『想いのこし』を渋谷TOEIで見ました。
(1)長目の作品が続いたため、少々肩の凝らないものをということで映画館に行ってきました。
本作(注1)の初めでは、一方で、主役の本田ガジロウ(岡田将生)というダメ男の暮らしぶりが描き出されます。
ガジロウは、ライブ会場の外でチケットを売り捌いて手数料を受け取るというダフ屋であり、それで手に入ったお金で女の子を取っ替え引っ替えしながら、「結婚なんてやめておけ、何が面白いのか」、「俺が他人と暮らすなんてありえない」、「子供のための人生なんて悲しいでしょ」などとうそぶいています。
他方で、シングルマザーのユウコ(広末涼子)の生活ぶりも描かれます。
家の台所で作業をしていると、一人息子の幸太郎(巨勢竜也)が帰宅。
ユウコは、逆に家を出るため、「ご飯炊けているから、ハンバーグを温めて食べて。塾に行きなさいよ」と言い、さらに「最近どう?」と訊くと、幸太郎が「まあ順調だよ」と答えるので、「そこは、お父さんに感謝ね」と付け加えます。
ユウコが玄関を出ると、外ではジョニー(鹿賀丈史)が運転する車が待っています。車には既に、ルカ(木南晴夏)やケイ(松井愛莉)が乗り合わせています。
車が向かった先は、ポールダンスのステージがあるキャンディー・ホール。
ユウコ、ルカ、ケイはそのホールでポールダンスを踊るダンサー(注2)であり、ジョニーは、運転手兼DJ(注3)なのです。
今夜は、結婚してダンサーを辞めるルカの卒業公演ということで、3人は張り切ります。
公演が終わってから、楽屋で、ユウコはルカに、「結婚して家族を作るのがルカの夢だったんだから、頑張ってね」と激励します。
そして、3人はジョニーの車で帰途に。
丁度そこへ、ダフ屋の元締めから受け取った札びらを数えているガジロウが。
突然の風に一枚のお札が道路の方に吹き飛ばされ、それを拾おうとして、ガジロウは慌てて道路に飛び出しますが、ジョニーが運転する車に跳ねられます。
ガジロウを避けようとジョニーは慌ててハンドルを切ると、対向車線に車が飛び出してしまい、運悪くやってきた車と衝突。
さらに、病院の場面。
ガジロウはベッドに横たわっていますが、どうやら助かる見込み。
他方、ユウコ、ルカ、ケイ、それにジョニーは、自分らの遺体が運びだされるのを眼にします。
なんと、彼らは、車の衝突によって即死してしまったのです。
さあ、これから一体どんな展開になるのでしょうか、………?
本作は、同じ車に乗っていて交通事故に遭って死んでしまった4人が、突然のことなので現世に未練があって成仏できずにいたところ、交通事故の原因を作り出した男にとり着いて、彼を動かして、それぞれが想い残している事柄を実現してもらうというストーリー。こうした話はこれまでも何度も制作されて来ましたから、何か新味でもと思っていたところ、専ら広末涼子のポールダンスが取り柄という作品でした(注4)。
(2)本作のエピソードの一つは、ダンサーを辞めて結婚式を挙げる予定だったルカの話ですが、似たようなストーリーは、最近では例えば、あまり人口に膾炙されなかった『さよならケーキとふしぎなランプ』で見ました。
そこでは、吉祥寺のカフェ「パーラム」に置かれている不思議なランプに店長が火を灯すと、この世に未練を残す人たちが現れるのです。
その人達に関係する人が、カフェで待ち受けていて、中の一人が、結婚式の前に交通事故で婚約者を亡くした草本君。
その草本君と、魔法のランプによって現れた婚約者とのために、カフェにいる皆で結婚披露パーティーを開いてあげるのです。
その結果、亡くなった婚約者はカフェに現れなくなります。
とはいえ、両作の間で大きく異なる点は、『さよならケーキとふしぎなランプ』では、草本君ら生きている人間が亡くなっている婚約者の姿を見ることができるのに対して、本作の場合、ルカの姿を目にできるのはガジロウだけだということで、それでルカに代わってガジロウが、ウエディングドレスを着て教会での結婚式に臨むのです。
勿論、ガジロウがそこまでするのは、ルカが長年金庫に溜め込んでいたお金700万円をもらえるからなのですが。
ガジロウは、ケイやジョニーの「想いのこし」についても、彼らからお金をもらうことによって実現させていきます。
ですが、皆の「想いのこし」の一途さにガジロウの精神も次第に変わっていき、最後のユウコの「想いのこし」については、進んで取り組むようになっていきます。
こうしたガジロウの精神的な成長が描かれている点が、あるいはこの作品のユニークなところといえるのかもしれません。
それと、本作で何度も描かれるポールダンスですが、例えば、『Somewhere』で見ましたし(ホテルの部屋に出張して演じるものですが)、Wikipediaによれば「ポールダンスはまた舞台芸術としても広く認められ」ているようで(注5)、本作においても、広末涼子らが熱演しています。
(3)渡まち子氏は、「金目当てに死者の願いを叶える青年の心の成長を描くファンタジー・ドラマ「想いのこし」。岡田将生のコスプレ大会か?!」として60点を付けています。
また、前田有一氏は、「「想いのこし」は、観客にさわやかな涙を流してもらい、増税オタクの総理大臣のせいでよどみきった日常のストレスを洗い流すことを目的とする映画である。その意味では、そこそこ泣ける、コンセプトに忠実なつくりになっている 」として60点を付けています。
(注1)原作は、岡本貴也著『彼女との上手な別れ方』(小学館文庫:未読)。岡本氏は、本作の脚本も手がけています。
なお、監督は平川雄一朗。
(注2)劇場用パンフレットの「Cast」によれば、ユウコは33歳、ルカは26歳、ケイは17歳とされています。そんな年齢にばらつきがあってもチームを組めるのかとも思いますが、それはさておき、ルカはポールダンスの仕事で700万円も貯金できるのでしょうか?また、高校生のケイは深夜勤務ができませんが、キャンディー・ホールの仕事は夜10時前に終わるのでしょうか?
(注3)ジョニーは、消防士を退職した後にDJをやっていて、劇場用パンフレットの「Cast」によれば年齢は70歳とのこと。いささか非現実的な設定のように思われます。
(注4)俳優陣について、最近では、岡田将生は『偉大なる、しゅららぼん』、広末涼子は『柘榴坂の仇討』、鹿賀丈史は『武士の献立』で、それぞれ見ました。
(注5)最近もこんな記事が産経新聞に掲載されました。
★★★☆☆☆
象のロケット:想いのこし
(1)長目の作品が続いたため、少々肩の凝らないものをということで映画館に行ってきました。
本作(注1)の初めでは、一方で、主役の本田ガジロウ(岡田将生)というダメ男の暮らしぶりが描き出されます。
ガジロウは、ライブ会場の外でチケットを売り捌いて手数料を受け取るというダフ屋であり、それで手に入ったお金で女の子を取っ替え引っ替えしながら、「結婚なんてやめておけ、何が面白いのか」、「俺が他人と暮らすなんてありえない」、「子供のための人生なんて悲しいでしょ」などとうそぶいています。
他方で、シングルマザーのユウコ(広末涼子)の生活ぶりも描かれます。
家の台所で作業をしていると、一人息子の幸太郎(巨勢竜也)が帰宅。
ユウコは、逆に家を出るため、「ご飯炊けているから、ハンバーグを温めて食べて。塾に行きなさいよ」と言い、さらに「最近どう?」と訊くと、幸太郎が「まあ順調だよ」と答えるので、「そこは、お父さんに感謝ね」と付け加えます。
ユウコが玄関を出ると、外ではジョニー(鹿賀丈史)が運転する車が待っています。車には既に、ルカ(木南晴夏)やケイ(松井愛莉)が乗り合わせています。
車が向かった先は、ポールダンスのステージがあるキャンディー・ホール。
ユウコ、ルカ、ケイはそのホールでポールダンスを踊るダンサー(注2)であり、ジョニーは、運転手兼DJ(注3)なのです。
今夜は、結婚してダンサーを辞めるルカの卒業公演ということで、3人は張り切ります。
公演が終わってから、楽屋で、ユウコはルカに、「結婚して家族を作るのがルカの夢だったんだから、頑張ってね」と激励します。
そして、3人はジョニーの車で帰途に。
丁度そこへ、ダフ屋の元締めから受け取った札びらを数えているガジロウが。
突然の風に一枚のお札が道路の方に吹き飛ばされ、それを拾おうとして、ガジロウは慌てて道路に飛び出しますが、ジョニーが運転する車に跳ねられます。
ガジロウを避けようとジョニーは慌ててハンドルを切ると、対向車線に車が飛び出してしまい、運悪くやってきた車と衝突。
さらに、病院の場面。
ガジロウはベッドに横たわっていますが、どうやら助かる見込み。
他方、ユウコ、ルカ、ケイ、それにジョニーは、自分らの遺体が運びだされるのを眼にします。
なんと、彼らは、車の衝突によって即死してしまったのです。
さあ、これから一体どんな展開になるのでしょうか、………?
本作は、同じ車に乗っていて交通事故に遭って死んでしまった4人が、突然のことなので現世に未練があって成仏できずにいたところ、交通事故の原因を作り出した男にとり着いて、彼を動かして、それぞれが想い残している事柄を実現してもらうというストーリー。こうした話はこれまでも何度も制作されて来ましたから、何か新味でもと思っていたところ、専ら広末涼子のポールダンスが取り柄という作品でした(注4)。
(2)本作のエピソードの一つは、ダンサーを辞めて結婚式を挙げる予定だったルカの話ですが、似たようなストーリーは、最近では例えば、あまり人口に膾炙されなかった『さよならケーキとふしぎなランプ』で見ました。
そこでは、吉祥寺のカフェ「パーラム」に置かれている不思議なランプに店長が火を灯すと、この世に未練を残す人たちが現れるのです。
その人達に関係する人が、カフェで待ち受けていて、中の一人が、結婚式の前に交通事故で婚約者を亡くした草本君。
その草本君と、魔法のランプによって現れた婚約者とのために、カフェにいる皆で結婚披露パーティーを開いてあげるのです。
その結果、亡くなった婚約者はカフェに現れなくなります。
とはいえ、両作の間で大きく異なる点は、『さよならケーキとふしぎなランプ』では、草本君ら生きている人間が亡くなっている婚約者の姿を見ることができるのに対して、本作の場合、ルカの姿を目にできるのはガジロウだけだということで、それでルカに代わってガジロウが、ウエディングドレスを着て教会での結婚式に臨むのです。
勿論、ガジロウがそこまでするのは、ルカが長年金庫に溜め込んでいたお金700万円をもらえるからなのですが。
ガジロウは、ケイやジョニーの「想いのこし」についても、彼らからお金をもらうことによって実現させていきます。
ですが、皆の「想いのこし」の一途さにガジロウの精神も次第に変わっていき、最後のユウコの「想いのこし」については、進んで取り組むようになっていきます。
こうしたガジロウの精神的な成長が描かれている点が、あるいはこの作品のユニークなところといえるのかもしれません。
それと、本作で何度も描かれるポールダンスですが、例えば、『Somewhere』で見ましたし(ホテルの部屋に出張して演じるものですが)、Wikipediaによれば「ポールダンスはまた舞台芸術としても広く認められ」ているようで(注5)、本作においても、広末涼子らが熱演しています。
(3)渡まち子氏は、「金目当てに死者の願いを叶える青年の心の成長を描くファンタジー・ドラマ「想いのこし」。岡田将生のコスプレ大会か?!」として60点を付けています。
また、前田有一氏は、「「想いのこし」は、観客にさわやかな涙を流してもらい、増税オタクの総理大臣のせいでよどみきった日常のストレスを洗い流すことを目的とする映画である。その意味では、そこそこ泣ける、コンセプトに忠実なつくりになっている 」として60点を付けています。
(注1)原作は、岡本貴也著『彼女との上手な別れ方』(小学館文庫:未読)。岡本氏は、本作の脚本も手がけています。
なお、監督は平川雄一朗。
(注2)劇場用パンフレットの「Cast」によれば、ユウコは33歳、ルカは26歳、ケイは17歳とされています。そんな年齢にばらつきがあってもチームを組めるのかとも思いますが、それはさておき、ルカはポールダンスの仕事で700万円も貯金できるのでしょうか?また、高校生のケイは深夜勤務ができませんが、キャンディー・ホールの仕事は夜10時前に終わるのでしょうか?
(注3)ジョニーは、消防士を退職した後にDJをやっていて、劇場用パンフレットの「Cast」によれば年齢は70歳とのこと。いささか非現実的な設定のように思われます。
(注4)俳優陣について、最近では、岡田将生は『偉大なる、しゅららぼん』、広末涼子は『柘榴坂の仇討』、鹿賀丈史は『武士の献立』で、それぞれ見ました。
(注5)最近もこんな記事が産経新聞に掲載されました。
★★★☆☆☆
象のロケット:想いのこし
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