
 りんたいこ氏は、「石川監督はこれが長編映画デビュー作だが、緻密な演出と大胆な構成、さらに陰影に富んだ映像で人間の二面性を際立たせることに成功している」と述べています。



(注1)監督は石川慶
 脚本は向井康介
 原作は、貫井徳郎著『愚行録』(創元推理文庫)。

 なお、出演者の内、最近では、妻夫木聡は『怒り』、満島ひかりは『駆込み女と駆出し男』、小出恵介は『シン・ゴジラ』、臼田あさ美は『東京プレイボーイクラブ』、市川由衣は『海を感じる時』、濱田マリは『団地』、光子の精神鑑定をする医師役の平田満は『くちづけ』で、それぞれ見ました。

(注2)主人公の週刊誌記者・田中武志が、1年経過していますが、事件についての記事を書くために、関係者の渡辺(浩樹の友人:眞島秀和)、稲村(浩樹の大学時代の恋人:市川由衣)、宮村(友季恵の友人:臼田あさ美)、形(宮村や友季恵の交際相手:中村倫也)に聞きに回ります。

(注3)原作は、インタビュアーが聞き回った何人かの関係者のお喋りと、妹のモノローグとからできています。インタビュアーがどんな人間で何の仕事をしているのかなどは殆ど書き込まれておらず(インタビュアーの職業は、一応は「ライター」とされてはいますが)、インタビューを受けた宮村の話の中に「田中さん」が出てきて、妹のモノローグから、妹=田中であり、かつまたインタビュアー=兄と見なせるところから、インタビュアー=田中と分かる感じです。
 また、兄が関係者の内の一人を殺したというのも、妹のモノローグの中で記載されている事柄です。

 なお、原作でインタビュー記事が掲載されるのは、本作で取り扱われる人物以外に、一家惨殺事件が起きた住宅の近所に住む住民(女性)と、その事件で殺された長男の同級生の保護者(女性)がいます。

(注4)もう1点だけ例示すると、本作では、犯人が、街で友季恵を見かたにもかかわらず、友季恵に無視された感じがしてその後をつけて彼女の家まで行き、たまたま台所のドアに鍵がかかっていなかったため中に入り込んだ、というように描かれています。
 これに対し、原作小説では、犯人は、友季恵を見かけ家まで後をつけた後、一度自分の家に戻ります。そして、夜中の零時過ぎに包丁を持って友季恵の家に行って、風呂場の窓から侵入するのです。

(注5)本作では「文應大学」とされていますが、原作では「慶応大学」と明記されています。

(注6)例えば、学生の間の「内部」と「外部」の壁。
 原作小説には、こんな記述が見受けられます(宮村が話しています)。



 「(慶応大学には)《内部》《外部》という言い方があるんです。《内部》というのはつまり、附属高校から大学に来た人のことです。《外部》はその逆、私みたいに大学から入った人間です」、「(内部生である)《彼ら》にとって私らみたいに大学から入ってきた者は《外部》の人間なんです」、「実際は、中学から入った人たちの結束が固いみたいです」、「性別関係なく横の繋がりがあって、それから縦の繋がりもある」、「彼らは本当に仲がいいんですよ」、「彼ら内部生にとって、外部性は下に存在するものなのです。でも、そういう下層階級の中にも、拾い上げてやってもいい人間が存在する」云々(同書P.128~P.130)。

(注7)このインタビュー記事を御覧ください。
 なお、東大・慶大・早大といった一流校で、あの考えられない「集団強姦事件」が起きていることからすると、むしろこうした一流と言われる大学でこそ、考えられないことが起こるのかもしれません。

(注8)例えば、プール付きの別荘で開かれていたパーティー会場で、宮村は、尾形を奪ったとして友季恵の頬を叩きます(友季恵も反撃しますが)。同じ場面は、光子によっても回想されます。他方、『お嬢さん』では、同じ場面が侍女のスッキと秀子によって説明されます。



(注9)本作で殺されるのは3人家族ですが、原作小説では子供2人の4人家族。

(注10)尤も、『怒り』の場合、犯人は被害者と何らの接点もありませんでしたが(被害者の奥さんが、犯人に麦茶を出しただけ)、本作の場合は、犯人と被害者の妻とは、文應大学で親しかったのです。



★★★★☆☆



象のロケット:愚行録

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