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帝一の國

2017年05月19日 | 邦画(17年)
 『帝一の國』を同じくTOHOシネマズ渋谷で見ました。

(1)予告編を見て面白そうだと思って映画館に行きました。

 本作(注1)の冒頭は、「時は昭和」の字幕。
 次に、主人公の赤場帝一菅田将暉)のモノローグで、「政治とは、流血を伴わない戦争である。僕の夢は、総理大臣になること。どうしたら総理大臣になれるのか」。
 そして、私立海帝高校の入学式の模様が映し出され、生徒会長が挨拶をしています。
 定一のモノローグで、「海帝高校の生徒会長になると、東都大学への推薦入学というオマケが付く」「男は皆狙っている」「僕は誰にも負けない」。
 引き続いて、新入生の代表として、定一が挨拶をします。
 定一のモノローグで、「一歩一歩上り詰めて、生徒会長になってみせる」「将来、総理となり、僕の国を作るのだ」。
 ここで本作のタイトルが流れます。

 次いで、家でピアノを弾いている小学4年生の定一。
 定一のモノローグで、「父は通産省の事務次官。母はピアニスト」「父は、海帝高校時代、生徒会長選で東郷野村周平)の父親に敗れた」「生徒会長になった東郷の父親は、今は通産大臣」「僕は、母の遺伝子を受け継いだ」「僕は、ピアノコンクールを総なめした」「小学校で東郷にいじめられたが、白鳥美美子が東郷をやっつけてくれた」。
 当時の美美子が「チョットはやり返したら?」と言うと、当時の定一は「僕はそういうの嫌いだ」と答えます。
 さらに、家に帰ってきた定一の父親・譲介吉田鋼太郎)が、「またピアノを弾いているのか?」「まだまだ学ぶべきものがある」「海帝高校の生徒会長になるには、勉強ができるだけではだめなのだ」と滝修行に行かせようとします。
 それには母親・桜子真飛聖)が反対して、定一の引っ張りあいとなり、定一が倒れてピアノに頭をぶつけて気絶してしまいます。
 ですが、目を覚ました定一は「僕、滝修行に行くよ!」と叫びます。
 定一のモノローグで、「あの瞬間、僕の中でスイッチが入った」。

 現時点での定一の家。
 父親・譲介が帰宅すると、定一は、「お帰りなさい、お父様」「新入生代表挨拶も滞りなく」と言います。それに対し、父親は「まず、ルーム長になることだ」と応じますが、母親・桜子は「お友達、たくさんできた?」と尋ねます。父親は「友達をつくるために海帝高校に入ったんじゃない」と怒ります。

 さらに、白鳥美美子の家の門の前。
 2階の美美子永野芽郁)に対し、門の前にいる定一は糸電話で話しています。
 美美子が「なんで糸電話なの?」と尋ねると、定一は「海帝高校では、男女交際は禁止されているんだ」と答えます。
 さらに、美美子が「最近、ピアノは?」と訊くと、定一は「やってない。人生の目標を達成した後だ」と答え、それに対して美美子は「勿体ない。プロが認める腕を持っていながら」と言います。

 こうして物語が始まりますが、さあ、この後どのような展開になるのでしょうか、………?

 本作は、漫画週刊誌に掲載された漫画を実写化したもの。総理になって自分が望む国を作るには、まずは超難関の高校に入学し、そこの生徒会長にならなければならないとして、主人公がその野望達成に向けて着々と歩を進める、というお話。なかなか面白い着想ながら、どうせならモット弾けても良かったのではという気もしたところです。

(2)本作は一見すると、大人の政治の世界をパロディ化したもののようです。
 ただ、国会議員などの選挙では、公職選挙法などの強い縛りがあって、今や、そう簡単にあくどい選挙運動はできなくなってしまっています(注2)。

 これに対し、本作の海帝高校の場合、生徒会長選挙のシステムにはいろいろ問題があるように思われ(注3)、実際に、候補の氷室ローランド間宮祥太朗)は、会長選において実弾を使用するに至っています。

 そんなところから、本作を通して、今の政治の状況を批判してみても始まらないような気もしてしまいます。むしろ、本作の細部を見ていく方が、あるいは面白いかもしれません。

 例えば、
 本作の始めの方では、私立海帝高校の入学式の光景が描き出されるところ、普通の高校の様子とは随分と違っている感じがします。生徒が皆男子ですし、制服は海軍服(注4)。それに、相当大袈裟に描かれているでしょうが、規律がかなり厳格なようです。

 本作の海帝高校と多少類似するような実際の学校としては、例えば、攻玉社高校が挙げられるかもしれません。
 原作漫画によれば、海帝高校は、「元々は海軍兵訓練学校として創設され 優秀な将校を数多く輩出していた」とされていて(第1巻第1話)、制服も海軍服だったりしますが、攻玉社も、戦前は、広瀬武夫・海軍中佐とか鈴木貫太郎・海軍大将などが卒業していますし(注5)、制服は海軍服です。

 ただ、攻玉社には、高校入学はありません。
 これに対し、本作の海帝高校は、海帝中学を併せ持っていて、中高一貫教育が施されているものの、高校入学が認められています。
 ただ、そこには問題があるように思われます。
 六組のルーム長の大鷹弾竹内涼真)が「外部生」と言われていたように、高校から入学する者は、海帝中学から進学する者にとって「外部」とみなされています。この場合、『愚行録』に関するエントリの「注6」で触れましたが、中学から進学する者(「内部」)と「外部」との間では反目が起こり得るでしょう。
 現に、本作では、「外部生」の大鷹弾が、超難関とされる入学試験を通って奨学金を得ているという情報を得て、「内部生」のトップだった定一は、外部生用の入試試験問題を手に入れ(注6)、自分もその問題を解いてみて(注7)、自分の学力が大鷹弾に劣るものではないことを証明しようとします。



 ただ、細部を見ていくと、問題点も見つかるでしょう。
 例えば、定一の父親・譲介は、自分が東郷の父親の下にいるのは、海帝高校で生徒会会長になれなかったからだと思い込んでいます。



 ですが、東郷の父親・卯三郎山路和弘)が今の通産大臣で、事務次官の譲介の上にいるとしたら、卯三郎は、かなり早くに通産省を辞めて政界に入っているはずです(注8)。譲介が今のポストにいて大臣になっていないのは、生徒会長になれなかったからというよりも、卯三郎と同じように、早くに政界入りをしなかったからだと考えた方が常識的でしょう。
 定一が、そんなこともわからずに、父親の言うことに簡単に盲従しているとしたら、勉強はよくできるものの常識の持ち合わせがない人物にすぎないことになってしまうでしょう。

 でも、本作は、漫画に基づいたコメディでしょうから、つまらない粗探しをしてみても、何の意味もありません。楽しく笑って見ることができれば、それで十分といった感じではないでしょうか。

 主演の菅田将暉は、全編にわたって力一杯の演技を披露するのみならず、海帝祭でのふんどし太鼓や、はては生徒会長就任式でのピアノ演奏(注9)までこなしているのですから、その多芸多才ぶりに感心しました。
 また、定一の恋人・美美子役の永野芽郁は、最近見たばかりの『PARKS パークス』でとても可愛らしく演じていたので、本作のラストでのハイキック・シーンには驚きました。



 なお、定一の母親・桜子を演じる真飛聖は、すぐ前に見た『無限の住人』においても、凛の母親役を演じています(宝塚花組のトップだった女優だとは知りませんでした)。

(3)渡まち子氏は、「菅田将暉演じる主人公・帝一が野心の男なら、ライバルキャラたちは、策略、正義、支配、戦術と、それぞれの役割が分かりやすく描き分けられていて、戯画的演出とギャグのつるべうちで笑わせる」として65点を付けています。
 北小路隆志氏は、「選挙戦の思わぬ展開に翻弄されながらもあくまで利己的な野心家を貫く帝一の姿に、僕は不覚にも感動すら覚えた。民主主義はいつだって「瓢箪から駒」の産物であること。それは民主主義の弱点であるどころか“強さ”の証明でさえある」と述べています。
 毎日新聞の勝田友巳氏は、「バカバカしさに大笑いしつつ、時にまっとうなリーダー論にも見えて、思った以上に見応えあり」と述べています。



(注1)監督は、永井聡
 脚本はいずみ吉紘
 原作は、古屋兎丸著『帝一の國』(集英社)

 出演者の内、最近では、菅田将暉は『キセキ―あの日のソビト―』、野村周平は『森山中教習所』、間宮祥太朗は『高台家の人々』、志尊淳は『サバイバルファミリー』、千葉雄大は『殿、利息でござる!』、永野芽郁は『PARKS パークス』、吉田鋼太郎は『新宿スワンⅡ』で、それぞれ見ました。

(注2)むしろ、例えば大学の学長選では、色々問題が起きているようです。
 慶応大学の塾長選では、塾内の選挙で第1位に選ばれた教授ではなく、第2位の教授が塾長に就いています。これは、塾内の選挙は参考に過ぎず、実際には別途設けられている「選考委員会」が実質的に決定することになっているからのようです(この記事)。

(注3)海帝高校においては、生徒会長は評議会で選出され、その評議会は、1、2年生のクラスのルーム長と副ルーム長で構成されます。
 これは、総理大臣を国民の投票で直接的に選ぶのではなく、国会議員を通して間接的に選ぶという方式になっているのと類似しています。ただ、国会議員が国民によって選ばれているのに対し、海帝高校のルーム長と副ルーム長は先生が選定していて、これは大きな違いと言えそうです。
 また、生徒会長の候補は、現生徒会長が、事実上、選定します。当然のことながら、現生徒会長は、自分の選出に尽力のあった者を候補者とすることでしょう。本作では、現生徒会長の堂山木村了)は、自分の選出に一番貢献した氷室ローランドを候補者に選んでいます。
 なお、本作においては、もうひとりの候補の森園億人千葉雄大)が、選挙のオープン化を掲げて会長に選ばれ、生徒会長選は、立候補が自由となり、また選挙権も生徒一人一人に与えられることになりました。



(注4)この記事を見ると、全国には、海軍服の制服を使用している学校が随分とあることがわかります。

(注5)この記事によります。

(注6)定一は、愛読書がモンゴメリの『赤毛のアン』であることを知り、彼女の直筆の絵の展覧会を餌に(「私の父は文部省に力がある」と言って)、担任の川俣先生(中村育二)を籠絡して入手します。

(注7)原作漫画を見ると、試験問題に、ブール代数とかマルクスの『資本論』の英訳版が出てきて、その“難解さ(!)”には笑ってしまいます。

(注8)東郷卯三郎は、政界で実績を積んだからこそ、今、通産大臣になっているのでしょう。

 なお、原作漫画では(第1巻第1話)、東郷の父親の卯三郎は、事務次官に就いていたとされています。
 しかしながら、譲介と卯三郎は高校で同学年なのですから、順当ならば同期のはず。ですが、同じ期から2人の次官が出ることはまずありませんから、譲介は1、2年浪人して大学に入り、卯三郎に遅れて通産省に入省したのかもしれません。それにしても、原作漫画に描かれていることは理解できません。というのも、譲介は、今、事務次官なのですから、卯三郎は1、2年前に事務次官だったことになります。としたら、卯三郎が官界を辞して政界入りしている期間は、わずか1、2年間というごく僅かなものとなってしまいます。でも、そんな貧弱な実績では、いくら「生徒会長会」の肩書の力が絶対だとしても、とても大臣になれるはずがありません。

(注9)本作のサウンドトラックには、ローデ作曲「あやつり人形(マリオネット)」とリスト作曲「ため息」が入っています。



★★★☆☆☆


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2 コメント

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Unknown (atts1964)
2017-05-20 07:29:54
高校から、大人の政治の世界まで直結していると言うのも酷な発想ですね。
でも若い俳優の総出演で、なかなか笑えるつくりになっていたと思います。
永野芽郁ちゃんも扱いをもっと上手くしてほしかった気がしていますが(^^)
いつもTBありがとうございました。
Unknown (クマネズミ)
2017-05-21 05:49:33
「atts1964」さん、コメントをありがとうございます。
おっしゃるように、「高校から、大人の政治の世界まで直結していると言うのも酷な発想」で、父親の言っているオカシナ妄想を定一がまるごと信じ込んでいるというのも、彼が学年で1番だというところからするとあり得なさそうですが、本作がコメディということから許されるのでしょう。
出演している「若い俳優」の中では、やっぱり主演の菅田将暉が突出していますね!

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