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アイアムアヒーロー

2016年05月06日 | 邦画(16年)
 『アイアムアヒーロー』をTOHOシネマズ渋谷で見ました。

(1)話題のゾンビ映画(注1)ということで、映画館に行ってきました。
 本作(注2)の冒頭では、TVで女子アナが「広島県で45歳の女性が土佐犬に噛まれました。重傷です」といったニュースを読み上げています。
 場所は、漫画家の工房。と言っても、マンションの狭い一室。何人かのアシスタントがいて、それぞれ作業をしながら話しています。
 アシスタントのみーちゃん栗田恵美)が「同窓会どうしよう?」と言ったのに対し、同じくアシスタントの三谷塚地武雅)が、「堂々と行けばいい。でも、俺は、同窓会なんて行くわけがない」などと話していると、再度TVから、「先ほどのニュースを訂正いたします。土佐犬が噛まれて重傷です」との音声が聞こえます。
 主人公の鈴木英雄大泉洋)もアシスタントの一人ですが、突然、「漫画って、日本最高峰の文化なんです。漫画は、日本が世界基準。この場所から、俺たちは世界をリードするのです」と呟きますが、三谷は「ひとりごとは止めて」と冷たく言い放ちます。
 英雄はやむなく「はい」と答えると、主の先生マキタスポーツ)が顔を出して「まだ?」と仕事を催促します。

 次いで夜の場面。
 アシスタントの作業を終えた英雄は、郵便受けの一つに「黒川・鈴木」のネームプレートのあるアパートの階段を登り、自分で鍵を開けて中に入ります。部屋では、風呂上がりの女(黒川徹子片瀬那奈)がベッドで腹ばいになってTVを見ています。
 英雄は、一人でカップラーメンを食べます。

 さらに夜が更けて、英雄は、本棚に飾ってあったトロフィー(「新人コミックス大賞」のプレートが台に付いています)を手にとって、「もう15年か」と呟きます。
 それから、本棚を横に動かして、隠れていた押し入れを開けると、金庫が現れます。その金庫を鍵で開けると、中には猟銃と銃所持許可証が入っています。
 英雄が、その猟銃を取り出して構えると、徹子が起き出して、「仕事しないなら寝なよ」、さらには「うちお金ないんだから、その銃売ったら?」と言います。
 英雄は、「次は掲載してもらえるから」と答えます。

 こんなところから驚愕のラストまで、物語はどんどん膨らんでいきますが、さあ一体どうなるのでしょう、………?

 本作は、ヘタレで売れない漫画家の主人公が、2人のヒロインをゾンビ(注3)の海の中から救い出すというヒーロー物です。主人公のダメぶりがたっぷりと描かれた後に、ゾンビの只中に置かれた主人公が目覚めてゾンビを次々と撃破するシーンとなり、主人公を演じる大泉洋の類いまれな熱演と、ゾンビたちが大層リアルに描かれていることもあって、グロいシーンが盛り沢山とはいえ、スカッとした感じになること請け合いです!

(2)本作の最初の方では殆ど何事も起こらず、一方で、英雄は自分が描いた漫画の原稿を雑誌社に持ち込むものの、アッサリと担当編集者から断られますし、他方で、本文(1)からも分かるように少々おかしなことを言うTVニュースがあったり、また、みーちゃんが「体調が悪い」とか先生が「体がだるい」とか言ったり、英雄が外に出ると自衛隊の大型ヘリコプターが何機も空を飛んでいたりするくらい。
 ですが、英雄を追い出した徹子から「風邪をひいたの。あたし英雄くんといたい」との連絡が入り、急ぎ出向いた彼女の部屋のドアの隙間から英雄が覗き見たものは!
ここから物語の雰囲気が一気に変わってしまいます。

 こうした描き方は、原作漫画の第1巻でも見られます。
 英雄と徹子が同棲していなかったり兆候の現れ方(注4)が違っていたりするなど細部は少々異なりますが、事態の進行が緩慢なのは本作と同様であり、酷く恐ろしいことが起きたと分かるのは第1巻のラストになってからなのです。

 原作漫画は第1巻しか読んでいないので比較はできませんが、本作の方では、ここから話がどんどん展開し、英雄は、途中で出会った比呂美有村架純)と一緒にタクシーに乗って、……と進んでいきます。

 面白いなと思ったのは、生き残った人間たち(注5)が立てこもる富士山麓のアウトレット・モールに英雄と比呂美がやっとの思いでたどり着くと、少し前からそうなのですが、比呂美は半分ZQN化(注6)しているためにほとんど人形状態で何も喋らず横になるだけで(注7)、彼女に代わってヤブと言われる元看護師(長澤まさみ)が男勝りの活躍を見せる点です(注8)。
 比呂美とヤブの二人がヒロイン側に揃ってはじめて、英雄がヒーローとして登場できる前提条件が整うということでしょう(注9)。



 ヤブからの合図が何度も届きはするものの、揚幕からなかなか花道に出てこないのですが、一度姿を表すと、一気に舞台中央のスポットライトの当たるところに駆け寄って、英雄は格好良くヒーローに!



 なお、クマネズミはゾンビ物を余り見ていないものの、最近では『Zアイランド』と『ワールド・ウォーZ』があります。前者はゾンビに扮した宮川大輔の演技が印象に残るとはいえ、離れ島での出来事とされて規模が随分と小さなものとなっています。
 その意味で、都市に沢山のZQNが出現する本作と比べられるのは後者の方でしょう。
 ただ、後者に出現するゾンビの数は桁外れであり、それに対応してすぐさま軍隊が出動し、果ては航空母艦まで登場します。でも、描かれるゾンビの数が多すぎるせいか、本作ほどの怖さは感じられません。
 比べて、本作に登場するZQNは、数が多い上に、それぞれが個性的であり(注10)、かつまたその変形ぶりに異様さが見られ(注11)、全体としてよりリアルさを感じます。

(3)渡まち子氏は、「いわゆるゾンビ映画だが、ここまで本気のゾンビものは、邦画初ではなかろうか」として65点をつけています。
 前田有一氏は、「本作は、邦画としては、との枕詞はつくもののなかなかの描写力とアクションシークエンスを持っている。主人公のキャラクター、役者の演技など総合的に見れば、類似作品の中では海外と比べてもトップレベルの面白さだと保証する。こういうチャレンジが日本映画の中から出てくるのは素晴らしいことで、高く評価する」として75点をつけています。



(注1)何しろ、ブリュッセル・ファンタスティック国際映画祭(ベルギー)、シッチェス・カタロニア国際映画祭(スペイン)、そしてポルト国際映画祭(ポルトガル)で、それぞれ受賞したというのですから(詳細はこの記事)!

(注2)監督は、『万能鑑定士Q -モナ・リザの瞳-』の佐藤信介
 脚本は野木亜紀子
 原作は、花沢健吾氏の漫画『アイアムアヒーロー』(小学館)

 なお、出演者の内、最近では、大泉洋は『駆込み女と駆出し男』、有村架純は『僕だけがいない街』、長澤まさみは『海街diary』、吉沢悠は『さよならドビュッシー』、岡田義徳は『ばしゃ馬さんとビッグマウス』、片瀬那奈は『HK/変態仮面』、マキタスポーツは『ラブ&ピース』、塚地武雅は『の・ようなもの のようなもの』、徳井優は『娚の一生』で、それぞれ見ました。

(注3)本作では、「ZQN(ゾキュン)」とされています(ZQNについては、例えばこの記事が参考になります)。

(注4)原作漫画では、先生の顔から血が滴り落ちたり、みーちゃんが手足を縛られて浴槽に横たわっていたり、またタクシーに撥ねられた女が酷くネジ曲がった格好で歩いたりします。
 なお、原作漫画の第1巻では、矢島という人物が英雄に取り付いていますが、これは英雄の妄想の産物なのでしょう(例えば、『森のカフェ』に登場する「悟」のように)。

(注5)生き残った人間たちは、アウトレット・モール「Fuji Outlet Park」の屋上に立てこもっています。それを率いるリーダーは当初は伊浦吉沢悠)ですが、途中でサンゴ岡田義徳)がリーダーの座を奪います。

(注6)比呂美は、幼児に噛まれたためにZQN化が半分くらいでストップしまったとされています。でも、ウィルス感染で人がZQN化するのであれば、感染源が成人であろうと幼児であろうと、ZQN化の進行度合いに変わりはないように思えます。それに、まだそれほどこのウィルスの感染が拡大していないように思われる段階で(それとも、TVニュースで報道されていないものの、自衛隊の出動が見られるくらいですから、ZQN化が大規模に進行しているのでしょうか?)、ZQN化した幼児が存在するようにも思えないところです(空気伝染ではないのですから)。

(注7)『僕だけがいない街』では、ヒロインの愛梨有村架純)が途中で主人公の藤原竜也)のことがわからなくなって引っ込んでしまいますが、本作の比呂美も愛梨と似ているような感じではないか、と思いました(なお、本作の撮影は2年前であり、同作の制作は本作の制作よりも後ということになります)。
 そういえば、同作の主人公の悟も漫画家志望で、本作の英雄と同じように、彼が描いた原稿は編集担当に「伝わってこないんですよね。作品から見えてこない。あなたの顔が」と言われて突っ返されます。

(注8)ヤブは斧を手にしてZQNと戦うのです。

(注9)どんな展開になるのかは申し上げませんが、英雄が「I am a Hero」になるのは間違いないところです。
 ただ、本作の終わり方では、若干中途半端なことは否めない感じもします。でも、クマネズミとしては、仮に続編があるとしても本作で充分だと思っています。これ以降の展開は、自分で色々考えてみる方が面白いのではないでしょうか?

(注10)それぞれ、感染前の記憶を所持しているのです。
 例えば、アウトレットに立てこもった人間の一人であるアベサン徳井優)は、妻だと分かるZQNに噛みつかれてしまいます。

(注11)例えば、陸上の走り高跳びの選手だったZQNは、次第にその跳躍力を増してきます(他方で、頭部は次第に陥没していきますが)。



★★★★☆☆



象のロケット:アイアムアヒーロー


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2 コメント

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Unknown (ふじき78)
2016-05-06 21:09:15
> ヤブは斧を手にしてZQNと戦うのです。

普段から斧で外科手術してたりして。
Unknown (クマネズミ)
2016-05-07 05:48:41
「ふじき78」さん、TB&コメントをありがとうございます。
ヤブは看護師でしたから「外科手術」自体は出来ませんが、あるいは、外科医から「メス!」と言われた時に斧を手渡したかもしれませんし、さもなければ、「普段から斧で」包帯を切っていたのかもしれません!

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